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七、
しおりを挟む「駄目だって言ったら駄目だっ!!」
ずずず、と茶をすする沖田の前で土方は何度目かの拒絶を叫ぶ。
「俺はっ、別におまえと離れたくないからおまえを連れていくと言ってるわけじゃないんだぞっ」
急に小声になりながら、土方は頬をひくひくと痙攣させる。
沖田は茶を置きながら、思わず瞠目した。よほど頭にきていなければこの顔は見られない。
「伊東に対抗できる、確かな腕をもった”用心棒”が俺には必要なんだよっ」
「だから斎藤なら不服はないでしょうに」
「おまえのほうが腕が立つ。伊東はかなり使う。ここは念には念を入れておくべきだろう」
「斎藤なら十分、伊東に匹敵しますよ」
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審判をしたのが沖田だった。
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あの一本だけで、その試合を斎藤の勝利としても良かったくらいだと沖田は思っている。
「土方さん」
沖田は腕を組み考えている目の前の土方を見やった。
「もう暫く泳がしておくと言ったのは、どうなったんです」
つと落とされたその押し殺すような声音に、土方がはっと顔を上げた。
泳がせておく、とは伊東のことである。
伊東が山南の脱走に深く関わっていた事は明らかだった。土方にとって伊東は憎んでも憎みきれない。
だが今はまだ葬る時期ではない。己にそう言い聞かせ、もう暫く伊東の命を繋ぎ利用してやると、煮え滾る怒りのなか誓った。
伊東。
山南にむしろ連れられるようにして帰ってきた沖田が、抜き身を手に真っ先に向かおうとした部屋に、居た者。
その沖田に縋り、泣くまでして引き止めたのは土方で。
「まだ有効だ。まだ、泳がしておく」
その時の二人の悔しさを今再び噛み締めて、土方は沖田に強い視線を返した。
「・・そう。貴方の話じゃ、まるで道中で斬り捨てる予定かと」
それならば誰をおいても俺が行きますよ、と沖田の一段と低い声が土方の耳に、届いた。
「いいや・・こちらから事を起こすつもりは無い。だがむこうが何を考えているかは分からねえ」
土方一人で隊士の募集に行くつもりであった今度の東下の旅に、自分も行くと名乗りを上げたのが伊東だった。
『伊東さん、貴方にわざわざ同行を頼まずとも私ひとりで構いませんよ』
『いや、貴殿おひとりでは何かと不便もござろう。江戸には私の旧知の者も多く居ます。その者たちにも応援を頼めば事はもっと良い結果をもたらすでしょう』
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「得体が知れねえ。ただ単に、江戸から連れ帰りたい仲間が多く残ってるのか、または俺に同志集めをさせておけばそいつらが皆、俺につくと恐れているのか、それとも」
今度の道中で俺を斬るつもりなのか。
土方はきらり、と目を光らせた。
「山南の次は、間違いなく俺だ。遅かれ早かれどんな手を使っても、俺を除こうとするさ」
「させませんよ、俺が」
ですがね、と沖田は吐いた。
「今回葬る気でないのなら、伊東との道中はやはり、俺には酷だな」
「な、何故だ」
きっ、と目を釣り上げた土方をだが沖田は受け止め見返した。
「俺は貴方のように辛抱強くはありませんからね。四六時中一緒に居るともなれば、いつ手にかけちまうかも分かりませんよ」
「・・・」
「斬らぬように。そうやって我慢しながら行く道中を今から考えるだけで吐き気がする」
「総司・・・」
心底どうしていいか分からないといった表情で、土方は瞳を揺らした。
沖田は膝でにじり寄ると、俯いたその頬を手の平に包み、その瞳を見据えた。
「斎藤になら、貴方を預けられる」
持ち上げられるようにして沖田に向けられた、土方の唇が、小さく震えた。
「・・・分かった。おまえがそこまで言うなら」
おまえは連れて行かないことにする。
土方は、そして目を伏せた。
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