褐色の天使は、僕の裏切りを赦さない。

野中にんぎょ

文字の大きさ
上 下
9 / 10

褐色の小悪魔は二度微笑むか?

しおりを挟む
「けい」
 名前を呼ばれて顔を上げると、瑠璃は身を捩ってハーフパンツと下着を脱ぎ捨てた。白いシーツに褐色の肌が横たえる。海水パンツで隠れるからだろう、腰の辺りは雪のように真っ白で、啓介の頭はくらくらと熱に揺すられた。
 許された喜びよりも戸惑いが勝って、それから戸惑いよりも喜びが勝って……。感情の波が寄せては返す。啓介は不器用に微笑んで食い入るように瑠璃を見つめた。
「……瑠璃の本当の肌、こんな白いんだ」
「あんま見ないでよ。ビョーキの一歩手前みたいでコンプレックスなんだから」
 確かに、白いというより、いっそ青白い。啓介は腹から腰の骨へ指を滑らせ、薄い茂みに口づけた。
「ここ、もう、他の誰にも見せないで。僕だけにして」
 乞うというよりも、確定の意を込めて言い含める。一瞬眉を顰めた瑠璃は眉間の知恵の輪をほどいて「ふ」と微笑んだ。
「けい、こういうとこは変わってない。瑠璃は僕と遊ぶんだって、誰も入らないでって、他の友達を遊びに入れようとするとびいびい泣いて。俺に近寄るとお前がいい顔しないから紺でさえ俺とお前の邪魔をしなかった」
「え?……そんなこと……」
 十一年前に思いを馳せてみれば、心当たりが出て来る出て来る……。啓介は熱くなっていく頬を瑠璃の胸に埋め「そうだったかも」と呻いた。そんな啓介の旋毛を瑠璃の手がそうと撫でる。
「なあ、ここだよ」
 おもむろに開かれた両脚、陰嚢の向こうにあるすぼまりに触れながら瑠璃は囁いた。
「男同士は、ここ使うの。けいにできる?けいのちんこ、ここに挿れるんだよ」
 そこは本来ならば排泄に使う場所のはずで。それ以外の意味は持たないはずで。なのにそこはふっくらと膨れて、唇と似た色をしていて。啓介は咥内に滲んだ唾液を注意深く飲み下し、自身の手を瑠璃のすぼまりへ伸ばした。「ここに、僕の……」縁をなぞるように触れると瑠璃がきゅっと瞼を下ろした。啓介は慌てて手を引っ込めた。
「どう?出来そー……?やっぱ、無理……?」
 あられもない格好をしているのに、眼下の瞳は不安に揺れている。啓介は観念したように深く息を吐いた。
「瑠璃のお尻の穴に僕のちんこ挿れるとか、エロ過ぎる」
 大きな瞳がぱちんと弾けるように瞬いて、それから瑠璃は砕けたように笑った。「あっはは!なにそれ!」啓介はポカンとしたまま瑠璃を見つめた。
「え?僕、何か変なこと言った?」
「ふふ。変なこと、言った。……でも、うん……」
 いつもよりずっと深くなった微笑みを受け、啓介の胸にパチパチと光が散った。きれいな弧を描く唇も、頬に浮かぶえくぼも、笑っているのに困ったように見える眉も、空に散らばった星屑のように瞬き、輝いて、啓介の胸を熱くする。
 瑠璃は一度閉じた脚を再び開き、ベッドサイドの引き出しからローションを取って自身の手に馴染ませた。
「ン、……そんな、見ないでよ」
 見ないでと言われても、視線を逸らすことなど出来なかった。瑠璃の指が薄紅色のすぼまりの縁を行ったり来たりしている。そこは性器でないはずなのに、複雑な意味を持って収縮している。啓介はそれを見て、はっきりと淫らだと感じた。淫らで、いたいけで、瑠璃のそんな繊細な場所に自分の熱を埋められるのだと思うと、居ても立ってもいられなくなる。
「瑠璃、僕も指、入れたい」
「え、だめ、汚いよ」
「汚くない。……入れるよ」
 すでに瑠璃の指が入っている場所に唾液で濡らした人差し指を埋める。中は熱かった。熱くて、ふわふわで、きゅうきゅう締め付けて来る。中が引き絞れる度に縁からローションが雫になって溢れ、クリーム色のシーツに点々と染みを作った。
「すごい、瑠璃、こんなの、」
「あ、あっ、やだ、けい、ひどくしないで、やさしくして、」
 衝動のまま抜き差ししていたことに気が付き啓介は指を奥深くで留めた。見つめ合うと火がつくようだ。腰の奥から、胸の奥から、欲望が突き上げて来る。
「だめ、もう無理だ、待てない」
 焦れてしょうがない手つきでバックルを外し前を寛げる。欲しい。建前も何もかも頭から消え去って、ただ瑠璃が欲しい。瑠璃は腰を引いたけれど脚は閉じなかった。
 熱の切っ先と熟れた入り口が触れる。互いに無言のまま、奥深くまで、ゆっくりと、けれど一度も腰を引かずにつながり合う。
「あ、……うぅ、」
 中のあまりの締め付けと熱さに啓介は呻き、瑠璃は喉を反らして唇を噛んだ。結合部に触れればそこは今にも裂けそうなほど張りつめていて、啓介はやっとそこで我に返った。
「瑠璃、痛い?中、すごい、きつい……」
 覆い被さり宥めるように肩に触れれば瑠璃は頭を横に振った。「やだ、痛くないから、抜かないで」こんなの、痛いに決まっている。その証拠に瑠璃の内股は震えていて、瞳には涙がたっぷりと浮かんでいた。
「るり……。このまま、繋がっていたい。いい……?」
 返事の代わりに腰に脚が絡められる。胸と胸がひたりとくっついて、感情と熱と鼓動を分け合う。啓介は小さなキスと深いキスを交互に繰り返しながら瑠璃の唇を愛した。
「瑠璃をあいしてる」
「あ、あん、あぅ、だめ、けい、いま、いわないで」
「あいしてる。……瑠璃は?僕をあいしてる?僕だけにしてくれる?」
「けい、あぁ、はあぁ、あ、うう、ン、やだあ、いま、やめて、」
「あいしてる。瑠璃、そばにいて、はなれないで、僕をあいしてるって言って」
 愛を囁くたび、中がにゅくにゅくと蠢く。柔らかく包まれたかと思えばきつく引き絞れて、思いのままに腰を打ち付けたい衝動に襲われる。啓介は奥歯を噛みしめて衝動に耐え、瑠璃の瞳を深く見つめた。
「あい、してる」
 キスの最中、瑠璃は啓介の咥内に囁いた。
「けい……」
 伸びて来た両腕が啓介の背中に回り、括れた腰がゆるりと振れた。啓介もそれに応えるように深い場所でゆっくりと腰を振る。瑠璃と繋がってでさえ、もっと深く、重なるほど一つになってしまいたいという欲望が頭を掠めた。
「瑠璃、すきだ、るり、もう絶対に離れたくない」
 激しくなっていく律動の最中、女々しくそう口にした啓介を瑠璃は眉根を寄せて笑った。
 瑠璃の爪が啓介の背中を掻いて行く。その痛みさえ熱に変換されて、啓介は夢中で瑠璃の身体を貪った。
「けい、ああ、もう、おれ、いく、けい、けいっ」
 全身でしがみつかれ、啓介も瑠璃に圧し掛かるようにして汗の滲んだ身体を掻き抱いた。……中がぎゅっと狭まり、啓介は最奥で欲を吐き出した。このまま自分のものが瑠璃の奥に留まって、それが“瑠璃は僕のものだ”というしるしになればいいのに。
「う、あ、……う……っ」
 何度も締まる内壁に再び熱が込み上げる。このままでは瑠璃がつらいだろう。引き抜こうと腰をずらすと、瑠璃の脚が再び腰に絡んだ。真っ赤な頬の瑠璃が潤んだ瞳で啓介を睨む。
「離れたくないって言ったのは、どこの誰」
 詰られ、啓介は頬を緩ませた。不機嫌な表情になってしまった彼の額に自身の額を擦り付け、ゆっくりと入り口から奥まで抜き差しする。
「瑠璃、すきだよ」
 飽きもせずそう囁くと、瑠璃は肩口に顔を埋めてしまった。
 素肌の肩に触れた瑠璃の頬が熱い。啓介は静かに微笑み、瑠璃のこめかみにキスをした。



「マジで男同士のセックスのことなんにも知らないんじゃん。慣らしもせずに中に何度も出すなんて、ホントさいあく……」
 風呂から出て来た瑠璃はぶつくさ言いながら布団にくるまった。すっかり日が暮れた部屋のカーテンを閉め、啓介は瑠璃の隣へ腰掛けた。
「本当にごめん。次までに勉強しとく。どっか痛い?僕に何かできることある?」
 ふわふわした金髪に触れながら尋ねれば、唇を尖らせた瑠璃がこちらを振り返る。
「お腹痛くなりそう」
「摩ろうか?それとも何か他のものが必要?薬とか?」
 まんまるの瞳は啓介を見つめたまま。啓介はしばし考え、瑠璃の纏っていた布団をそうとはぐった。瑠璃の背中を抱き、二人を包み込むように布団を被せて腹を摩ってやる。しばらくそうしていると目の前の耳が上気し始めて、啓介はますます頬を緩めた。
「なあ。瑠璃。連絡先教えて」
「またそれ?……やだ。教えない」
「ええ?僕たち両思いだろ?僕は東京、瑠璃は三ツ島で距離も離れてるし。電話もメッセージもなしじゃ寂しい。瑠璃、お願い、連絡先ちょうだい」
「だあめ。絶対教えない」
 つんとそっぽを向いた瑠璃を追って左の肩口に顔を出す。やけに涼しい目をした瑠璃にこれは長期戦になると感じ、啓介は一旦連絡先を諦めることにした。
「なあ。僕の恋人になってくれたんだよな?僕がいない間に他の男に会ったりしないよな?」
「……分かんない」
「分かんないってなんだよ」
「分かんないし連絡先もあげないっ」
「なんだよそれ。僕、フラれたってこと?僕のことあいしてるって言ったよな?」
 思わず詰ってしまい啓介は慌てて矛を収めた。それでも浮き立っていた心は力を失くして底に落ちて行く。瑠璃の腹を摩りながらこらえ切れなくなった溜息を吐くと、瑠璃は小さく「分かんない」と呟いた。
 先ほどまであんなに柔らかく熱っぽかった身体が、じわじわと固くなっていく。自分の気持ちよりも、瑠璃のそんな様子が胸を締め付けた。啓介は寂しげにどこかを見つめている鳶色の瞳を覗き、「いいよ、それで」と瑠璃の頬に口づけた。
「何度だって、ここに来る。すきだって伝えるよ。瑠璃がいいと思ったら僕を恋人にして」
「……けいがいない間に誰かとデートしちゃうかもよ」
「そうする暇がないくらいデートするから大丈夫」
 完全に強がりだったが、自信たっぷりに言ってみせる。瑠璃は啓介を振り返り、そして花開くように笑った。そして腹を撫でている啓介の手に自身の手を重ね、唇に囁いた。
「連絡先、次にここに来た時に教えてあげる。……それまでお預けだよ。いい?」
 一枚上手の小悪魔に、啓介は苦笑を浮かべつつ頷いた。二人は頬をすり寄せ合い、どちらともなく唇を重ねた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

時計の針は止まらない

朝顔
BL
付き合って一ヶ月の彼女に振られた俺。理由はなんとアノ声が大きいから。 自信を無くした俺は、トラウマ脱却のために、両刀だと噂の遊び人の先輩を頼ることにする。 だが先輩はただの遊び人ではなくて……。 美形×平凡 タグもご確認ください。 シリアス少なめ、日常の軽いラブコメになっています。 全9話予定 重複投稿

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

運命のアルファ

猫丸
BL
俺、高木颯人は、幼い頃から亮太が好きだった。亮太はずっと俺のヒーローだ。 亮太がアルファだと知った時、自分の第二の性が不明でも、自分はオメガだから将来は大好きな亮太と番婚するのだと信じて疑わなかった。 だが、検査の結果を見て俺の世界が一変した。 まさか自分もアルファだとは……。 二人で交わした番婚の約束など、とっくに破綻しているというのに亮太を手放せない颯人。 オメガじゃなかったから、颯人は自分を必要としていないのだ、と荒れる亮太。 オメガバース/アルファ同士の恋愛。 CP:相手の前でだけヒーローになるクズアルファ ✕ 甘ったれアルファ ※颯人視点は2024/1/30 21:00完結、亮太視点は1/31 21:00完結です。 ※話の都合上、途中女性やオメガ男性を貶めるような発言が出てきます(特に亮太視点)。地雷がある方、苦手な方は自衛してください。 ※表紙画像は、亮太をイメージして作成したAI画像です。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

Siと言うまで帰さない

ゆまは なお
BL
日本人の料理人、加賀美彰人はローマの貴族のパーティでリカルドに出会う。 リカルドは加賀美に誘いをかけるが、加賀美は一筋縄ではいかない性格の持ち主で…。 性悪誘い受と貴族の御曹司の大人の駆け引きをお楽しみください。 これは2018年5月に「絵師様アンソロジー」という企画に参加した作品のリメイク版です。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!

toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」 「すいません……」 ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪ 一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。 作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)

処理中です...