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怖がらないで

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 あれから、直はテントの中に閉じこもることが増え、庭に出なくなった。一日に何度か聴こえていたピアノの音も止み、世良は直と譲司の関係に一つの区切りをつけた方がいいのではないかと思い始めていた。
「すぅちゃん。ママとお話ししよう」
 保育園から帰るなりテントへ入ってしまった直に声をかけると、直は入り口からそろそろと顔を出した。
「ねえ、この間、藤巻さんと寂しいお別れになっちゃったよね。お詫びのお菓子を買って、二人で謝りに行ってみない?仲直りできるかもしれないよ」
 直と二人で謝罪に出向き、それからは譲司の生活に立ち入らない。そうすれば、直の記憶に苦い思い出を残さなくて済むのではないだろうか……。そういう考えをそっと隠しながら言葉を選んで語りかける。直は眼差しを鋭くした。
「ママ。仲直りはケンカした時にするんだよ。すぅとジョージ君のは、ケンカじゃない」
「でも……、」
「すぅはジョージ君に、ママをいじめたことをあやまってほしいの。……でも、ジョージ君はあやまらないって言った。ジョージ君がママにあやまらないなら、おはなしはできない」
「すぅちゃん」
「すぅは悪いことなんてしてない。だから、あやまらない」
 世良は驚き、返す言葉を失った。この子、いつの間にこんな哲学を持ったのだろう。感心するやら途方に暮れるやらで、世良は直の前から退いた。
 二人で謝罪に出向きたいというのは、親のエゴかもしれない。
 世良は考えを改め、一人で謝罪に向かうことを決めた。大人として、けじめはつけておかなければならない。そうすることが、ある意味で、今の世良にできる譲司の言葉への反抗だった。
 菓子折りはあの羊羹がいいだろうとインターネットで検索すると、なんと一本五千円もする高級品だった。世良は羊羹の包み紙とスマートフォンの画面を交互に見て溜息を吐いた。お近づきのしるしだからといって、二万円分の手土産を用意するなんて……。
 出会った当初の気さくでスマートな印象が、人の世に慣れず何をしても自分軸になってしまう不器用な印象に取って代わる。
 藤巻さん、本当のあなたはどんな人なの?
 世良は頬杖を突き、画面の向こうの羊羹を見つめた。
「いらっしゃいませ」
 例の羊羹の店は、旧郊外の国道沿いに広く設けられていた。高級感漂う店内に圧倒されていると、レジの傍に思わぬものを見つけてしまった。ジャケットの色褪せたCDに、しっかりとした筆跡で「藤巻譲司」とサインが添えられている……。
「お客さん、藤巻先生のファン?」
 真新しい店内で、杖を突いたおばあちゃんが素朴に微笑む。どうやら彼女が店主のようだった。
「あ、いえ、その、僕は……、」
 世良はまごつき、けれどジャケットに写る神経質そうな青年から目が離せなくなった。今よりも張りのある頬はどこか緊張していて、口端は上がっているのに笑っている感じがしない。瞳は強い光を湛えていて、けれどかえってその輝きが内面の脆さを露呈させているようでもあった。
「先生、うちを贔屓にしてくださっていて。毎月とんでもない量の羊羹を購入されるんですよ。なんでも、三食をこの羊羹で済ませているって、先生は……」
 おばあちゃんは「冗談のような話だけど、真面目な方だから、本当なんでしょうね」と付け加えて苦く笑った。
「でも、近々、購入される羊羹の量が減るかもしれない。先生、良い人ができたみたいだから」
 思わぬ言葉に瞳を瞬かせると、彼女は笑みを深め、「最近ね、季節の商品を手に取られることが増えたんですよ。一つでなく、二つ三つと所望されて、私はそれを包む時、このお菓子を誰と食べているのかしらって、なんだか微笑ましくって……」と嬉しそうに言った。
 世良は赤い金魚の浮かんだ錦玉を思い起こした。
「良い人」と思い浮かべると、譲司の隣で笑う直が思い起こされて、胸がぎゅうっとなった。何気なく茶菓子をふるまうものだから、常備しているのだとばかり……。
 羊羹の詰め合わせを購入し店を出ると、足が自然とCDショップへ向いた。駅前のCDショップの片隅、クラシックコーナーの「ふ」の欄に、譲司のCDが一枚だけ置いてあった。
『gifted』
 そう題されたCDには、リストの『ラ・カンパネラ』を始めとする、ポピュラーで奏者の技巧が光る楽曲が収録されていた。ショパンコンクールから凱旋して行われたレコーディングはサントリーホールでのもので、周囲の期待の高さが窺えた。
『gifted』。このタイトルを、彼はどう受け取ったのだろうか。
「あ、動いた」
 帰宅してからオーディオ機器を持っていないことに気付き、世良は昔使っていたノートパソコンを押し入れから引っ張り出した。何時間か充電すると、そのパソコンは眠りから覚めるように立ち上がり、畳をほのかに照らした。
 再生ボタンをクリックすると、小さなスピーカーからピアノの音色が溢れ出した。音の運びは今より瑞々しく荒っぽいけれど、全体の雰囲気は今の彼の演奏に通ずるものがあり、世良は七曲全て、五十八分じっくりと、彼の音色に向き合った。
 最後の曲を聴き終えてもCDが回り続けていることに気付いて、世良は耳をすませた。長い静寂の後、先ほどまでの楽曲とは違う素朴なメロディーが流れ始めた。
 なんだか、あたたかい音……。
 技巧を凝らしたというよりも、穏やかで、一音一音に温みがあり、心落ち着くようなその曲は、世良の胸を切なくした。ブックレットを捲っても、何の記載もない。題名のないその曲を、世良はもう一度聴き直した。
 CDをケースにしまい、文庫本用の棚に立てかける。人生で初めて購入したCDは、ときめきよりも先に切なさを連れて来た。
 やっぱり僕には、あなたがどんな人なのか分からない。
けれど、知りたいと思う。それだけの理由では、互いの生活に立ち入るには不十分だろうか。
「こんにちは……」
 昼時を過ぎてから、世良は一人で譲司を訪ねた。チャイムを鳴らすとすぐに玄関扉が開いて、世良は髪を乱した譲司に一礼した。
「先日の非礼をお詫びしたくて。……この間は、楽しい時間に水を差してしまって、すみませんでした。おうちにたくさんあるのは知っているんですけど、よろしければ……」
 お詫びの品を差し出すと、譲司は表情を固くしたままそれを受け取った。
「何か困りごとがあったら、隣にいますから、いつでもおっしゃってください」
 雰囲気を和ませたくて以前と同じような言葉を添えると、譲司は痛みの走ったような顔をして、「あの子は……」と尋ねた。
「すぅちゃんは、心を落ち着かせるのに時間が必要な子で、けれど自分で感情を整理できる子ですから、藤巻さんが気に病む必要はありません。……それに、」
 世良は今こそ自分の本心に気付いて、かすかに笑った。
「あなたが言ったことは、全くその通りで、正しいから。だから、あなたはあなたの言ったように、僕に謝る必要なんてないんです。あの時、僕が傷付いたのだとすれば、その傷は、過去の僕が今の僕に付けたものだから……」
 書いているだけで幸せだったのに、それが全ての喜びと言ってもいいほどだったのに、その気持ちはたった一つの出来事に屠られ泡と消えた。
 僕は小説に選ばれなかった。そう気付くと、捨て置いたと思っていたものは手にしてもいなかったのだとも気付かされて、感情に火がついた。
 ほんとうはずっと悔しかった。あんなに愛していたものを投げ出してしまったことが。書いているだけで幸せと思い続けられなかったことが……。
 ばかだったな、と世良は自分を笑った。自分の幸せが「小説家」の形をしていなかった頃は、書いているだけであんなに幸せだったのに。そう感じた時点で、もう、自分の幸せはこの手の中にあったのに……。
「待ってくれ」
 踵を返そうとした世良の手を、譲司は掴んだ。世良は振り返り、熱くなった瞳を瞬かせた。「すまない」譲司は我に返ったように手を離し、眼差しを伏せた。
「中で……、コーヒーでも……、」
 譲司は言い淀み、首を振って、「ちがうそうじゃない」と呟いた。
「私は、君をいじめるつもりはなかった。君を傷付けるつもりもなかった……」
 眉を歪め、唇を噛み、譲司は何かを伝えようとしていた。世良は口を噤み、彼の言葉の続きを待った。
「正直に言えば、私は驚いた。直の様子から、私のふるまいが君を傷付けてしまったのだと、直を怒らせてしまったのだと気付いて……、」
 手のひらで面を擦り、譲司は「ちがうんだ」と語気を強めた。
「気に入らなければ出て行けと言ったが、私は、本当は、」
 再び唇を結び、譲司は俯いて沈黙した。
 不器用な人。
 世良が小さく息を吐くと、それを溜息と取ったのか、譲司はパッと面を上げた。母親に叱られている子どものような表情に、世良は眉を寄せて微笑んだ。
「無理に謝らなくてもいいんですよ。謝るようなことはしてないんだから」
「そうじゃない、ちがう、私は、」
 譲司はなおも首を振った。その様子が癇癪をおこしている時の直に似ていて、世良は譲司の表情を覗き込んだ。眉尻はくにゃんと下がり、頬は赤らんで、瞳の奥は揺れている。……テントに籠城する彼女と、ピアノに触れようとしない彼は、もしかしたら似ているのかもしれなかった。
 譲司は意を決したように面を上げ、一歩前へ出た。
「私は、ただ謝罪したいんじゃない。私は、君たちに、」
 ブルルッ。ブルルッ。ブルルッ。
 タイミングが悪く、世良の胸ポケットでスマートフォンが震えた。世良はスマートフォンを震わせたままにしていたけれど、譲司は焦れたように頭を掻き、「どうぞ、出て」と世良の胸ポケットを手のひらで指した。
 世良は譲司の気遣いを受け取り、急いで電話に出た。直が通っている保育園からの着信だった。
『ひだまり保育園の吉井です。いま、お電話大丈夫ですか?』
 先生の声の調子に、世良は直感した。すぅちゃんに何かあったんだ!
『園庭で遊んでいた際におともだちとトラブルになって、直ちゃんと相手の子が遊具から落ちて、二人とも怪我をしてしまって……。直ちゃんは右手首の痛みを訴えていて、もう一人の子は額を切っていて。いま病院に向かっているところなので、お父さんも来ていただけますか?』
 世良は青ざめ、「分かりました、すぐに向かいます、病院はどこの、」と気持ちを落ち着かせながら詳細を尋ねた。
「直に何かあったのか」
 電話を切ると、譲司は差し迫った表情で世良に尋ねた。世良は拙く笑みを浮かべた。
「お友達とケンカして遊具から落ちちゃったみたいで。右手首が痛いって、本人は……、」
 声が震えてしまい、世良はぶるりと頭を振って、「すぐに行かなくちゃ、ごめんなさい!」と言い残して駆け出した。
 家に戻り、荷物とヘルメットを掴む。戸締りをすることも忘れて自転車に飛び乗ったその時、真っ黒のセダンが家の前に滑り込んだ。
「世良君!乗って!」
 運転席から世良を呼んだのは譲司だった。世良は自転車に跨ったまま瞳を瞬かせた。譲司は車を降りると、世良の被っていたヘルメットを取り上げた。
「急ぐんだろう!早く乗りなさい!」
 混乱しきった頭をピシャンと叩かれたような心地がした。世良は頷き、車の助手席に乗り込んだ。
「どこの病院だ」
「伊角総合病院の整形外科だって……」
 譲司は表情を曇らせ、車を発進させた。
「あの子は、まだ、ドレミファソラシドも弾けないんだ」
 車を走らせながら、譲司は呟いた。額には汗が浮かんでいた。
「あの子の手は柔くて小さい。だから、鍵盤を叩くので精一杯なんだ。けれど私には分かる、あの子は音楽が、ピアノが好きになる。……あの子は……、」
 譲司がドレミファソラシドの指使いを直に教えた日のことを思い起こし、世良は瞳を歪めた。
 この人は、悪い人じゃない。世良は一度の違和感で直から譲司を取り上げてしまったことに気付き、自分を恥じた。この人はすぅちゃんを想ってくれている。きっとすぅちゃんも、心の奥では、この人を想っている。
 病院へ着くと、譲司は運転席を降り助手席のドアを開けて、「行ってくれ、私はここで待っているから」と言った。世良は車を降り、譲司の腕に触れた。太くがっしりとした腕が、かすかに震えた。逞しい体躯とその動作の差が、彼の内面の不自由さを表しているようだった。
「藤巻さん、一緒に来てくれませんか」
「だが、私は……、」
 言い淀み視線をさまよわせる譲司に、「来てください」と再び懇願すると、彼はひと時逡巡し、「分かった」と世良の願いを受け止めた。
「直ちゃんのお父さん!お忙しいところ、すみません……!」
 診察室の前に掛けていた先生が立ち上がる。その隣に座っていた女性も立ち上がり、世良たちへ駆け寄った。
「本当にすみません、うちの翔也が、直ちゃんがたいせつにしていたものをなくしてしまったみたいで、それで、」
 翔也君のお母さんは堪えきれないとばかりに頭を下げた。先生は慌てて「私どもがきちんと注意を向けられていたら起きなかったことですから、お母さん、顔を上げて下さい」と言って彼女の背を摩った。
 翔也君は直と同じクラスの子で、担任の先生からも「一緒に遊んでいた」とよく名前を聞く子だった。世良もまた「こちらこそすみません、翔也君のお顔に、傷が……、」と言って頭を下げ、先生の話に耳を傾けた。
 外遊びの際、直はいつものカラ―帽子でなく、登園時に着用している麦わら帽子を被って園庭に出た。麦わら帽子に挿してある青い羽に気付いた翔也君はどうしても羽を触りたくなり、直に声掛けなく羽を取ってしまった。羽がなくなっていることに気付いた直が翔也君を問い質すと、翔也君は「羽はポケットへ入れたが、いつの間にかなくなってしまった。そんなにだいじなものを保育園に持って来る方が悪い」と返した。激昂した直と抵抗する翔也君で揉み合いになり、二人は遊具から転落、共に怪我を負った……というのがことの顛末だ。
「そうだったんですね……」
 世良は直が譲司から贈られた羽を麦わら帽子のリボンに挿し込んでいたことを思い出し、眉根を寄せた。譲司はハッと息を飲み、身体を強張らせた。
「それで、直は、」
 黙りこくっていた譲司は我を忘れたように先生に詰め寄り、「直はどこにいるんだ」と問いをぶつけた。先生は縮こまって、「本当に申し訳ございませんでした、私どもが目を離していたために」と謝罪を繰り返した。
「藤巻さん、すぅちゃんはきっと大丈夫。だから先生を責めないで。……すぅちゃんはお友達に手を出してしまった。すぅちゃんはしてはいけないことをしてしまったんです。……翔也君のお母さん、翔也君を怪我させてしまって、本当に、本当にすみませんでした」
 世良は譲司を宥め、次いで翔也君のお母さんに頭を下げた。「直ちゃんのお父さん、頭を上げて下さい、元はといえばうちの子が……、」肩に触れられても、世良は頭を上げなかった。どんな理由があっても、相手に手を上げていいことには絶対にならない。
「私のせいだ」
 その呟きに、世良は面を上げた。譲司は足元を睨み、「私のせいで、あの子は」と、声と拳を震わせた。
「藤巻さん、あなたのせいじゃない」
 堅い拳に触れ言い含めるように囁いても、譲司はとりつかれたように「私のせいだ」と繰り返した。
「私があんなものを贈らなければ。あの時、意地を張らずにあの子と君に謝っていたら。こんな、人の心の分からない自分でなければ」
 譲司の顔がみるみる真っ青になり、世良は譲司の手を手繰り寄せた。譲司はビクリと肩を揺らし、それから、ぎこちなく世良に向き合った。世良は譲司の両頬を両手で包み込み、瞳の奥を覗き込んだ。譲司の肌は冷え切っていた。
「すぅちゃんは、直は、そんなにやわじゃない。あの子は一度挫けたとしても、時間をかけて立ち直れる子。あなたが思うよりも、心も身体もずっと強いの。……僕の直は簡単に壊れたりしない」
 譲司は、はく、と唇を開き、ゆるゆると息を吐いた。譲司の頬に赤みが差しはじめたのを見て、世良は微笑んだ。
「あの子、歩き始めたばかりの頃に、机の角に顔をぶつけて、瞼を切ったことがあるんです。それから、階段から転がるように落ちたこともあるし、保育園のお兄ちゃんに憧れて雲梯で遊ぼうとして、落っこちて、足首を捻ったことだってあります。それ以外にもたくさん怪我をしたけど、ちゃんと治りました。……だから、そんなに怖がらないで」
 譲司の肩が、ふっと下がった。拳だった手は緩く開き、唇は、「それは本当に?」と世良に尋ねた。世良は頷いて譲司の頬を撫で、手を下ろした。譲司はどこかあどけない表情で世良を見つめ、「そうか……」と溜息のような声で言った。
「ジョージ君」
 高く囀るような声が、譲司を呼んだ。譲司は声のした方にパッと視線を向けた。
「ママ」
 直に呼ばれ、世良は直へ駆け寄った。直の手首には湿布が、膝にはガーゼが貼ってあった。翔也君も額に絆創膏を貼っているものの、二人とも大事には至らなかったようで、その場の大人全員が「はぁ」と息を吐いた。
「ママ、あのね……」
 直は世良を見上げ、瞬きを繰り返した。頬がみるみる紅潮し、けれど彼女は泣かなかった。その隣で、翔也君は顔を真っ赤にして泣きじゃくり始めた。翔也君のお母さんが慌てて彼を抱きしめると泣き声は更に大きくなり、大人たちは顔を見合わせて微笑んだ。
「すぅちゃん。あの羽をたいせつに思っていたんだね」
 世良はしゃがんで直の手を取り、目を見て言った。直は世良を睨むように見つめていたけれど、しばらくしてコクリと頷いた。
「だって、ジョージ君からの、はじめてのお手紙に入ってた、はじめての……、」
 言葉はそこで途切れ、直は近づいて来た譲司を見上げた。譲司はゆっくりと直に近づき、世良と同じようにしゃがんだ。
「直。どうか私に謝らせてくれ。……すまなかった。君のママを心ない言葉で傷付けて、謝ることを突っぱねて。悪気はなくても、私はあの時、謝るべきだった。直、世良君、本当にすまなかった」
 膝をついて頭を下げた譲司を、直は黙って見下ろした。世良はそんな直を見つめ、「すぅちゃん」と呼びかけるのを堪えた。
 直は両手を広げ、パッと飛びつくように譲司に抱きついた。突然のことで、譲司は尻もちをついたけれど、直は譲司の膝に乗り上げ譲司を抱きしめ続けた。
「……」
 譲司はおずおずと、初めて出会ったものに触れるように、直を抱きしめ返した。譲司の履いていた下駄が転がり土で汚れた爪先が露になると、世良の胸がギュッと握りしめられたようになった。
「羽なら、また君に贈るよ。庭に時折、落ちてるんだ。一等きれいで大きなものを、君に贈る。約束するよ」
 譲司の言葉に、直は頷いた。彼女の目元には涙の雫が温かく光っていた。
 その言葉通り、後日、譲司は直に羽を贈ってくれた。なくしたものよりも小さいけれど、根元の毛はふわふわと立っていて、先になるにつれ濃い鶯色になっていく、美しい羽だった。直はそれを宝箱に入れ、そうっと取り出しては眺めている。
 ピアノの音も再び聴こえ始め、直はその音に誘われあの穴をくぐっていく。世良もその後を追い、譲司の元へ、直と一緒になって駆けて行く。
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