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三十三、
しおりを挟む沖田が頷いた、・・なんでもないことのように。
土方の声音の変化に気づいていながら。
「・・・おまえ、」
贈りものなどには気の回らぬこの男が、気まぐれに買ってきてくれた矢立を、
土方はどれほど喜んだか。沖田も分かっているだろう。
それなのに斎藤にも贈ったというのか。
土方がそれを知った時、どういう感をおぼえるか、
いま土方が問うまで分かっていなかったとでもいうのか、
(それとも、おまえは)
「総司」
土方の俄かな心の濁流に気づきながら、それに合わせぬ目の前の男への重い感情に、土方は息を乱した。
「一度、・・・もう一度、はっきり聞いてみたいと思っていたことがある」
穏やかな表情を浮かべたまま、薄く目を細めた沖田を、
見据え。土方は、唇を震わせた。
「おまえは俺のことを今、どう思っている」
「あの頃と、同じように」
沖田の返事に。
土方は、瞳を見開いた。
一度も、
土方の事で乱れたことのない、穏やかなその声音を耳奥に残響させ。
「・・おまえが夕桐と縁を切ったのは、・・・おまえの気持ちが変わったからだと・・」
土方は震えた拳を握り締めていた。
―――贈り物をもらった頃と時同じくして、沖田が長い馴染みだった夕桐太夫との縁を切った。
もともと夕桐も、土方の馴染みも、
隊が発展し始めている駆け出しの間に、未だ互いの関係を伏せているほうが何かといいだろうと決め合わせて繕った女、他人の目をごまかすための存在であり、
隊が安定し不動の地位を得た今、関係が露呈しようがしまいが、最早それほど気にかける事でも無くなっていた。
だからこそ、土方は沖田がもう女との縁を切ることを、望んでいた。
あの時、沖田が遂にその土方の願いに応えたのだと、
そして、応えた事がすなわち、土方への気持ちの変化を意味するのだと、
時同じくして、沖田から珍しく贈り物をもらった土方が、そう思ったのも尤もだった。
それなのに、そんな印のはずだった贈り物を、斎藤も受け取っていた。
土方の心は掻き乱された。
「夕桐のことは、貴方が望んでいたから、縁を切った」
沖田がさらに言葉を追わせ。
「・・・そうか」
気持ちが変わったから、などというわけでは無しに、か。
土方は、口の端で哂った。
「くれた矢立も・・・深い意味は無く、か」
何故己は、
勘違いをしていたのだろう。
沖田を見ていれば、
沖田の内で土方への気持ちが変わっていたわけではないことなど、
そう、この沖田の一度たりと崩れたことのない温和な、土方への態度こそが。
伝えていただろうに。
黙した土方の片頬へ、沖田が手を当てて覗き込んだ。
「歳さん、」
顔をもたげた土方は。
「今も昔も・・俺は貴方が大事でしかたない」
そんなふうに言う沖田へ、
それでも。
(おまえは今のように、きっとまた・・・俺の心を、えぐる)
そんな予感を抱え。
「・・・貴方への誓いに変わりはない、」
それはきっと、またすぐに。
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「・・・・え?」
土方に抗うすべもないような、
牙をもって。―――――――
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