黎明のカサブランカ

１章

午後の蒼天 第1話

　「ゆめ、単刀直入にいう。御籐とは、もう会うな。」
叔父さんは、私に話があると言った途端、耳を疑うようなことを言ってきた。

「……え？それってどういうこと？」
私は、理解できず、叔父さんに聞き返す。

「ゆめ、お前は、歌手として今が一番大事な時期なんだ。それをたかがスキャンダルくらいで潰したくはないだろう。ゆめ、辛いだろうが、もう御籐と会うのはやめなさい。」
叔父さんの話を聞いている内に、私の目から涙が溢れる。

「嫌！私は、御籐様が好きなの！絶対離れたくない！」
「ゆめ、御籐は普通の男じゃない。ヤクザなんだ。どちらにしろ、お前とは一緒にいれない。」
「ヤクザでも関係ない！それに御籐さんの傍にいれないなら、歌手なんてやめる！」
私がそう叫んだ瞬間、叔父さんは私の顔をパンッと殴った。

「いい加減にしなさい！お前は私の姪というだけで、堅気なんだ！わざわざ極道の世界に来る必要はない！しかも、お前が歌手になるまで、どれだけの人が協力してきたと思ってるんだ！少しは将来のことを考えて行動しろ！」
私は、何も言い返すことができなかった。でも、何を言われても私の気持ちは変わらない。御籐様と一緒にいたい、ただそれだけだった。



　「親父。それはどういうことですか？」
御籐は、組長の金代に呼び出され、金代組事務所まで来ていた。御籐の眉間には深く皴が刻まれている。

「御籐。何度も同じこと言わせんなや。涼明には金輪際会うな。極道が堅気に手出すもんやない。好きな女の幸せを一番に考えてやるのが、男ちゅうもんや。それに、もう涼明からも了承を得てる。やからなんも心配あらへん。」
御籐は、握った拳が怒りで震えていた。

「涼明が俺にはもう会わないと、ホンマにそう言ったんですか？」
御籐は、金代を睨む。

「ああ、そうや。お前がその奇抜な恰好やめれば、女なんて選り取り見取りやろ。涼明はたまたまダメやっただけや。俺が女見繕ったってもええで。」
金代は御籐を馬鹿にするように笑う。

「俺が涼明に直接確かめます。」
御籐は納得できなかった。

「あぁ？お前、親の命令に逆らう気か？逆らったらどうなるか分かってんねやろなぁ？」
金代も御籐を睨み返す。

「っ！上等や！なんぼでも逆らったる！」
御籐は、肩を震わせ、言い残し、金代組を飛び出した。