黎明のカサブランカ

浮嶋 ひかり

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1章

薄明の朝露 第2話

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 ダン!ダン!と朱一色に塗られた床を裸足で大男だ容赦なく歩き回る。御籐組の大屋敷は、豪華絢爛で金や極彩色の石があしらわれており、屋敷の至る所に鬼の顔が描かれている。

「御籐の親父!おはようございます!昨日のタイトル戦の防衛お疲れさまっした!全く危なげなく、さっすが、親父っスねぇ!」
屋敷に住み込みの若衆は、朝から御籐の後ろについて回り、世話をしたり、ごまをすったりで大忙しである。

「アカン!つまらんねん!弱いやつばっかや!俺はもっと強いやつと闘りたいねん!」
御籐は、赤の羽織で風を切る。なんとも物騒な出で立ちで、朝からこの気迫である。

「ひぃ。す、すんません!あのですね、明日、白明会の幹部会がありまして、風波会長から、次こそは必ず出席するように、とお話が……。」
「あぁ?なんで俺がそんなん出るしかないねん!面倒や!お前代わりに行ってこいや!そんなとこ行くくらいやったら、水茶屋の姉ちゃんとこでも行った方がよっぽどええわ!」
御籐は、若衆を睨みつけ怒鳴り散らす。

「そ、そんなぁ。」
大音量で行われる毎朝の恒例行事のやり取りに、屋敷の給仕達はクスクスと笑みをこぼした。




 「おぉ。兄弟。久々に来たか。前回すっぽかしたときは、流石に会長もカンカンやったからのぅ。それにちゃんとスーツで来たな。いつもの晴れ衣装じゃなくて安心したわ。」
御籐の兄弟分である、岩倉は風波屋敷で御籐を出迎えた。

「おう。誰かさんがうっさいからな。しょうがなく来ったわ。でも暇んなったら、すぐ帰るで。あんなとこ何時間もおれんわ。」
御籐は渋々といった様子で、若衆の運転する車から降りてきた。
御籐は、若衆が準備したジャケットに仕方がないといった様子で袖を通す。

この数年で、白明会直系金代組はかなりの変化を遂げた。若頭であった菊矢は、御籐に悪事を暴かれ、組を追放された。御籐は、自分の組を持つ極道にまで出世した。

「……ホンマ、つまらんのぅ。」
御籐は物憂げな表情でため息をついた。


御籐は、あの時から休む間もなく、矢継ぎ早に動き続けている。

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