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猫好きの転生
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車に轢かれそうになっていた猫を助けようとした私は、どうやら悪役令嬢に転生してしまったようです。どうしましょう。
子どもの姿になってしまったことを確認しこの姿の女の子の記憶も全てあり家族などの情報も分かった。そんな状況に戸惑っていた。
それに、道端に倒れている?寝ている人がいますわ。
「ええと、大丈夫ですか?」
返事がない。でも生きてるわよね? これってどういう状況だろう。死んでるように見えるけど、触ってみると暖かいし、呼吸している音も聞こえる。
「あの……起きてくださーい」ペチペチとほっぺたを叩きながら呼びかける。
「う……うう」
「あ、起きましたか?ちょっと!大丈夫ですか?」
「……お腹がすいた」
お腹すいたって、そりゃそうでしょうよ!こんな道端で倒れてるんだもん。この人は行き倒れだろう。見た感じ身分の高そうな身なりをしているけれど……放ってはおけないわ。
私は鞄を漁り、パンを取り出し、半分ちぎって口に運ぶ。別に毒が入っているわけじゃないけれど、普段食べないパンを人にあげるなんて、我ながら大胆だ。
「はい、これ」
私はちぎったパンを倒れている人の口に入れた。
「う、うまい!」
そう言いながら勢いよくパンとリンゴを食べきると、その人は再びバタリと倒れてしまった。
「ちょっ!ちょっと!しっかりして下さい!!」
そのあと私が何をしたかと言うと……お医者さんを探しました。通りすがりの人に聞いたりしてようやく見つけたのはお医者さんじゃなくて薬剤師だったけれど……まあ、お医者さんを探すよりよほど早かったのは確かです。
薬剤師の方に胃薬を処方してもらったので、それを飲ませてようやくこの方は落ち着いてくれました。
「ああ……生き返った」
「それは良かったですわね」
「ありがとうお嬢さん。君が通りかかってくれなかったら私は飢え死にしていたよ」
お医者さん探してただけなのに、この方は大げさだなあ……まあでも元気になってよかったわ。それにしても髪の毛の色が珍しいわね。透き通るような銀色の髪に瑠璃色の輝く瞳……物凄く美形だわ。
「い、いえ!困っているときはお互い様ですから」
「ん?お嬢さんは魔法使いかい?」
え?どうしてそうなるの?魔法使いなんてこの世界にいないじゃない。私がポカンとしていると、彼はこう言った。
「それは魔法鞄だろう?それを持っている人は少ないからすぐに分かるよ」
あらいやだ。私ったらうっかりしてたわ。魔法鞄なんて持ってたらそりゃ怪しまれるわよね。でも、もう手遅れみたいだし仕方ないわ。ここは開き直って、この世界でも持っている人がそんなにいない魔法鞄を怪しまれない程度に使わせていただきましょう。
「はい。そうです」
「やっぱりそうか!さっきのパンは美味しかったけれど、食べ物は持ってないのかい?」
「ええ、さっきお渡ししたのが全部ですわ」
「それは大変だね……僕は医者なんだけどちょっと失礼するよ」
え、お医者さんが倒れてたの??
お医者さん(仮)は私の体をペタペタと触りながら調べ始めた。私は子どもなのでセクハラとは言われないだろうけど……とても恥ずかしいわ。でも、仕方ないわよね。
「うん。魔力はだいぶ減っているけれど、大丈夫のようだね。回復薬を持っているかい?」
「回復薬……持っていませんわ」
「そうか……困ったね。魔力を補充してあげたいところだけど……」
魔力の補充ってできるのかしら?私はふと思いついたことを質問してみた。
「あの、魔力を直接他人にあげることは可能なんでしょうか?」
私がそう質問すると、お医者さん(仮)は考え込んでしまった。そしてしばらくして口を開いた。
「理論的には可能だよ。ただ、魔力を渡すには相手との相性も大切だし……何より高度な魔法技術が必要だ」
「そ、そうですか……」
うう……私の魔力で誰かを助けられるかと思ったんだけどなあ。でも仕方ないわ。お医者さん(仮)は親切にも私のことを考えてそう言ってくれたわけだしね。
「あ!そうだ!」
お医者さん(仮)はそう言って何やら自分の鞄を探り始めた。そして中から何かを取り出した。
「これだ!」
彼が取り出したのは指輪だった。
「これは魔力補充の指輪だよ」
「魔力補充?」
「ああ、これを着けておけば、この指輪に込められた魔力を自分のものに変換できるんだ。万が一魔力を全部使い切ってしまっても、この指輪の魔力でいくらでも補充できるんだよ」
ああ!そんな便利なものがあるんですね!さすが異世界ですわ。これはとても役に立ちそうですわ。
「これを君にあげるよ」
お医者さん(仮)はそう言って私に指輪を差し出した。
「……いいんですか?」
「もちろんさ。今使ってる魔力補充の指輪が壊れてしまってね。ちょうど新しいものを発注してたから、これは予備用に保管していたんだ」
「ありがとうございます!」
私はお医者さん(仮)から魔力補充の指輪を受け取りました。さっそく指にはめようとしたのですが、なかなかうまくはまってくれません。私がもたもたしていると、お医者さん(仮)が私の手を取って嵌めてくれました。
「はい、これでオッケーだよ」
うう……何だか恥ずかしいですわ。お医者さん(仮)が美形なせいかしら。
「本当に助かりました」
「いいんだよ。じゃあ私はこれで失礼するよ」
そう言ってお医者さん(仮)は立ち上がりました。お礼にお茶でもと思ったんですが、断られてしまいましたわ。そして彼は私に手を振りながら去っていきました。またどこかで会えるといいんですけれどね。
あ!そういえば私、まだ自分の名前も名乗っていませんわ!名乗り忘れていたことに気づいたのは、彼が去ってからしばらくたってからだったのです。
「ええと、私はリーゼと申します」
私はお医者さん(仮)に向かってぺこりと頭を下げました。すると彼も名前を名乗ってくれました。お名前はルディさんと仰るそうですわ。どこかで聞いたことのあるような名前ですわね……どこだったかしら?まあ、思い出せないのならきっと気のせいでしょう。
「そうか……君があの有名なリーゼ嬢なのか!」
お医者さん(仮)……いえ、ルディさんがそんなことを言いましたが、何を仰っているのか私には分かりません。有名な令嬢なんて存在しませんからね。
「ええと……何か勘違いされてませんか?私はただの小娘ですわ」
「でも、あの悪名高いルーデン侯爵を子供ながら退治したんだろう?」
お医者さん(仮)がとんでもないことを言い出しましたわ!誰がそんなことを言ったの?私じゃありませんことよ。それにそのルーデン侯爵って誰ですか!?私は全く知らない人ですからね!
「違います!悪名高いって誰ですか!?」
私が慌ててそう言うと、彼はにっこりと微笑んでこう言いました。
「違うのかい?でも君は侯爵令嬢なんだろう?」
「え……どうしてそれを……?」
確かに私は侯爵の娘です。でもそのことを知ってる人なんてそうそういないはずなんですけど!ああ、もしかしてルディさんは私のことを騙そうとしているんじゃ……?私はすっかり怯えてしまいました。すると、ルディさんが私の頭を撫でながらこう言いました。
「ああ……ごめんね?怖がらせるつもりはなかったんだ」
うう、この美形にこんなに優しくされてしまったらドキドキしますわね……それにしてもこの人、私のことを警戒させないように優しく接してくれているんでしょうか?初対面でこんなに親切な人は初めてですわ。
「あの……どうして私のことをご存じなんですか?」
私は思い切って質問してみました。すると彼は、私の疑問に答えてくれたのです。
「僕は侯爵家からの依頼で何件かのお屋敷へ向かい診察をしてるんだ」
お医者さん(仮)もといルディさんは、なんと侯爵家のお抱え医師だそうですわ!しかも、私のお家もお世話になっているお医者様でしたのね……なんてことかしら。
「そうだったんですね……」
私がそう言うと、ルディさんは私に向かってこう言いました。
「君のお父上には大変お世話になっているよ」
どうやら私の父はお医者様に大変信頼されているようですわ。確かにうちの父様は優しくて素晴らしいお医者様だと思いますけど……でも、うちの父と知り合いなんてルディさんって何者なのかしら?気になりますわ!
私は思い切って尋ねました。すると彼は笑顔でこう答えてくれたのです。
「もちろんだよ。リーゼ嬢のお父さんは『名医』と呼ばれているんだよ」
「えっ?父がですか??」
確かに父は腕はいいけど……『名医』なんて大げさですわ。それに、どうして私がルディさんにこんなことを言われているのか不思議でたまりませんわ。でも、とりあえずここは話を合わせておきましょうか……リーゼと名乗っていますし。
「そんな凄いお医者様だなんて知りませんでした!」
私はそう言って目を輝かせておきました。すると彼はニッコリと笑ってこう言いました。
「ルーデン侯爵は有名な方だよ。僕がこれまで診てきたお医者様の中でも最高の腕をお持ちだ」
ルディさんの言葉に私は驚きました。まさか父がそんなにすごい方だとは思いもしませんでしたわ!うちのお父様はただ優しいだけじゃなかったんですね……見直しました!
「さて、僕はそろそろ行くよ」
そう言って立ち去ろうとするルディさんを私は引き留めました。せっかく知り合ったんですもの……このままさようならなんて寂しすぎますわ。それに、彼のことをもっと知りたいですしね。
「あの!よろしかったら今度我が家へ遊びに来ませんか?」
私がそう尋ねると、ルディさんは喜んでと答えてくれました。やったわ!これで彼とまた会う口実ができたじゃない!私はルンルン気分で家に帰りました。
********
「リーゼ、その指輪はどうしたんだい?」
お医者様(仮)と出会ってから数日後、私の様子を見に来たお父様が私の手を見て驚いたようにそう言いました。
あ!そういえば私ったらこの指輪をしたままでしたね……忘れてしまうところでしたわ。危ないところでしたわね。お医者様(仮)がくださったこの指輪……とても貴重な物なんですって。壊れやすいから普段は外しているようにと言われたんだけど……私はそうっと指から抜き、大切に指輪を保管することにしました。
「お医者様(仮)にいただいたんですの」
「お医者様?リーゼの知り合いかい?」
「ルディさんですわ」
ああ、お父様ってばいつもお医者様の話になると渋い顔をされるから、あまり名前を言いたくなかったのよね。でももうバレてしまったし……仕方ないわよね。
「ルディ?侯爵家のお抱え医師のルディかい?」
「ええ」
どうやらお父様はお医者様(仮)……いえ、お医者様(正式)のことをご存知のようでした。まあ、知る人ぞ知る名医だそうなので当然かもしれませんね。それにしたって驚きすぎですわよ?どうしたのかしら?
「なんてことだ……魔法の使える娘が見つかったという噂は本当だったのか……」
「お父様、何かご存知ですの?」
「ああ。リーゼ、よく聞きなさい」
お医者様(正式)が何をしたというのかしら?なんだかすごい重要な情報がありそうですわ!私は居住まいを正し、お父様の言葉に耳を傾けました。
「実はね、君の母上が亡くなったのはお父上の責任だと訴えを起こした人物がいるんだよ」
お医者様(正式)が私の母を殺したと仰るの?そんなこと、あるわけないじゃない!お医者様(正式)は私の母を心から愛していたのよ。もちろん私も彼のことを愛しているわ。
「お父様……それはおかしいですわ」
「ああ、分かっているよ。だからきっと何者かが仕組んだに違いないんだ!しかも魔力が関わっているそうだ…」魔力が関わっているということは、魔族が絡んでいるということですわ!魔族にたぶらかされたんですの?
「この一族は、かつて魔法使いの出世によって繁栄されていたんだ。」
「では、一族の誰かが犯人ということになりますわね」
「あぁ、そういうことだ。犯人はまだわかっていない。そして、新たに分かったことはこの一族の魔法使いとしてリーゼお前が選ばれたのだ」
「やっぱりそうなんですね」
お医者様(正式)が私を選んだということは、私に特別な力があるということですわ。でも、一体どんな力なのかしら?
「お前は人並外れた魔法の才能を秘めている……普通の魔法使いなど足元にも及ばないくらいにね」
お医者様(正式)は私を信じて選んでくれたのですね。そして、私はこの力をもちろん悪用はしたくない。
私はお父様に向かってこう宣言しました。
「お父様!私はお母様を殺した犯人を探し出してみせます!」
「リーゼ……そんなことをしなくても私が口添えをしよう。そうすれば……」
「いいえ!これは私の問題ですもの」
私がそう言うと、お父様はため息をついた。そしてため息をつきながらこう言いました。
「まったく誰に似たのか……しょうがないな、お前の好きにしなさい」
「ありがとうございます!」
それに、前世の私からしたらお医者様のことがめちゃくちゃタイプだったので魔法で大人の姿になって好きになってもらえるように努力したいと考えていたのでした。
子どもの姿になってしまったことを確認しこの姿の女の子の記憶も全てあり家族などの情報も分かった。そんな状況に戸惑っていた。
それに、道端に倒れている?寝ている人がいますわ。
「ええと、大丈夫ですか?」
返事がない。でも生きてるわよね? これってどういう状況だろう。死んでるように見えるけど、触ってみると暖かいし、呼吸している音も聞こえる。
「あの……起きてくださーい」ペチペチとほっぺたを叩きながら呼びかける。
「う……うう」
「あ、起きましたか?ちょっと!大丈夫ですか?」
「……お腹がすいた」
お腹すいたって、そりゃそうでしょうよ!こんな道端で倒れてるんだもん。この人は行き倒れだろう。見た感じ身分の高そうな身なりをしているけれど……放ってはおけないわ。
私は鞄を漁り、パンを取り出し、半分ちぎって口に運ぶ。別に毒が入っているわけじゃないけれど、普段食べないパンを人にあげるなんて、我ながら大胆だ。
「はい、これ」
私はちぎったパンを倒れている人の口に入れた。
「う、うまい!」
そう言いながら勢いよくパンとリンゴを食べきると、その人は再びバタリと倒れてしまった。
「ちょっ!ちょっと!しっかりして下さい!!」
そのあと私が何をしたかと言うと……お医者さんを探しました。通りすがりの人に聞いたりしてようやく見つけたのはお医者さんじゃなくて薬剤師だったけれど……まあ、お医者さんを探すよりよほど早かったのは確かです。
薬剤師の方に胃薬を処方してもらったので、それを飲ませてようやくこの方は落ち着いてくれました。
「ああ……生き返った」
「それは良かったですわね」
「ありがとうお嬢さん。君が通りかかってくれなかったら私は飢え死にしていたよ」
お医者さん探してただけなのに、この方は大げさだなあ……まあでも元気になってよかったわ。それにしても髪の毛の色が珍しいわね。透き通るような銀色の髪に瑠璃色の輝く瞳……物凄く美形だわ。
「い、いえ!困っているときはお互い様ですから」
「ん?お嬢さんは魔法使いかい?」
え?どうしてそうなるの?魔法使いなんてこの世界にいないじゃない。私がポカンとしていると、彼はこう言った。
「それは魔法鞄だろう?それを持っている人は少ないからすぐに分かるよ」
あらいやだ。私ったらうっかりしてたわ。魔法鞄なんて持ってたらそりゃ怪しまれるわよね。でも、もう手遅れみたいだし仕方ないわ。ここは開き直って、この世界でも持っている人がそんなにいない魔法鞄を怪しまれない程度に使わせていただきましょう。
「はい。そうです」
「やっぱりそうか!さっきのパンは美味しかったけれど、食べ物は持ってないのかい?」
「ええ、さっきお渡ししたのが全部ですわ」
「それは大変だね……僕は医者なんだけどちょっと失礼するよ」
え、お医者さんが倒れてたの??
お医者さん(仮)は私の体をペタペタと触りながら調べ始めた。私は子どもなのでセクハラとは言われないだろうけど……とても恥ずかしいわ。でも、仕方ないわよね。
「うん。魔力はだいぶ減っているけれど、大丈夫のようだね。回復薬を持っているかい?」
「回復薬……持っていませんわ」
「そうか……困ったね。魔力を補充してあげたいところだけど……」
魔力の補充ってできるのかしら?私はふと思いついたことを質問してみた。
「あの、魔力を直接他人にあげることは可能なんでしょうか?」
私がそう質問すると、お医者さん(仮)は考え込んでしまった。そしてしばらくして口を開いた。
「理論的には可能だよ。ただ、魔力を渡すには相手との相性も大切だし……何より高度な魔法技術が必要だ」
「そ、そうですか……」
うう……私の魔力で誰かを助けられるかと思ったんだけどなあ。でも仕方ないわ。お医者さん(仮)は親切にも私のことを考えてそう言ってくれたわけだしね。
「あ!そうだ!」
お医者さん(仮)はそう言って何やら自分の鞄を探り始めた。そして中から何かを取り出した。
「これだ!」
彼が取り出したのは指輪だった。
「これは魔力補充の指輪だよ」
「魔力補充?」
「ああ、これを着けておけば、この指輪に込められた魔力を自分のものに変換できるんだ。万が一魔力を全部使い切ってしまっても、この指輪の魔力でいくらでも補充できるんだよ」
ああ!そんな便利なものがあるんですね!さすが異世界ですわ。これはとても役に立ちそうですわ。
「これを君にあげるよ」
お医者さん(仮)はそう言って私に指輪を差し出した。
「……いいんですか?」
「もちろんさ。今使ってる魔力補充の指輪が壊れてしまってね。ちょうど新しいものを発注してたから、これは予備用に保管していたんだ」
「ありがとうございます!」
私はお医者さん(仮)から魔力補充の指輪を受け取りました。さっそく指にはめようとしたのですが、なかなかうまくはまってくれません。私がもたもたしていると、お医者さん(仮)が私の手を取って嵌めてくれました。
「はい、これでオッケーだよ」
うう……何だか恥ずかしいですわ。お医者さん(仮)が美形なせいかしら。
「本当に助かりました」
「いいんだよ。じゃあ私はこれで失礼するよ」
そう言ってお医者さん(仮)は立ち上がりました。お礼にお茶でもと思ったんですが、断られてしまいましたわ。そして彼は私に手を振りながら去っていきました。またどこかで会えるといいんですけれどね。
あ!そういえば私、まだ自分の名前も名乗っていませんわ!名乗り忘れていたことに気づいたのは、彼が去ってからしばらくたってからだったのです。
「ええと、私はリーゼと申します」
私はお医者さん(仮)に向かってぺこりと頭を下げました。すると彼も名前を名乗ってくれました。お名前はルディさんと仰るそうですわ。どこかで聞いたことのあるような名前ですわね……どこだったかしら?まあ、思い出せないのならきっと気のせいでしょう。
「そうか……君があの有名なリーゼ嬢なのか!」
お医者さん(仮)……いえ、ルディさんがそんなことを言いましたが、何を仰っているのか私には分かりません。有名な令嬢なんて存在しませんからね。
「ええと……何か勘違いされてませんか?私はただの小娘ですわ」
「でも、あの悪名高いルーデン侯爵を子供ながら退治したんだろう?」
お医者さん(仮)がとんでもないことを言い出しましたわ!誰がそんなことを言ったの?私じゃありませんことよ。それにそのルーデン侯爵って誰ですか!?私は全く知らない人ですからね!
「違います!悪名高いって誰ですか!?」
私が慌ててそう言うと、彼はにっこりと微笑んでこう言いました。
「違うのかい?でも君は侯爵令嬢なんだろう?」
「え……どうしてそれを……?」
確かに私は侯爵の娘です。でもそのことを知ってる人なんてそうそういないはずなんですけど!ああ、もしかしてルディさんは私のことを騙そうとしているんじゃ……?私はすっかり怯えてしまいました。すると、ルディさんが私の頭を撫でながらこう言いました。
「ああ……ごめんね?怖がらせるつもりはなかったんだ」
うう、この美形にこんなに優しくされてしまったらドキドキしますわね……それにしてもこの人、私のことを警戒させないように優しく接してくれているんでしょうか?初対面でこんなに親切な人は初めてですわ。
「あの……どうして私のことをご存じなんですか?」
私は思い切って質問してみました。すると彼は、私の疑問に答えてくれたのです。
「僕は侯爵家からの依頼で何件かのお屋敷へ向かい診察をしてるんだ」
お医者さん(仮)もといルディさんは、なんと侯爵家のお抱え医師だそうですわ!しかも、私のお家もお世話になっているお医者様でしたのね……なんてことかしら。
「そうだったんですね……」
私がそう言うと、ルディさんは私に向かってこう言いました。
「君のお父上には大変お世話になっているよ」
どうやら私の父はお医者様に大変信頼されているようですわ。確かにうちの父様は優しくて素晴らしいお医者様だと思いますけど……でも、うちの父と知り合いなんてルディさんって何者なのかしら?気になりますわ!
私は思い切って尋ねました。すると彼は笑顔でこう答えてくれたのです。
「もちろんだよ。リーゼ嬢のお父さんは『名医』と呼ばれているんだよ」
「えっ?父がですか??」
確かに父は腕はいいけど……『名医』なんて大げさですわ。それに、どうして私がルディさんにこんなことを言われているのか不思議でたまりませんわ。でも、とりあえずここは話を合わせておきましょうか……リーゼと名乗っていますし。
「そんな凄いお医者様だなんて知りませんでした!」
私はそう言って目を輝かせておきました。すると彼はニッコリと笑ってこう言いました。
「ルーデン侯爵は有名な方だよ。僕がこれまで診てきたお医者様の中でも最高の腕をお持ちだ」
ルディさんの言葉に私は驚きました。まさか父がそんなにすごい方だとは思いもしませんでしたわ!うちのお父様はただ優しいだけじゃなかったんですね……見直しました!
「さて、僕はそろそろ行くよ」
そう言って立ち去ろうとするルディさんを私は引き留めました。せっかく知り合ったんですもの……このままさようならなんて寂しすぎますわ。それに、彼のことをもっと知りたいですしね。
「あの!よろしかったら今度我が家へ遊びに来ませんか?」
私がそう尋ねると、ルディさんは喜んでと答えてくれました。やったわ!これで彼とまた会う口実ができたじゃない!私はルンルン気分で家に帰りました。
********
「リーゼ、その指輪はどうしたんだい?」
お医者様(仮)と出会ってから数日後、私の様子を見に来たお父様が私の手を見て驚いたようにそう言いました。
あ!そういえば私ったらこの指輪をしたままでしたね……忘れてしまうところでしたわ。危ないところでしたわね。お医者様(仮)がくださったこの指輪……とても貴重な物なんですって。壊れやすいから普段は外しているようにと言われたんだけど……私はそうっと指から抜き、大切に指輪を保管することにしました。
「お医者様(仮)にいただいたんですの」
「お医者様?リーゼの知り合いかい?」
「ルディさんですわ」
ああ、お父様ってばいつもお医者様の話になると渋い顔をされるから、あまり名前を言いたくなかったのよね。でももうバレてしまったし……仕方ないわよね。
「ルディ?侯爵家のお抱え医師のルディかい?」
「ええ」
どうやらお父様はお医者様(仮)……いえ、お医者様(正式)のことをご存知のようでした。まあ、知る人ぞ知る名医だそうなので当然かもしれませんね。それにしたって驚きすぎですわよ?どうしたのかしら?
「なんてことだ……魔法の使える娘が見つかったという噂は本当だったのか……」
「お父様、何かご存知ですの?」
「ああ。リーゼ、よく聞きなさい」
お医者様(正式)が何をしたというのかしら?なんだかすごい重要な情報がありそうですわ!私は居住まいを正し、お父様の言葉に耳を傾けました。
「実はね、君の母上が亡くなったのはお父上の責任だと訴えを起こした人物がいるんだよ」
お医者様(正式)が私の母を殺したと仰るの?そんなこと、あるわけないじゃない!お医者様(正式)は私の母を心から愛していたのよ。もちろん私も彼のことを愛しているわ。
「お父様……それはおかしいですわ」
「ああ、分かっているよ。だからきっと何者かが仕組んだに違いないんだ!しかも魔力が関わっているそうだ…」魔力が関わっているということは、魔族が絡んでいるということですわ!魔族にたぶらかされたんですの?
「この一族は、かつて魔法使いの出世によって繁栄されていたんだ。」
「では、一族の誰かが犯人ということになりますわね」
「あぁ、そういうことだ。犯人はまだわかっていない。そして、新たに分かったことはこの一族の魔法使いとしてリーゼお前が選ばれたのだ」
「やっぱりそうなんですね」
お医者様(正式)が私を選んだということは、私に特別な力があるということですわ。でも、一体どんな力なのかしら?
「お前は人並外れた魔法の才能を秘めている……普通の魔法使いなど足元にも及ばないくらいにね」
お医者様(正式)は私を信じて選んでくれたのですね。そして、私はこの力をもちろん悪用はしたくない。
私はお父様に向かってこう宣言しました。
「お父様!私はお母様を殺した犯人を探し出してみせます!」
「リーゼ……そんなことをしなくても私が口添えをしよう。そうすれば……」
「いいえ!これは私の問題ですもの」
私がそう言うと、お父様はため息をついた。そしてため息をつきながらこう言いました。
「まったく誰に似たのか……しょうがないな、お前の好きにしなさい」
「ありがとうございます!」
それに、前世の私からしたらお医者様のことがめちゃくちゃタイプだったので魔法で大人の姿になって好きになってもらえるように努力したいと考えていたのでした。
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