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過去のあなたも、今のあなたも(下)
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冷たかった部屋に温みが戻り、夜闇が二人を世界からそっと切り離す。探り合うように頬や鼻先をすり寄せると、唇と唇が触れた。息を止めていたけれど堪えきれなくなって、はあ、と息をこぼした次の瞬間、唇がはっきりと重なった。
「ん……」
かさついた唇が、互いの愛撫で、温みと潤いを帯びていく。おれ、いま、先輩とキスしてる……。
「ずっと自分を誤魔化してたけど、ほんとうは、高校ん時からこうしたかった」
唇を離した瞬間に囁かれ、純は「おれだって……!」と語気を強めた。流れゆく水の中にいるかのように、何かの力に押し流され、純はラグに横たわった。そこへ、晴臣が覆い被さってくる。
「う……、ふ、はぁ、」
座ってキスするのと、横たわってそうするのとでは、全く違う。
血潮が急速に駆け巡り、優しいキスに翻弄されて胸が切なくなっていく。ちがう、もっと、剥き出しのあなたがほしい。晴臣の肩に触れていた手を滑らせ、首に腕を回す。ぎゅう、と力を込めて抱きしめると、晴臣も同じように抱きしめ返してくれた。
「そんなに優しくしなくて大丈夫ですよ。おれも男だから、そんなにやわじゃない」
「待って。純のこと、たいせつにしたい」
「もう十分、たいせつにしてもらいました」
パーカーのファスナーを下げ、シャツ越しに晴臣に触れる。彼の胸はしっとりとして温かかった。余韻に浸っていると意識をつつくようにして額に口づけられ、純は顎を反らして晴臣の唇を吸った。
「みずのせんぱい」
時折身体に触れていた、晴臣の膨れた中心。指先で触れると、「ふっ、」と、晴臣の唇から熱い吐息が漏れた。
「これは、ほんとうのあなた?」
「なに言ってんの。嘘でこうなるわけない」
「なら、これがいい」
はあ、はあ、と互いの息が互いの肌へ滴る。
「水野先輩、合格祝いになんでもくれるって言ってたでしょう」
「ど……こでそんなん覚えてくんだよ」
「こんなの覚えてやれるわけないでしょう。あなたがおれにそうさせたんです」
じりじりと睨み合い、けれど結局晴臣が根負けして、彼は「もう知らないからな」と声を低くした。シャツもインナーも脱ぎ捨てていく晴臣に負けまいと、純も急いで服を脱いだ。
「せんぱい、せんぱい、」
裸で抱き合うと、肌に肌が吸い付いて、互いの距離がゼロになって、これ以上なく気持ちいい。「せんぱいっ」何度も呼ぶと、今度は荒っぽく唇を奪われた。
「ふぁ、あ、ん、んぅ~……っ」
緩んでいた唇に舌を差し込まれ、粘膜を愛される。晴臣の味が自分のそれと混ざっていくのが嬉しくて、純は夢中でそのキスに応えた。
「なあ、純に先輩って呼ばれるの、好きだよ。でももう、それはおれだけのものじゃなくなっちゃったから、おれだって分かる呼び方で呼んでほしい」
そうだ、おれたちは、もう制服を着ていない。
寂しくも嬉しくもなって、でももう「それ」も脱がなければと、純は晴臣を見つめて息を吸った。
「晴臣君」
「……うん」
抱きしめ合って、互いの肌を貪る。首筋に舌を這わせるとその道筋通りに唾液がちらりと光って、頬に頬を添えると産毛の気配があって、腹に手を滑らせると指先が臍に引っかかって……。その一つ一つが、互いの理性を煙らせていく。
ちゅ、ちゅ、と、耳元で喉元で胸で鼻先で、小鳥が囀る。「あっ、」高く掠れた声が次々と弾けて、けれどそれを恥じる余裕などない。
晴臣の後頭部に手を添え、髪を混ぜるようにして引き寄せる。「はるおみくん」唇の先を彼の唇に触れさせたまま呼ぶと、「じゅん」といつものように呼ばれて、その声が純の胸を深く貫いた。おれも、あなたと、ずっとこうしたかった。
「純の裸、初めて見た……」
裸の胸を隠そうとすると片手をラグに縫い付けられ、純は顔を背けた。「顔見せて」声と熱い息が耳元に吹きかかる。「ん……、」見て、見ないで、見て、見ないで……。二つの気持ちが絶え間なく天秤を揺らす。
「純、見せて」
名前を呼ぶなんてずるい。純は自ら反対の手をラグに縫い付け、晴臣を恨めしそうに見上げた。視線が肌の上を撫でると、それに合わせて晴臣の瞳に浮いた光が揺れて、素肌を見られていることを強烈に意識させられた。
「んっ……、」
陰毛を指先で梳かれ、「毛、薄いな」と囁かれる。ああもうだめ。咄嗟に晴臣の手を払おうとすると、彼の指先が繁みのその先に触れた。
「あ、だめ、せんぱいっ、」
「名前で呼んでよ。次呼ばなかったら、純のこと森見君って呼ぶから」
「やだ、そんなのだめ、はるおみくん、はるおみくんっ」
今までになかった仕種ですげなくされ、純は晴臣に飛びついた。晴臣はそんな純をすかさず自身の膝の上に乗せ、いやに爽やかな笑みを浮かべた。あ、この人……。ぞく、と背筋が粟立つ。この人は、おれが思うより、ちょっと悪い人なのかもしれない。
「ここ、一生懸命かたくなってる」
膨れた陰茎に手を添えられ、いたずらに触れられて、くうん、と鼻から息が抜ける。
「楽にしてやるから、おれの手と一緒に腰動かして。純、いくよ。せーので、するよ」
戸惑っているうちに「せえの、」と耳元へ囁かれ、純は晴臣の手の中に濡れそぼった陰茎を擦りつけた。
「ん、あ、や、やだ、こんなの恥ずかしい、はるおみくん~っ……、」
「やらしいことしてるんだから、恥ずかしいのは当然だろ?」
「ゆるして。だめ、こんなのだめぇっ」
拙く腰を振りながら許しを請う。晴臣は歯を見せて微笑み、「だめ。もっと腰振って」と純を促した。晴臣の両肩に手をついて腰を振ると、頭を擡げていただけのそれがズクズクと痛み、膨れていった。
「いいよ。そのまま。上手。おまえも男だったんだね」
腰がどんどん重くなって、晴臣の肩を持つ手に力が籠って、前はかたく反り返って、晴臣の手は性感を追い立てるようにくびれをいじめて。
「晴臣君の手、汚しちゃう。やだ、でる、はるおみくんっ」
「イって。おれのどこにかけてもいいよ」
優等生だと評判だった晴臣がそんなことを言う。「ばか!」純はカッとなって晴臣の肩を叩いたけれど、彼は本気で言っているのか、「ほら、どこでもいいよ。純が選びな」と誘うように微笑んだ。
「う~……っ、ンぁあ、ああっ、はぁあ……!」
「口の中? それとも顔? ほら、早くしないとイっちゃうよ?」
「うぐ、……んぅ~っ……!」
もう、だめっ……! ぶるぶる震えていると、後孔を拡げるように尻臀を揉まれ、純は全身を震わせて「はるおみくん! だめっ!」と叫んだ。
目の前に光が散るのと、後孔が晴臣の指を食んだのとは同時で、純は晴臣の指を喰い締めながら果てた。「はぁ、あ、あ、ん……、」晴臣の腹筋に沿って、つう、と白濁が滴り落ちていく。
「いっぱい出た。えらいな」
「えらくなんか、ない。だめって、言ったのに、」
「えらいよ。おれの手でイってくれて嬉しい」
晴臣は自身の腹に吐き出された白濁を手に取り、純をラグに寝かせた。
「おれ、純を抱きたいんだけど、ほんとうにいいの?」
純は言葉の代わりに両脚を開いた。
「痛かったら、すぐに言って」
晴臣の指先が閉じた後孔を押し上げる。「ンッ……、んぅ……、」指先の分だけ拡がった縁は、しきりに晴臣の指を喰い締めた。「う、アッ、」十分すぎる存在感に腰が引けそうになって、純はそのたびに深く息を吐いた。いま、彼を、この身体と心で受け止めたい。ゆっくりと、けれど迷わずに進んだ指が奥深くに触れ、純は晴臣の肩を咄嗟に掴んだ。
「純、苦しい?」
「うん、でも、苦しいのが嬉しい。あなたの指がおれの中に入ってるんだって、はっきり分かる」
頁を捲っていた指。左頬に落ちた睫毛を取ってくれた指。涙を拭ってくれた指。それが、自分の奥深くに触れている。そう思うだけで、前に感じる痛みが強くなっていった。
晴臣は、後孔に唾液を注ぎ足しながら慎重に指を抜き挿しした。反応をつぶさに観察され、脳天がじりじりと焼けるようで、けれどその感覚が心地良くて頭がぼんやりしてくる。
「あ、あぁ、はるおみくん、う、はぁ、ぁあ~っ……、キス、キスしてぇっ、」
求めてすぐに唇を啄まれ、純は晴臣の舌や唇をちゅうちゅう吸った。晴臣はその拙さを愛しむように目を細め、二本目の指を挿し入れた。
「んっ……、ん~っ……、あっ……、はあ、はあ、はあ、」
にゅちにゅちと水音が大きくなり、けれどそれも互いを高ぶらせる材料の一つになって、二人は視線と息を絡ませた。緩い蜜を落とす陰茎の向こうでは、晴臣のものがそそり立ち血管を浮き立たせている。ああ、もう待てない、今すぐに欲しい。純は心のままに腰を引いて晴臣の指を引き抜いた。
「晴臣君。もう、いいから。して……」
晴臣は何かを堪えるように唇を噛み、それから、「後ろからの方が楽らしいから」と言って、純をうつ伏せにさせた。
「顔見たい、はるおみくんっ、キスっ、」
「うん、分かってる。ほら、口開けて……」
背筋を撫でられ、尻臀を円を描くように揉まれ、下唇を啄まれ、純は甘い声を上げた。もう、だめ。「焦らさないで。もう、ずっと欲しかったのに」言いながら自ら双丘を割り開く。晴臣の切っ先が、愛撫で熟れた後孔を押し上げた。
「ん、あ、ぁああっ……!」
思いもよらないほどの熱を抱えたものが、身体の中心を割り開いていく。あつい、おおきい、どうしたらいいのかわからない。純が混乱し始めたのに気付き、晴臣は動きを止めた。
「大丈夫か? 痛い?」
「い、痛くない。でも、おれ、どうしたらいいのか、」
「うん。純はそのままでいいよ。こっち向いて舌出せる?」
振り返り舌を見せると、ちゅぽっと舌先を吸われた。腰に添えられていた手が肌を伝って純の手を握りしめる。指と指を絡め、互いの手指を擦り合わせると、力んでいた肩がくたりと下がった。傷口を舐めるようなキスを交わすうち、身体から徐々に力が抜けて、動かしてもいないのに中のものがくぷくぷと飲み込まれていった。
「ふ、ふあ、はぁ~……っ、んぅ~……、はあぁ、」
深呼吸しながら、尻を晴臣の腰に押し付ける。「ん、あ、あ、あ、はぁ、」上がってしまう呼吸を落ち着けようと深く息を吐くと、中が絞れ、ものの形がはっきりと感じられた。
「純、無理しなくていい。全部入らなくても大丈夫だから」
「ん、やだ、全部欲しい、ぜんぶ、ぜんぶおれのっ……!」
繋いだ手をきつく握りしめて腰を揺する。にゅぐ、と中が擦れたかと思ったら、次の瞬間に切っ先が肉の壁を超え、純は「ゔあっ!」と呻いた。自身の尻と晴臣の腰がぶつかり、純は手を伸ばして陰茎を咥えた縁に触れた。ぜんぶ、入ってる。
「よかった、ぜんぶ入った。晴臣君は、おれのもの」
振り返り囁くと、「そうだよ、純のものだよ」という言葉と優しいキスが返ってきて、純はふうはあと息を乱しながら全身を晴臣にすり寄せた。
「それから、純もおれのものだ」
腹の中でとくんとくんと脈打つ晴臣のものが愛おしい。
互いの肌に触れたり、指をでたらめに絡めたり、キスをしたり、おしゃべりをしたり、初めての時を惜しむように互いを愛でる。目と目で見つめ合い、互いに同じ熱を抱えていることを確認すると、二人はどちらともなく腰を揺すり始めた。
「あ、うぁ、んぅ~っ、だめっ、あ、なんかぁっ……!」
柔い壁をずるずると擦りながら引き抜かれると、背中が冷たく戦慄いた。けれど奥へ進み始めると、晴臣のものの凹凸に反応して中と前が熱っぽくなっていく。冷たくて熱くて、ゾクゾクしてきゅうきゅうして、その差に眩暈がしそうになる。
「ここ、いい? 純のちんこ、ここを擦るとピクンって跳ねてる」
「なんか、またきちゃう、でちゃう、せんぱいぃ、」
「……もう。先輩はだめって、言ってんのに……」
ずるっ、と引き抜かれ、じっくりと割り開かれる。性感のしこりを丁寧に愛され、純は喉を反らした。足裏と陰茎の先端がじんじんと熱く痺れる。濡れた指先で乳輪を摘ままれ、純は「ひゃん!」と甲高く鳴いた。
「きちゃう、せんぱい、きちゃうからっ、せんぱいもきてっ」
「純、おれのことはいいから、おまえのタイミングでイって」
「だめ、一緒がいい、もう離れたくないっ」
晴臣の瞳には、やけに必死な表情の自分が映っていて、純はいっそ寂しくなった。これだけ近づいてもなお思う。もっとあなたに近づきたい。
「純、動くけど、痛かったらすぐに言って、」
頷いてやっと、緩やかな律動が再開された。晴臣の首に腕を回して、腰に脚を絡めて、全身で彼にしがみつく。
「せんぱ、きもちい、ですか」
「うん、やばい」
眉間に浮かぶ皺とシンプルな返事に、純はへにゃりと笑った。二人で一つの頂を目指していることが嬉しくて、涙が滲む。ホテルのエレベーターから見た晴臣が瞼の裏に蘇り、純は晴臣を抱いた腕に力を込めた。
「もう二度と、離れたくない」
心で呟いたつもりが口からこぼれていて、純は涙を伝わせた。晴臣はこくりと頷いた。
「離さない。もう、二度と」
脳裏で光が弾けて、先端と奥にまとめ上げられた性感がしぶきを散らす。「ん、あぁ! あ、あ、あっ、あぁ……っ、」純は全身をうち震わせながら晴臣の腕の中で果て、そのうちに晴臣のものが中で弾けたのを感じ、再び光を見た。
「すき。う、はぁ、あ、せんぱい、すき。すき。あなたがすきっ」
「ん……。分かってる……。はぁ、ふ、頼むから、そんな煽んないで、」
「ぜんぶあいしてる、ずっとそばにいる」
振り返り目を見て囁くと、躊躇いの後に、熱の切っ先が後孔を崩していった。ラグが波打っていくのを感じながら、純は微笑んだ。この部屋に来て初めて、この部屋を「自分の家」だと感じた。
「ん……」
かさついた唇が、互いの愛撫で、温みと潤いを帯びていく。おれ、いま、先輩とキスしてる……。
「ずっと自分を誤魔化してたけど、ほんとうは、高校ん時からこうしたかった」
唇を離した瞬間に囁かれ、純は「おれだって……!」と語気を強めた。流れゆく水の中にいるかのように、何かの力に押し流され、純はラグに横たわった。そこへ、晴臣が覆い被さってくる。
「う……、ふ、はぁ、」
座ってキスするのと、横たわってそうするのとでは、全く違う。
血潮が急速に駆け巡り、優しいキスに翻弄されて胸が切なくなっていく。ちがう、もっと、剥き出しのあなたがほしい。晴臣の肩に触れていた手を滑らせ、首に腕を回す。ぎゅう、と力を込めて抱きしめると、晴臣も同じように抱きしめ返してくれた。
「そんなに優しくしなくて大丈夫ですよ。おれも男だから、そんなにやわじゃない」
「待って。純のこと、たいせつにしたい」
「もう十分、たいせつにしてもらいました」
パーカーのファスナーを下げ、シャツ越しに晴臣に触れる。彼の胸はしっとりとして温かかった。余韻に浸っていると意識をつつくようにして額に口づけられ、純は顎を反らして晴臣の唇を吸った。
「みずのせんぱい」
時折身体に触れていた、晴臣の膨れた中心。指先で触れると、「ふっ、」と、晴臣の唇から熱い吐息が漏れた。
「これは、ほんとうのあなた?」
「なに言ってんの。嘘でこうなるわけない」
「なら、これがいい」
はあ、はあ、と互いの息が互いの肌へ滴る。
「水野先輩、合格祝いになんでもくれるって言ってたでしょう」
「ど……こでそんなん覚えてくんだよ」
「こんなの覚えてやれるわけないでしょう。あなたがおれにそうさせたんです」
じりじりと睨み合い、けれど結局晴臣が根負けして、彼は「もう知らないからな」と声を低くした。シャツもインナーも脱ぎ捨てていく晴臣に負けまいと、純も急いで服を脱いだ。
「せんぱい、せんぱい、」
裸で抱き合うと、肌に肌が吸い付いて、互いの距離がゼロになって、これ以上なく気持ちいい。「せんぱいっ」何度も呼ぶと、今度は荒っぽく唇を奪われた。
「ふぁ、あ、ん、んぅ~……っ」
緩んでいた唇に舌を差し込まれ、粘膜を愛される。晴臣の味が自分のそれと混ざっていくのが嬉しくて、純は夢中でそのキスに応えた。
「なあ、純に先輩って呼ばれるの、好きだよ。でももう、それはおれだけのものじゃなくなっちゃったから、おれだって分かる呼び方で呼んでほしい」
そうだ、おれたちは、もう制服を着ていない。
寂しくも嬉しくもなって、でももう「それ」も脱がなければと、純は晴臣を見つめて息を吸った。
「晴臣君」
「……うん」
抱きしめ合って、互いの肌を貪る。首筋に舌を這わせるとその道筋通りに唾液がちらりと光って、頬に頬を添えると産毛の気配があって、腹に手を滑らせると指先が臍に引っかかって……。その一つ一つが、互いの理性を煙らせていく。
ちゅ、ちゅ、と、耳元で喉元で胸で鼻先で、小鳥が囀る。「あっ、」高く掠れた声が次々と弾けて、けれどそれを恥じる余裕などない。
晴臣の後頭部に手を添え、髪を混ぜるようにして引き寄せる。「はるおみくん」唇の先を彼の唇に触れさせたまま呼ぶと、「じゅん」といつものように呼ばれて、その声が純の胸を深く貫いた。おれも、あなたと、ずっとこうしたかった。
「純の裸、初めて見た……」
裸の胸を隠そうとすると片手をラグに縫い付けられ、純は顔を背けた。「顔見せて」声と熱い息が耳元に吹きかかる。「ん……、」見て、見ないで、見て、見ないで……。二つの気持ちが絶え間なく天秤を揺らす。
「純、見せて」
名前を呼ぶなんてずるい。純は自ら反対の手をラグに縫い付け、晴臣を恨めしそうに見上げた。視線が肌の上を撫でると、それに合わせて晴臣の瞳に浮いた光が揺れて、素肌を見られていることを強烈に意識させられた。
「んっ……、」
陰毛を指先で梳かれ、「毛、薄いな」と囁かれる。ああもうだめ。咄嗟に晴臣の手を払おうとすると、彼の指先が繁みのその先に触れた。
「あ、だめ、せんぱいっ、」
「名前で呼んでよ。次呼ばなかったら、純のこと森見君って呼ぶから」
「やだ、そんなのだめ、はるおみくん、はるおみくんっ」
今までになかった仕種ですげなくされ、純は晴臣に飛びついた。晴臣はそんな純をすかさず自身の膝の上に乗せ、いやに爽やかな笑みを浮かべた。あ、この人……。ぞく、と背筋が粟立つ。この人は、おれが思うより、ちょっと悪い人なのかもしれない。
「ここ、一生懸命かたくなってる」
膨れた陰茎に手を添えられ、いたずらに触れられて、くうん、と鼻から息が抜ける。
「楽にしてやるから、おれの手と一緒に腰動かして。純、いくよ。せーので、するよ」
戸惑っているうちに「せえの、」と耳元へ囁かれ、純は晴臣の手の中に濡れそぼった陰茎を擦りつけた。
「ん、あ、や、やだ、こんなの恥ずかしい、はるおみくん~っ……、」
「やらしいことしてるんだから、恥ずかしいのは当然だろ?」
「ゆるして。だめ、こんなのだめぇっ」
拙く腰を振りながら許しを請う。晴臣は歯を見せて微笑み、「だめ。もっと腰振って」と純を促した。晴臣の両肩に手をついて腰を振ると、頭を擡げていただけのそれがズクズクと痛み、膨れていった。
「いいよ。そのまま。上手。おまえも男だったんだね」
腰がどんどん重くなって、晴臣の肩を持つ手に力が籠って、前はかたく反り返って、晴臣の手は性感を追い立てるようにくびれをいじめて。
「晴臣君の手、汚しちゃう。やだ、でる、はるおみくんっ」
「イって。おれのどこにかけてもいいよ」
優等生だと評判だった晴臣がそんなことを言う。「ばか!」純はカッとなって晴臣の肩を叩いたけれど、彼は本気で言っているのか、「ほら、どこでもいいよ。純が選びな」と誘うように微笑んだ。
「う~……っ、ンぁあ、ああっ、はぁあ……!」
「口の中? それとも顔? ほら、早くしないとイっちゃうよ?」
「うぐ、……んぅ~っ……!」
もう、だめっ……! ぶるぶる震えていると、後孔を拡げるように尻臀を揉まれ、純は全身を震わせて「はるおみくん! だめっ!」と叫んだ。
目の前に光が散るのと、後孔が晴臣の指を食んだのとは同時で、純は晴臣の指を喰い締めながら果てた。「はぁ、あ、あ、ん……、」晴臣の腹筋に沿って、つう、と白濁が滴り落ちていく。
「いっぱい出た。えらいな」
「えらくなんか、ない。だめって、言ったのに、」
「えらいよ。おれの手でイってくれて嬉しい」
晴臣は自身の腹に吐き出された白濁を手に取り、純をラグに寝かせた。
「おれ、純を抱きたいんだけど、ほんとうにいいの?」
純は言葉の代わりに両脚を開いた。
「痛かったら、すぐに言って」
晴臣の指先が閉じた後孔を押し上げる。「ンッ……、んぅ……、」指先の分だけ拡がった縁は、しきりに晴臣の指を喰い締めた。「う、アッ、」十分すぎる存在感に腰が引けそうになって、純はそのたびに深く息を吐いた。いま、彼を、この身体と心で受け止めたい。ゆっくりと、けれど迷わずに進んだ指が奥深くに触れ、純は晴臣の肩を咄嗟に掴んだ。
「純、苦しい?」
「うん、でも、苦しいのが嬉しい。あなたの指がおれの中に入ってるんだって、はっきり分かる」
頁を捲っていた指。左頬に落ちた睫毛を取ってくれた指。涙を拭ってくれた指。それが、自分の奥深くに触れている。そう思うだけで、前に感じる痛みが強くなっていった。
晴臣は、後孔に唾液を注ぎ足しながら慎重に指を抜き挿しした。反応をつぶさに観察され、脳天がじりじりと焼けるようで、けれどその感覚が心地良くて頭がぼんやりしてくる。
「あ、あぁ、はるおみくん、う、はぁ、ぁあ~っ……、キス、キスしてぇっ、」
求めてすぐに唇を啄まれ、純は晴臣の舌や唇をちゅうちゅう吸った。晴臣はその拙さを愛しむように目を細め、二本目の指を挿し入れた。
「んっ……、ん~っ……、あっ……、はあ、はあ、はあ、」
にゅちにゅちと水音が大きくなり、けれどそれも互いを高ぶらせる材料の一つになって、二人は視線と息を絡ませた。緩い蜜を落とす陰茎の向こうでは、晴臣のものがそそり立ち血管を浮き立たせている。ああ、もう待てない、今すぐに欲しい。純は心のままに腰を引いて晴臣の指を引き抜いた。
「晴臣君。もう、いいから。して……」
晴臣は何かを堪えるように唇を噛み、それから、「後ろからの方が楽らしいから」と言って、純をうつ伏せにさせた。
「顔見たい、はるおみくんっ、キスっ、」
「うん、分かってる。ほら、口開けて……」
背筋を撫でられ、尻臀を円を描くように揉まれ、下唇を啄まれ、純は甘い声を上げた。もう、だめ。「焦らさないで。もう、ずっと欲しかったのに」言いながら自ら双丘を割り開く。晴臣の切っ先が、愛撫で熟れた後孔を押し上げた。
「ん、あ、ぁああっ……!」
思いもよらないほどの熱を抱えたものが、身体の中心を割り開いていく。あつい、おおきい、どうしたらいいのかわからない。純が混乱し始めたのに気付き、晴臣は動きを止めた。
「大丈夫か? 痛い?」
「い、痛くない。でも、おれ、どうしたらいいのか、」
「うん。純はそのままでいいよ。こっち向いて舌出せる?」
振り返り舌を見せると、ちゅぽっと舌先を吸われた。腰に添えられていた手が肌を伝って純の手を握りしめる。指と指を絡め、互いの手指を擦り合わせると、力んでいた肩がくたりと下がった。傷口を舐めるようなキスを交わすうち、身体から徐々に力が抜けて、動かしてもいないのに中のものがくぷくぷと飲み込まれていった。
「ふ、ふあ、はぁ~……っ、んぅ~……、はあぁ、」
深呼吸しながら、尻を晴臣の腰に押し付ける。「ん、あ、あ、あ、はぁ、」上がってしまう呼吸を落ち着けようと深く息を吐くと、中が絞れ、ものの形がはっきりと感じられた。
「純、無理しなくていい。全部入らなくても大丈夫だから」
「ん、やだ、全部欲しい、ぜんぶ、ぜんぶおれのっ……!」
繋いだ手をきつく握りしめて腰を揺する。にゅぐ、と中が擦れたかと思ったら、次の瞬間に切っ先が肉の壁を超え、純は「ゔあっ!」と呻いた。自身の尻と晴臣の腰がぶつかり、純は手を伸ばして陰茎を咥えた縁に触れた。ぜんぶ、入ってる。
「よかった、ぜんぶ入った。晴臣君は、おれのもの」
振り返り囁くと、「そうだよ、純のものだよ」という言葉と優しいキスが返ってきて、純はふうはあと息を乱しながら全身を晴臣にすり寄せた。
「それから、純もおれのものだ」
腹の中でとくんとくんと脈打つ晴臣のものが愛おしい。
互いの肌に触れたり、指をでたらめに絡めたり、キスをしたり、おしゃべりをしたり、初めての時を惜しむように互いを愛でる。目と目で見つめ合い、互いに同じ熱を抱えていることを確認すると、二人はどちらともなく腰を揺すり始めた。
「あ、うぁ、んぅ~っ、だめっ、あ、なんかぁっ……!」
柔い壁をずるずると擦りながら引き抜かれると、背中が冷たく戦慄いた。けれど奥へ進み始めると、晴臣のものの凹凸に反応して中と前が熱っぽくなっていく。冷たくて熱くて、ゾクゾクしてきゅうきゅうして、その差に眩暈がしそうになる。
「ここ、いい? 純のちんこ、ここを擦るとピクンって跳ねてる」
「なんか、またきちゃう、でちゃう、せんぱいぃ、」
「……もう。先輩はだめって、言ってんのに……」
ずるっ、と引き抜かれ、じっくりと割り開かれる。性感のしこりを丁寧に愛され、純は喉を反らした。足裏と陰茎の先端がじんじんと熱く痺れる。濡れた指先で乳輪を摘ままれ、純は「ひゃん!」と甲高く鳴いた。
「きちゃう、せんぱい、きちゃうからっ、せんぱいもきてっ」
「純、おれのことはいいから、おまえのタイミングでイって」
「だめ、一緒がいい、もう離れたくないっ」
晴臣の瞳には、やけに必死な表情の自分が映っていて、純はいっそ寂しくなった。これだけ近づいてもなお思う。もっとあなたに近づきたい。
「純、動くけど、痛かったらすぐに言って、」
頷いてやっと、緩やかな律動が再開された。晴臣の首に腕を回して、腰に脚を絡めて、全身で彼にしがみつく。
「せんぱ、きもちい、ですか」
「うん、やばい」
眉間に浮かぶ皺とシンプルな返事に、純はへにゃりと笑った。二人で一つの頂を目指していることが嬉しくて、涙が滲む。ホテルのエレベーターから見た晴臣が瞼の裏に蘇り、純は晴臣を抱いた腕に力を込めた。
「もう二度と、離れたくない」
心で呟いたつもりが口からこぼれていて、純は涙を伝わせた。晴臣はこくりと頷いた。
「離さない。もう、二度と」
脳裏で光が弾けて、先端と奥にまとめ上げられた性感がしぶきを散らす。「ん、あぁ! あ、あ、あっ、あぁ……っ、」純は全身をうち震わせながら晴臣の腕の中で果て、そのうちに晴臣のものが中で弾けたのを感じ、再び光を見た。
「すき。う、はぁ、あ、せんぱい、すき。すき。あなたがすきっ」
「ん……。分かってる……。はぁ、ふ、頼むから、そんな煽んないで、」
「ぜんぶあいしてる、ずっとそばにいる」
振り返り目を見て囁くと、躊躇いの後に、熱の切っ先が後孔を崩していった。ラグが波打っていくのを感じながら、純は微笑んだ。この部屋に来て初めて、この部屋を「自分の家」だと感じた。
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笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
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幼馴染みの二人
朏猫(ミカヅキネコ)
BL
三人兄弟の末っ子・三春は、小さい頃から幼馴染みでもある二番目の兄の親友に恋をしていた。ある日、片思いのその人が美容師として地元に戻って来たと兄から聞かされた三春。しかもその人に髪を切ってもらうことになって……。幼馴染みたちの日常と恋の物語。※他サイトにも掲載
[兄の親友×末っ子 / BL]
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初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
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黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
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「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
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王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
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