断罪イベントは回避します!

公爵 麗子

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明らかな罠

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これは罠である。それは火を見るより明らかだ。
しかし、無視することも出来ない。何故なら、この事実は今まで考えられていたものと一致しているからだ。
「では、間違いないのか?しら?私が考えたのはただの可能性でしかなかろう」
「ええ、そうですね」と、俺は頷く。可能性の一つではあっても、今はそれしかない。何故なら──
「彼女は『異世界人だから分からない』と言ったんです──つまり『この世界の人間ではない』って言っているんですよ?」
それに、彼女以外のクラスメイトが全員、異世界人なら。彼女は異世界人ではないという事に──
「では、全員がこの世界の人間?」
「そう考えるのが妥当じゃないですか?」
無論、まだ確定したわけではない。彼女が嘘を言っている可能性もあるし、もっと別の何かがあるのかもしれないが……現状ではこれが一番有力だ。
それにこの謎を解くカギはもう一つあるのだ。それは──
「──つまり、彼女も転生者である。ということか?」
私は頷いた。そしてそれがこの事件の鍵になると──そう言って。
「ええ──彼女は『転生者』である。そう考えるのが妥当です」
「転生者?」
彼女は思わず聞き返す。聞きなれない言葉だ。
(何かの専門用語か?)
彼女の疑問に答えるように、私は話を続けた。
「ええ、異世界からこの世界に生まれ変わる者の事ですわ」
説明をまとめるとこうだ。
【異世界人】:何らかの理由でこの世界に訪れる人達の事。例えば召喚や転移などがあるらしい。この国だとこの『異世界人』はかなり貴重で、基本的には転生者の方を指す。
【転移者】:召喚や転移などでこの世界に来た異世界人の事。
【転生者】:何らかの理由でこの世界に生まれ変わった異世界人の事。この場合は元の世界に未練もなく、この世界で新たな人生を送る者が多いようだ。
「しかし……」
しかし彼女は苦い顔をしていた。
「なにか気になることがありまして?」
私が聞くと彼女は渋い顔をしたままこう言った。
「うむ……私が最初に言ったように彼女は明らかに怪しい」
それは私も重々承知している。
「ですが、怪しすぎるがゆえに、逆に彼女の言っている事を真に受けてしまう人も多いと思われますわ」
つまり彼女が何らかの理由で嘘を付いているとしても。それを信じるに足る理由があれば信じてしまう。それが人間というものだからだ。
「なので彼女を転生者だと疑っている人達と一緒に彼女のその嘘を暴く必要があると?」
「ええ──それには何かしらの手がかりが必要です。それを探すには時間が必要ですわ」
彼女は納得したように頷く。
「なるほど、では私に手伝える事はあるか?」
私は首を横に振りながら答える。
「いえ……今は特にありませんわ。ただ何かあった時はお願いしますわ」
それを聞いて彼女はニヤリと笑う。それは獰猛な獣のようで、それでいてどこか美しい──まるでそんな印象を与える笑みだった。
*******
「私は考えを変えるつもりはありませんわよ」
私──ナスターシャ=フォンはそう伝えた。
目の前にいるのは、私の数少ない友人であり、クラスメイトでもあるアリス・マッカーソンだ。彼女はどこか困惑した表情を浮かべている。

それもそうだろう。私が彼女に対してこう言い放ってしまったからだ──『今までの言動は全て演技だった』と。
しかし……それは仕方のない事だ。何故なら事実なのだから。私は今まで彼女の前で演じた姿は全て演技だったのだから。
(本当はこんなキャラじゃありませんし)
私は内心で苦笑しつつ、続けてこう言った。
「そもそも。貴女は何かを勘違いしているんではなくて?」
「え……?」と、彼女は呆然とした様子でこちらを見つめてくる。その目は明らかに動揺の色が窺えた。
(ここまで計画通りですわ)
私は内心でほくそ笑む──いや、実際には笑ってはいないのだが……とにかく予定通りに物事が進んでいる事が嬉しかったのだ。
そんな私の心情など知る由もない彼女はこう言ってくる。
「……どういう意味?」その声は震えていたが、それでも必死に平静を装っているのだろう。
(あぁ……可哀想に)
私は思わず同情しそうになったが、それをグッと堪える。ここで油断してはいけないからだ。
「言葉通りの意味ですわ」
「……」彼女は何も言わない。いや……言えないのだろう──何故なら彼女は既に分かっているはずだから。私が何を言いたいのかを……それでも認めたくないという気持ちは痛いほど分かる──だって私自身もそうだったのだから。
だからこそ私はこう続けたのだ──最後の宣告として。
「貴女は初めから『私』を疑っていた」
「……っ!?」彼女はまるで雷にでも打たれたかのような表情を見せた。それはまるで信じられないものでも見るかのような──そんな顔をしていた。
私はそんな表情を見てほくそ笑む──計画通りに進んだ事が嬉しくて仕方なかったのだ。
(あとはトドメを刺すだけですわね)
私は満面の笑みを浮かべながら彼女にこう言ったのだ──今までで一番の笑顔でこう言ったのだ。
「だから私は最初から『全て嘘』だと教えましたわよね?」「うぅ……」
アリスは目に涙を浮かべていた。それは悔し涙か──はたまた悲し涙か。どちらかは分からないが、そんな事はもうどうでもいい事だった。何故なら彼女の役目は終わったのだから── *******
損な役目だが、彼女を守るためにはこうするしかないのだ。
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