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君は僕の特別で最愛
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「ずっと、輔君がすきだったんだよ。小さい頃から今までずっと、輔君は僕の特別なんだよ」
布団に横たわり、寝返りを打つ。うつ伏せの姿勢から輔を振り返り、精一杯に見つめる。だいすき。そんな想いを込めて。
「十二年分の、輔君が欲しい。……ねえ、知ってる?僕たち、ここで一つになれるんだよ」
じゅうにねん。呟き、眉をくにゃりと歪ませる輔。そんな彼に見せつけるように、膝を立て双丘を片手で割り開く。長い間抱えてきた欲望を輔の前に晒し、項まで真っ赤にして愛を乞う。
「僕が慣らしてる間に、挿れるかどうか、決めて」
人差し指と中指を唾液で湿らせ、蕾の縁を濡らす。声が漏れないように枕に顔を埋め、前から手を回して指先で蕾を崩す。「おまえ、こんなん、どこで」鈍い幼馴染の呟きに、「だってずっと、輔君とこうしたかったから」と直球を返す。潤いが足りずもう一度口元に指を運ぼうとすると、輔が「待って」と声を上げた。
「おれがやる」
ベッドの下から取り出されたのはローションとスキンで、ああ挿れてもらえるのだと安堵した次の瞬間、薫の表情が固くなった。
「ローション、半分くらいになってるし、ゴムの箱も開いてる!」
「や、そりゃ、おれだって、健全な男だし……。おまえのことそういう目で見ちゃうのも、何かの間違いであって欲しいって思ってた時期もあるし……」
「は?間違いって、なにが!」
「だっておまえ、おれが十八になっても、おまえは十三で中学生だろ。間違いで済めばおまえとも幼馴染でいられる し、おれもロリが趣味のヤバいヤツじゃない。当時のおれにとってはそれが一番平和な道だって思えてたんだよ」
「へえ。十八歳の時に初めて女の子としたんだ?輔君、もてるもんね。それからもいっぱい女の子としたんでしょ。小学生の僕で夢精したくせに。僕が輔君のこと好きだって気付いてたくせに。輔君の意気地なし」
めいっぱい詰りながら蕾に指を挿し入れ、たっぷりと濡らした指で当てつけのように水音を立てる。輔の喉がコクンと鳴った。
「僕は輔君とは違う。ずっと輔君が好きだったから、誰ともしてない。輔君と結ばれないなら、これからもしないつもりだった。本気の恋かどうかも分からずに身体を結ぶなんてどうかしてる」
「え?おまえ、セックス、初めてなの?……うそだろ?」
「初めてなんて言ってないでしょ」
広義的にセックスを語るのなら、これが初めてのセックスというわけじゃない。初めてのそれは、そう、文彦と二人でカメラの前に立ったあの瞬間が、薫の初めてのセックス。心が通じて、互いに同じ想いを抱いているのが分かった。彼の愛に包まれると全身が蕩けて、このまま彼と一つになってしまうのではないかと、期待した。ホテルのベッドの波間でセカンドバージンだって捧げた。だってあんなにも乞われたのも、捧げたいと思ったのも、初めてのことだったから。
輔は聡く感じ取る。文彦と薫の間に言葉では表現しきれない関係があったのだと気付いて、頬を打たれたような顔をする。
「そんなにいじめんなよ、おれを」
「輔君に嘘を吐きたくないだけ」
睨み合って、結局、輔が根負けした。「美人に睨まれるとこえーわ」輔は小さく溜息を吐き、ローションを手に取った。
「おれには理解のできない方法でおまえが誰かに愛されてたのはなんとなく分かってる。そうやって愛されてもっと綺麗になったのも分かってる。おれにはそういう愛し方はできないってことも、分かってる。……でも、おれは、おまえのことを、宝石とか芸術みたいに愛したいわけじゃないから。おれが愛したいのは、意地っ張りで心配性で、そんで可愛い、薫だから。……その部分は、残しといてくれたよな。待った分、待たせた分、大切にするよ。おれなりに」
ローションを纏った指先が縁を擦り上げながら中へ潜っていく。中指一本でも、自分の指とは違う質感と質量がある。長くて骨ばった太い指が、一定の速度で中を行ったり来たりする。惜しげもなく注がれるローションが縁から会陰を伝って滴り、グレーのカバーに染みを作った。
「ふ、ん、ぐ、……フーッ、んぅー……っ」
ゆっくりと、けれど中を探るように角度を変えて抜き挿しされ、薫の膝が震えた。生理的な涙が浮かび枕に顔を押し付ければ、宥めるように尻臀を摩られた。輔の手が、尻臀から太ももの内側へ回り、するすると意識を誘うように肌を撫でた。他でもない輔の手だから、こんな小さな愛撫でさえ性感に繋がってしまう。
「はぁ、あぁ、ふぁ、はぁ~……」
「腰揺れてて可愛い。一人でする時、ここも使ってた?中、ふわふわしてる」
はぁ、と熱い息が尻臀に吹きかかる。ハッとして枕から顔を上げれば、水気を帯びた温みが会陰から蕾までを舐め上げた。
「やだ、輔君、それ、やだ!」
「シー……。おっきい声、出すなって。母さん上がってきたらどーすんの」
ぐっと押し黙ると、また同じ感触が蕾を擽った。「や、ほんとに、きたない、から」小さく抗議をしている間にも舌は蕾の周りをくるりと舐めて、それと同時に中指と薬指も中へと潜った。
「ンッ、ンッ、や、あ、っぐぅ、ン、」
敏感な縁を舌先で擽られながら中をほぐされると、鈴口に向けてどんどん熱が吸い上げられた。充血しきって張り裂けそうになった前からは先走りが滴り、蕾は覚えている刺激を求めてしきりに収縮した。
「可愛い。気持ちいい声、そんななんだ。もっと聞きたいけど、ここじゃだめだな」
心底残念そうに言われ、薫の腹の奥がきゅんと疼いた。
「可愛い。すげぇ可愛い」
言葉で、眼差しで、仕種で愛でられる。輔のくれた愛で胸がパンクしそうだ。
「輔君。声、がまんするから、だからっ、向き合ってしたい」
輔の顔を見たくて面を上げると、涙がたらんと頬を伝った。生理的なそれなのに、輔は幼馴染の涙に「あっ」という顔をして、薫が起き上がるのを素早く助けた。向かい合って、見つめ合って、抱きしめ合って、薫の眦に新しい涙が込み上げた。今度は、心が震えて出た涙。やっとこっちを向いてくれた。彼の瞳には、自分しか映っていない。
「だ、いすき。だいすき。ずっとすき。これからも、ずっと、輔君がすき」
「うん、うん。待たせてごめん。おれもすきだよ。薫のこと、大切にする」
とろん。何もかも、融ける。身体の中身がとろとろになって、オーロラみたいに輝く。
ああ、地球みたいに、僕のお腹の中には熱いものがあって、それを輔君の手で混ぜられてるみたい……。
「来て」
涙を拭われながら強請る。輔は頷きスキンに手を伸ばしたけれど、薫はそれさえ待てなくて脚を開いて蕾を竿に擦りつけた。「待って。ちゃんと着けたい。大切にしたいから」片手で宥めるように薫の頭を撫で、もう片手で開封したスキンを装着する輔。思わぬ器用さに不安になると、その感情が簡単に涙に変わってしまった。
「そんなに泣くな。泣き虫だな、薫は……」
入口は一瞬にして輔の熱に馴染み、ともすれば指よりもスムーズに熱を迎え入れた。くぷん、という感触が通り過ぎて、輔のあの部分が通ったと、頭の中でも形を追ってしまう。
天井を仰いだ瞬間、既視感のようなものがどっと薫を飲み込んだ。
この天井を、一体何人が――。
輔と結ばれるまでは後ろに並ぶことさえできなかった彼女たちと肩を並べてしまったことに気が付き、薫は両手で顔を覆った。
「ん、や、やぁ、他の人と、くらべないで」
「比べてなんかないよ。……どうした?」
「僕のことだけ考えて、お願い、好きにしていいから」
ふう。輔の息が頬に掛かる。輔のものは半ばで止まり、それでも薫がずっと抱えていた空虚を満たした。輔の手が薫の手に触れる。指の隙間から目が合うと、輔は眉根を寄せて微笑んだ。
「ずっと、おまえのことばっか考えてる。バカみたいに、おまえのことばっか。おまえがおれの為に泣いてくれたあの日から、ずっと。他の誰かのことなんか、思い出せないよ」
ゆっくりと律動が始まる。自分の指では決して届かなかった場所まで熱の先端が辿り着き、怖い、と身構えた次の瞬間には抜かれ始める。抜き挿しする度に疼く場所を優しく擦られて、水が表面張力で膨れるみたいに、性感が膨れて溢れてを繰り返す。
「あ、うあっ、ぁんっ、たす、く、くん……っ」
「でも、おまえは、他の誰かって言われると、思い出しちゃう顔があるだろ?」
「そ、なこと、」
ふっと、文彦の顔が過る。瞳を歪めた拍子に熱い涙がこぼれて、それが返事になってしまう。
「好きだった?おれより?」
「文彦君は、そういうのじゃ」
「じゃあどういうの?」
言葉とは裏腹に甘い声で詰られて、ゆっくりと丁寧に肌を愛されて、薫の脳裏に靄が掛かる。輔君、なんでこんなこと言うんだろう。性感に飲まれ細切れになる意識を手繰り寄せ、薫ははたとした。
「やきもち」
思い至り思わず言葉にすれば、輔は仕方なさそうに笑った。
「おれってさ、ヘラヘラしてるけど、自分が好きなものには頑固だから。伊月さんとそういう関係じゃないって分かってるけど、もうよそ見すんなよ」
「輔君、やきもちやいたの?」
「やきもちどころじゃねーから。ほら、もう、他の男の名前呼んでないで、集中して」
ぐずぐずになった場所を熱で擦り上げられて胸が反る。腰に脚をすり寄せると輔の身体が覆い被さって来て、込み上げる愛しさのままに全身で縋りついた。
「可愛い」
その言葉が、昔とは違う響きを孕んでいることにようやく気付く。胸が、心が、腹の奥が、とくとくとくと、駆け足で高まっていく。
「あっ、輔君、あぁっ、すきっ、輔君っ、すきぃ~っ……!」
頭を振り立ててみいみい鳴けば、輔は「かおる」と呼び掛け視線と意識を引きつけようとする。輔の群青色の瞳が熱で潤んで、今にも溶け落ちそうになっていて、薫も思わず「たすくくん」と呼び掛けた。ぱかっと、まるで狼の口のように輔の唇が開いて、犬歯が見えて、次の瞬間には深く唇を奪われていた。
「んっ、んぅ、ン、ん~っ……!」
伸びて来た手に前を扱かれ、熱を根元まで飲み込んだ瞬間に背筋が戦慄いた。瞼の裏に白い光が飛び散って、性感が薫の全身を跳ね回った。
「うっ、ふぁ、う゛ぅ、ん、ンッ、」
纏わりつく甘美な性感に身震いが止まらず頭を振り立てる。確かに果てたのにと輔の腕の中で身悶えている内に、口づけが一層激しく深いものになっていく。
「んう、う、うぅ、ぁあっ、ふ、う゛ぅっ!」
体重をかけて組み敷かれ、輔の絶頂が近いのだと知る。一際強く腰を押し付けられ、それに応えるように腰に脚を絡める。ギシ、ギシッ、ギッギッギッギッギッ……。床が軋む。舌が絡む。唾液が互いの咥内に溢れかえり雫になって口端からこぼれていく。
ぶるっ。逞しい身体が震え、硬直した。一拍遅れて、薫の中で温かなものが迸った。鼓動と共に、とろ、とろ、と拡がる熱。輔が中で果てたことがスキンを隔てて感じられ、薫はへにゃりと微笑んだ。
「ラブホ、連れてってね」
ぼうっとしている瞳の彼の、こめかみから伝う汗に触れながら言う。輔は笑って、「また今度な」と薫の頭を撫でた。いつもと変わらない温度の、優しさの、大きな手だった。
布団に横たわり、寝返りを打つ。うつ伏せの姿勢から輔を振り返り、精一杯に見つめる。だいすき。そんな想いを込めて。
「十二年分の、輔君が欲しい。……ねえ、知ってる?僕たち、ここで一つになれるんだよ」
じゅうにねん。呟き、眉をくにゃりと歪ませる輔。そんな彼に見せつけるように、膝を立て双丘を片手で割り開く。長い間抱えてきた欲望を輔の前に晒し、項まで真っ赤にして愛を乞う。
「僕が慣らしてる間に、挿れるかどうか、決めて」
人差し指と中指を唾液で湿らせ、蕾の縁を濡らす。声が漏れないように枕に顔を埋め、前から手を回して指先で蕾を崩す。「おまえ、こんなん、どこで」鈍い幼馴染の呟きに、「だってずっと、輔君とこうしたかったから」と直球を返す。潤いが足りずもう一度口元に指を運ぼうとすると、輔が「待って」と声を上げた。
「おれがやる」
ベッドの下から取り出されたのはローションとスキンで、ああ挿れてもらえるのだと安堵した次の瞬間、薫の表情が固くなった。
「ローション、半分くらいになってるし、ゴムの箱も開いてる!」
「や、そりゃ、おれだって、健全な男だし……。おまえのことそういう目で見ちゃうのも、何かの間違いであって欲しいって思ってた時期もあるし……」
「は?間違いって、なにが!」
「だっておまえ、おれが十八になっても、おまえは十三で中学生だろ。間違いで済めばおまえとも幼馴染でいられる し、おれもロリが趣味のヤバいヤツじゃない。当時のおれにとってはそれが一番平和な道だって思えてたんだよ」
「へえ。十八歳の時に初めて女の子としたんだ?輔君、もてるもんね。それからもいっぱい女の子としたんでしょ。小学生の僕で夢精したくせに。僕が輔君のこと好きだって気付いてたくせに。輔君の意気地なし」
めいっぱい詰りながら蕾に指を挿し入れ、たっぷりと濡らした指で当てつけのように水音を立てる。輔の喉がコクンと鳴った。
「僕は輔君とは違う。ずっと輔君が好きだったから、誰ともしてない。輔君と結ばれないなら、これからもしないつもりだった。本気の恋かどうかも分からずに身体を結ぶなんてどうかしてる」
「え?おまえ、セックス、初めてなの?……うそだろ?」
「初めてなんて言ってないでしょ」
広義的にセックスを語るのなら、これが初めてのセックスというわけじゃない。初めてのそれは、そう、文彦と二人でカメラの前に立ったあの瞬間が、薫の初めてのセックス。心が通じて、互いに同じ想いを抱いているのが分かった。彼の愛に包まれると全身が蕩けて、このまま彼と一つになってしまうのではないかと、期待した。ホテルのベッドの波間でセカンドバージンだって捧げた。だってあんなにも乞われたのも、捧げたいと思ったのも、初めてのことだったから。
輔は聡く感じ取る。文彦と薫の間に言葉では表現しきれない関係があったのだと気付いて、頬を打たれたような顔をする。
「そんなにいじめんなよ、おれを」
「輔君に嘘を吐きたくないだけ」
睨み合って、結局、輔が根負けした。「美人に睨まれるとこえーわ」輔は小さく溜息を吐き、ローションを手に取った。
「おれには理解のできない方法でおまえが誰かに愛されてたのはなんとなく分かってる。そうやって愛されてもっと綺麗になったのも分かってる。おれにはそういう愛し方はできないってことも、分かってる。……でも、おれは、おまえのことを、宝石とか芸術みたいに愛したいわけじゃないから。おれが愛したいのは、意地っ張りで心配性で、そんで可愛い、薫だから。……その部分は、残しといてくれたよな。待った分、待たせた分、大切にするよ。おれなりに」
ローションを纏った指先が縁を擦り上げながら中へ潜っていく。中指一本でも、自分の指とは違う質感と質量がある。長くて骨ばった太い指が、一定の速度で中を行ったり来たりする。惜しげもなく注がれるローションが縁から会陰を伝って滴り、グレーのカバーに染みを作った。
「ふ、ん、ぐ、……フーッ、んぅー……っ」
ゆっくりと、けれど中を探るように角度を変えて抜き挿しされ、薫の膝が震えた。生理的な涙が浮かび枕に顔を押し付ければ、宥めるように尻臀を摩られた。輔の手が、尻臀から太ももの内側へ回り、するすると意識を誘うように肌を撫でた。他でもない輔の手だから、こんな小さな愛撫でさえ性感に繋がってしまう。
「はぁ、あぁ、ふぁ、はぁ~……」
「腰揺れてて可愛い。一人でする時、ここも使ってた?中、ふわふわしてる」
はぁ、と熱い息が尻臀に吹きかかる。ハッとして枕から顔を上げれば、水気を帯びた温みが会陰から蕾までを舐め上げた。
「やだ、輔君、それ、やだ!」
「シー……。おっきい声、出すなって。母さん上がってきたらどーすんの」
ぐっと押し黙ると、また同じ感触が蕾を擽った。「や、ほんとに、きたない、から」小さく抗議をしている間にも舌は蕾の周りをくるりと舐めて、それと同時に中指と薬指も中へと潜った。
「ンッ、ンッ、や、あ、っぐぅ、ン、」
敏感な縁を舌先で擽られながら中をほぐされると、鈴口に向けてどんどん熱が吸い上げられた。充血しきって張り裂けそうになった前からは先走りが滴り、蕾は覚えている刺激を求めてしきりに収縮した。
「可愛い。気持ちいい声、そんななんだ。もっと聞きたいけど、ここじゃだめだな」
心底残念そうに言われ、薫の腹の奥がきゅんと疼いた。
「可愛い。すげぇ可愛い」
言葉で、眼差しで、仕種で愛でられる。輔のくれた愛で胸がパンクしそうだ。
「輔君。声、がまんするから、だからっ、向き合ってしたい」
輔の顔を見たくて面を上げると、涙がたらんと頬を伝った。生理的なそれなのに、輔は幼馴染の涙に「あっ」という顔をして、薫が起き上がるのを素早く助けた。向かい合って、見つめ合って、抱きしめ合って、薫の眦に新しい涙が込み上げた。今度は、心が震えて出た涙。やっとこっちを向いてくれた。彼の瞳には、自分しか映っていない。
「だ、いすき。だいすき。ずっとすき。これからも、ずっと、輔君がすき」
「うん、うん。待たせてごめん。おれもすきだよ。薫のこと、大切にする」
とろん。何もかも、融ける。身体の中身がとろとろになって、オーロラみたいに輝く。
ああ、地球みたいに、僕のお腹の中には熱いものがあって、それを輔君の手で混ぜられてるみたい……。
「来て」
涙を拭われながら強請る。輔は頷きスキンに手を伸ばしたけれど、薫はそれさえ待てなくて脚を開いて蕾を竿に擦りつけた。「待って。ちゃんと着けたい。大切にしたいから」片手で宥めるように薫の頭を撫で、もう片手で開封したスキンを装着する輔。思わぬ器用さに不安になると、その感情が簡単に涙に変わってしまった。
「そんなに泣くな。泣き虫だな、薫は……」
入口は一瞬にして輔の熱に馴染み、ともすれば指よりもスムーズに熱を迎え入れた。くぷん、という感触が通り過ぎて、輔のあの部分が通ったと、頭の中でも形を追ってしまう。
天井を仰いだ瞬間、既視感のようなものがどっと薫を飲み込んだ。
この天井を、一体何人が――。
輔と結ばれるまでは後ろに並ぶことさえできなかった彼女たちと肩を並べてしまったことに気が付き、薫は両手で顔を覆った。
「ん、や、やぁ、他の人と、くらべないで」
「比べてなんかないよ。……どうした?」
「僕のことだけ考えて、お願い、好きにしていいから」
ふう。輔の息が頬に掛かる。輔のものは半ばで止まり、それでも薫がずっと抱えていた空虚を満たした。輔の手が薫の手に触れる。指の隙間から目が合うと、輔は眉根を寄せて微笑んだ。
「ずっと、おまえのことばっか考えてる。バカみたいに、おまえのことばっか。おまえがおれの為に泣いてくれたあの日から、ずっと。他の誰かのことなんか、思い出せないよ」
ゆっくりと律動が始まる。自分の指では決して届かなかった場所まで熱の先端が辿り着き、怖い、と身構えた次の瞬間には抜かれ始める。抜き挿しする度に疼く場所を優しく擦られて、水が表面張力で膨れるみたいに、性感が膨れて溢れてを繰り返す。
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「じゃあどういうの?」
言葉とは裏腹に甘い声で詰られて、ゆっくりと丁寧に肌を愛されて、薫の脳裏に靄が掛かる。輔君、なんでこんなこと言うんだろう。性感に飲まれ細切れになる意識を手繰り寄せ、薫ははたとした。
「やきもち」
思い至り思わず言葉にすれば、輔は仕方なさそうに笑った。
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ぐずぐずになった場所を熱で擦り上げられて胸が反る。腰に脚をすり寄せると輔の身体が覆い被さって来て、込み上げる愛しさのままに全身で縋りついた。
「可愛い」
その言葉が、昔とは違う響きを孕んでいることにようやく気付く。胸が、心が、腹の奥が、とくとくとくと、駆け足で高まっていく。
「あっ、輔君、あぁっ、すきっ、輔君っ、すきぃ~っ……!」
頭を振り立ててみいみい鳴けば、輔は「かおる」と呼び掛け視線と意識を引きつけようとする。輔の群青色の瞳が熱で潤んで、今にも溶け落ちそうになっていて、薫も思わず「たすくくん」と呼び掛けた。ぱかっと、まるで狼の口のように輔の唇が開いて、犬歯が見えて、次の瞬間には深く唇を奪われていた。
「んっ、んぅ、ン、ん~っ……!」
伸びて来た手に前を扱かれ、熱を根元まで飲み込んだ瞬間に背筋が戦慄いた。瞼の裏に白い光が飛び散って、性感が薫の全身を跳ね回った。
「うっ、ふぁ、う゛ぅ、ん、ンッ、」
纏わりつく甘美な性感に身震いが止まらず頭を振り立てる。確かに果てたのにと輔の腕の中で身悶えている内に、口づけが一層激しく深いものになっていく。
「んう、う、うぅ、ぁあっ、ふ、う゛ぅっ!」
体重をかけて組み敷かれ、輔の絶頂が近いのだと知る。一際強く腰を押し付けられ、それに応えるように腰に脚を絡める。ギシ、ギシッ、ギッギッギッギッギッ……。床が軋む。舌が絡む。唾液が互いの咥内に溢れかえり雫になって口端からこぼれていく。
ぶるっ。逞しい身体が震え、硬直した。一拍遅れて、薫の中で温かなものが迸った。鼓動と共に、とろ、とろ、と拡がる熱。輔が中で果てたことがスキンを隔てて感じられ、薫はへにゃりと微笑んだ。
「ラブホ、連れてってね」
ぼうっとしている瞳の彼の、こめかみから伝う汗に触れながら言う。輔は笑って、「また今度な」と薫の頭を撫でた。いつもと変わらない温度の、優しさの、大きな手だった。
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