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1章
旭日昇天 第1話
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私は、十六歳になって、ようやく歌手としてデビューする。今日、叔父の部下たちが集まるところで、私のお披露目会もしてくれるらしい。大勢の前で歌うのは少し緊張するけど、憧れていた歌手にようやくなれる。……そうすれば、あの人もどこかで私の歌を聞いてくれるかもしれない。
「おお、ゆめ。準備はできたみたいだな。その着物も今日の為に、わざわざ仕立てさせた甲斐があったな。良く似合ってる。」
部屋に入ってきた私の叔父、風波は満足そうに微笑んだ。黄色の地に刺繍でカラフルな手毬があしらわれている。高そうな着物だ。正直、私は、着物より洋服の方が好きだけど、折角叔父さんに頂いたものだし、着させてもらった。
「そう緊張しなくても大丈夫さ。今から会談が始まる。お前が歌うのは、少し先になるだろう。気分転換に庭で散歩でもしてなさい。」
叔父さんは、緊張している私に気を利かせてくれた。たしかに外にいた方が、気持ちが落ち着くかもしれない。叔父さんの言うとおり、私は庭に出ることにした。
桜は七分咲きといったところか、花びらが少しずつ散っていて、暖かい陽気だ。空も青く澄んでいて心地いい。松の木の横を通り、梅の木の下に来ると、鯉が泳ぐ池のもとに着く。
今でもずっと忘れられない。あの人に会ったのは、この場所だったな。恥ずかしがり屋で、小さい声でしか歌えなかった私の歌を、初めて一生懸命褒めてくれた人。叔父の稼業もあるせいか、怖い大人が周りに沢山いた私に、とても優しそうに笑ってくれた人。
幼かった私はその人に初めて恋をした。出会ったときも、その人は既にいい大人だったから、きっともういいおじさんになってるかもしれない。それでも、もしかしたらまたその人に会えるかもしれないと、この庭に来る度に、この池の前へ足を運び、歌を歌っていた。
「おいっ「えっ!」」
歌っていて、まったく気がつかなかったが、急に誰かに肩を掴まれる。
私の目の前には、以前この池で出会った初恋の人が、そこに立っていた。急なことで頭が追い付かないが、出会ったのは、何年も前なのに、さほど、歳をとっている気がしない。別人だろうか。
「お前!名前は?お前に瓜二つなもう少し年上な姉ちゃん知らんか!?」
私の初恋のそっくりさんは、私と同じくそっくりさんを探しているようで、何やらとても焦った様子であった。
「私に姉はいないですけど……。わ、私は、涼明です。あ、貴方は?」
「俺は、御籐信治郎や。やっぱり、ちゃうんか。でも恐ろしいほど、そっくりや。」
御籐という男は、初対面にも関わらず、私の顎を掴み、私をじっと見つめる。初恋の人と同じ顔に見つめられ、思わず赤面する。私も気になっていたことを尋ねる。
「あ、あの私も、あなたによく似たもう少し、年上の方を探してるんです。小さい時、この場所で会った人なんです。」
勇気を振り絞り、そっくりさんに尋ねる。何か情報が得られるかもしれない。
「ほぉ。悪いけど、それは知らんなぁ。」
そっくりさんは、何を考えているのか分からない表情をしており、さらには、私を離そうとするどころか自らの方に抱き寄せる。
「けど、アンタも俺好みや。」
初めて異性と急接近し、私の鼓動はピークに達し、何も言い返すことができなくなった。
「おいっ!御籐!急に席を外したと思ったら、こんなところで何してる!それは私の姪だぞ!女好きも大概にしろ!」
叔父が私の様子を見に来たようで、ようやく彼が離れホッとする。
「……おいおい。嘘やろ。よりよってアンタの親戚かい……。」
彼は、一瞬にして項垂れた。
「それはこっちのセリフだぞ。御籐くん。いいから二人とも会場に来なさい。ゆめ、出番だぞ。」
叔父に言われ、私は急いで叔父の後を追う。
その時、彼が「……ゆめやと?」と呟いたことを知らずに。
「おお、ゆめ。準備はできたみたいだな。その着物も今日の為に、わざわざ仕立てさせた甲斐があったな。良く似合ってる。」
部屋に入ってきた私の叔父、風波は満足そうに微笑んだ。黄色の地に刺繍でカラフルな手毬があしらわれている。高そうな着物だ。正直、私は、着物より洋服の方が好きだけど、折角叔父さんに頂いたものだし、着させてもらった。
「そう緊張しなくても大丈夫さ。今から会談が始まる。お前が歌うのは、少し先になるだろう。気分転換に庭で散歩でもしてなさい。」
叔父さんは、緊張している私に気を利かせてくれた。たしかに外にいた方が、気持ちが落ち着くかもしれない。叔父さんの言うとおり、私は庭に出ることにした。
桜は七分咲きといったところか、花びらが少しずつ散っていて、暖かい陽気だ。空も青く澄んでいて心地いい。松の木の横を通り、梅の木の下に来ると、鯉が泳ぐ池のもとに着く。
今でもずっと忘れられない。あの人に会ったのは、この場所だったな。恥ずかしがり屋で、小さい声でしか歌えなかった私の歌を、初めて一生懸命褒めてくれた人。叔父の稼業もあるせいか、怖い大人が周りに沢山いた私に、とても優しそうに笑ってくれた人。
幼かった私はその人に初めて恋をした。出会ったときも、その人は既にいい大人だったから、きっともういいおじさんになってるかもしれない。それでも、もしかしたらまたその人に会えるかもしれないと、この庭に来る度に、この池の前へ足を運び、歌を歌っていた。
「おいっ「えっ!」」
歌っていて、まったく気がつかなかったが、急に誰かに肩を掴まれる。
私の目の前には、以前この池で出会った初恋の人が、そこに立っていた。急なことで頭が追い付かないが、出会ったのは、何年も前なのに、さほど、歳をとっている気がしない。別人だろうか。
「お前!名前は?お前に瓜二つなもう少し年上な姉ちゃん知らんか!?」
私の初恋のそっくりさんは、私と同じくそっくりさんを探しているようで、何やらとても焦った様子であった。
「私に姉はいないですけど……。わ、私は、涼明です。あ、貴方は?」
「俺は、御籐信治郎や。やっぱり、ちゃうんか。でも恐ろしいほど、そっくりや。」
御籐という男は、初対面にも関わらず、私の顎を掴み、私をじっと見つめる。初恋の人と同じ顔に見つめられ、思わず赤面する。私も気になっていたことを尋ねる。
「あ、あの私も、あなたによく似たもう少し、年上の方を探してるんです。小さい時、この場所で会った人なんです。」
勇気を振り絞り、そっくりさんに尋ねる。何か情報が得られるかもしれない。
「ほぉ。悪いけど、それは知らんなぁ。」
そっくりさんは、何を考えているのか分からない表情をしており、さらには、私を離そうとするどころか自らの方に抱き寄せる。
「けど、アンタも俺好みや。」
初めて異性と急接近し、私の鼓動はピークに達し、何も言い返すことができなくなった。
「おいっ!御籐!急に席を外したと思ったら、こんなところで何してる!それは私の姪だぞ!女好きも大概にしろ!」
叔父が私の様子を見に来たようで、ようやく彼が離れホッとする。
「……おいおい。嘘やろ。よりよってアンタの親戚かい……。」
彼は、一瞬にして項垂れた。
「それはこっちのセリフだぞ。御籐くん。いいから二人とも会場に来なさい。ゆめ、出番だぞ。」
叔父に言われ、私は急いで叔父の後を追う。
その時、彼が「……ゆめやと?」と呟いたことを知らずに。
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