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温もりを両手に(杉崎視点)
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羽田空港の第二ターミナルに着いた途端、杉崎の隣でキャップを被った青年がぐずり始めた。
「やだあ。ママ、飛行機怖いよっ」
「大丈夫、大丈夫だよ。オレも何回も乗ったことあるけど、全然ヘーキだよっ」
傍から見れば、大の男が二人。杉崎は自分達がいくつもの視線に晒されているのに気が付いて、ベンチへ彼を座らせた。
「ヒロミ。あま~くて、ま~るいもの、なんだ?」
ヒロミは涙を溜めた目をまんまるして「甘くて、丸いもの?」と杉崎の言葉を繰り返した。杉崎はヒロミにいちご味の飴玉を差し出した。
「じゃじゃ~ん!アメちゃんでした!ヒロミ、食べる?」
みるみる下がっていくヒロミの口角……。
「やだあ!僕、アンマンマンチョコレートがいいのお!」
「え?チョコレート?あの、棒のヤツ?」
手足をばたつかせてイヤイヤし始めるヒロミ。杉崎は飴玉をポケットに戻し頭を抱えた。子育てがこんなにも大変だったとは……。
ヒロミは周防佳澄の手に渡るはずだったヒューマノイドだ。元は美広なので、ヒロミ。幻のシュガー・シリーズの第一期生。どうしても廃棄する気になれず二年経った今も傍に置いているのだが、よりヒトの感情に特化したプログラムを組んだが為に、衝動がアルゴリズムを追い越している。よって、ヒロミの精神状態はヒトで言うと幼児に近い状態にあり、杉崎は文字通り「ママ」の日々を送っているわけで……。
「まあま、アンマンマン、まだっ!?」
「ないんだよお。許してっ。ちょっとはガマンしなきゃダメだよ」
「やだっ。ぜったいぜったい、アンマンマンなのっ。ヤダヤダヤダ!」
これでも去年よりは成長した方だ。杉崎は疲れ果てて溜め息を吐いた。
「こら。またワガママ言ってるんですか?」
抱えた旋毛に落ちてくる低い声。杉崎は面を上げた。
「パパ!」
途端に弾むヒロミの声。ヒロミは椅子を蹴って飛び上がり、声の主である篁に抱きついた。
「篁っ!なんでここに……!?」
わなわなと震える杉崎をよそに、篁はヒロミを抱きかかえて頭を撫でた。
「パパあ。なんで一緒におうち出なかったの?僕、さびしかった!」
「飛行機に乗るの頑張れそうなら、ほら」
篁の手元にあるアンマンマンチョコレートを見て、ヒロミは目を輝かせた。「パパ、大好き!」
「ちょっと篁!この子に勝手に甘い物あげないでくれる!?長いフライトになるんだからっ!ただでさえヒロミは歯磨きキライなんだよ!?ってか、どうして君がここに居るワケ?オレのことを会社にリークしたの、君だろ!」
肩をいからせる杉崎に、今度は篁が溜め息を吐いた。
「二年も前のことを俺がわざわざ掘り返すわけがないでしょう。それに、俺も解雇されちゃいましたし」
「え?」
「だから。俺も解雇されたんです。まとめてリークされたんですよ。俺は貴方の野望の片棒を担いだ男としてクビを切られたってわけです。これでもう誰が犯人か分かりましたよね?」
心当たりがありすぎて、杉崎は視線を泳がせた。篁はチョコレートの封を切ってヒロミに差し出した。
「貴方がサイパンに滞在させていた男ですよ。この子の元・造形師。貴方からたんまり金を握らされていたはずですが、欲が出たみたいですね。上層部も貴方を排除したそうでしたから、利害が合致したのでしょう」
シュガー・シリーズの為に周防佳澄と佐藤美広を利用するには、ヒューマノイドの造形師が邪魔だった。杉崎は半ば強引に造形師に謝礼を握らせ国外へ誘導、頃合いを見て男をラボから除籍した。恨まれるのは予想済みだ、だから謝礼はうんと弾んだ。だのに今になって二年前のことを蒸し返され、このしっぺ返し。杉崎はラボを出ることを余儀なくされた。
「残さなければならなかった子達だけが心残りだけれど。……あんなラボ。もう用はない」
「この子は?連れて出て良かったんです?」
篁はチョコレートを口の周りにつけて笑っているヒロミに視線をやった。杉崎もまたヒロミを見つめた。
「この子はオレの子だから。オレの傍に置いておく。たった一体になってしまったけど、この子は他の子とは違って感情を学習してしまうから。もう二度と悲しませないようにしないとね……」
ヒロミの汚れた口元をウェットティッシュで拭きつつ、杉崎は呟いた。
「君ともお別れだね、篁」
どちらともなく握手を交わす二人。
「色々、ありがとう。君まで巻き添えにしちゃって、ごめんね」
篁は杉崎の手を握ったまま「杉崎さんはこの子とどこへ?」と尋ねた。
「とりあえずアメリカに帰るよ。家も残してるしこの子もあっちで育てたい。日本と違って似たようなヒューマノイドも多いからね。……君は?」
篁は押し黙った。そして、杉崎も。
そんな二人の間に、ヒロミがぴょんと飛び上がって抱きついた。「わあっ!」「!?」精神年齢は幼児並みだがボディは成人男性とほぼ変わらない。二人は派手によろけてしまった。
「パパも一緒のおうちに帰ろうよ!ね、いいでしょ、ママ!」
満面の笑みのヒロミ。杉崎は慌ててヒロミの両手を取り向かい合った。
「あのね、ヒロミ。パパは……パパじゃないんだよ。その、ラボでは都合がよくてそう呼んでいただけなんだ」
「え?僕のパパは、パパだよ?パパはどこに行っちゃうの?もう、会えないの?」
涙を浮かべたヒロミが二人を両手で繋ぎ留める。右手は杉崎の手を握って、左手は篁のコートを握って……。杉崎の手を取ったその指先は、温かかった。杉崎はそういうものをずっと求めていたからそう作った、自分のような独りぼっちの人間に向けて。
美広の顔をしているのに、この子は確かに自分の望む愛の形をしている。杉崎の胸は締めつけられた。
本音を言えば杉崎だって切なかった。大学時代からずっと傍にいてくれた篁。幼い頃からヒューマノイドに囲まれて育った杉崎にとって、生まれて初めて身近に感じた生身のヒトだった。こんな自分を本気で怒って、本気で心配してくれた。そんな篁が、杉崎にとっては特別な存在だった。
なのに、散々利用した。ひどいこともたくさん言った。そんな自分に篁を引き止める権利はない。
「ヒロミさん」
篁は泣いているヒロミの前に立って柔らかく声をかけた。
「俺も本当は……ヒロミさんと、杉崎さんの傍に居たいんです」
杉崎は篁を見やった。彼は頬を赤くして垂れた拳を握りしめていた。彼らしくもなく感情がダダ漏れた様子に杉崎は目を見開いた。
「もし、君のママが良ければだけれど」
篁とヒロミの視線が杉崎へ移る。「えっ……オ、オレ?」たじろぐ杉崎の前に鼻の先まで赤くなった篁がつかつかと近づいた。
「乳幼児期の養育環境では父親が量的接触を持つことがより望ましいとされています」
「え……え……?」
「勿論、これにはちゃんとしたエビデンスがあります。父親と子が関わりを持つことで生物学的見地からしても子孫にまで影響を与えるという分析結果まで出ていて、夫婦仲が良い場合とそうでない場合の内面的発達の」
「あー!あー!あ――――!分かった、分かったよ!」
小難しい話は聞いていると頭がこんがらがってくる。杉崎は「はい!」と篁に手のひらを差し出した。篁の瞳にぱっと光が灯る。
「古い屋敷だから家賃は免除するけど……家事も、育児も、仕事も半分こだからね!分かった!?」
「勿論です」
今一度握手を交わし、二人は見つめ合った……が、その間に割って入ってくるヒロミ。
「やったあ!飛行機、パパと乗るっ。パパのおてて握ってたら、怖くないもんねー!」
「お席はもう決まってるんです。ママと乗れますか?」
「え?やだ!パパと!パパと乗る!」
ぴょんと篁の背中に飛び乗るヒロミ。「どわっ」篁は思い切りバランスを崩して尻もちをついてしまった。それを見て杉崎は噴き出した。
「あはは、ヒロミ、パパお怪我しちゃうよ。手加減してあげて」
「ぱあぱ、パーパ、ねえ!パパってばあ!」
見かねた杉崎が篁の手を取って立ち上がるのを助ける。「ふふ」見つめ合って、笑みを濃くする杉崎。立ち上がった篁の首に腕を回して、背伸びをして……。すると、それに応えるように篁が杉崎の腰に手を回した。そして二人は……。
「ねえ。なんでチューしてるの?」
唇を合わせた途端にヒロミの無垢な視線。二人はさっと身体を離して「いや、その、あの」と年甲斐もなくもじもじした。
「なんで?なんで時々僕のいないところでチューしてるの?ギュってしてるの?この前もふたりでねんねのお部屋に入って」
純粋な疑問が飛び出る前にと、ヒロミの口を塞ぐ杉崎。篁も瞼を閉じて額に汗をかいている。「君、アメリカ行きのチケットあるの?」「……実は、もう」白状するかのように篁は胸元から搭乗券を覗かせた。
「着いて来る気満々じゃん」
「断られても追う気でいましたね、正直言うと……」
二人で微笑み合って、同じゲートに向かう。そんな家族団欒のひと時にヒロミがぽつりと呟いた。
「ママ、うんちしたい」
「え!?今!?」
まだラボのトイレでしかうんちをしたことのないヒロミ。表情を固まらせて目を合わせる篁と杉崎。ヒトの感情を再現する為に細部までこだわったのは良かったが……。
「トイレっ。トイレどこだっけ!?」
「杉崎さん。慌てないで。ええと……、とりあえず、現在地を確認して……」
子育てには受難がつきもの。ヒロミは二人の間で満面の笑みを浮かべた。
「やだあ。ママ、飛行機怖いよっ」
「大丈夫、大丈夫だよ。オレも何回も乗ったことあるけど、全然ヘーキだよっ」
傍から見れば、大の男が二人。杉崎は自分達がいくつもの視線に晒されているのに気が付いて、ベンチへ彼を座らせた。
「ヒロミ。あま~くて、ま~るいもの、なんだ?」
ヒロミは涙を溜めた目をまんまるして「甘くて、丸いもの?」と杉崎の言葉を繰り返した。杉崎はヒロミにいちご味の飴玉を差し出した。
「じゃじゃ~ん!アメちゃんでした!ヒロミ、食べる?」
みるみる下がっていくヒロミの口角……。
「やだあ!僕、アンマンマンチョコレートがいいのお!」
「え?チョコレート?あの、棒のヤツ?」
手足をばたつかせてイヤイヤし始めるヒロミ。杉崎は飴玉をポケットに戻し頭を抱えた。子育てがこんなにも大変だったとは……。
ヒロミは周防佳澄の手に渡るはずだったヒューマノイドだ。元は美広なので、ヒロミ。幻のシュガー・シリーズの第一期生。どうしても廃棄する気になれず二年経った今も傍に置いているのだが、よりヒトの感情に特化したプログラムを組んだが為に、衝動がアルゴリズムを追い越している。よって、ヒロミの精神状態はヒトで言うと幼児に近い状態にあり、杉崎は文字通り「ママ」の日々を送っているわけで……。
「まあま、アンマンマン、まだっ!?」
「ないんだよお。許してっ。ちょっとはガマンしなきゃダメだよ」
「やだっ。ぜったいぜったい、アンマンマンなのっ。ヤダヤダヤダ!」
これでも去年よりは成長した方だ。杉崎は疲れ果てて溜め息を吐いた。
「こら。またワガママ言ってるんですか?」
抱えた旋毛に落ちてくる低い声。杉崎は面を上げた。
「パパ!」
途端に弾むヒロミの声。ヒロミは椅子を蹴って飛び上がり、声の主である篁に抱きついた。
「篁っ!なんでここに……!?」
わなわなと震える杉崎をよそに、篁はヒロミを抱きかかえて頭を撫でた。
「パパあ。なんで一緒におうち出なかったの?僕、さびしかった!」
「飛行機に乗るの頑張れそうなら、ほら」
篁の手元にあるアンマンマンチョコレートを見て、ヒロミは目を輝かせた。「パパ、大好き!」
「ちょっと篁!この子に勝手に甘い物あげないでくれる!?長いフライトになるんだからっ!ただでさえヒロミは歯磨きキライなんだよ!?ってか、どうして君がここに居るワケ?オレのことを会社にリークしたの、君だろ!」
肩をいからせる杉崎に、今度は篁が溜め息を吐いた。
「二年も前のことを俺がわざわざ掘り返すわけがないでしょう。それに、俺も解雇されちゃいましたし」
「え?」
「だから。俺も解雇されたんです。まとめてリークされたんですよ。俺は貴方の野望の片棒を担いだ男としてクビを切られたってわけです。これでもう誰が犯人か分かりましたよね?」
心当たりがありすぎて、杉崎は視線を泳がせた。篁はチョコレートの封を切ってヒロミに差し出した。
「貴方がサイパンに滞在させていた男ですよ。この子の元・造形師。貴方からたんまり金を握らされていたはずですが、欲が出たみたいですね。上層部も貴方を排除したそうでしたから、利害が合致したのでしょう」
シュガー・シリーズの為に周防佳澄と佐藤美広を利用するには、ヒューマノイドの造形師が邪魔だった。杉崎は半ば強引に造形師に謝礼を握らせ国外へ誘導、頃合いを見て男をラボから除籍した。恨まれるのは予想済みだ、だから謝礼はうんと弾んだ。だのに今になって二年前のことを蒸し返され、このしっぺ返し。杉崎はラボを出ることを余儀なくされた。
「残さなければならなかった子達だけが心残りだけれど。……あんなラボ。もう用はない」
「この子は?連れて出て良かったんです?」
篁はチョコレートを口の周りにつけて笑っているヒロミに視線をやった。杉崎もまたヒロミを見つめた。
「この子はオレの子だから。オレの傍に置いておく。たった一体になってしまったけど、この子は他の子とは違って感情を学習してしまうから。もう二度と悲しませないようにしないとね……」
ヒロミの汚れた口元をウェットティッシュで拭きつつ、杉崎は呟いた。
「君ともお別れだね、篁」
どちらともなく握手を交わす二人。
「色々、ありがとう。君まで巻き添えにしちゃって、ごめんね」
篁は杉崎の手を握ったまま「杉崎さんはこの子とどこへ?」と尋ねた。
「とりあえずアメリカに帰るよ。家も残してるしこの子もあっちで育てたい。日本と違って似たようなヒューマノイドも多いからね。……君は?」
篁は押し黙った。そして、杉崎も。
そんな二人の間に、ヒロミがぴょんと飛び上がって抱きついた。「わあっ!」「!?」精神年齢は幼児並みだがボディは成人男性とほぼ変わらない。二人は派手によろけてしまった。
「パパも一緒のおうちに帰ろうよ!ね、いいでしょ、ママ!」
満面の笑みのヒロミ。杉崎は慌ててヒロミの両手を取り向かい合った。
「あのね、ヒロミ。パパは……パパじゃないんだよ。その、ラボでは都合がよくてそう呼んでいただけなんだ」
「え?僕のパパは、パパだよ?パパはどこに行っちゃうの?もう、会えないの?」
涙を浮かべたヒロミが二人を両手で繋ぎ留める。右手は杉崎の手を握って、左手は篁のコートを握って……。杉崎の手を取ったその指先は、温かかった。杉崎はそういうものをずっと求めていたからそう作った、自分のような独りぼっちの人間に向けて。
美広の顔をしているのに、この子は確かに自分の望む愛の形をしている。杉崎の胸は締めつけられた。
本音を言えば杉崎だって切なかった。大学時代からずっと傍にいてくれた篁。幼い頃からヒューマノイドに囲まれて育った杉崎にとって、生まれて初めて身近に感じた生身のヒトだった。こんな自分を本気で怒って、本気で心配してくれた。そんな篁が、杉崎にとっては特別な存在だった。
なのに、散々利用した。ひどいこともたくさん言った。そんな自分に篁を引き止める権利はない。
「ヒロミさん」
篁は泣いているヒロミの前に立って柔らかく声をかけた。
「俺も本当は……ヒロミさんと、杉崎さんの傍に居たいんです」
杉崎は篁を見やった。彼は頬を赤くして垂れた拳を握りしめていた。彼らしくもなく感情がダダ漏れた様子に杉崎は目を見開いた。
「もし、君のママが良ければだけれど」
篁とヒロミの視線が杉崎へ移る。「えっ……オ、オレ?」たじろぐ杉崎の前に鼻の先まで赤くなった篁がつかつかと近づいた。
「乳幼児期の養育環境では父親が量的接触を持つことがより望ましいとされています」
「え……え……?」
「勿論、これにはちゃんとしたエビデンスがあります。父親と子が関わりを持つことで生物学的見地からしても子孫にまで影響を与えるという分析結果まで出ていて、夫婦仲が良い場合とそうでない場合の内面的発達の」
「あー!あー!あ――――!分かった、分かったよ!」
小難しい話は聞いていると頭がこんがらがってくる。杉崎は「はい!」と篁に手のひらを差し出した。篁の瞳にぱっと光が灯る。
「古い屋敷だから家賃は免除するけど……家事も、育児も、仕事も半分こだからね!分かった!?」
「勿論です」
今一度握手を交わし、二人は見つめ合った……が、その間に割って入ってくるヒロミ。
「やったあ!飛行機、パパと乗るっ。パパのおてて握ってたら、怖くないもんねー!」
「お席はもう決まってるんです。ママと乗れますか?」
「え?やだ!パパと!パパと乗る!」
ぴょんと篁の背中に飛び乗るヒロミ。「どわっ」篁は思い切りバランスを崩して尻もちをついてしまった。それを見て杉崎は噴き出した。
「あはは、ヒロミ、パパお怪我しちゃうよ。手加減してあげて」
「ぱあぱ、パーパ、ねえ!パパってばあ!」
見かねた杉崎が篁の手を取って立ち上がるのを助ける。「ふふ」見つめ合って、笑みを濃くする杉崎。立ち上がった篁の首に腕を回して、背伸びをして……。すると、それに応えるように篁が杉崎の腰に手を回した。そして二人は……。
「ねえ。なんでチューしてるの?」
唇を合わせた途端にヒロミの無垢な視線。二人はさっと身体を離して「いや、その、あの」と年甲斐もなくもじもじした。
「なんで?なんで時々僕のいないところでチューしてるの?ギュってしてるの?この前もふたりでねんねのお部屋に入って」
純粋な疑問が飛び出る前にと、ヒロミの口を塞ぐ杉崎。篁も瞼を閉じて額に汗をかいている。「君、アメリカ行きのチケットあるの?」「……実は、もう」白状するかのように篁は胸元から搭乗券を覗かせた。
「着いて来る気満々じゃん」
「断られても追う気でいましたね、正直言うと……」
二人で微笑み合って、同じゲートに向かう。そんな家族団欒のひと時にヒロミがぽつりと呟いた。
「ママ、うんちしたい」
「え!?今!?」
まだラボのトイレでしかうんちをしたことのないヒロミ。表情を固まらせて目を合わせる篁と杉崎。ヒトの感情を再現する為に細部までこだわったのは良かったが……。
「トイレっ。トイレどこだっけ!?」
「杉崎さん。慌てないで。ええと……、とりあえず、現在地を確認して……」
子育てには受難がつきもの。ヒロミは二人の間で満面の笑みを浮かべた。
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