1 / 1
推しが尊い!
しおりを挟む チュンチュンと窓の外から鳥の鳴く声が聞こえてきた。
「えぇぇぇ……本当に何も無かった。私って魅力が無いのかなー」
『ウチとしては、そういう事は精霊を助け出してからにして欲しいんだけど』
「昨日は気合を入れて、いつもよりしっかり髪をといてみたりしたのにさ」
『おーい、リディアー。ウチの話、聞いてる? というか、聞こえてる?』
「こうなったら、クロードを絶対に……」
『リディアーっ!』
「ん? あ、おはよう、エミリー。……どうしたの? 何か疲れているみたいだけど」
何故かエミリーがジト目でぐったりしているけれど、いそいそと朝の準備を始め、ある程度準備が整った所で、コンコンと扉がノックされた。
「リディア。起きていますか? 良ければ一緒に朝食を……」
「クロード。来るのが遅いよ」
「すみません。女性は朝に時間が掛かるものだと、姉から聞いていたので」
違う、そうじゃないの!
いえ、確かに朝は時間が掛かるものだし、クロードが来る時間は丁度良いんだけど……昨日! 昨日来て欲しかった!
レオナさんも、もうちょっと大切な事を教えてあけて欲しかったよ。
内心そんな事を思いつつ、二人で食事を済ませ、再び馬車で揺られる事に。
昨日は本当に眠っちゃったけど、今日の私は違うんだからっ!
「……すぅー、すぅー」
『リディア。何をしているの?』
(そんなの決まっているじゃない。寝たふりよ)
『…………リディア。リディアは演劇の世界に進まなくて良かったね』
(エミリー。それはどういう意味?)
『そのままの意味なんだけど』
目を閉じているから表情は分からないけれど、声からエミリーが呆れているのはわかる。
変ね。完璧な演技のはずなのに。
寝たふりをしながらクロードの肩に顔を乗せてみたり、偶然を装って指先に触れてみたりしたけれど、クロードはいつも通りの反応しかしてくれない。
これは、もっと大胆にいかないといけないって事かしら?
新たな作戦を練りつつ、時折現れた魔物をクロードが退治して、御者さんや乗客の方々から感謝されたりしている内に、イーサリム公国の国境へ到着した。
「はい。では、この馬車はここまでです。この先は国境を越えてから、向こうの乗合馬車へお乗り願います」
御者さんの言葉に従い、乗客たちと共に入国時のチェックの列に並ぶ。
ちなみに、イーサリム公国が入国チェックを始めたのは、つい最近らしく、余計に何か怪しい事をしているのではないかと、勘繰ってしまう。
まぁ、アメーニア王国とかエスドレア王国が緩いだけで、もしかしたらイーサリム公国が普通なのかもしれないけど。
「あれ? エスドレア王国は入国時にチェックなんてしないのに、兵士さんは居るのね」
「イーサリム公国側に兵士が居るので、そのためですよ。我が国の国民が不当な扱いを受けないようにね」
ふーん、なるほどねー。
ちゃんと国民を大事にするのは偉い! そう思っていると、私たちの番が来て、
「では次の者ぉぉぉっ!?」
エスドレア王国側の兵士さんがクロードの顔を見た瞬間に狼狽え始める。
あ! もしかして、クロードの事を知っている兵士さんなの!? というか、第二騎士隊長だし、知らない訳がないわね。
第二騎士隊長であるクロードが鎧も身に着けずに、若い女性(私)と二人でお忍びで別の国へ……って、騒がれると困る。
今回の旅は、私とクロードの仲を深める旅行ではなく、あくまで精霊さんたちを助ける旅であり、普通の人を装って入国しようとしているのに。
「あ、あの……こんな所で一体何を……」
クロードが目線で、空気を察して欲しいと訴えかけているのに、兵士さんが気付かぬ様子で話し掛けてくる。
マズい。目と鼻の先にイーサリム公国の兵士さんたちが居るのに、ここで「隊長」なんて呼ばれたら……こ、ここは私がフォローするしかないわっ!
「さ、さぁ、あなた。次は、私たちの番よ。行きましょう。せっかくの新婚旅行ですもの。のんびり、ゆっくりしたいわねー!」
そう言って、クロードの胸に抱きつく。
「――っ!? ……お、おい。今、新婚旅行って言わなかったか? ……あの、堅物のクロード隊長が結婚なんてするか!? よく似た他人じゃないのか?」
「……でも、それにしては似過ぎですよ。鎧こそ着ていないですけど、あの腰に吊るした剣とか、様になり過ぎですよっ!」
「……あ、だけど右手と右足が同時に前へ出たりして変な歩き方だから、やっぱり違うかも。あのクールなクロード隊長なら、絶対にあんな事しないでしょうし」
ヒソヒソと兵士さんたちの声が聞こえてくるけれど、大声で話して居る訳ではないので、イーサリム公国側の兵士さんには聞こえていないみたい。
私の演技……の甲斐もあって、無事に国境を越える事が出来た。
「えぇぇぇ……本当に何も無かった。私って魅力が無いのかなー」
『ウチとしては、そういう事は精霊を助け出してからにして欲しいんだけど』
「昨日は気合を入れて、いつもよりしっかり髪をといてみたりしたのにさ」
『おーい、リディアー。ウチの話、聞いてる? というか、聞こえてる?』
「こうなったら、クロードを絶対に……」
『リディアーっ!』
「ん? あ、おはよう、エミリー。……どうしたの? 何か疲れているみたいだけど」
何故かエミリーがジト目でぐったりしているけれど、いそいそと朝の準備を始め、ある程度準備が整った所で、コンコンと扉がノックされた。
「リディア。起きていますか? 良ければ一緒に朝食を……」
「クロード。来るのが遅いよ」
「すみません。女性は朝に時間が掛かるものだと、姉から聞いていたので」
違う、そうじゃないの!
いえ、確かに朝は時間が掛かるものだし、クロードが来る時間は丁度良いんだけど……昨日! 昨日来て欲しかった!
レオナさんも、もうちょっと大切な事を教えてあけて欲しかったよ。
内心そんな事を思いつつ、二人で食事を済ませ、再び馬車で揺られる事に。
昨日は本当に眠っちゃったけど、今日の私は違うんだからっ!
「……すぅー、すぅー」
『リディア。何をしているの?』
(そんなの決まっているじゃない。寝たふりよ)
『…………リディア。リディアは演劇の世界に進まなくて良かったね』
(エミリー。それはどういう意味?)
『そのままの意味なんだけど』
目を閉じているから表情は分からないけれど、声からエミリーが呆れているのはわかる。
変ね。完璧な演技のはずなのに。
寝たふりをしながらクロードの肩に顔を乗せてみたり、偶然を装って指先に触れてみたりしたけれど、クロードはいつも通りの反応しかしてくれない。
これは、もっと大胆にいかないといけないって事かしら?
新たな作戦を練りつつ、時折現れた魔物をクロードが退治して、御者さんや乗客の方々から感謝されたりしている内に、イーサリム公国の国境へ到着した。
「はい。では、この馬車はここまでです。この先は国境を越えてから、向こうの乗合馬車へお乗り願います」
御者さんの言葉に従い、乗客たちと共に入国時のチェックの列に並ぶ。
ちなみに、イーサリム公国が入国チェックを始めたのは、つい最近らしく、余計に何か怪しい事をしているのではないかと、勘繰ってしまう。
まぁ、アメーニア王国とかエスドレア王国が緩いだけで、もしかしたらイーサリム公国が普通なのかもしれないけど。
「あれ? エスドレア王国は入国時にチェックなんてしないのに、兵士さんは居るのね」
「イーサリム公国側に兵士が居るので、そのためですよ。我が国の国民が不当な扱いを受けないようにね」
ふーん、なるほどねー。
ちゃんと国民を大事にするのは偉い! そう思っていると、私たちの番が来て、
「では次の者ぉぉぉっ!?」
エスドレア王国側の兵士さんがクロードの顔を見た瞬間に狼狽え始める。
あ! もしかして、クロードの事を知っている兵士さんなの!? というか、第二騎士隊長だし、知らない訳がないわね。
第二騎士隊長であるクロードが鎧も身に着けずに、若い女性(私)と二人でお忍びで別の国へ……って、騒がれると困る。
今回の旅は、私とクロードの仲を深める旅行ではなく、あくまで精霊さんたちを助ける旅であり、普通の人を装って入国しようとしているのに。
「あ、あの……こんな所で一体何を……」
クロードが目線で、空気を察して欲しいと訴えかけているのに、兵士さんが気付かぬ様子で話し掛けてくる。
マズい。目と鼻の先にイーサリム公国の兵士さんたちが居るのに、ここで「隊長」なんて呼ばれたら……こ、ここは私がフォローするしかないわっ!
「さ、さぁ、あなた。次は、私たちの番よ。行きましょう。せっかくの新婚旅行ですもの。のんびり、ゆっくりしたいわねー!」
そう言って、クロードの胸に抱きつく。
「――っ!? ……お、おい。今、新婚旅行って言わなかったか? ……あの、堅物のクロード隊長が結婚なんてするか!? よく似た他人じゃないのか?」
「……でも、それにしては似過ぎですよ。鎧こそ着ていないですけど、あの腰に吊るした剣とか、様になり過ぎですよっ!」
「……あ、だけど右手と右足が同時に前へ出たりして変な歩き方だから、やっぱり違うかも。あのクールなクロード隊長なら、絶対にあんな事しないでしょうし」
ヒソヒソと兵士さんたちの声が聞こえてくるけれど、大声で話して居る訳ではないので、イーサリム公国側の兵士さんには聞こえていないみたい。
私の演技……の甲斐もあって、無事に国境を越える事が出来た。
0
お気に入りに追加
4
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
推ししか勝たん!〜悪役令嬢?なにそれ、美味しいの?〜
みおな
恋愛
目が覚めたら、そこは前世で読んだラノベの世界で、自分が悪役令嬢だったとか、それこそラノベの中だけだと思っていた。
だけど、どう見ても私の容姿は乙女ゲーム『愛の歌を聴かせて』のラノベ版に出てくる悪役令嬢・・・もとい王太子の婚約者のアナスタシア・アデラインだ。
ええーっ。テンション下がるぅ。
私の推しって王太子じゃないんだよね。
同じ悪役令嬢なら、推しの婚約者になりたいんだけど。
これは、推しを愛でるためなら、家族も王族も攻略対象もヒロインも全部巻き込んで、好き勝手に生きる自称悪役令嬢のお話。

【完結】乙女ゲームのヒロインに転生したけどゲームが始まらないんですけど
七地潮
恋愛
薄ら思い出したのだけど、どうやら乙女ゲームのヒロインに転生した様だ。
あるあるなピンクの髪、男爵家の庶子、光魔法に目覚めて、学園生活へ。
そこで出会う攻略対象にチヤホヤされたい!と思うのに、ゲームが始まってくれないんですけど?
毎回視点が変わります。
一話の長さもそれぞれです。
なろうにも掲載していて、最終話だけ別バージョンとなります。
最終話以外は全く同じ話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
だからキミは推しだって!!!
心澤ショコラ
恋愛
クラスの推しに、告白された…?!?
断ると理由を聞かれた主人公♀は、
思わず「キミは推しなんだよ!!」と大カミングアウトをカマしてしまう。…すると、
「よく分かんないけど…つまり、『嫌いじゃない』って解釈でいいよな?」
そこからはレアイベの連続で…!!
学校にログインするだけで供給ボーナス?!
私を夢女子にする気ですか?!

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました
21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。
理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。
(……ええ、そうでしょうね。私もそう思います)
王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。
当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。
「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」
貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。
だけど――
「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」
突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!?
彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。
そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。
「……あの、何かご用でしょうか?」
「決まっている。お前を迎えに来た」
――え? どういうこと?
「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」
「……?」
「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」
(いや、意味がわかりません!!)
婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、
なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?


乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました! でもそこはすでに断罪後の世界でした
ひなクラゲ
恋愛
突然ですが私は転生者…
ここは乙女ゲームの世界
そして私は悪役令嬢でした…
出来ればこんな時に思い出したくなかった
だってここは全てが終わった世界…
悪役令嬢が断罪された後の世界なんですもの……

異世界に転生したから素でVTuber始めたら推しに認知されてしまった件
バナナマヨネーズ
恋愛
ちょっとした不注意で命を落としてしまったわたしは、異世界に転生していた。
その世界は剣も魔法もありのザ・ファンタジーって感じの世界だったの……。
だけど、娯楽が……!! 娯楽が全然ないのよ!!
退屈で退屈で……。そんな時、わたしは迷宮探索という趣味を見つけたの。
モンスターとの血沸き肉躍る戦い楽しいし、たまに拾えるアーティファクトの当たりハズレは、まさにハクスラ要素でゲーム感覚で楽しんでいたわ。
そんな時だった、わたしはとんでもないアーティファクトを引き当てしまうの。
そのアーティファクトを見つけたことで、前世での未練を晴らすべくVTuberデビューを果たすのよ!!!
だけど、VTuberになったわたしは、前世での推しに認知されていて?
えっ? こっコラボ配信?!
はぁぁ……。今日も推しが尊い……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる