二人静

幻夜

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二十七、

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「今・・」

労咳と言ったのか。


喉奥から搾り出した斎藤の問い声は、音まで成さず二人の間に沈み落ちた。

「言った」

だが分かったように。沖田が短く頷いた。


「まだこの病、膏肓に入ってはいない」

だから、
「おまえにうつすことはない」

心配するなと。間を置かずそう続けた沖田に、


斎藤はそして瞬間、心の臓が絞られるような痛みを感じた。


「何を・・・っ、言う・・!」

おもわず、叫ぶように返していた。


(うつるかうつらぬかなど・・)


労咳、

忌々しいその病の名を耳にした瞬間に斎藤の意識が向かった先は、

「今すぐ療養を」

己が、同室でうつるかなどという心配などではなく、第一そんな心配など思いつきさえせず、代わりに真っ先に駆け巡った想いは唯、


「今すぐ療養をしてくれ、」

まだ間に合うと。


「まだ、間に合う・・そうだろう」

そんな、確信だった。


尤もで。

沖田は見るからに壮健なのだ。病などとまるで縁のないような肉体を持ち。この男を、誰が、いま労咳に罹患していると仮にも信じるだろうか。


(だが)

斎藤の脳裏に、時折軽い咳をしていた彼の姿が思い起こされた。

(ああ・・・)

咳の原因は、

塵埃などではなかったのか。

沖田は親を労咳で亡くしたと聞いている。親から渡された病の種が、知らずに根を伸ばしていたのだろうか。


「沖田、」

斎藤は強く光を閉じ込めたような、己を見つめる眼ざしをまっすぐに見返した。

「今すぐ療養するんだ」

「斎藤」

その眼が、

不意に返してきた一瞥に。斎藤は息を呑んだ。


(沖田?)

何故か、不安が一瞬に走り抜け。


「・・そう言ってくれるのは有難いが、療養するつもりはない」



――――そんな返事が、続くのを。

この先の沖田の、斎藤の、運命を。予感したからだったのかもしれず。
    




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