黎明のカサブランカ

浮嶋 ひかり

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2章

月桂 第1話

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 ゆめは、焦っていた。どうやら、自分は金代に狙われているらしい。噂によれば、金代は叔父の経営している私の事務所を乗っ取る気だ。金代とは、あまり接したことはないが、如何にもヤクザといった感じで、とても冷たい目をしており、昔から苦手だった。
おそらく、そろそろ私のしたことに勘づいているのだろう。そうなれば、金代が私のことを許すとは思えない。おそらく、自分の身は危ない。

そう自問自答していた時であった。楽屋の外から、大きな音と怒鳴り声が聞こえる。ゆめは身の危険を感じ、焦って楽屋を飛び出した。

当てもなく走ると、そこには、監視のヤクザを倒した様子の御籐が立っていた。
「御籐様っ!」
「ゆめ!!」

私は、あまりの嬉しさに何も考えられず、ただ名前を叫びながら御籐様に駆け寄った。すると、御籐様は私を強く抱きしめてくれた。

「……会いたかったで、ゆめ。」

「私もです。御籐様。」

「……話は後や!今はここを出るで!」

私と合流した御籐様は、若衆の用意していた車に乗り込み、六華武道場へ急いだ。

「どこへ行くつもりですか?おそらく叔父と金代が追ってきます!早く逃げないと!」

私は、焦って状況を伝えようとする。

「……あぁ、つけられてんな。けど、心配せんでええ。お前は、必ず俺が守ったる。」

御籐様は、私の手を強く握った。

「……御籐様、私、やっと御籐様の言ってることが分かったんです……。」

「俺も、やっと分かったわ。お前の言いたいことは、全部分かっとる。……全て終わったら、話そうや。」

そう約束し、私たちは、六華武道場へと駆け込んだ。



 すると、間もなくであった。大勢の白明会と金代組の組員が駆け込んでくる。御籐様の部下の人と仲澤組の人も応戦するが、圧倒的にこちらの方が数が少なく、不利な状況であった。

「御籐!てめぇ、親に歯向かいやがったなぁ!お前はここで俺が直接ケジメつけたる!」

組長の金沢が、後方からやってきて、御籐様を捉えた。

「……ゆめ!絶対俺の後ろから離れんなよ……。金代!親子の縁、今日限りで切らしてもらうわ!」

私は御籐様の背後に隠れる。御籐様と金代は、上着を脱ぎ捨て、臨戦態勢に入る。

戦い方のことなんて、よく分からない私でも、二人の戦いのレベルの高さは凄かった。本当にどちらかが死んでしまうのではないかと、心配になるほどであった。

金代もさすが、白明会で長年直系の組長をやってきただけあり、相当な強さだ。

しかし、それでも御籐様は格段に強かった。動きの速さも、力強さも、人知を超えていた。御籐様は、金代だけでなく、応戦してくるヤクザも相手にしながら戦っていた。



 結果は、御籐様の圧勝だった。ボロボロになった金代や大量のヤクザは、倒れ込んでいる。


「きゃ!んんー!」

私が御籐様の無事に、油断した瞬間に誰かが、私を押さえつけ、口を塞いだ。そしてナイフのような刃物が視界に入り、身体が震えあがる。

「……ハハ、御籐……はぁ……残念やったな……後ろがお留守やで……。下手に動いたら、女は傷もんや……。」

座り込む金代が血を吐きながら、御籐様に言った。



 私にナイフを突きつけているのは、私の想像もしない人物……私の叔父、まさしくその人であった。私は、頭が真っ白になった。

「……お前ら!どこまで卑怯なんや!ゆめを離せ!」

御籐様も、身動きを封じられる。

「……おい。クソアマァ!事務所の登記一式どこに隠しよったぁ!?ここで吐かんと、その可愛い顔台無しなるでぇ……。」

「……頼む。ゆめ、傷つけたくない。」

金代と叔父は、そう言い、私を脅すのであった。
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