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会えないあなたと、ほんとうのきもち
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二人で暮らしているはずなのにタイミングが合わずすれ違う、そんな日々が単調に過ぎていった。
そうか、あの時もあの時も、水野先輩がおれにタイミングを合わせてくれたから、同じ時間を過ごすことができたんだ。今になってそんなことに気付いて、純は胸を軋ませた。この部屋に一人でいるのは、部室に一人でいた頃より、寂しい。
「ベティーちゃん。なに見てんの?」
大学の総合掲示板に張り出された物件情報を見ていると、背後から葵がやってきた。
「学生マンション? あ~、分かった、水野先輩とケンカしちゃったんだぁ?」
おふざけで傷を抉られ、純は沈黙を貫いた。
「……え? マジ? もしかしなくても、おれのせい?」
「片岡先輩のせいじゃありません。おれ、自分勝手に和を乱して、モヤモヤしていたことをひどい形で水野先輩にぶつけてしまって、」
「待て待て待て。話が見えない。もっと具体的に言ってよ」
思い出したくもないことを説明しろと言われ、純はむきになって「だから!」と声を張り上げた。
「水野先輩のお友だちがうちにいらっしゃったんですけど、おれ、それがなんか、すごくいやで、うちを飛び出してしまって……。そのあと、水野先輩と言い合いになって、ずっと思っていたことを勢いのまま水野先輩にぶつけてしまって……」
「ずっと思っていたことって、不満?」
「不満っていうか……。水野先輩、あの夜のこと、何も訊かないんです。そのことについて触れられたくないのかなって、モヤモヤするのに何も言えなくて……。水野先輩は、純は“ほんとうのおれ”を見てない、勝手に美化するなって、そういう目で見られるのがきつかったって言ってたけど、“ほんとうのおれ”を知って欲しいなら、なんで肝心な対話を避けるんだろうって……」
「はいはい、続けて」
「水野先輩、おれの世話をあれこれ焼くくせに、おれには何もさせてくれないんです。おれだって、水野先輩の役に立ちたいんです。おれ、そんなに何もできないように見えます!?」
「いやー? おれにはそー見えないけど」
「おれだって、そんなに鈍感じゃないですよ、コミュ力低いだけで! 水野先輩がおれの前で背伸びしてたこと、なんとなく分かってたけど、言ったらこの関係が崩れそうで、水野先輩に嫌な思いをさせてしまいそうで、」
「なるほどね。大筋は理解した。そんで、ベティーちゃんはどうしたいの? 先輩とどうなりたいの? 新しい物件探す前に、やれることがあるんじゃないの?」
その言葉に、純はハッとして口を噤んだ。
晴臣に嫌われてルームシェアを解消される、という最悪のパターンを何とかしのいで、できるだけ長く晴臣の傍にいたいと思っていた。けれど、晴臣に嫌われてしまったり、あるいは、晴臣に彼女なんかができたら、潔く身を引くつもりだった。
でも、おれは今、こんな状態になっても、二の足を踏んでる……。
純は矛盾している自分を直視できず、きつく瞼を下ろした。こんな時でも、瞼の裏に浮かぶのは晴臣で、純は喉元を熱くした。
――卒業、おめでとうございます。
退場する卒業生を、在校生がアーチを作って見送る。目の前に来た晴臣にそう囁くと、彼は純をジッと見つめた。
――後でラインするから。
そう言い残し去って行った彼は、見る間に人に囲まれて、こちらからは見えなくなって……。そんな二人の間の距離を埋めるように、メッセージはすぐに届いた。
〈夜七時に学校の裏門まで来れる? 純に見せたいものがある〉
純は、生まれて初めて、両親の目を盗んで家を出た。
学校の裏門に到着すると、すでに来ていた晴臣が手を振ってくれた。
――バレると厄介だから、静かにな。
出会うなり手を引かれ、純は頬を熱くした。
――何か、悪いことするんですか?
――そう。悪いこと。先生に怒られることになったら、ごめんな。
夜闇で優しく微笑む彼は、散りゆく夜桜より妖しかった。
裏門からフェンスを伝い、低くなった場所を乗り越える。いよいよ夜の学校に忍び込んでしまい、純はしきりにフェンスを振り返った。
――純。行こ。
晴臣に呼ばれ、手を引かれると、戸惑いや恐れが一瞬にしてほどけた。晴臣の手を握り返し、職員室の明かりから逃れるように非常階段を駆け上がる。白い息がこぼれるたび星に近づいて、純は晴臣の手をきつく握りしめた。
――いいこと教えてあげる。他の人には言っちゃだめだからな。
職員室の明かりがついている間は防犯システムは作動しないこと。非常階段の三階のドアは壊れかけていて、ヘアピンで簡単に開けられてしまうこと。純は「いいこと」を二つ教わり、晴臣に続いて校舎に足を踏み入れた。
――目、瞑って。おれが案内してあげるから。
瞼を下ろすと、そっと肩を抱かれた。晴臣の温もりに鼓動が深くなっていく。一段一段、階段を上がって、扉の開く音がして、冷たい夜気が頬を撫でて……。
――目、開けて。空、見て。
瞼を上げ、夜空を仰ぐ。冬の澄んだ夜空には、幾千の星が浮かんでいた。「すごい……」「だろ」晴臣の微笑みが白い息になって夜に溶けていく。
――綺麗だよな。いつか純に見せたいって、ずっと思ってたんだ。
卒業証書の入った筒よりも、学ランの胸に咲いたペーパーフラワーよりも、この言葉に、ああこの人は卒業するのだ、と実感させられた。
――先輩、学ランまで取られてましたね。
――ああ、見てた? おれ、ああいうの苦手で。あげちゃった方が早く解放してくれるから、つい……。
晴臣はきまり悪そうに頭を掻き、「でもこれは残ってるよ」と言って、赤いペーパーフラワーを取り出した。
――これ、純にあげる。なんか、これ見た時、純にあげなきゃって思ったんだ。……ほら、よく似合ってる。
ペーパーフラワーを純の耳元に当て、晴臣は微笑んだ。あったかくて、うるうるで、まっすぐな瞳に抱かれると、今にも涙が溢れそうになった。
夜空に浮かんだどの星より、あなたが眩しい。
水野先輩、大好きです。これからもずっと想っていていいですか。
純はその気持ちを隠すように、受け取ったペーパーフラワーを両手で包み込んだ。
――先輩、ほんとうにありがとうございました。
涙を見られないように、深く頭を下げる。すると、つむじをポンポンと撫でられ、堪えきれなかった涙が足元に弾けた。
開いた両手の中では、ペーパーフラワーが蕾のようになっていた。伝えられなかった、この気持ちのようだった。
どうして、水野先輩の元から潔く立ち去れないのか。その理由は、おれ自身がよく分かってる。
葵は純の胸の内を悟ったのか、ため息を吐いた。
「あなたの役に立ちたいって、自分もこの暮らしを支えたいって、背伸びしないでいい、そのままのあなたがいいって、先輩に伝えた? まあ、彼はプライド高そうだから、伝えても跳ね返されちゃうかもしんないけど……。ベティーちゃんは、先輩が先輩がって言うけど、おれからすれば、ベティーちゃんだって、ほんとうに先輩のこと想ってんのかなって感じだよ。あの夜のことだって、話し合いたいなら、自分から切り出せばいいじゃん。ちょっと受け身すぎんじゃない? ベティーちゃん、自分は先輩にふさわしくないとか謙虚なこと言ってるけど、ほんとうは、先輩を失うのが怖くて核心に踏み込めないだけなんでしょ?」
「……失うのが怖くてしょうがないくらいには、彼のことを想っているつもりです」
か細い声で吐露すると、葵はニヤッと笑った。
「ベティーちゃんさ、おれとルームシェアできる?」
「え?」
「部屋は……カップル御用達の2LDKなんかどう? 自室ありーの、その他は共有ってことで。いーじゃん、おれたち趣味が合うし、相性もまあまあいい。ベティーちゃんだって、おれと一緒にいると楽しいでしょ? 家賃も光熱費も水道代も半分こ。生活費、浮くよー? どう?」
「無理です」
純はきっぱりと断った。葵は「どーして?」と問い、ニヤニヤ笑った。
「誰かとルームシェアするなんて、水野先輩でなければ無理です。おれは一人が好きなんです。パーソナルスペースが人一倍広いことも、人間関係にストレスを感じやすいことも自覚してます。おれは、無理をしてまで他人と暮らそうとは思わない。どんなに気の合う友だちでも、それは例外じゃない」
葵は笑みを深め、「同感~」と声を弾ませた。
あっ……。そうか、おれ……。
ほんとうの気持ちが、心の扉から顔を出す。
そうか、おれ、身を引きたいわけじゃないんだ。水野先輩の傍に、一番近くにいたいんだ。……水野先輩じゃなきゃ、だめなんだ。
「片岡先輩!」
はっきりと呼べば、葵は片頬を上げ、軽やかに笑った。
「うじうじして、すみません! 話聞いてくれて、ありがとうございました!」
純は弾かれたように駆け出し、大学を飛び出した。
同じ、先輩と後輩という構図でも、晴臣といるのと葵といるのとでは全く違う。
葵とケンカできるのは、友だちだから。そうやって分かり合うものだって知っているから。晴臣を慮って言いたいことを言えなかったのは、彼は自分にとって「友だち」ではなく「好きな人」で、衝突して彼を失うくらいなら、言いたいことを我慢する方がましだったから。
でも、本音でぶつかり合わなければ、分かり合えない。あなたの言う「ほんとうのおれ」を、おれは知りたい。
晴臣と分かり合いたいという気持ちが、晴臣を失う恐怖をはっきりと上回る。
こんなおれは、あなたを困らせるだろうか?
でも、もう、この気持ちを誤魔化すことなんてできない。おれはあなたを知った。あなたの言う「ほんとうのおれ」の、ほんのひと欠片を掬い取った。無精ひげや、お節介なところ、先輩風を吹かせるところ、頑張っている姿を見せようとしないところ。おれはそれらを、愛おしく思ってる。
そうか、あの時もあの時も、水野先輩がおれにタイミングを合わせてくれたから、同じ時間を過ごすことができたんだ。今になってそんなことに気付いて、純は胸を軋ませた。この部屋に一人でいるのは、部室に一人でいた頃より、寂しい。
「ベティーちゃん。なに見てんの?」
大学の総合掲示板に張り出された物件情報を見ていると、背後から葵がやってきた。
「学生マンション? あ~、分かった、水野先輩とケンカしちゃったんだぁ?」
おふざけで傷を抉られ、純は沈黙を貫いた。
「……え? マジ? もしかしなくても、おれのせい?」
「片岡先輩のせいじゃありません。おれ、自分勝手に和を乱して、モヤモヤしていたことをひどい形で水野先輩にぶつけてしまって、」
「待て待て待て。話が見えない。もっと具体的に言ってよ」
思い出したくもないことを説明しろと言われ、純はむきになって「だから!」と声を張り上げた。
「水野先輩のお友だちがうちにいらっしゃったんですけど、おれ、それがなんか、すごくいやで、うちを飛び出してしまって……。そのあと、水野先輩と言い合いになって、ずっと思っていたことを勢いのまま水野先輩にぶつけてしまって……」
「ずっと思っていたことって、不満?」
「不満っていうか……。水野先輩、あの夜のこと、何も訊かないんです。そのことについて触れられたくないのかなって、モヤモヤするのに何も言えなくて……。水野先輩は、純は“ほんとうのおれ”を見てない、勝手に美化するなって、そういう目で見られるのがきつかったって言ってたけど、“ほんとうのおれ”を知って欲しいなら、なんで肝心な対話を避けるんだろうって……」
「はいはい、続けて」
「水野先輩、おれの世話をあれこれ焼くくせに、おれには何もさせてくれないんです。おれだって、水野先輩の役に立ちたいんです。おれ、そんなに何もできないように見えます!?」
「いやー? おれにはそー見えないけど」
「おれだって、そんなに鈍感じゃないですよ、コミュ力低いだけで! 水野先輩がおれの前で背伸びしてたこと、なんとなく分かってたけど、言ったらこの関係が崩れそうで、水野先輩に嫌な思いをさせてしまいそうで、」
「なるほどね。大筋は理解した。そんで、ベティーちゃんはどうしたいの? 先輩とどうなりたいの? 新しい物件探す前に、やれることがあるんじゃないの?」
その言葉に、純はハッとして口を噤んだ。
晴臣に嫌われてルームシェアを解消される、という最悪のパターンを何とかしのいで、できるだけ長く晴臣の傍にいたいと思っていた。けれど、晴臣に嫌われてしまったり、あるいは、晴臣に彼女なんかができたら、潔く身を引くつもりだった。
でも、おれは今、こんな状態になっても、二の足を踏んでる……。
純は矛盾している自分を直視できず、きつく瞼を下ろした。こんな時でも、瞼の裏に浮かぶのは晴臣で、純は喉元を熱くした。
――卒業、おめでとうございます。
退場する卒業生を、在校生がアーチを作って見送る。目の前に来た晴臣にそう囁くと、彼は純をジッと見つめた。
――後でラインするから。
そう言い残し去って行った彼は、見る間に人に囲まれて、こちらからは見えなくなって……。そんな二人の間の距離を埋めるように、メッセージはすぐに届いた。
〈夜七時に学校の裏門まで来れる? 純に見せたいものがある〉
純は、生まれて初めて、両親の目を盗んで家を出た。
学校の裏門に到着すると、すでに来ていた晴臣が手を振ってくれた。
――バレると厄介だから、静かにな。
出会うなり手を引かれ、純は頬を熱くした。
――何か、悪いことするんですか?
――そう。悪いこと。先生に怒られることになったら、ごめんな。
夜闇で優しく微笑む彼は、散りゆく夜桜より妖しかった。
裏門からフェンスを伝い、低くなった場所を乗り越える。いよいよ夜の学校に忍び込んでしまい、純はしきりにフェンスを振り返った。
――純。行こ。
晴臣に呼ばれ、手を引かれると、戸惑いや恐れが一瞬にしてほどけた。晴臣の手を握り返し、職員室の明かりから逃れるように非常階段を駆け上がる。白い息がこぼれるたび星に近づいて、純は晴臣の手をきつく握りしめた。
――いいこと教えてあげる。他の人には言っちゃだめだからな。
職員室の明かりがついている間は防犯システムは作動しないこと。非常階段の三階のドアは壊れかけていて、ヘアピンで簡単に開けられてしまうこと。純は「いいこと」を二つ教わり、晴臣に続いて校舎に足を踏み入れた。
――目、瞑って。おれが案内してあげるから。
瞼を下ろすと、そっと肩を抱かれた。晴臣の温もりに鼓動が深くなっていく。一段一段、階段を上がって、扉の開く音がして、冷たい夜気が頬を撫でて……。
――目、開けて。空、見て。
瞼を上げ、夜空を仰ぐ。冬の澄んだ夜空には、幾千の星が浮かんでいた。「すごい……」「だろ」晴臣の微笑みが白い息になって夜に溶けていく。
――綺麗だよな。いつか純に見せたいって、ずっと思ってたんだ。
卒業証書の入った筒よりも、学ランの胸に咲いたペーパーフラワーよりも、この言葉に、ああこの人は卒業するのだ、と実感させられた。
――先輩、学ランまで取られてましたね。
――ああ、見てた? おれ、ああいうの苦手で。あげちゃった方が早く解放してくれるから、つい……。
晴臣はきまり悪そうに頭を掻き、「でもこれは残ってるよ」と言って、赤いペーパーフラワーを取り出した。
――これ、純にあげる。なんか、これ見た時、純にあげなきゃって思ったんだ。……ほら、よく似合ってる。
ペーパーフラワーを純の耳元に当て、晴臣は微笑んだ。あったかくて、うるうるで、まっすぐな瞳に抱かれると、今にも涙が溢れそうになった。
夜空に浮かんだどの星より、あなたが眩しい。
水野先輩、大好きです。これからもずっと想っていていいですか。
純はその気持ちを隠すように、受け取ったペーパーフラワーを両手で包み込んだ。
――先輩、ほんとうにありがとうございました。
涙を見られないように、深く頭を下げる。すると、つむじをポンポンと撫でられ、堪えきれなかった涙が足元に弾けた。
開いた両手の中では、ペーパーフラワーが蕾のようになっていた。伝えられなかった、この気持ちのようだった。
どうして、水野先輩の元から潔く立ち去れないのか。その理由は、おれ自身がよく分かってる。
葵は純の胸の内を悟ったのか、ため息を吐いた。
「あなたの役に立ちたいって、自分もこの暮らしを支えたいって、背伸びしないでいい、そのままのあなたがいいって、先輩に伝えた? まあ、彼はプライド高そうだから、伝えても跳ね返されちゃうかもしんないけど……。ベティーちゃんは、先輩が先輩がって言うけど、おれからすれば、ベティーちゃんだって、ほんとうに先輩のこと想ってんのかなって感じだよ。あの夜のことだって、話し合いたいなら、自分から切り出せばいいじゃん。ちょっと受け身すぎんじゃない? ベティーちゃん、自分は先輩にふさわしくないとか謙虚なこと言ってるけど、ほんとうは、先輩を失うのが怖くて核心に踏み込めないだけなんでしょ?」
「……失うのが怖くてしょうがないくらいには、彼のことを想っているつもりです」
か細い声で吐露すると、葵はニヤッと笑った。
「ベティーちゃんさ、おれとルームシェアできる?」
「え?」
「部屋は……カップル御用達の2LDKなんかどう? 自室ありーの、その他は共有ってことで。いーじゃん、おれたち趣味が合うし、相性もまあまあいい。ベティーちゃんだって、おれと一緒にいると楽しいでしょ? 家賃も光熱費も水道代も半分こ。生活費、浮くよー? どう?」
「無理です」
純はきっぱりと断った。葵は「どーして?」と問い、ニヤニヤ笑った。
「誰かとルームシェアするなんて、水野先輩でなければ無理です。おれは一人が好きなんです。パーソナルスペースが人一倍広いことも、人間関係にストレスを感じやすいことも自覚してます。おれは、無理をしてまで他人と暮らそうとは思わない。どんなに気の合う友だちでも、それは例外じゃない」
葵は笑みを深め、「同感~」と声を弾ませた。
あっ……。そうか、おれ……。
ほんとうの気持ちが、心の扉から顔を出す。
そうか、おれ、身を引きたいわけじゃないんだ。水野先輩の傍に、一番近くにいたいんだ。……水野先輩じゃなきゃ、だめなんだ。
「片岡先輩!」
はっきりと呼べば、葵は片頬を上げ、軽やかに笑った。
「うじうじして、すみません! 話聞いてくれて、ありがとうございました!」
純は弾かれたように駆け出し、大学を飛び出した。
同じ、先輩と後輩という構図でも、晴臣といるのと葵といるのとでは全く違う。
葵とケンカできるのは、友だちだから。そうやって分かり合うものだって知っているから。晴臣を慮って言いたいことを言えなかったのは、彼は自分にとって「友だち」ではなく「好きな人」で、衝突して彼を失うくらいなら、言いたいことを我慢する方がましだったから。
でも、本音でぶつかり合わなければ、分かり合えない。あなたの言う「ほんとうのおれ」を、おれは知りたい。
晴臣と分かり合いたいという気持ちが、晴臣を失う恐怖をはっきりと上回る。
こんなおれは、あなたを困らせるだろうか?
でも、もう、この気持ちを誤魔化すことなんてできない。おれはあなたを知った。あなたの言う「ほんとうのおれ」の、ほんのひと欠片を掬い取った。無精ひげや、お節介なところ、先輩風を吹かせるところ、頑張っている姿を見せようとしないところ。おれはそれらを、愛おしく思ってる。
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