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2章
黎明に咲く花 第2話
しおりを挟む私は、御籐様と念願の結婚後、御籐組のお屋敷で生活させていただくことになった。
新婚ということもあり、歌手としての仕事はセーブし、毎日お屋敷の切り盛りに奮闘しているところだ。
御籐様は、あの一件後、正式に白明会直系の組長へと昇格、かつ白明会の大部分の組を吸収し、現在では白明会一の組員数を誇る組長さんとなっているらしい。私はあまり会わせてもらえないが、お屋敷にも沢山の若衆の人たちが挨拶にやってきているようだ。
御籐様の計らいもあり、叔父は現在も白明会の会長を継続しているが、おそらく実質的な権限は圧倒的に御籐様が持っていると言っていいだろう。
極道のことをあまり理解していない私が言うのもなんだが、そもそも叔父が御籐様程のお方を懐柔しようとしたこと自体が無謀だったのだ。
そんなこんなだが、毎日私は幸せな新婚生活を送らせていただいている。御籐様は、組の仕事と闘技への出場があり、とても忙しいだろうが、まめに帰宅してくれ、できる限り一緒に過ごせるよう工夫してくれている。
そんな健気な旦那様に応えるべく、私は毎日張り切って家事をしていた。
さて、今日も旦那様が帰宅される前までには、食事と浴場の準備は終えておきたいところだ。
私は、着物をたすき掛けし、厨房へと急いだ。
「姫様、お気持ちはありがたいのですが……お屋敷の仕事は給仕どもで行いますので、ごゆっくりなさってください!」
給仕さんは、いつもそう言ってくれる。既にお屋敷の広い敷地のお掃除も大量のお洗濯も完ぺきに給仕の人たちがこなしており、正直私の出る幕はない。だが、私も旦那様のために何もせずにはいられなかった。
「せめて、お食事の準備のお手伝いだけでも!お願いします!旦那様に私の手料理を召し上がっていただきたいのです!」
少し前に御籐様と二人暮らししていたときは、私がご飯を作っていたのになぁ……夢の中だけど……
「……姫様がそこまで言うのなら……では、こちらをお願いいたします。」
「ありがとうございます!頑張ります!」
良かった。やっと仕事が貰えた。こういうところで、良いところを見せ、給仕さん達からも信用を得なくてはならない。
今日の夕食の献立は、筍の木の芽和え、米粉麺と鯵のスープ、鴨肉のローストね。すごい、流石プロの考えるメニューね。難しそうだけど、頑張ってお手伝いしよう。
私は、スープ用に大根や青梗菜などのお野菜を切っていく。
「なかなかありませんよ。奥様が厨房に立っているお屋敷なんて。旦那様は幸せ者ですね。」
「い、いえ、そんな、これくらいのことしかできませんから。」
少しでも旦那様の喜ぶ顔が見たいものだ。やはり給仕さんは手際が良く、私が野菜切りに奮闘している間にもどんどんと料理を進めていく。
「姫様、浴場の準備は既に終わりました。」
「あぁ、いつもありがとうございます。」
料理が終盤に差し掛かった頃には、すでに大きな夕日が出ており、旦那様をお迎えする準備も整いそうだ。
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