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君のそばかすは、触れられる星屑

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 新の指を口に含んで潤し、双丘の間へ導く。新は指先ですぼまりを撫でながら潤いを足し、縁が緩んだところへ指を挿し入れた。
 自分の指と、まるで違う。たとえ人差し指だけでも、肉壁を押し上げるような違和感がある。苦しい、ほんとうに入ってるんだ……。茜は新を見つめ、新しい涙を浮かべた。新が自分の中にいる、この違和感が愛しい。
「入り口がきつい。無理をするとおまえが傷つくよ」
「きついけど、ちゃんと慣らせば、たぶん入るから……。小林、やっぱ、無理?」
「無理じゃない、おれだって入りたいよ」
 茜は新の言葉に微笑み、「じゃあ、続けて。小林の、ここに入るようにして」と囁きながら新の腕を摩った。
 新は茜の反応をつぶさに感じ取りながら、丁寧に中を愛撫した。そのうちに、自慰では感じたことのない熱がじわじわとこみ上げて、茜の胸がふうはあと喘いだ。不安そうだった新の表情がにわかに晴れ、茜も相好を崩した。
 恋人に、時間と手間をかけて身体を拓かれる悦び。相手が新でなければ、きっと得られなかった。
「ん、もう、そんな、濡らさなくても、いいってぇ……」
「でも、滑りがいい方が、よさそうだから。声、我慢しないで、もっと聞かせて」
 入口もずいぶん緩んで、中などぐずぐずだ。茜は迫り来る絶頂を感じてほしくて何度も新の指を喰い締めた。そのたびに、新は嬉しそうに微笑んだ。「あん、もう、そうじゃなくってぇ、」茜は頭を打ち振って腰を引き、新のショーツの内側へ指を滑らせた。
「これで、して……」
 新のショーツは、汗と先走りで湿っていた。茜は新を見上げながら、ゆっくりとショーツを下ろした。まろび出たそれは新の興奮を証明するように固く反っていて、嬉しくてたまらなくなった。
 互いに無言で、吐息だけを逸らせて、秘部を重ねる。
 ぬるついたスキンの先がすぼまりに馴染んで、ぷぷ、と小さな気泡を立てて飲み込まれていく。茜は大きく息を吸い、吐いた。新が奥まで来られるように、入り口を過ぎたところで膝裏を掴んで腰を浮かす。そうすると、中の熱が滑るように潜っていった。
「あ、悪い、大丈夫か、はぁ、あ、」
「だいじょうぶ、おれが、中に入りやすいように、しただけだから」
 新は性感と理性の間をさまようかのように顔を歪め、「だめだ、もう、我慢できないかもしれない」と口走った。勝手に振れる腰をそのたびに押さえつけていた彼の理性が、今まさに焼き切れようとしている。茜は新の腰に脚を絡めた。
「小林、思いっきり、して。えっち、して」
 新は瞳を見開いて沈黙し、唇を噛んだ。
 ずぐ、と、中の熱が引き抜かれ、そこからやっと律動が始まる。
「んっ、んっ、はぁっ、ふ、ふぁ、あっ、」
 浅く緩い動きが、徐々に深さと速さを増す。中を擦り上げられるたびに声が鋭く溢れて、茜は新にしがみついて迫り来る絶頂に抗った。
「おまえを、おれのおまえだと思っていいか」
 早口に問われ、茜は顔を上げた。歪み、潤んだ瞳。赤い頬、噛みしめた唇。いつも冷静な新が感情を露にしているのを見て、茜はその眩さに息を飲んだ。
「好きな人ができた」と言うたびに「そうか」と穏やかに受け止めてくれていた新が脳裏を過る。もしかして小林、ほんとうは、あの時――。
「悔しかったから、あんなに優しく笑ってたの?」
 新はその言葉の詳細を感じ取り、「そうだよ」とはっきり言った。
「おまえに意中の相手ができるたび、なんでおれじゃないんだって、悔しくてたまらなかった。でも、おまえにかっこ悪いところは見せたくなかったから……」
 そんな素振り、なかったのに。茜は深くなっていく律動に胸を喘がせながら「でも、応援っ、してくれた、いつも、」ときれぎれに応酬した。新は片頬を上げて笑った。まるで、赤ずきんを待ち伏せしていたオオカミのように。
「早くおれの番がくるようにそうしてただけだ。長期戦になると、相手がおまえに絆されてしまうかもしれないからな。……ずっと、指くわえて、やせ我慢してたよ。相手にひどくされておれがいることに気付けばいいって、何度思ったか分からない」
「う、うそ、だって小林はいつだって、」
「ほんとうだよ。おれは人並みに狡いし、人間もできてない。次々と気になる男を見つけるおまえに意地悪を言ったことだってある。……優成の肩に寄りかかって寝ていたおまえを見た時なんか、嫉妬で心臓が燃えるかと思った。優成が久住を気に入ってくれてラッキーだったよ」
 新の激情を真正面から浴びて、茜は背筋をぞくぞくと震わせた。平気じゃ、なかったんだ。ずっと、切なかったんだ。なのに、こんなおれをずっと想っていてくれたんだ。
「思ってっ、いいっ……」
 かくかくと揺さぶられながら、茜は訴えた。新はその答えの真意を確かめようとこちらの瞳を覗き込んでくる。
「おまえのおれだって、思っていいっ!」
 茜は全身全霊で叫んだ。
 冴え冴えとしていた新の瞳が、ゆるゆると細くなり、口端がわずかに窪んだ。安心しきったその表情に、茜は新を一層きつく抱きしめた。
「ねえ小林。分かりやすくヤキモチ焼いてくれてたら、もっと早くこうなれてたのにって言ったら、怒る? おれ、ずっと、小林にヤキモチ焼いて欲しかったんだよ」
 ぴたりと動きを止め、新は「……嘘だろ?」と一転して瞳を丸くした。茜は声を上げて笑い、「小林って、意外と表情豊かなのな」と新をからかった。
「え……、いつからおれのこと……」
「分かんない」茜は困った顔になってしまった新に笑みを深めた。
「分かんないけど、小林におれを見て欲しかった。なのに、目が合ったり近づかれると恥ずかしかったりして。二人きりだと妙に甘えたくなったり、他の人がいるとツンケンしたり。さっきも言ったけど、小林といるといろんな気持ちになってた。こーゆーのが、恋なんだな」
 植物園でしていたように手と手を重ねる。気持ちも重なっている今は、ただそれだけで満たされてしまった。
「小林。好き。大好き」
「うん。おれも、おまえが好きだ。もう、離せないからな」
「望むところだ、かかってこい」
 可愛げのない反応を、新は愛しくて仕方ないという眼差しで受け止めてくれた。……そうだ。いつだって小林は、どんなおれだって受け止めて、認めて、同じ目線で向き合ってくれた。
「小林、もう……、して……」
 茜が拙く腰を揺すると、新はゆっくりと律動を再開した。互いを求めて温かく濡れた場所を触れ合わせると、性感の渦がどぷんと二人を飲み込んだ。
「こばやし、あっ、も、だめ、イく、や~っ……!」
「ん、いい、先にイって、おれももう、すぐに、」
「や、やっ、一緒にっ……! あっ、あ、あらたぁっ、好き、あらたが好きっ!」
 脳裏に光が散る。それと同時にひときわきつく掻き抱かれ、二つの身体が一つになってびくびくと跳ねた。熱と血と性感とが迸る。互いの腹に茜の吐き出した白濁が飛び散って、それを感じると茜は再び性感の渦に飲まれていった。
「ひぁ、やっ、またイくっ、あらたぁっ、」
「うん、大丈夫。おれがいるから、抱きしめてるから……」
 耳元にそっと「あかね」と囁かれ、茜は喉を反らして性感の飛沫を散らした。
「う、はあ、あかねっ……」
 遅れて新が果てると、目頭がじんとなった。よかった、おれで感じてくれた。自分がひどく安堵としていることに気付き、茜は今こそ身も心も裸になった。おれ、たぶん、あの時から小林のこと――。
 ――広尾、おまえが好きだ。おれではおまえの彼氏になれないだろうか。
 夏の光線にも似た、熱っぽい眼差しの新を思い出す。フラれた自分を、「だめなおれ」を、まるまま受け止めてもらったのは、あれが初めてだった。
 ひと欠片の好意が、新を知ることで膨らんで、恋になった。ドラマチックでもロマンチックでもない普通の恋だけど、おれはこの恋がよかった。小林が、よかった。
 何度も果てて、意識がようやく新の腕の中へ戻って来ると、今度は優しく口付けられて、茜はくったりと四肢を投げ出した。
「ふ。汗まみれだな、おれたち」
 皺だらけのシーツに、ずり落ちた掛布団、新の肩から薄く立ち昇る血潮の気配……。茜は目を細めた。新の瞳の中に、無数の光が漂っている。
「小林の目の中に、天の川がある……」
「うん、こっちからも見えるよ」
 新の指先が頬の高いところに触れ、茜はハッとした。けれど、ふしぎと嫌ではなかった。新が天の川と並べてくれたこのそばかすが、もしかしたら昨日よりもずっと、愛おしかった。

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