30 / 61
二十七、
しおりを挟む「今・・」
労咳と言ったのか。
喉奥から搾り出した斎藤の問い声は、音まで成さず二人の間に沈み落ちた。
「言った」
だが分かったように。沖田が短く頷いた。
「まだこの病、膏肓に入ってはいない」
だから、
「おまえにうつすことはない」
心配するなと。間を置かずそう続けた沖田に、
斎藤はそして瞬間、心の臓が絞られるような痛みを感じた。
「何を・・・っ、言う・・!」
おもわず、叫ぶように返していた。
(うつるかうつらぬかなど・・)
労咳、
忌々しいその病の名を耳にした瞬間に斎藤の意識が向かった先は、
「今すぐ療養を」
己が、同室でうつるかなどという心配などではなく、第一そんな心配など思いつきさえせず、代わりに真っ先に駆け巡った想いは唯、
「今すぐ療養をしてくれ、」
まだ間に合うと。
「まだ、間に合う・・そうだろう」
そんな、確信だった。
尤もで。
沖田は見るからに壮健なのだ。病などとまるで縁のないような肉体を持ち。この男を、誰が、いま労咳に罹患していると仮にも信じるだろうか。
(だが)
斎藤の脳裏に、時折軽い咳をしていた彼の姿が思い起こされた。
(ああ・・・)
咳の原因は、
塵埃などではなかったのか。
沖田は親を労咳で亡くしたと聞いている。親から渡された病の種が、知らずに根を伸ばしていたのだろうか。
「沖田、」
斎藤は強く光を閉じ込めたような、己を見つめる眼ざしをまっすぐに見返した。
「今すぐ療養するんだ」
「斎藤」
その眼が、
不意に返してきた一瞥に。斎藤は息を呑んだ。
(沖田?)
何故か、不安が一瞬に走り抜け。
「・・そう言ってくれるのは有難いが、療養するつもりはない」
――――そんな返事が、続くのを。
この先の沖田の、斎藤の、運命を。予感したからだったのかもしれず。
1
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?


目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

組長と俺の話
性癖詰め込みおばけ
BL
その名の通り、組長と主人公の話
え、主人公のキャラ変が激しい?誤字がある?
( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )それはホントにごめんなさい
1日1話かけたらいいな〜(他人事)
面白かったら、是非コメントをお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる