黎明のカサブランカ

浮嶋 ひかり

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序章

明けの明星 第3話

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 バー・クラリスで御籐は、見るからに頭を抱えていた。

「結局あれ以降、ゆめちゃんから話は聞けてないっちゅうことやな、兄弟。」
岩倉は、御籐にウイスキーのグラスを渡す。

「……問い詰めたとこでゆめは口割らんしなぁ。しばらくロクに口も聞いてへん。」
御籐は、苛立ちからか髪を後ろにかき上げ、煙草をくわえる。

「そうかぁ。でも悪い子には見えんかったけどな。」
岩倉は、御籐が見込んでいるだけあり、人を見る目がある男だと御籐も感じている。おそらく、ゆめには何らかの事情があることを二人は勘づいていた。

「それは俺も分かってんねん。俺に悪意があんなら、もっと前に隙があるはずや。それにゆめが嘘ついてるようにも見えん。」
誰かがゆめを仕向けたと考えたとしても、もっと早くに御籐を陥れらる隙は沢山あった。策略があるとするなら、尾を掴まれないよう早期に仕掛けをしてくるはずだ。

「……ただ、何か理由があるとしても、俺に相談してくれればええのに、なんでなんも言わんのや。」
御籐はカウンターの上で、グッと拳を握る。

「ヤクザの口の割らせ方なら、得意なんやけどなぁ。女心はサッパリや。」
御籐は、そう言いながらジャケットのポケットから小さい箱を取り出す。

「なんや、そんなこと口ではそんなこと言うて、プロポーズでもする気かいな。」
岩倉は、明らかに女性物の指輪が入っているであろう箱を見て、御籐をからかう。

「ちゃうわ!そんなんやあらへん、たまたま似合いそうやと思って、買うただけや。仲直りすんのに、女はこういうの好きやろ。」
御籐は珍しく落ち着かない様子であった。

「まぁ、仲直りが上手くいくよう応援しとるで。兄弟。……あと、菊矢のことやけど、勿論、お前も色々探っとると思うけどな、こういう時は探偵とかも使うとええで。」
「探偵って、わざわざヤクザに協力したがる探偵おらんやろ。」
「それがおんねん。しかもかなり頭も切れる、腕も立つな。前に俺も一回世話になったことがある。この、釧路大也ちゅう奴や。」
岩倉は御籐に名刺を渡す。

「腕が立つ探偵かぁ。俺が言うのもなんやけど、怪しいやつやなぁ。」
腕っぷしのいい探偵など、自分たちのような者とあまり変わらないのではないのかと御籐は思った。

「まぁ、良かったら一遍会ってみたらどうや。」
たしかに、一度会うくらいなら悪い考えでは無いかもしれない。
御籐は、岩倉に礼を言い、席を立つ。



 御籐は、いつもより少し時間をかけて自宅へ帰った。



 しかし、自宅の部屋には誰もいなかった。床にはゆめが着ていた服が、忽然と残っており、まるでゆめだけが突然と消えたかのように。



御籐は、信頼できる部下や探偵まで使い、何日、何か月もゆめを捜索した。


だが、ゆめに関する情報は全くなく、ゆめが再び帰ることはなかった。


 御籐は、ゆめと過ごした日々をまさしく夢のように感じた。


 序章END

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