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二人きりの演技レッスン(美広視点)
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「おかえりなさい。お疲れ様です、マスター」
天候の為に撮影が押したようだ。美広の主人の帰りは予定よりも二時間遅れた。「……ん、ただいま……」意外にも呼びかけに応えてくれた佳澄。どんよりとした顔色には疲れがにじんでいる。せめて荷物を受け取ろうと背後に回ると「台本確認したいから。俺が持ってく」と断られてしまった。
「承知しました。ご飯、どうされますか?夕食のご予定は入っていないようでしたが……」
「ん……食べてない」
「僕の作ったもので良ければもう出来てますよ。それともお風呂にされます?波止場での撮影は身体が冷えたでしょう」
勿論、美広はヒューマノイドではないから情報収集のしようがない。全て杉崎の協力あってのことである。「じゃあ、風呂……」リュックをソファーに置いて廊下にUターンしていく背中を見送りながら、美広は溜め息を吐いた。
今日で一週間が経つ。今日さえ乗り切れば部屋から出ることを全面的に許されるのだ。
「あ、ホントだ。ご飯出来てる……」
風呂から出て来た佳澄は髪のセットも崩れて黒縁の眼鏡姿。美広は彼の前に温かな緑茶の入ったマグカップを置いて部屋に下がろうとした。「ヒロ」呼びかけられ、美広は振り向いた。
「こっち来て」
手招きされ、佳澄の居るローテーブルの傍に寄って行く。が、どこに座るのが正解なのか分からず迷ってしまう。「ふ」空気が緩んだ気配がして視線をやれば、佳澄は微笑んでいた。
「お誕生日席、どーぞ?」
指差された位置に正座する美広。カールした長く太い睫毛、潤った桜色の唇に、毛穴の一つも見つからないまっさらな肌……。近くで見る佳澄は、美広が今まで見たどんな男よりも美しかった。
「いただきます」
真っ直ぐに伸びた背筋で手を合わせる佳澄は、それだけでドラマのワンシーンのように綺麗だった。
今日の献立は、生姜焼きと大根と長ネギのお味噌汁、五目豆に茶碗蒸し。美広は温め直しても美味しい献立をよく知っている。普段は文緒と自分の為に作っている料理が佳澄の口の中へ入っていくのを見ていると、美広は不思議な心地になった。
「俺、麺よりかは……米が好き」
呟いた佳澄を見つめると、彼は台本に視線を落としたまま「春菊とパクチーだけはどうしても食べらんないから、メニューに入れないで」と続けた。意味が分からず呆けていると、佳澄の視線が急にこちらへ巡ってきた。
「聞いてんの?分かったら返事して」
「あ、はい、分かりました、麺よりご飯が好きで、春菊とか香る野菜は苦手ってことですよね……?」
「うん。それから、バスタオルは俺、その都度洗う派。今も洗ってくれてると思うんだけど、勿論そうしてくれてるよな?」
「はい、毎日洗濯してます」
「畳み方もあれでオッケーだから。俺、細かい人だから。それでお手伝いさんも何人か辞めちゃってる。気になったらこれからも色々言うけど、それでもいい?」
ようやっと佳澄の言わんとすることが胸に沁み入って、美広は瞳を輝かせた。「はい!何かあったら言って下さい!」拳を握って言えば、「うん、じゃあ今まで通りよろしく」と素っ気ない返事。
ヒューマノイドとして……この家に居ることを認められたんだ!
自然に緩んでいく美広の頬。努力が実ってそこに居ることを許される。親戚中から袖にされた文緒と二人きりの日々を思うと、身に沁みる程ありがたかった。「なに、お前……」にじんでいく視界の中で、美広の主人が目を丸くした。
「お前……泣いてんの?」
「泣いてないです」
昨今ではヒューマノイドだって涙を流す。けれど美広は瞳の縁に涙を溜めたまま小さな意地を張った。泣くもんか。なぜかそう思えてしまい、美広は頭を振って自分の表情を整えた。そんな美広の目元に長い指先が伸びて来た。
「嘘吐くな。泣いてんじゃん」
その指先は眦に堪えていた涙の粒を乗せてそこから転がしてしまった。頬に涙が伝ったのが分かって、美広は顔を熱くした。
「か、悲しい涙じゃないんです。嬉しい涙です。だから泣いてなんかいません」
俯いた美広の旋毛に置かれる大きな手のひら。髪を梳くように撫でられて、美広は目を見開いた。僕、頭、撫でられてる……。
「もう遅いから。眠いなら寝ていいよ。俺は台本読み込んでから寝るし」
「今日撮影に入られた分ですか?」
「そう。後はスタジオでの出番だけになるんだけど……、もう少し読み込んどかないと先輩達に置いて行かれるから」
美広は興味本位でテーブルの上に置かれた台本を見やった。『金城匡は犀利に見抜く』。間宮倫太郎ファンの美広はこのタイトルのリズム感で何のドラマのスピンオフなのか瞬時に気付いてしまった。
花村月人シリーズの……スピンオフ!?
推理小説も顔負けのトリックと、花村・金城の凸凹バディの掛け合いが評判になって劇場版も前後篇で製作された大人気ミステリ。まだ未公開の情報を前に美広は震えた。
「こ……これ……『花村月人は憂鬱に解く』シリーズの続編ですか……?」
佳澄は生姜焼きを口に運びながら「え?……ん?……ああ、まあ、うん」と曖昧に答えた。美広は腰を浮かして前のめった。
「まさか金城がメインに……?あ、あの……劇場版後篇のラスト、花村が突き飛ばされて崖から落ちた所で終わったと思うんですけど……は……花村は……」
麦茶を傾けて「なに?このシリーズのファンなの?」と尋ねる佳澄。美広はそこでようやく出来たばかりのヒューマノイドが本作を知っているのはおかしいという矛盾点に気が付いた。
「いや、あの、その、マスターのお仕事の内容を知るのも、ヒューマノイドの仕事の一環かと、そう思いまして。少し、知ってるだけです。少し……」
苦しい言い訳を絞り出す美広。佳澄は左程気にしていないのか「ふうん」と台本を捲った。これ以上一緒に居てはボロが出るだけ……。美広はふらふらと立ち上がり「食器、僕が洗いますから、置いておいて下さい……」と一声かけて自室へと戻ろうとした。
「ヒロ」
呼ばれ、振り向く。眼鏡姿の彼は緩く手を上げ「おやすみ」と美広に声をかけた。
「おやすみなさい、マスター」
応えれば彼の視線はまた台本に落ちていく。
美広の胸に小さな明かりが灯った。美広は頭を撫でてくれた主人の手を反芻しながら、ベッドに潜り引き戸から漏れる光を見つめた。
美広は佳澄が完全なオフを過ごすのを見たことがない。大まかなスケジュールは杉崎からスマートウォッチを通して知るものの、この先二週間も仕事漬けらしかった。
「……ただいま」
美広の主人は早朝に仕事に出て昼過ぎに帰って来たかと思えばすぐに自室へこもってしまった。夕飯が食べたくなるまでは出てこないかな。美広は閉まってしまったドアを見つめて廊下の掃除を切り上げた。
台詞の練習をしているのか、扉の向こうから声が聞こえて来る。これがはじまると三時間は終わらない。クレーンに吊り上げられて出番を待っていた彼を思い起こし、美広は自分を恥じた。こんなにも努力をしている人を自分の無表情であんな上空に留めていたなんて。
佳澄は風呂に行くのもトイレに行くのも台本と一緒。日に日にくしゃくしゃになっていく台本を見ていると美広も切なくなっていく。
「ヒロ、珈琲淹れて」
「はい、ただいま」
美広の居る日常に慣れが出たのだろう、佳澄からの頼まれ事が一つ二つと増えた。美広は急いでキッチンへ向かい珈琲ポットを火にかけた。お湯が沸くのを待つ間に豆を取り出してミルで挽いて……。
「はあ~……」
盛大な溜め息と共にリビングへ登場する主人。特撮ドラマをクランクアップしてすぐ次のドラマ、CM撮影、雑誌の取材、バラエティーのゲスト出演。目まぐるしい日々だろうと容易に想像がつく。
頃合いを見て湯を注ぎフィルターを外して珈琲をカップの中へ。カップをテーブルの上に置くとスウェットに眼鏡姿の佳澄が「ありがとう」と呟いた。……視線は台本に落とされたまま。
「ん、美味い」
一口含んで一言。美広は、今だ!と、小皿に乗せたそれをローテーブルへ持って行った。
「なにこれ」
マスターの視線もやっと台本から離れて小皿の上のそれへ。
「レアチーズケーキです」
「へえ。器用なもんだね」
「型があったので……。こういうのはマスターの方が上手かもしれませんけど……」
けれど主人の手は伸びない。美広はいたたまれなくなって佳澄の傍から退散した。疲れた時には甘い物をなんて安直過ぎただろうか。
とにかく邪魔をしないようにとリビングを出て風呂場の掃除に取りかかる。洗剤を取り出そうと戸棚に手をかけたその時だった。「ヒロ」呼ばれ脱衣所のドアを見やると佳澄が美広を手招きしていた。
「これ。まだある?あと一切れ欲しい」
差し出されたのは空になった小皿。美広は瞳を瞬かせた。
「ケーキですね。ただいま」
慌ててゴム手袋を外し、小皿を受け取る。もう一切れ取り分けてローテーブルに置けば、「珈琲も」とついでのような一言。美広の腹の底から、くーっと、温かいものが湧き上がってくる。
「はい、ただいま」
カップを受け取り、まだサーバーが温かいことを確認して珈琲を注ぐ。「ん、ありがとう」ソーサーに置いたカップを取り口に含む佳澄。「うん、美味い」何気ない一言に胸がじんとする。ここに居ていいんだ。そう思わせてくれる。
「台詞を覚えてるんですか?」
「覚え終わってはいるんだけど、どういう風になるか、本番にならないと分からない。撮影が始まったらドライ一回テスト一回だけで行っちゃうから、あの人は……」
佳澄の言っている「あの人」が誰なのか、美広には分かった。金城匡を演じる間宮倫太郎だ。憑依型俳優として名高い彼は現場に足を踏み入れたら最後、ほぼノンストップで役を演じきる。そのスピード感と熱量に合わせた演技など美広には想像もつかない。けれど「間宮倫太郎」の演技ならばどうだろう。美広はエプロンをぎゅっと握って「あの」と佳澄の横顔に問いかけた。
「僕でよければ……読み合わせの相手に……ならせてくれませんか……」
なりましょうか、なんて口が裂けても言えなかった。エプロンを握りしめた手に汗がにじむ。台本に視線を落としていた佳澄はふと思いついたように美広を見て「いいけど、台詞多いよ?悩んでるのは金城とサシで会話してるシーン。ヒロ、出来る?」と台本を差し出してくれた。
「出来る!出来ます!」
「いい返事。十分待つから、二十三頁から読んでみて。出来るとこまでやろう」
言われるなり、美広は台本を広げて舐めるように文字を追い始めた。台本を読めること自体が嬉しいのに、それに加えて大好きな金城の台詞を声に出せるなんて……!
「十分経ってないけど。俺、ケーキ食べ終わっちゃったから。いけるとこまでいこっか。二十三頁、風間勇樹の台詞から。台本持ってていいよ」
佳澄は空になった皿を置いて立ち上がり伸びをした。眼鏡を掛けていても上下がスウェットでも、スイッチが入れば役者の顔。美広も姿勢を正して佳澄に向き合った。
「父には裁かれなければならないような罪はありません。貴方の杞憂では」
場面は犯人の息子である風間勇樹の研究室。ト書きはこうだ。――匡、勇樹はデスクを挟んで向かい合う。互いに平静を装うも緊張感が漂う。
佳澄は両手を前に出し小首を傾げた。美広は台本から視線を上げた。
「杞憂?……一体なんのことですかな。私には分かりかねます。風間先生。そういうのが私は得意でないんですよ。はっきりとおっしゃって下さい」
第一シーズンでは真っ直ぐな熱血漢だった金城。花村と事件を解決していくうちにパートナーが持っている悪賢さを金城もまた身に付けた。
声にはハリを持たせるが抑揚は付け過ぎず。手先の仕種よりも眼差しで語り、含みを持たせて……。
「湖に浮かんだあの死体には、父は何の関係もないということですよ。勿論この私も」
「ああ。そのことですか。確かに関係がないかもしれませんね。けれど、八年前の事件はどうです?」
「八年前?」
「八年前、この島で起きた殺人事件ですよ。当時はちょっとした騒ぎになりましたがね。その頃、風間先生は十六歳でしょうか。覚えておられませんか?一週間前と同じ湖に上がった水死体を」
花村月人シリーズはテレビシリーズ含め何度観たか分からない。金城は一本気で孤高の刑事。花村と出会うまでは腐り切った警察組織で辛酸を舐めてきた。正義とは何か、そういうものを常に追い求めている男。と同時に、疑いがあればどんな相手にでも容赦ない詰めでにじり寄る残酷さを併せ持つ。その振り幅こそが金城の魅力だ。
間宮はそういう金城を手玉に取って演じている。憑依しているのに呑まれていない。手のひらで役を転がす、そんな間宮の姿が美広の頭に落ちてくる。自信に満ち溢れ、演じるのが好きで好きでたまらない、そんな間宮の姿が追い風になって美広を導く。
「ああ。覚えていますよ。確か被害者は代議士の……」
「ご名答!さすがは先生だ。その代議士の男。一週間前に上がった水死体の女との間に面白い話がありましてね」
頁をめくる音と共に、美広の口から台詞が溢れ出す。あたかもこのリビングが夕闇の沈む研究室となって自分が風間勇樹と対峙しているような錯覚に陥る。文字の羅列がずるずると美広の頭に入り込む。それを口に出せば自分の声が金城のそれになって……。
「……っは……」
場面の転換が来てやっと、美広は息を吐いた。知らない内に弾んだ肩を上下させながら佳澄を見やる。
「どうでしたか……、僕、出来てました……?」
佳澄もまた長く息を吐いて「出来てたよ」と美広が差し出した台本を受け取った。
「ヒロ。汗にじんでる。夢中で演ってたんだな」
佳澄は、汗がにじんで張り付いた前髪を指先で払ってくれた。美広は瞼を閉じて主人に身を任せた。久しぶりに役を演じて、達成感と疲労感が一度になってやってくる。
「なあ。一息ついてるとこ悪いんだけど。六十六頁からイケる?これもほとんど金城とサシのやりとりで……」
台本はすでに頭の中に入っているらしい佳澄。息つく間もなく「続けるよ」と注文され美広は慌てて頁を開いた。……美広は瞳を見開いた。見開き一面が金城の台詞で覆われている。間宮が好きに動き回れるようにだろう、ト書きもない。
「十分経ったら再開ね。そんくらいあれば読めるでしょ」
美広は耳を疑い、台本に齧りついた。サーバーの中の珈琲も、もうすっかり冷めてしまっているだろう。
天候の為に撮影が押したようだ。美広の主人の帰りは予定よりも二時間遅れた。「……ん、ただいま……」意外にも呼びかけに応えてくれた佳澄。どんよりとした顔色には疲れがにじんでいる。せめて荷物を受け取ろうと背後に回ると「台本確認したいから。俺が持ってく」と断られてしまった。
「承知しました。ご飯、どうされますか?夕食のご予定は入っていないようでしたが……」
「ん……食べてない」
「僕の作ったもので良ければもう出来てますよ。それともお風呂にされます?波止場での撮影は身体が冷えたでしょう」
勿論、美広はヒューマノイドではないから情報収集のしようがない。全て杉崎の協力あってのことである。「じゃあ、風呂……」リュックをソファーに置いて廊下にUターンしていく背中を見送りながら、美広は溜め息を吐いた。
今日で一週間が経つ。今日さえ乗り切れば部屋から出ることを全面的に許されるのだ。
「あ、ホントだ。ご飯出来てる……」
風呂から出て来た佳澄は髪のセットも崩れて黒縁の眼鏡姿。美広は彼の前に温かな緑茶の入ったマグカップを置いて部屋に下がろうとした。「ヒロ」呼びかけられ、美広は振り向いた。
「こっち来て」
手招きされ、佳澄の居るローテーブルの傍に寄って行く。が、どこに座るのが正解なのか分からず迷ってしまう。「ふ」空気が緩んだ気配がして視線をやれば、佳澄は微笑んでいた。
「お誕生日席、どーぞ?」
指差された位置に正座する美広。カールした長く太い睫毛、潤った桜色の唇に、毛穴の一つも見つからないまっさらな肌……。近くで見る佳澄は、美広が今まで見たどんな男よりも美しかった。
「いただきます」
真っ直ぐに伸びた背筋で手を合わせる佳澄は、それだけでドラマのワンシーンのように綺麗だった。
今日の献立は、生姜焼きと大根と長ネギのお味噌汁、五目豆に茶碗蒸し。美広は温め直しても美味しい献立をよく知っている。普段は文緒と自分の為に作っている料理が佳澄の口の中へ入っていくのを見ていると、美広は不思議な心地になった。
「俺、麺よりかは……米が好き」
呟いた佳澄を見つめると、彼は台本に視線を落としたまま「春菊とパクチーだけはどうしても食べらんないから、メニューに入れないで」と続けた。意味が分からず呆けていると、佳澄の視線が急にこちらへ巡ってきた。
「聞いてんの?分かったら返事して」
「あ、はい、分かりました、麺よりご飯が好きで、春菊とか香る野菜は苦手ってことですよね……?」
「うん。それから、バスタオルは俺、その都度洗う派。今も洗ってくれてると思うんだけど、勿論そうしてくれてるよな?」
「はい、毎日洗濯してます」
「畳み方もあれでオッケーだから。俺、細かい人だから。それでお手伝いさんも何人か辞めちゃってる。気になったらこれからも色々言うけど、それでもいい?」
ようやっと佳澄の言わんとすることが胸に沁み入って、美広は瞳を輝かせた。「はい!何かあったら言って下さい!」拳を握って言えば、「うん、じゃあ今まで通りよろしく」と素っ気ない返事。
ヒューマノイドとして……この家に居ることを認められたんだ!
自然に緩んでいく美広の頬。努力が実ってそこに居ることを許される。親戚中から袖にされた文緒と二人きりの日々を思うと、身に沁みる程ありがたかった。「なに、お前……」にじんでいく視界の中で、美広の主人が目を丸くした。
「お前……泣いてんの?」
「泣いてないです」
昨今ではヒューマノイドだって涙を流す。けれど美広は瞳の縁に涙を溜めたまま小さな意地を張った。泣くもんか。なぜかそう思えてしまい、美広は頭を振って自分の表情を整えた。そんな美広の目元に長い指先が伸びて来た。
「嘘吐くな。泣いてんじゃん」
その指先は眦に堪えていた涙の粒を乗せてそこから転がしてしまった。頬に涙が伝ったのが分かって、美広は顔を熱くした。
「か、悲しい涙じゃないんです。嬉しい涙です。だから泣いてなんかいません」
俯いた美広の旋毛に置かれる大きな手のひら。髪を梳くように撫でられて、美広は目を見開いた。僕、頭、撫でられてる……。
「もう遅いから。眠いなら寝ていいよ。俺は台本読み込んでから寝るし」
「今日撮影に入られた分ですか?」
「そう。後はスタジオでの出番だけになるんだけど……、もう少し読み込んどかないと先輩達に置いて行かれるから」
美広は興味本位でテーブルの上に置かれた台本を見やった。『金城匡は犀利に見抜く』。間宮倫太郎ファンの美広はこのタイトルのリズム感で何のドラマのスピンオフなのか瞬時に気付いてしまった。
花村月人シリーズの……スピンオフ!?
推理小説も顔負けのトリックと、花村・金城の凸凹バディの掛け合いが評判になって劇場版も前後篇で製作された大人気ミステリ。まだ未公開の情報を前に美広は震えた。
「こ……これ……『花村月人は憂鬱に解く』シリーズの続編ですか……?」
佳澄は生姜焼きを口に運びながら「え?……ん?……ああ、まあ、うん」と曖昧に答えた。美広は腰を浮かして前のめった。
「まさか金城がメインに……?あ、あの……劇場版後篇のラスト、花村が突き飛ばされて崖から落ちた所で終わったと思うんですけど……は……花村は……」
麦茶を傾けて「なに?このシリーズのファンなの?」と尋ねる佳澄。美広はそこでようやく出来たばかりのヒューマノイドが本作を知っているのはおかしいという矛盾点に気が付いた。
「いや、あの、その、マスターのお仕事の内容を知るのも、ヒューマノイドの仕事の一環かと、そう思いまして。少し、知ってるだけです。少し……」
苦しい言い訳を絞り出す美広。佳澄は左程気にしていないのか「ふうん」と台本を捲った。これ以上一緒に居てはボロが出るだけ……。美広はふらふらと立ち上がり「食器、僕が洗いますから、置いておいて下さい……」と一声かけて自室へと戻ろうとした。
「ヒロ」
呼ばれ、振り向く。眼鏡姿の彼は緩く手を上げ「おやすみ」と美広に声をかけた。
「おやすみなさい、マスター」
応えれば彼の視線はまた台本に落ちていく。
美広の胸に小さな明かりが灯った。美広は頭を撫でてくれた主人の手を反芻しながら、ベッドに潜り引き戸から漏れる光を見つめた。
美広は佳澄が完全なオフを過ごすのを見たことがない。大まかなスケジュールは杉崎からスマートウォッチを通して知るものの、この先二週間も仕事漬けらしかった。
「……ただいま」
美広の主人は早朝に仕事に出て昼過ぎに帰って来たかと思えばすぐに自室へこもってしまった。夕飯が食べたくなるまでは出てこないかな。美広は閉まってしまったドアを見つめて廊下の掃除を切り上げた。
台詞の練習をしているのか、扉の向こうから声が聞こえて来る。これがはじまると三時間は終わらない。クレーンに吊り上げられて出番を待っていた彼を思い起こし、美広は自分を恥じた。こんなにも努力をしている人を自分の無表情であんな上空に留めていたなんて。
佳澄は風呂に行くのもトイレに行くのも台本と一緒。日に日にくしゃくしゃになっていく台本を見ていると美広も切なくなっていく。
「ヒロ、珈琲淹れて」
「はい、ただいま」
美広の居る日常に慣れが出たのだろう、佳澄からの頼まれ事が一つ二つと増えた。美広は急いでキッチンへ向かい珈琲ポットを火にかけた。お湯が沸くのを待つ間に豆を取り出してミルで挽いて……。
「はあ~……」
盛大な溜め息と共にリビングへ登場する主人。特撮ドラマをクランクアップしてすぐ次のドラマ、CM撮影、雑誌の取材、バラエティーのゲスト出演。目まぐるしい日々だろうと容易に想像がつく。
頃合いを見て湯を注ぎフィルターを外して珈琲をカップの中へ。カップをテーブルの上に置くとスウェットに眼鏡姿の佳澄が「ありがとう」と呟いた。……視線は台本に落とされたまま。
「ん、美味い」
一口含んで一言。美広は、今だ!と、小皿に乗せたそれをローテーブルへ持って行った。
「なにこれ」
マスターの視線もやっと台本から離れて小皿の上のそれへ。
「レアチーズケーキです」
「へえ。器用なもんだね」
「型があったので……。こういうのはマスターの方が上手かもしれませんけど……」
けれど主人の手は伸びない。美広はいたたまれなくなって佳澄の傍から退散した。疲れた時には甘い物をなんて安直過ぎただろうか。
とにかく邪魔をしないようにとリビングを出て風呂場の掃除に取りかかる。洗剤を取り出そうと戸棚に手をかけたその時だった。「ヒロ」呼ばれ脱衣所のドアを見やると佳澄が美広を手招きしていた。
「これ。まだある?あと一切れ欲しい」
差し出されたのは空になった小皿。美広は瞳を瞬かせた。
「ケーキですね。ただいま」
慌ててゴム手袋を外し、小皿を受け取る。もう一切れ取り分けてローテーブルに置けば、「珈琲も」とついでのような一言。美広の腹の底から、くーっと、温かいものが湧き上がってくる。
「はい、ただいま」
カップを受け取り、まだサーバーが温かいことを確認して珈琲を注ぐ。「ん、ありがとう」ソーサーに置いたカップを取り口に含む佳澄。「うん、美味い」何気ない一言に胸がじんとする。ここに居ていいんだ。そう思わせてくれる。
「台詞を覚えてるんですか?」
「覚え終わってはいるんだけど、どういう風になるか、本番にならないと分からない。撮影が始まったらドライ一回テスト一回だけで行っちゃうから、あの人は……」
佳澄の言っている「あの人」が誰なのか、美広には分かった。金城匡を演じる間宮倫太郎だ。憑依型俳優として名高い彼は現場に足を踏み入れたら最後、ほぼノンストップで役を演じきる。そのスピード感と熱量に合わせた演技など美広には想像もつかない。けれど「間宮倫太郎」の演技ならばどうだろう。美広はエプロンをぎゅっと握って「あの」と佳澄の横顔に問いかけた。
「僕でよければ……読み合わせの相手に……ならせてくれませんか……」
なりましょうか、なんて口が裂けても言えなかった。エプロンを握りしめた手に汗がにじむ。台本に視線を落としていた佳澄はふと思いついたように美広を見て「いいけど、台詞多いよ?悩んでるのは金城とサシで会話してるシーン。ヒロ、出来る?」と台本を差し出してくれた。
「出来る!出来ます!」
「いい返事。十分待つから、二十三頁から読んでみて。出来るとこまでやろう」
言われるなり、美広は台本を広げて舐めるように文字を追い始めた。台本を読めること自体が嬉しいのに、それに加えて大好きな金城の台詞を声に出せるなんて……!
「十分経ってないけど。俺、ケーキ食べ終わっちゃったから。いけるとこまでいこっか。二十三頁、風間勇樹の台詞から。台本持ってていいよ」
佳澄は空になった皿を置いて立ち上がり伸びをした。眼鏡を掛けていても上下がスウェットでも、スイッチが入れば役者の顔。美広も姿勢を正して佳澄に向き合った。
「父には裁かれなければならないような罪はありません。貴方の杞憂では」
場面は犯人の息子である風間勇樹の研究室。ト書きはこうだ。――匡、勇樹はデスクを挟んで向かい合う。互いに平静を装うも緊張感が漂う。
佳澄は両手を前に出し小首を傾げた。美広は台本から視線を上げた。
「杞憂?……一体なんのことですかな。私には分かりかねます。風間先生。そういうのが私は得意でないんですよ。はっきりとおっしゃって下さい」
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声にはハリを持たせるが抑揚は付け過ぎず。手先の仕種よりも眼差しで語り、含みを持たせて……。
「湖に浮かんだあの死体には、父は何の関係もないということですよ。勿論この私も」
「ああ。そのことですか。確かに関係がないかもしれませんね。けれど、八年前の事件はどうです?」
「八年前?」
「八年前、この島で起きた殺人事件ですよ。当時はちょっとした騒ぎになりましたがね。その頃、風間先生は十六歳でしょうか。覚えておられませんか?一週間前と同じ湖に上がった水死体を」
花村月人シリーズはテレビシリーズ含め何度観たか分からない。金城は一本気で孤高の刑事。花村と出会うまでは腐り切った警察組織で辛酸を舐めてきた。正義とは何か、そういうものを常に追い求めている男。と同時に、疑いがあればどんな相手にでも容赦ない詰めでにじり寄る残酷さを併せ持つ。その振り幅こそが金城の魅力だ。
間宮はそういう金城を手玉に取って演じている。憑依しているのに呑まれていない。手のひらで役を転がす、そんな間宮の姿が美広の頭に落ちてくる。自信に満ち溢れ、演じるのが好きで好きでたまらない、そんな間宮の姿が追い風になって美広を導く。
「ああ。覚えていますよ。確か被害者は代議士の……」
「ご名答!さすがは先生だ。その代議士の男。一週間前に上がった水死体の女との間に面白い話がありましてね」
頁をめくる音と共に、美広の口から台詞が溢れ出す。あたかもこのリビングが夕闇の沈む研究室となって自分が風間勇樹と対峙しているような錯覚に陥る。文字の羅列がずるずると美広の頭に入り込む。それを口に出せば自分の声が金城のそれになって……。
「……っは……」
場面の転換が来てやっと、美広は息を吐いた。知らない内に弾んだ肩を上下させながら佳澄を見やる。
「どうでしたか……、僕、出来てました……?」
佳澄もまた長く息を吐いて「出来てたよ」と美広が差し出した台本を受け取った。
「ヒロ。汗にじんでる。夢中で演ってたんだな」
佳澄は、汗がにじんで張り付いた前髪を指先で払ってくれた。美広は瞼を閉じて主人に身を任せた。久しぶりに役を演じて、達成感と疲労感が一度になってやってくる。
「なあ。一息ついてるとこ悪いんだけど。六十六頁からイケる?これもほとんど金城とサシのやりとりで……」
台本はすでに頭の中に入っているらしい佳澄。息つく間もなく「続けるよ」と注文され美広は慌てて頁を開いた。……美広は瞳を見開いた。見開き一面が金城の台詞で覆われている。間宮が好きに動き回れるようにだろう、ト書きもない。
「十分経ったら再開ね。そんくらいあれば読めるでしょ」
美広は耳を疑い、台本に齧りついた。サーバーの中の珈琲も、もうすっかり冷めてしまっているだろう。
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昔から御澤に片想いをし続けているナオキは、親友として御澤の人生に存在できるよう、恋心を押し隠し、努力を続けてきた。
しかし、大学に入ってからしばらくして、御澤に恋人らしき影が見え隠れするように。
御澤に恋人ができた時点で、御澤との共同生活はご破算だと覚悟したナオキは、隠れてひとり暮らし用の物件を探し始める。
しかし、ある日、御澤に呼び出されて早めに家に帰りつくと、何やらお怒りの様子で物件資料をダイニングテーブルに広げている御澤の姿があって――――――――――。
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!
ラブホから出た直後一番会いたくない人物と出くわした俺の話
いぶぷろふぇ
BL
エリート美形攻め×ちょっぴり卑屈な平凡受け
【完結まで毎日更新】
速水慧は、一年も終わろうという大晦日に、最大のピンチを迎えていた。なんと、ラブホテルの目の前で、恋人である瀧崎亮二が待ち伏せしていたのだ。恋人がいるにも関わらず女の子とラブホテル、けれどもそんな状況になったのにはある理由があって……?
すれ違い気味になっていたカップルが、ひょんなことから愛を確かめる話。
R18回には*をつけてあります。
この作品はTwitterに載せたものを大幅に加筆修正したものです。ムーンライトノベルズにも掲載しています。
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
チョコをあげなかったら彼氏の無表情が崩れた
ぽぽ
BL
冴えない風紀委員の琴森は生徒会書記の超絶美形な葉桐と付き合って一年が経つ。
喧嘩もせず良い関係を築いていると思っていたが、ふと葉桐が他の男が好きかもしれないという情報が琴森の耳に入った。更に「今年はチョコはいらない」と話しているところを聞いてしまい、琴森はバレンタインにチョコを渡すことをやめた。
しかしバレンタイン当日、普段無表情で動じない葉桐の様子は何かおかしい。
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寡黙美形書記×平凡鈍感年上
王道学園を意識してます。普通にバレンタイン遅れちゃいました。
表紙はくま様からお借りしました。
https://www.pixiv.net/artworks/84075145
R18には☆を付けてます。
親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺
toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染)
※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。
pixivでも同タイトルで投稿しています。
https://www.pixiv.net/users/3179376
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/98346398
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