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美しき嵐
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「嵐が来るな」
閉め切られた折り戸から曇り空を見上げ、譲司は呟いた。「タイフーが来てるんだよね?」ピアノの前に座った直が尋ねると、譲司は「おしゃべりは後だ。ほら、メトロノームのテンポに合わせて、ドからドまで弾いてごらん」と言って直の傍へ戻った。いつの間にか、譲司は直のピアノの先生になってくれたようだ。
「背筋を伸ばして、肩の力を抜いて。指先は、そっと小鳥の卵を握るように」
体躯に合わせて調整した椅子にチョコンと座り、直は鍵盤を叩いた。
「今度は強く。ピアノの音だけでなく、この楽器の中で何が起こっているのかを、耳をすませて感じて」
世良はソファーに腰掛け、二人のレッスンを眺めた。譲司自身は厳しいレッスンを受けていたようだが、彼のレッスンはごく穏やかなものだった。
「なんか、ピアノの音の他に、こっくん、って、小さな音がする」
「そうだよ。ほら、抱っこしてあげるから中を覗いてごらん」
「抱っこ」というフレーズが甘く響いて、直はそれに誘われるように譲司へ両手を伸ばした。譲司は直を抱き上げ、もう片手で鍵盤を叩いた。クリーム色のハンマーが弦を打っている様子を見つめ、直は瞳を輝かせた。
「すごい。こうやって音がなるんだ」
譲司は直の言葉に笑みを深め、もう一度、直をピアノの前へ座らせた。「今度はそっと、弱く。音をイメージしてから鍵盤に手を置いて。分かったね」直は頷き、姿勢を正して、小鳥の卵を握った手で、ドレミファソラシドをなぞった。
一時間ほどのレッスンを終え、三人で朝顔の練り切りを食べているところに、世良はピアノのパンフレットを広げた。
「藤巻さん、どのピアノがいいと思います?あんまり高いものは買えないんですけど……」
このところ、直は毎日のように藤巻邸にお邪魔してピアノを触らせてもらっている。迷惑にならないだろうかと気になる上に、直は家では画用紙に描いた鍵盤でピアノの練習をしている。ピアノを買わねばなるまい。世良はとうとう覚悟を決めた。
「電子ピアノはおすすめしない。いくら似せたところで、タッチが全く異なる。キーボードやシンセサイザーはそもそもピアノとは異なる楽器だ。となるとアコースティックピアノになるが、中古のものや、低品質なもの、アップライトピアノは、おすすめしない」
アップライトピアノもだめなの……!?世良は恐怖に慄き、パンフレットを引っ込めた。「なぜ隠すんだ。見せなさい」譲司はそんな世良の手元からパンフレットを抜き取り、「買うなら、これだな」と言ってグランドピアノを指差した。
「アップライトピアノはグランドピアノよりダイナミックレンジが狭く、連打性が劣る。グランドピアノの方が、力が無駄なく伝わるし弾き心地が良い。表現力を培うためにも、このくらいの投資は必要だ。大きさは……妥協して、中型でいいんじゃないか」
並んだゼロの数に気を失いそうになり、世良は「むりですっ、クレジットカードも持ってないのに!」と悲鳴を上げた。
「なんだ?たかだか四百万だろう。ピアノにしては手軽な買い物だ」
名作曲家の祖父を持つお坊ちゃんは眉を顰め、一般庶民の書店員は項垂れた。そこへ、華やかな嵐がやって来る。
「無理を言うなよ、お坊ちゃん。グランドピアノがある家の方が珍しいってこと、知らねーの?」
声のした方を見やると、部屋の入り口に金髪の美男が立っていた。
パートの前園さんがかざしていたCDのジャケットの彼と目の前の彼の美貌が重なり、世良は思わず立ち上がった。小生意気そうに上がった眉に、丸く大きな瞳、ふっくらとした下瞼と唇……。愛らしい王子様フェイスの彼は、譲司に向けて顎をしゃくった。
「ベヒシュタインのグランドピアノで練習して来たおまえには分かんねーだろうが、こんなチビの頃に弾くピアノなんざ、なんだっていいんだよ。どんなピアノで練習したって、ピアニストになれるヤツはなる、なれないヤツはなれない。……おれがその証拠だろ」
金髪の美男、神野漣は、薄らと濡れた前髪を掻き上げ、「開いてたから勝手に入ったぜ」と言って、譲司からパンフレットを奪った。
「おれの初めてのピアノは、従妹のお下がりのペラッペラのキーボードだったよ。しかも、脚もペダルも紛失済み。おれはそれを炬燵の上に置いて、正座で練習してたってわけ。……アコースティックピアノを弾けたのは、ここと学校でだけだった。芸大に合格して慌てて買ったのも、中古のアップライトピアノだったよ」
ま、今はスタンウェイのグランドピアノ二台持ってるけど。
そう付け加え、漣は人差し指で世良の顎に触れた。くい、と面を上げるようにされ、世良は息を飲んだ。
「そうだな。おれから言わせてもらうなら……。アコースティックピアノも恋人も、中古はおすすめしない。簡単に手に入っても中身は痛んでいることが多くて、直すのに手間も時間もかかる。相応の対価を払って手に入れた新品の方が、いくらか良い」
その言葉に、譲司は世良に触れていた漣の手を払った。「神野。不法侵入で警察に突き出すか?」漣はニヤリと笑い、「マジになんなって。冗談だよ、冗談」と言って払われた手をひらひらと振った。
漣は場の空気を掻き混ぜるようにクルリと直に向き直り、恭しく頭を垂れた。
「初めまして。藤巻譲司の手ほどきを受けている、世にも幸運なオチビちゃん。おれは神野漣。以後、お見知りおきを」
パッと上がった眼差しは、直でなく世良を射抜いている。世良は肉食獣に睨まれた小動物のようになって固まった。
「あぁ~……。こんな高価なピアノを、子どもの手垢まみれにしちゃって。ジジイが泣いてる姿が目に浮かぶわぁ」
「一体何の用があってここへ来た?こんな辺境にわざわざあんな派手な車で……。用がないのならさっさと帰れ」
「車の趣味はカンケーねーだろ。動かしてやらなきゃいざという時へばっちまうから乗って来ただけだっつの」
「そんなことは訊いてない。私は、何の用があってここへ来たんだと訊いてるんだ」
譲司が詰め寄ると、漣は譲司の首に両腕を回した。
「そりゃ、おまえがあんな電話を掛けて来るからだろぉ?大切な相棒を放っておけなかったんだ、優しいおれは」
譲司は舌打ちし、すり寄って来る漣を片手でいなした。
電話?藤巻さんが、神野さんに……?世良は胸をざわつかせ、二人から視線を逸らした。そんな世良の隣から練り切りを食べ終えた直が腰を上げる。彼女はつかつかと前に出て、顎を反らし漣を見上げた。
「……なにかな、オチビちゃん。そんな目ぇしてると、ピアノの椅子に縛り付けて『乙女の祈り』が弾けるようになるまで半永久的に練習させちゃうぞ?」
大人から戯れに脅されても、直は動じなかった。
「すぅはオチビちゃんじゃないよ。すぅには、すなおっていうお名前があるの。……そんなこと言ってると、上と下のくちびるをぬいつけて、永遠におしゃべりできないようにしちゃうよ」
直の一撃に、漣は目玉をひん剥き、譲司は盛大に噴き出した。世良はというと慌てて直の口を塞ぎ、「すみません、この子、ちょっと勝気で……」と漣から直を遠ざけた。漣は手入れの行き届いた眉を歪め、すまし顔の直に向けてガルルと唸った。
「なんつー生意気なオチビだ。もう“ちゃん”なんてつけてやんねーからな」
「神野。ちょっと落ち着け。本当に、おまえはいくつになっても……」
「おまえの様子が気になってたのは本当だって。ついでに、ちょっと泊めてもらえたらと思って。ほらぁ、台風来てんじゃん?ここから東京に飛ぶつもりが、欠航になりそうで。……だめ?」
漣は譲司の腕に腕を絡め、可愛らしく小首を傾げた。譲司は眉を顰め、「実家が嫌ならホテルにでも泊まればどうだ」と返したが、漣は「このおれが!こんな場所まで!おまえを想ってやって来たっていうのに!?」ときゃんきゃん喚いた。
「薄情なヤツ!こんな寂れた街の寂れたホテルに泊まれっての?ぜってーヤだから!」
「そんなことを言ってもベッドは一つしかないし、おまえの身の回りの世話なんてしないぞ、私は」
漣は妖艶に微笑み、しっとりとしたリップ音を立てて譲司の頬を啄んだ。
「おれはいいぜ?ベッドが一つでも、シングルサイズでも。なんなら一晩中サービスしてやってもいい。それとも、元相棒じゃ燃えない?」
世良は直の両目を塞ぎ、大輪のバラを背負う二人に全身の毛を逆立てた。信じられない!子どもの前で何をやってるんだ、この人は!
「つまらん冗談はそのくらいにしておけ。おまえも知っての通り、この家には和菓子しかないぞ。おまえ、小豆が苦手だろう」
「はぁっ!?おまえ、まだそんな食生活送ってんの!?」
漣は譲司を突き放し、「マジで使えねぇ」と吐き捨てた。譲司は漣のふるまいには慣れっこのようで、どんよりとした空模様を見上げて「ふむ」と顎を摩った。
「まあ、泊めてやってもいいが、泊めるだけだ。食事なんかは自分でどうにかするんだな」
「なんだよそれっ。おれはあんな糖と豆の塊、一ミリだって食わねーからなっ!」
漣はしばらく文句を言っていたけれど、ソファーに座ってスマートフォンをいじりだしたところを見ると、この洋館を宿にすることを決めたようだった。
「世良君。ということで、すまない、今晩の夕飯は……、」
「僕たちのことは、お気になさらず……」
世良は譲司に微笑んで見せたけれど、胸の内は落胆と戸惑いでマーブル模様になっていた。最近はずっと、世良が仕事の日は夕食を、休みであれば昼食と夕食を、譲司と共にしていた。
今日は一緒にご飯食べられないんだ……。世良は胸に立ち込めたモヤモヤを振り払うように表情を明るくし、「行こうか」と直の背に触れた。
「ジョージ君、今日は一緒にごはん食べられないの?」
「直、またご相伴させてくれ。今度は外食にでも行こう。その時は私にご馳走させてくれ。何が食べたいか、それまでに考えておいて」
直は唇を尖らせたけれど、譲司の言葉に「うん……」と小さく頷いた。
「なにそれ。おもしろそーじゃん」
譲司は口端を上げた漣を振り返り、「出前を取ってやるから、そこに座ってじっとしていろ」とソファーを指差した。けれど漣は瞳をらんとさせ、世良の肩を引いた。
「なあ、おれにも食べさせてよ。あんたの手料理」
漣は譲司を振り返り、「なあ、譲司、その方がおもしろそうだろ?」と得意げに言った。
神野さんは藤巻さんのこと、「譲司」って、名前で呼んでるんだ。喉元が締めつけられたようになり、世良はキュッと唇を結んだ。
「神野、いい加減に、」
「構いませんよ」
キリリと冴えた声に、直と譲司は目を丸くした。世良は漣に視線をかち合わせ、「お口に合うかどうかは、分かりませんが」と声を尖らせた。
「上等。ちょうど家庭料理が恋しかったんだよなぁ~」
直は漣が世良の肩を抱こうとしていることに気付き、世良の手を引いて「ママ、あぶない!」と漣を牽制した。「んだよ。人をバイキンみてーに」漣は目をすがめ溜息を吐いた。
「ママ、レン君に負けちゃだめ。いっちばんおいしいの、作って!」
娘からのエールを受け取ったはいいものの……。世良は冷蔵庫の中身を思い起こし冷汗を垂らした。確か、夏野菜と、豚肉と、ベーコンくらいしか残っていないはず……。
「せっま。ふっる。平成通り越して昭和じゃん。令和どこ行った?」
家に入るなりそんなことを言った漣の頭を譲司が小突く。「いってぇな」漣は一瞬眉を吊り上げたけれど、「おじゃましま~す」と言って鼻歌交じりに茶の間へ入って行った。
「わお。オチビ、こんなんで練習してんの?音、鳴んねーだろ」
長机に広げられた画用紙のピアノを見て、漣は噴き出した。直は漣を睨んだけれど、漣はそれに構わず画用紙のピアノに触れ、「ド」の鍵盤を叩いた。
「鍵盤でかくね?巨人の手じゃなきゃ弾けねーだろ、こんなん。オチビ、裏が白いチラシ持って来て。あと黒ペンも」
直がしぶしぶチラシとペンを持って来ると、漣はあぐらをかき、チラシの裏にペンを走らせた。譲司と世良は顔を見合わせた。
「さて問題です。ピアノの鍵盤は全部でいくつあるでしょうか?」
「分かんない……」
「正解は八十八個。白いのが五十二個で、黒いのが三十六個。この八十八個の音は、音楽の神に選び抜かれた音なんだ。つまりはだ、音楽の神に愛されているこの楽器に愛されている人間は、音楽の神に愛されている。……一枚じゃ足んねぇよ。もっと白い紙ねぇの?」
直はハッとしたように飛び上がり、テントの中に駆け込んで画用紙を持って来た。「こんな立派なヤツじゃなくていーんだけど」漣はそう言って、鍵盤を描く作業に戻った。
「オチビ、この紙とこの紙くっつけて。テープあんだろ?……バカ、折角同じ幅に切ってんだから、端と端揃えろよ」
ぶつくさ言いながらも、漣は直がテープを貼るとなると、紙を抑えてフォローした。八十八鍵のピアノを描いている二人を気にしつつ、世良は台所に入って行った。
「きざみ昆布は……、あっ、よかった、あった。あと、お野菜……」
世良は冷蔵庫の中身を睨んで、ナスとキュウリ、ミョウガとオオバを取り出した。
野菜を刻み、ナスを水にさらしている間に、薄く切ったカボチャとズッキーニをグリルで焼き付ける。水出ししてあった出汁を鍋に注ぎ煮立てから、ベーコンとくし切りにしたトマトと茹でてあったオクラを入れて味噌を溶く。硝子ボウルに、細かく刻んだ野菜と水気を切ったナス、きざみ昆布を入れ、醬油をはじめとした調味料で味付けする。
ボウルにラップを掛け冷蔵庫へ入れて、世良は茶の間を覗き込んだ。……どうやら、作業はまだ途中のようだ。世良は冷蔵庫から豚ロース肉を取り出し筋を切った。野菜だけではきっと食べ応えが足りないから、ニンニクの香りをつけて塩コショウでシンプルにソテーしよう……。
「オチビ、指置いてみな。……そう。そのまま。ド、レ、ミ、ファ……、」
世良が茶の間に戻ると、直はいつの間にか漣の隣で紙のピアノを弾いていた。叩いた鍵盤に合わせて「ドー、レー、ミー、」と歌っている直に、世良は頬を緩めた。
「譲司。こいつ、音感ある」
漣が笑みを浮かべ譲司を振り返ると、直は「すぅは“こいつ”じゃない!す、な、お!」と憤慨した。漣は頬杖を突き、「いいぜ。おまえがツェルニーの『リトル・ピアニスト』を一周して、『エリーゼのために』でも弾けるようになったら名前で呼んでやるよ」と一笑した。
「てかさ、メシまだ?おれ、腹減ってんだけど」
思春期の男の子のようなふるまいに苦笑しつつ、世良は出来上がった料理を食卓に並べた。豚ロース肉のソテーに、夏野菜のグリル、ベーコンとトマトとオクラの味噌汁に、「だし」、炊き立ての白米。漣は硝子の器に入った「だし」を覗き込み、「なにこれ」と眉を顰めた。
「山形の『だし』っていう郷土料理ですよ。ご飯にかけたり、お豆腐にかけたりして食べるんです。さっぱりしていて美味しいですよ」
「へぇ~……」
半信半疑というふうな漣だったけれど、譲司も直も躊躇いなく「だし」を掬ってご飯にかけているのを見て、同じように「だし」をご飯にかけた。味、染みてるといいな……。世良は祈るような気持ちで漣を見つめた。
「ん……」
漣は小さく声を漏らし、二口目を口に運んだ。三口、四口、と箸が進んで、直が「レン君、おいしい?」と尋ねる。世良はゴクリと喉を鳴らした。
「フツー」
漣はそうとだけ言って味噌汁を啜った。世良は脱力し、直は「なにそれっ。ママの料理はおいしいんだよっ。おいしいって言ってごらん!」とどこか譲司を思わせるような口ぶりで漣を非難した。漣は黙々とロース肉のソテーを咀嚼し、麦茶を傾けた。
「マジでフツー。……でもなんか、このフツーな感じ、外の店にはねーな。日本帰って来たなって感じ。この甘い味噌汁、おれのばーちゃんが作ったヤツに似てるわ」
漣が言っているのは麦味噌特有の甘みのことだろう。彼なりの褒め言葉に心が温かくなり、世良はぽっぽと頬を熱くした。
漣は出したものを完食し、その上、おかわりもしてくれた。おそらく満足してくれたのだろう。世良はやっと肩から力を抜いて、藤巻邸へ戻ろうとしている譲司と漣の背中を追いかけた。
「神野さん、すぅちゃんに紙のピアノを作ってくださって、ありがとうございました」
「ああ、あれ?なんか懐かしかったわ。あれ、おれも作ったから」
漣は自嘲気味に笑い、項を掻いた。「おい、オチビ、おれと作ったピアノ、壊すんじゃねーぞ」照れ隠しのように声が飛び、直は「たいせつにするもん!こわしたりしないもん!」と言って、「べー!」と舌を出した。
「てかさー、なんでママ?おまえ、男だろ」
「あ、ああ……。すぅちゃんがそう呼んでるから、そのままにしていて……」
「ふーん。なら、パパはどこ行っちゃたの?おまえ、シングル?」
核心を突かれ、大人三人の間に静寂がドカッと落ちて来る。世良はパチパチと瞬きを繰り返し、譲司はそんな世良をジッと見つめ、漣はニヤニヤ笑った。
「今は、僕だけで……」
沈黙に耐えかね答えれば、尋ねた本人は「ふーん」と興味がなさそうに後頭部で腕を組み、「だってさ、譲司。パパはいねーんだとさ」と譲司に話を振った。
「な……んで私に話を振るんだ。ごく個人的なことだろう。失礼だぞ、神野」
「へいへい。そーですね。すみませーん。……じゃあ譲司、帰ろーぜ。おれたちの愛の巣へ」
漣は譲司の腕を胸に抱き、肩に頬を寄せた。世良はドキリとしたけれど、平静を保って会釈した。踵を返した次の瞬間、漣は「あ、そうだ」と言って世良を振り返り、意地悪く笑った。
「本ばっかの棚に一枚だけCDあるのって目立つから、やめた方がいーんじゃない?本人にバレたら、さすがに気まずいだろ?」
最後の最後に爆弾が投下され、世良は面を熱くした。肌に噴き出た熱に気付かれたくなくて家の中へ逃げ帰る。CDを手に取りジャケットに写る譲司を見つめると、心がきゅんと疼いた。……譲司のCDを勝手に購入して夜な夜な聴いているなんて、本人には絶対、というか誰にも、知られたくない。
閉め切られた折り戸から曇り空を見上げ、譲司は呟いた。「タイフーが来てるんだよね?」ピアノの前に座った直が尋ねると、譲司は「おしゃべりは後だ。ほら、メトロノームのテンポに合わせて、ドからドまで弾いてごらん」と言って直の傍へ戻った。いつの間にか、譲司は直のピアノの先生になってくれたようだ。
「背筋を伸ばして、肩の力を抜いて。指先は、そっと小鳥の卵を握るように」
体躯に合わせて調整した椅子にチョコンと座り、直は鍵盤を叩いた。
「今度は強く。ピアノの音だけでなく、この楽器の中で何が起こっているのかを、耳をすませて感じて」
世良はソファーに腰掛け、二人のレッスンを眺めた。譲司自身は厳しいレッスンを受けていたようだが、彼のレッスンはごく穏やかなものだった。
「なんか、ピアノの音の他に、こっくん、って、小さな音がする」
「そうだよ。ほら、抱っこしてあげるから中を覗いてごらん」
「抱っこ」というフレーズが甘く響いて、直はそれに誘われるように譲司へ両手を伸ばした。譲司は直を抱き上げ、もう片手で鍵盤を叩いた。クリーム色のハンマーが弦を打っている様子を見つめ、直は瞳を輝かせた。
「すごい。こうやって音がなるんだ」
譲司は直の言葉に笑みを深め、もう一度、直をピアノの前へ座らせた。「今度はそっと、弱く。音をイメージしてから鍵盤に手を置いて。分かったね」直は頷き、姿勢を正して、小鳥の卵を握った手で、ドレミファソラシドをなぞった。
一時間ほどのレッスンを終え、三人で朝顔の練り切りを食べているところに、世良はピアノのパンフレットを広げた。
「藤巻さん、どのピアノがいいと思います?あんまり高いものは買えないんですけど……」
このところ、直は毎日のように藤巻邸にお邪魔してピアノを触らせてもらっている。迷惑にならないだろうかと気になる上に、直は家では画用紙に描いた鍵盤でピアノの練習をしている。ピアノを買わねばなるまい。世良はとうとう覚悟を決めた。
「電子ピアノはおすすめしない。いくら似せたところで、タッチが全く異なる。キーボードやシンセサイザーはそもそもピアノとは異なる楽器だ。となるとアコースティックピアノになるが、中古のものや、低品質なもの、アップライトピアノは、おすすめしない」
アップライトピアノもだめなの……!?世良は恐怖に慄き、パンフレットを引っ込めた。「なぜ隠すんだ。見せなさい」譲司はそんな世良の手元からパンフレットを抜き取り、「買うなら、これだな」と言ってグランドピアノを指差した。
「アップライトピアノはグランドピアノよりダイナミックレンジが狭く、連打性が劣る。グランドピアノの方が、力が無駄なく伝わるし弾き心地が良い。表現力を培うためにも、このくらいの投資は必要だ。大きさは……妥協して、中型でいいんじゃないか」
並んだゼロの数に気を失いそうになり、世良は「むりですっ、クレジットカードも持ってないのに!」と悲鳴を上げた。
「なんだ?たかだか四百万だろう。ピアノにしては手軽な買い物だ」
名作曲家の祖父を持つお坊ちゃんは眉を顰め、一般庶民の書店員は項垂れた。そこへ、華やかな嵐がやって来る。
「無理を言うなよ、お坊ちゃん。グランドピアノがある家の方が珍しいってこと、知らねーの?」
声のした方を見やると、部屋の入り口に金髪の美男が立っていた。
パートの前園さんがかざしていたCDのジャケットの彼と目の前の彼の美貌が重なり、世良は思わず立ち上がった。小生意気そうに上がった眉に、丸く大きな瞳、ふっくらとした下瞼と唇……。愛らしい王子様フェイスの彼は、譲司に向けて顎をしゃくった。
「ベヒシュタインのグランドピアノで練習して来たおまえには分かんねーだろうが、こんなチビの頃に弾くピアノなんざ、なんだっていいんだよ。どんなピアノで練習したって、ピアニストになれるヤツはなる、なれないヤツはなれない。……おれがその証拠だろ」
金髪の美男、神野漣は、薄らと濡れた前髪を掻き上げ、「開いてたから勝手に入ったぜ」と言って、譲司からパンフレットを奪った。
「おれの初めてのピアノは、従妹のお下がりのペラッペラのキーボードだったよ。しかも、脚もペダルも紛失済み。おれはそれを炬燵の上に置いて、正座で練習してたってわけ。……アコースティックピアノを弾けたのは、ここと学校でだけだった。芸大に合格して慌てて買ったのも、中古のアップライトピアノだったよ」
ま、今はスタンウェイのグランドピアノ二台持ってるけど。
そう付け加え、漣は人差し指で世良の顎に触れた。くい、と面を上げるようにされ、世良は息を飲んだ。
「そうだな。おれから言わせてもらうなら……。アコースティックピアノも恋人も、中古はおすすめしない。簡単に手に入っても中身は痛んでいることが多くて、直すのに手間も時間もかかる。相応の対価を払って手に入れた新品の方が、いくらか良い」
その言葉に、譲司は世良に触れていた漣の手を払った。「神野。不法侵入で警察に突き出すか?」漣はニヤリと笑い、「マジになんなって。冗談だよ、冗談」と言って払われた手をひらひらと振った。
漣は場の空気を掻き混ぜるようにクルリと直に向き直り、恭しく頭を垂れた。
「初めまして。藤巻譲司の手ほどきを受けている、世にも幸運なオチビちゃん。おれは神野漣。以後、お見知りおきを」
パッと上がった眼差しは、直でなく世良を射抜いている。世良は肉食獣に睨まれた小動物のようになって固まった。
「あぁ~……。こんな高価なピアノを、子どもの手垢まみれにしちゃって。ジジイが泣いてる姿が目に浮かぶわぁ」
「一体何の用があってここへ来た?こんな辺境にわざわざあんな派手な車で……。用がないのならさっさと帰れ」
「車の趣味はカンケーねーだろ。動かしてやらなきゃいざという時へばっちまうから乗って来ただけだっつの」
「そんなことは訊いてない。私は、何の用があってここへ来たんだと訊いてるんだ」
譲司が詰め寄ると、漣は譲司の首に両腕を回した。
「そりゃ、おまえがあんな電話を掛けて来るからだろぉ?大切な相棒を放っておけなかったんだ、優しいおれは」
譲司は舌打ちし、すり寄って来る漣を片手でいなした。
電話?藤巻さんが、神野さんに……?世良は胸をざわつかせ、二人から視線を逸らした。そんな世良の隣から練り切りを食べ終えた直が腰を上げる。彼女はつかつかと前に出て、顎を反らし漣を見上げた。
「……なにかな、オチビちゃん。そんな目ぇしてると、ピアノの椅子に縛り付けて『乙女の祈り』が弾けるようになるまで半永久的に練習させちゃうぞ?」
大人から戯れに脅されても、直は動じなかった。
「すぅはオチビちゃんじゃないよ。すぅには、すなおっていうお名前があるの。……そんなこと言ってると、上と下のくちびるをぬいつけて、永遠におしゃべりできないようにしちゃうよ」
直の一撃に、漣は目玉をひん剥き、譲司は盛大に噴き出した。世良はというと慌てて直の口を塞ぎ、「すみません、この子、ちょっと勝気で……」と漣から直を遠ざけた。漣は手入れの行き届いた眉を歪め、すまし顔の直に向けてガルルと唸った。
「なんつー生意気なオチビだ。もう“ちゃん”なんてつけてやんねーからな」
「神野。ちょっと落ち着け。本当に、おまえはいくつになっても……」
「おまえの様子が気になってたのは本当だって。ついでに、ちょっと泊めてもらえたらと思って。ほらぁ、台風来てんじゃん?ここから東京に飛ぶつもりが、欠航になりそうで。……だめ?」
漣は譲司の腕に腕を絡め、可愛らしく小首を傾げた。譲司は眉を顰め、「実家が嫌ならホテルにでも泊まればどうだ」と返したが、漣は「このおれが!こんな場所まで!おまえを想ってやって来たっていうのに!?」ときゃんきゃん喚いた。
「薄情なヤツ!こんな寂れた街の寂れたホテルに泊まれっての?ぜってーヤだから!」
「そんなことを言ってもベッドは一つしかないし、おまえの身の回りの世話なんてしないぞ、私は」
漣は妖艶に微笑み、しっとりとしたリップ音を立てて譲司の頬を啄んだ。
「おれはいいぜ?ベッドが一つでも、シングルサイズでも。なんなら一晩中サービスしてやってもいい。それとも、元相棒じゃ燃えない?」
世良は直の両目を塞ぎ、大輪のバラを背負う二人に全身の毛を逆立てた。信じられない!子どもの前で何をやってるんだ、この人は!
「つまらん冗談はそのくらいにしておけ。おまえも知っての通り、この家には和菓子しかないぞ。おまえ、小豆が苦手だろう」
「はぁっ!?おまえ、まだそんな食生活送ってんの!?」
漣は譲司を突き放し、「マジで使えねぇ」と吐き捨てた。譲司は漣のふるまいには慣れっこのようで、どんよりとした空模様を見上げて「ふむ」と顎を摩った。
「まあ、泊めてやってもいいが、泊めるだけだ。食事なんかは自分でどうにかするんだな」
「なんだよそれっ。おれはあんな糖と豆の塊、一ミリだって食わねーからなっ!」
漣はしばらく文句を言っていたけれど、ソファーに座ってスマートフォンをいじりだしたところを見ると、この洋館を宿にすることを決めたようだった。
「世良君。ということで、すまない、今晩の夕飯は……、」
「僕たちのことは、お気になさらず……」
世良は譲司に微笑んで見せたけれど、胸の内は落胆と戸惑いでマーブル模様になっていた。最近はずっと、世良が仕事の日は夕食を、休みであれば昼食と夕食を、譲司と共にしていた。
今日は一緒にご飯食べられないんだ……。世良は胸に立ち込めたモヤモヤを振り払うように表情を明るくし、「行こうか」と直の背に触れた。
「ジョージ君、今日は一緒にごはん食べられないの?」
「直、またご相伴させてくれ。今度は外食にでも行こう。その時は私にご馳走させてくれ。何が食べたいか、それまでに考えておいて」
直は唇を尖らせたけれど、譲司の言葉に「うん……」と小さく頷いた。
「なにそれ。おもしろそーじゃん」
譲司は口端を上げた漣を振り返り、「出前を取ってやるから、そこに座ってじっとしていろ」とソファーを指差した。けれど漣は瞳をらんとさせ、世良の肩を引いた。
「なあ、おれにも食べさせてよ。あんたの手料理」
漣は譲司を振り返り、「なあ、譲司、その方がおもしろそうだろ?」と得意げに言った。
神野さんは藤巻さんのこと、「譲司」って、名前で呼んでるんだ。喉元が締めつけられたようになり、世良はキュッと唇を結んだ。
「神野、いい加減に、」
「構いませんよ」
キリリと冴えた声に、直と譲司は目を丸くした。世良は漣に視線をかち合わせ、「お口に合うかどうかは、分かりませんが」と声を尖らせた。
「上等。ちょうど家庭料理が恋しかったんだよなぁ~」
直は漣が世良の肩を抱こうとしていることに気付き、世良の手を引いて「ママ、あぶない!」と漣を牽制した。「んだよ。人をバイキンみてーに」漣は目をすがめ溜息を吐いた。
「ママ、レン君に負けちゃだめ。いっちばんおいしいの、作って!」
娘からのエールを受け取ったはいいものの……。世良は冷蔵庫の中身を思い起こし冷汗を垂らした。確か、夏野菜と、豚肉と、ベーコンくらいしか残っていないはず……。
「せっま。ふっる。平成通り越して昭和じゃん。令和どこ行った?」
家に入るなりそんなことを言った漣の頭を譲司が小突く。「いってぇな」漣は一瞬眉を吊り上げたけれど、「おじゃましま~す」と言って鼻歌交じりに茶の間へ入って行った。
「わお。オチビ、こんなんで練習してんの?音、鳴んねーだろ」
長机に広げられた画用紙のピアノを見て、漣は噴き出した。直は漣を睨んだけれど、漣はそれに構わず画用紙のピアノに触れ、「ド」の鍵盤を叩いた。
「鍵盤でかくね?巨人の手じゃなきゃ弾けねーだろ、こんなん。オチビ、裏が白いチラシ持って来て。あと黒ペンも」
直がしぶしぶチラシとペンを持って来ると、漣はあぐらをかき、チラシの裏にペンを走らせた。譲司と世良は顔を見合わせた。
「さて問題です。ピアノの鍵盤は全部でいくつあるでしょうか?」
「分かんない……」
「正解は八十八個。白いのが五十二個で、黒いのが三十六個。この八十八個の音は、音楽の神に選び抜かれた音なんだ。つまりはだ、音楽の神に愛されているこの楽器に愛されている人間は、音楽の神に愛されている。……一枚じゃ足んねぇよ。もっと白い紙ねぇの?」
直はハッとしたように飛び上がり、テントの中に駆け込んで画用紙を持って来た。「こんな立派なヤツじゃなくていーんだけど」漣はそう言って、鍵盤を描く作業に戻った。
「オチビ、この紙とこの紙くっつけて。テープあんだろ?……バカ、折角同じ幅に切ってんだから、端と端揃えろよ」
ぶつくさ言いながらも、漣は直がテープを貼るとなると、紙を抑えてフォローした。八十八鍵のピアノを描いている二人を気にしつつ、世良は台所に入って行った。
「きざみ昆布は……、あっ、よかった、あった。あと、お野菜……」
世良は冷蔵庫の中身を睨んで、ナスとキュウリ、ミョウガとオオバを取り出した。
野菜を刻み、ナスを水にさらしている間に、薄く切ったカボチャとズッキーニをグリルで焼き付ける。水出ししてあった出汁を鍋に注ぎ煮立てから、ベーコンとくし切りにしたトマトと茹でてあったオクラを入れて味噌を溶く。硝子ボウルに、細かく刻んだ野菜と水気を切ったナス、きざみ昆布を入れ、醬油をはじめとした調味料で味付けする。
ボウルにラップを掛け冷蔵庫へ入れて、世良は茶の間を覗き込んだ。……どうやら、作業はまだ途中のようだ。世良は冷蔵庫から豚ロース肉を取り出し筋を切った。野菜だけではきっと食べ応えが足りないから、ニンニクの香りをつけて塩コショウでシンプルにソテーしよう……。
「オチビ、指置いてみな。……そう。そのまま。ド、レ、ミ、ファ……、」
世良が茶の間に戻ると、直はいつの間にか漣の隣で紙のピアノを弾いていた。叩いた鍵盤に合わせて「ドー、レー、ミー、」と歌っている直に、世良は頬を緩めた。
「譲司。こいつ、音感ある」
漣が笑みを浮かべ譲司を振り返ると、直は「すぅは“こいつ”じゃない!す、な、お!」と憤慨した。漣は頬杖を突き、「いいぜ。おまえがツェルニーの『リトル・ピアニスト』を一周して、『エリーゼのために』でも弾けるようになったら名前で呼んでやるよ」と一笑した。
「てかさ、メシまだ?おれ、腹減ってんだけど」
思春期の男の子のようなふるまいに苦笑しつつ、世良は出来上がった料理を食卓に並べた。豚ロース肉のソテーに、夏野菜のグリル、ベーコンとトマトとオクラの味噌汁に、「だし」、炊き立ての白米。漣は硝子の器に入った「だし」を覗き込み、「なにこれ」と眉を顰めた。
「山形の『だし』っていう郷土料理ですよ。ご飯にかけたり、お豆腐にかけたりして食べるんです。さっぱりしていて美味しいですよ」
「へぇ~……」
半信半疑というふうな漣だったけれど、譲司も直も躊躇いなく「だし」を掬ってご飯にかけているのを見て、同じように「だし」をご飯にかけた。味、染みてるといいな……。世良は祈るような気持ちで漣を見つめた。
「ん……」
漣は小さく声を漏らし、二口目を口に運んだ。三口、四口、と箸が進んで、直が「レン君、おいしい?」と尋ねる。世良はゴクリと喉を鳴らした。
「フツー」
漣はそうとだけ言って味噌汁を啜った。世良は脱力し、直は「なにそれっ。ママの料理はおいしいんだよっ。おいしいって言ってごらん!」とどこか譲司を思わせるような口ぶりで漣を非難した。漣は黙々とロース肉のソテーを咀嚼し、麦茶を傾けた。
「マジでフツー。……でもなんか、このフツーな感じ、外の店にはねーな。日本帰って来たなって感じ。この甘い味噌汁、おれのばーちゃんが作ったヤツに似てるわ」
漣が言っているのは麦味噌特有の甘みのことだろう。彼なりの褒め言葉に心が温かくなり、世良はぽっぽと頬を熱くした。
漣は出したものを完食し、その上、おかわりもしてくれた。おそらく満足してくれたのだろう。世良はやっと肩から力を抜いて、藤巻邸へ戻ろうとしている譲司と漣の背中を追いかけた。
「神野さん、すぅちゃんに紙のピアノを作ってくださって、ありがとうございました」
「ああ、あれ?なんか懐かしかったわ。あれ、おれも作ったから」
漣は自嘲気味に笑い、項を掻いた。「おい、オチビ、おれと作ったピアノ、壊すんじゃねーぞ」照れ隠しのように声が飛び、直は「たいせつにするもん!こわしたりしないもん!」と言って、「べー!」と舌を出した。
「てかさー、なんでママ?おまえ、男だろ」
「あ、ああ……。すぅちゃんがそう呼んでるから、そのままにしていて……」
「ふーん。なら、パパはどこ行っちゃたの?おまえ、シングル?」
核心を突かれ、大人三人の間に静寂がドカッと落ちて来る。世良はパチパチと瞬きを繰り返し、譲司はそんな世良をジッと見つめ、漣はニヤニヤ笑った。
「今は、僕だけで……」
沈黙に耐えかね答えれば、尋ねた本人は「ふーん」と興味がなさそうに後頭部で腕を組み、「だってさ、譲司。パパはいねーんだとさ」と譲司に話を振った。
「な……んで私に話を振るんだ。ごく個人的なことだろう。失礼だぞ、神野」
「へいへい。そーですね。すみませーん。……じゃあ譲司、帰ろーぜ。おれたちの愛の巣へ」
漣は譲司の腕を胸に抱き、肩に頬を寄せた。世良はドキリとしたけれど、平静を保って会釈した。踵を返した次の瞬間、漣は「あ、そうだ」と言って世良を振り返り、意地悪く笑った。
「本ばっかの棚に一枚だけCDあるのって目立つから、やめた方がいーんじゃない?本人にバレたら、さすがに気まずいだろ?」
最後の最後に爆弾が投下され、世良は面を熱くした。肌に噴き出た熱に気付かれたくなくて家の中へ逃げ帰る。CDを手に取りジャケットに写る譲司を見つめると、心がきゅんと疼いた。……譲司のCDを勝手に購入して夜な夜な聴いているなんて、本人には絶対、というか誰にも、知られたくない。
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