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ここでの生活 第3話
しおりを挟む私たちが取締組の門前に着いた頃には、既に日が傾いてきていた。
すると、神楽さんがパッと後ろを振り向いた。
「劉紀!ご苦労だった。辻斬りはどうだった。」
「おう。ざっと三十弱やな。数ばっかりで手応えのない連中やったわ。しっかり処分までさせといたで。」
神楽さんが声をかけた先には、任務を終えて帰ってきた桜谷さんがいた。
「桜谷さん!ご無事でしたか?……あっ血が!」
私は心配で思わず桜谷さんに駆け寄る。
「おう!そない慌てんでも大丈夫や。全部返り血や。安心せえ。」
「返り血……?良かったぁ。」
私は、ほっとして胸を撫でおろした。
「ちゅうか、京ちゃんなんで着物やねん。もしかして……抜け駆けして桃子ちゃんと出かけっとったんちゃうやろなぁ!?」
「そう言うな劉紀。出雲屋の団子を買ってきたんだ。一緒にどうだ?」
「なんやと!俺はそんなんで誤魔化せへんからな!」
安心したら桜谷さんと神楽さんのやりとりがなんだかとても愛おしく感じる。
「ふふ、桜谷さん、お茶を入れますから、中に入りましょう。」
「……ま、まぁ、桃子ちゃんがそういうなら、しゃーないのう……」
桜谷さんのお部屋で、私はお二人にお茶を入れた。その間に私は、汚れた桜谷さんの上着を預かり、近くの井戸へ向かった。洗濯は灰汁を使っているようで、桶が傍に置かれている。
早く汚れを落とさなければ、高そうな隊服にシミがついてしまう。私は急いで洗濯をし、物干しに隊服を干した。
全自動洗濯機ってすごいなぁ、一気に沢山洗えるし。
と思いながら桜谷さんの部屋へ戻る。
「桃子ちゃん。わざわざありがとうな。」
「いえ、お仕事お疲れさまでした。朝から大変でしたね。」
「ホンマやでぇ。あない雑魚が大騒ぎしよって、全く肩慣らしにもならんかったわ。」
「桜谷さんは、とってもお強いとお聞きしました。」
「んー、せやなぁ。相手になるやつがおらんくてのぉ。俺が認めた強いやつは、みーんな取締組におるし、つまらんくて敵わんわ。」
「では、桜谷さんのおかげでこの辺りは平和なんですね。」
「へへっ、そらそうや。……なぁ桃子ちゃんのいた世界には、なんかおもろいこと無かったんか?俺に教えてや!」
「そうだな、ぜひ俺も聞きたい。」
桜谷さんと神楽さんはキラキラした瞳で私を見つめている。とってもかっこいいけど、そんな突然無茶ぶりをされても困るなぁ。
私が楽しかったことと言えば、イケメンを眺めることだけど、桜谷さんと神楽さんは毎日自分や周りの美しい顔を見ているんだし、楽しくもなんともないだろう。
うーん、なにかあるかなぁ。この世界でもできそうな、面白いこと……。
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