スーパーシティ ～放置国家～

第五章

第一話 無血開城

　長年意図的に腑抜けにして活かさず殺さず税金製造機にしてきた

筈の民衆から、武器を持って犯罪者と闘う者が現れた事に危機感を

募らせた政府は、一部の者しか利用できない完全民営化された警察

をそのまま国家警察として再スタートさせた。無論、暴力集団や本当

の犯罪の取締りが目的では無く、一般国民を抑え込む為だ。


　その武器を持って犯罪者と闘う車輪はとうとう大量殺人犯として

警察に追われる身となった。人殺しである事は車輪本人も当然自覚

しており、他に良い手があればそうしたいのは山々なのだが、国家

は自分達への不満の矛先を変える為に犯罪者を野放しにしておいて、

その犯罪者に抵抗する者は捕まえるというのだから筋が通らない。


　しかし今はまだ民衆がどうこう出来る状況では無い。車輪は倉庫

のオヤジのツテで、ある地方の町に元レーサーと共にしばらく雲隠れ

する事になった。地方ならばまだ国家警察の態勢が整っていないので

潜伏するには丁度良いからだ。民衆が立ち上がる力を付けるまでに

車輪が捕まっては元も子もない。それまでは派手な動きは禁物だ。


　民衆が立ち上がると言っても、クーデターとか武装蜂起を企てて

いる訳では無い。日本がこうなったのは、国民が消去法で票を入れる

様になった結果、現与党だけが圧倒的に一人勝ちを続け、野党は更に

弱くなった事で、与党は強力なライバルが居ないのを良い事にあぐら

をかく様になり、少しずつ独裁化してやりたい放題になったからだ。


　その与党で好き勝手やってる権力者のみ粛清し、与党全体の襟を

正せればムダな犠牲を抑える事が出来る。その為には民衆が声を

上げる必要がある、というのが車輪とその協力者達の考えだ。本物の

悪のみ成敗し、なるべく争いは避け、いわゆる無血開城を狙っている

のである。しかしまだその時期では無かった。