スーパーシティ ～放置国家～

第十一章

第一話 元レーサー

　前方の鉄橋は破壊され、後ろからは銃で狙いを定められ、濠に飛び込む

しか逃げ場は無くなった。その時突然、元レーサーは車輪を思い切り車

から蹴落とした。ザッパ~ン！、、濠に落とされる車輪。「アンタは岸

まで泳いで逃げろ！」、、元レーサーはそう叫ぶとギアをバックに入れた。

「バカな事考えるなっ、一人で死ぬ気かっ」、、


　「うるせーっ俺にもカッコ付けさせろっ！いつもいつも脇役でよー、

名前だってあだ名すら考えて貰えねーんだぞっ、元レーサーって、そりゃ

職業だろうがーっ！」、、そう言うと凄い勢いでバックしながら後ろの

警察ロボットやAI車両に向かって行った。AIは二人が濠に飛び込む計算を

はじき出していたので思考回路が一瞬停止した。


　「オラァァァーッ」、、決死の表情で後ろを見ながらハンドルを捌く

元レーサー。飛び込んで泳ぐ二人を上から捉えて射殺、それが最新の

人工知能が導き出した答えだったので、逃げもせず戻ってくる等数%も

考えられなかった。とりあえず現状況を把握し、向かって来るセルシオ

を全ての銃が狙い撃ちする。


　元レーサーの行動の意味が理解できないAIはパニックを起し、濠に

落ちた車輪どころではなくなっていた。銃弾はセルシオの燃料にも引火

し、爆発しながら出口に突っ込んでAI車両に激突、炎上した。離れて

いて被害が無かったロボットやAI車両は全くワケが解らず、指令AIも

明確な指示が出せない。


　それぞれのAIは銃撃続行？捕捉？救助？退避？と答えが出ずに必死に

計算しながら静止している。爆発を見届けた車輪は我に返り、急いで

岸まで泳いで階段になった堤防から、スラム側に這い上がり後ろを見た。

「大馬鹿野郎がっ」、、炎と煙が湧き出るスーパーシティの出口を、

ボタボタと涙を流しながら見つめるしか無かった。