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ただ、気ままに過ごしたかっただけなのに。
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「エレノア、数々の悪事や裏切り行為により国家反逆および転覆罪としてフリートとの婚約を破棄しこの国から追放とする。」
たった今、わたくしの婚約者である王太子殿下の誕生日を祝うパーティ会場で国王様より直々に命令が下った。
その言葉を聞き、一冷ややかな視線、憐れみの視線、が私に降り注ぐ。
そんな中でシルフィはひそかに微笑んでいた。
「まさか君がそんなことをする悪人だったなんて。完全に騙されてしまった。」
これまで幼少の頃より婚約者としても親しくしてきたフリートはまるで信じてくれていない様子だ。
「なにを仰っているのか。わかりませんわ。」
わたくしは国家に反することなんて本当に何もしていないの。そう答えるしかなかった。
「潔く認めてしまったらどうかしら。証拠はあがってますの。フリートお兄様を誑かしその立場を利用するなんて悪女にも程がありますわ」
妹のシルフィが非難の顔を向けて言ってきた。一体彼女の狙いは何なのか...。
そう、わたくしのお兄様の婚約が決まったあの時から悪夢は始まっていたのです。
*****
*****
妹の婚約は手っ取り早く国の軍備を増強できるので、王子が提案を断ることはしないだろう。
そう考えていたのだが、
「フリート=ヴァレンタイン王子が婚約破棄をすると言ったらどうする?」
「困るな」
やはりそうか。
俺にとってフリートはそんなに親しくない。
だが、イルグ派閥と通じていた事実が判明した以上、あまり信用はできないな。
最悪俺が敵国側だと思われる可能性もある。
それは避けたい。
なので俺は……。
「わかりました。フリート様の妹"シルフィ皇女様"との婚約を受けます」
「おお! さすがは英雄殿!」
国王様から感謝の言葉を受け取った後、俺は城を出た。
*****
*****
城を出ると、俺を待っていたのはアルヴァンやゼフを含む二十人程度の兵士であった。
全員が鎧を着た兵士で、これから戦いに向かうかのような雰囲気を出している。
「……えっと、もしかして俺も参加する流れだったりする?」
嫌な予感をしながらも兵士たちに問いかけると、一人の少女が出てきた。
「もちろんですよ。エル様が主役なのですから!」
そう言った少女、いやフリート王子の妹であるシルフィはそう言ってニコリと笑う。
いや、無理があるでしょ……。
どう考えてもお飾りだよ、これ。……あれ? でも、待てよ……? ここで断れば俺の名声が上がるかもしれない。
それによく考えたら、俺には妹のエレノアが考えた作戦があるじゃないか。
「……よし、行こう」
そう自分に言い聞かせながら、俺は出発するのだった。
出発してから数時間が経った。
*****
*****
俺たちの進軍先は国境の近いとある農村地帯であり、そこには数十人の盗賊団がいるという情報が入っているらしい。
村では農民が連れ去られたり、金銭を奪われたりする事件が多発しており、とても困っているようだ。
そして、今日俺たちはそのアジトに向かって攻め込む予定となっている。
それと同時に、シルフィ皇女の護衛だ。
なぜこんな時に、危ない場所に連れて行かなくてはならないのか。
何の目的があってこの農村地帯に用事があるか知らされていなかった。
「あ、あの。エル様……」
ふと声がするので振り返ってみると、シルフィ皇女がいた。
何か言いたいことでもあるのだろうか。そう思って、俺は話を聞くことにした。
「なんだ?」
すると、彼女は上目遣いをしながら言った。
「わたくしはこの農村の教会に用事がありまして……。どうか護衛をしてもらえないでしょうか……?」
なるほど、そういうことだったか。
おそらくシルフィ皇女もイルグ派閥と同じようなことを考えていたのだろう。つまり、敵の罠だという可能性も十分にあるというわけだ。
そんな危険な場所に連れていくわけにはいかないが、かといってここで放置して見殺しにするわけにもいかない。
(どうすればいいんだ……)
悩んだ末、俺が出した答えは……。
「いいよ。一緒にいこう」
こうして二人で向かうことになったのだった。
*****
*****
数分後、俺たち四人は他の兵士たちと共に目的の村に向かっていた。
すると、シルフィは嬉しそうに言ってくる。
「ありがとうございます! やっぱりエル様はお優しい方ですね!」
そんな彼女を見て、俺は思った。
(こいつ……絶対俺に惚れてるだろ……)
そんな考えにたどり着きながらも、俺たちは歩いていくのだった。
*****
*****
俺たちが目的地の村についた頃、村は荒れ果てていた。
どうやらもう既に盗賊団によって支配されているようだ。
村の人たちの姿を見るが、皆痩せこけているように見える。
「村長、他の者は無事なのか?」
俺は近くにいた村人に話しかけると、彼は答えた。
「ええ、皆さん無事に別の場所へ避難しています」
彼の話によると、盗賊団に奪われた食料は村の倉庫に保管されているらしい。
恐らくそこへ向かっている途中だったのだろう。
なら、今のうちに取り返せば奴らも撤退するはずだ。
しかしそうなると作戦を立てなくてはならないな……。
そんなことを考えていると、シルフィが話しかけてきた。
「エル様!あそこに敵がいます」
見ると、一人の青年が剣を構えて立っている姿が見えた。
恐らくあいつが盗賊団のリーダー格だろう。
俺は剣を構えると一瞬で間合いを詰めていった。そしてそのまま斬りかかる。しかし、相手もそれを読んでいたかのように躱した。
(さすがは実力者だ)
そんな感心をしている間も戦いは続く。互いに一進一退の攻防を繰り広げながらも状況は変わっていく。
「ぐはっ……!」
俺の斬撃が相手の腕を斬り裂き、血が吹き出す。どうやらダメージを負ったようだ。
相手が膝をついた隙に俺はとどめを刺そうとするが、シルフィから声をかけられたので一度そちらに意識を向けることにした。
(どうしたんだろう?)
疑問に思いつつも彼女の方へ駆け出すと、次の瞬間背後から殺気を感じたので振り返るとそこには剣を振りかざしている盗賊団のリーダーの姿があった。
まずいと思った時には既に遅く、俺は攻撃を食らってしまった。
幸いにも鎧のおかげで致命傷にはならなかったものの、かなり深い傷ができてしまった。
「大丈夫ですか!エル様!?」
シルフィが心配そうに声をかけてきたので、俺は答えることにした。
「ああ、平気だ」
本当はあまり大丈夫ではないのだが、ここで弱音を吐くわけにはいかないからな。そう思いつつも治療に専念することにした。
(よし、これで大丈夫だろう)
ある程度回復したところで立ち上がると、再び戦闘シーンに臨むのだった。
……数分後、ようやく決着がついたようだ。
盗賊団の男たちは全員倒され、残っているのはリーダー格の男だけだった。
「お前は何者なんだ……?」
そう聞くと、彼は答えた。
「俺はただの盗賊団のリーダーさ」
そう言う彼の目には戦意が宿っていないように感じられた。なので俺は話を聞くためもあり彼を生け捕りにして見逃すことにしたのだった。
すると、背後からシルフィに声をかけられたので振り返った瞬間、なぜか彼女にキスされた。突然のことで頭が追いつかなかった。
(どういうことだ……?)困惑しつつも彼女の顔を見ると、頬を赤らめ
ながらこちらを見ていた。
「エル様、わたくしはあなたのことをお慕い申しております」
……あ、あれ? この状況は一体何なんだ……? 頭が混乱してきたぞ。どういうことなんだ……!? シルフィが俺のことを好きだって!? なんでだよ!? いや待て落ち着け。まずは彼女に話を聞く必要があるな。とりあえずここは一旦冷静にならないとな……うん。
そんなことを考えていたら、シルフィは続けて言ってきた。
「エル様!どうかわたくしと正式に婚約してくださいませ!」
その告白を聞いた瞬間、俺の頭は真っ白になった。
いやいやいやいや!? なんでそうなるんだ!?おかしいだろ!?急にそんなこと言われても困るというかなんというか……
「皇女様、もったいないお言葉です。喜んでお受けいたします」
そう答えるしかなかったのだ。
*****
*****
実はシルフィはこの盗賊団のリーダーとつながっていたのだ。しかし、俺の登場によってシルフィの計画は破綻し、今に至るという。
すべての計画が失敗し、その失敗を隠蔽するためにエレノアに罪をかぶせたということだ。
ちなみに最初に村で俺に話しかけてきた男はイルグ派閥の人間で、俺を殺そうとしていたらしい。
「さあエル様!わたくしと結婚式を挙げましょう!」シルフィはそう言って俺の手を引っ張った。
(あれ?なんか流れがおかしくないか……?)そう思いつつも俺は彼女と一緒に村の教会へ向かったのだった……。
*****
*****
俺たちが村に着くとすぐに村人たちは笑顔で出迎えてくれた。みんな俺たちのことを心配していたらしく、中には涙を流している者もいた。
しかし、それ以上に驚くべきことが起きていた。なんと教会の中で大勢の村人が俺たちを待っていたのだ。
(どういうことだ……?)不思議に思って見ていると、村人たちは一斉に話し始めた。「この度は本当にありがとうございました!おかげで村のみんなも安心して暮らすことができます」そう言って頭を下げたので、慌てて顔を上げるように言った。すると今度は別の方向から声をかけられる。
一旦この場を収め、人気の少ない場所へ移ろうとしたとき、声をかけられた。
「エル!」
振り返るとそこには目立たないよう村人の格好をしたエレノアがいた。彼女は目に涙を浮かべていた。咄嵯に俺は声をかける。
「エレノア!無事だったんだな!」
俺がそう言うと、彼女は微笑みながら言った。
「ええ、なんとか助かったわ」そう答えたがどこかぎこちない様子だったので心配になって聞いてみることにした。
「どうかしたのか?」
すると彼女は少し言い淀んだ後、意を決したように口を開いた。
「実は私、婚約破棄されたの……」突然そんなことを言い出すものだから驚いてしまったが、とりあえず続きを聞くことにする。
「そうか……それでどうした?復讐でもするのか?」
俺がそう言うと、彼女は首を横に振って答えた。
「いえ、そんなことはしないわ」
彼女の言葉を聞いてホッとした反面、少し寂しくもあった。だが、仕方ないだろう。そんなことをしても意味がないからな……。そう思って彼女の返事を待っていると意外な言葉が返ってきた。
「王国から追放されたの」
思わず耳を疑ったが、どうやら聞き間違いではないらしい。
エレノアは俺に抱き着いてくると、上目遣いをしながら言ってきた。
「エル……シルフィには気を付けて」
そんなシリアスな雰囲気の中、俺は言った。
「いや……シルフィと正式に婚約することになったんだけど……」
そう言うとエレノアは目を丸くして驚いていた。彼女の計画を想像することができ察した。許せない...。絶対に他国で幸せになってやるんだから。
それからしばらくしてから落ち着きを取り戻すと、エレノアは申し訳なさそうに謝罪してきた。
「ごめんなさい、取り乱してしまって……」
そんなエレノアを安心させるように微笑みかけながら言う。
「いいんだよ。それよりこれからどうするんだ?」俺が問いかけると、彼女は答えた。
「そうね……とりあえず商人にでもなろうかしら」とのことだった。
話していると、段々とシルフィの声が近づいてきた。
「エル様?エル様ー?」
「もう行かなくては...お兄様お元気で」
「ああ、お前もな」
エレノアは寂しそうな表情を浮かべると、逃げるように立ち去っていった。
*****
*****
そうして、エレノアは村の外まで歩いていくのだった。しばらく歩いていると背後から声をかけられたので振り返った瞬間、目の前が真っ暗になり体の身動きができなくなった。誘拐される...!?そう思った時にはすでに遅かった。
******
******
目が覚めるとそこは見知らぬ部屋だった。
手足は縛られており身動きが取れない状況だ。そして目の前には一人の女性が立っているのが見えた。彼女は不敵な笑みを浮かべながらこちらを見つめている。この女性は一体誰なのか……そんなことを考えながら彼女を見つめていると突然声をかけられた。「おはよう!エレノアちゃん!」その声はとても可愛らしい声で一瞬ドキッとしたがすぐに冷静になることができた。目の前にいる女性はとても美しい容姿をしているがどこか狂気じみたものを感じる……そんな恐ろしさを感じつつも平静を装って返事をした。
「あなたは誰なの?ここはどこなのかしら?」彼女の名はイルグ派閥のリーダーの娘、ルーナだ。
「私の名前はルーナと申します。ここは私のお屋敷よ」
そう言いながらクスクス笑っている彼女に少し恐怖心を覚えつつも質問を続けた。
「なぜ私をここに連れてきたの?」エレノアの質問に彼女は答えた。「それはね……あなたのことが気に入ったからよ!」そう言ってさらに距離を詰めてくる彼女に対して私は言った。
すぐに理解できた。要するに人質として利用されるのだろう。だから抵抗せずに黙って従うことにしたのだ
「ふざけないで!私はあなたみたいな人とは関わりたくないわ!」そう言うと、彼女はキョトンとした表情を見せた後笑い出した。
「あははっ!あなた面白いわね!」そして続けて言った。「じゃあ私といまここで敵対するつもりかしら?」その言葉を聞いた瞬間、背筋が凍った気がした。この人は本気で言っているのだろう……そう思うと怖くなって逃げ出したくなったが体が動かない以上どうすることもできなかった。彼女は私を見つめてくると微笑んだ後でこう言った。
「ふふっ、冗談よ♪本当はねあなたに協力してもらおうと思ってるの」そう言うと彼女は一枚の紙を取り出し私に渡してきた。それを恐る恐る受け取るとそこにはこう書かれていた。
『貴女は我々イルグ派閥に利用される運命にある』
その瞬間、背筋がゾクッとした感覚に襲われた。この紙には何か不吉なものを感じる……そう思いつつも読み進めていった。そして最後の一文を見て驚愕した。
『協力しなければどうなるか分かるね?』
「待ってください。私はもう婚約破棄されている身ですので、利用価値はないように思えます。」
「へー。それはちょうど良かったわ。」
逆に利用価値が上がったというのか...。
*****
*****
今度は、客室へ連れて行かれた。イルグ派閥が有利になるよう新しい婚約者をあてがうつもりらしい。
婚約とか恋愛とかはもう懲り懲りですのに。
わたくしはただ、ようやく解放された身分でやっとわたくしらしく過したいと考えていましたのに。面倒なことになりましたわ。
*****
*****
部屋に入るとそこにはイルグ派閥を支持する第3王子のカイルがいた。
第3王子のカイル様は、血統ではないことから他の兄弟からは距離を置かれている。しかし、王族としての振る舞いを嫌がるのか庶民にも優しく接し、他の兄弟よりも軍事の才があり王国の繁栄に大きく貢献しているというのをうわさで聞いたことがある。
彼は私のことを値踏みするような目で見てくると声をかけてきた。
「君が噂のエレノアちゃんだね?」
そんな言い方で話しかけられて少し不快な気分になったが、表情には出さずに答えた。
「ええ、そうですが……」私が返事をすると彼はニヤッと笑って言った。
「私は第3王子のカイルだ」そう言って握手を求めてきたのでそれに応えることにした。すると彼は私を見つめてくるとこんなことを言ってきた。
「実は君に頼みがあるんだけど……聞いてくれるかい?」そう聞かれたので素直に答えることにした。
「内容にもよりますが……」そう言うと彼は嬉しそうな顔をしながら話し始めた。
*****
*****
エレノアは部屋の壁に追い詰められていた。そして目の前にはカイル王子がいる。
「お願いだよ……君が欲しいんだ」そんなことを言ってくる彼に嫌悪感を覚えつつ、質問した。
「なぜ私なのですか?他にも魅力的な女性はたくさんいるはずですが?」エレノアは反論するが、彼はそれを無視してさらに近づいてきた。壁際まで追い詰められ逃げ場がなくなったところで強引に唇を重ねてきた。
(嫌っ……!)そう思った瞬間、私は彼を突き飛ばした。
「やめて!」そういうと彼は驚いたように目を見開いていたが、すぐに優しい笑みを浮かべて言った。
「照れ隠しではなく、本当に嫌だったのか。婚約をするということで復讐したいと思っていないとは」と言って手を差し伸べてきたのでその手を払いのけた後、睨みつけた。すると彼は残念そうにため息をついた後で呟いた。
「仕方が無いな……」彼はそう言ってエレノアから距離を取った。
*****
*****
カイルはイルグ派閥に利用されたエレノアを誘拐して、さらに国王派の権力を抑えようとする陰謀を企んでいた。
「では、パーティなどの集まりだけは婚約者としての振る舞いを求めるが、それ以外は自由にして良い。城の離れに家を与えよう。そこで暮らすと良い。うわべだけの婚約者というのはどうだ。」
わたくしは耳を疑いました。
それなら、わたくしの身は安全なまま気ままに過ごす時間が増えるということ。
「うわべだけですか...?そういうことであれば...。」
「交渉成立だな。」
俺はそう言うと、エレノアの顎を持ち上げ顔を近づけるが拒否されたので諦めた。まあ仕方ないか……これからゆっくり落とすことにしよう。まずは彼女の信頼を勝ち取らないとな。
そしてその後、私の身柄はイルグ派閥に引き渡されることになったのだが、なぜか嫌なことを強要されることもなく幸せな暮らしを送っていたのだった……。
*****
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しかし、貴族の方たちへ婚約のお披露目パーティやご挨拶、お茶会などのハードなスケジュールが続きましたの。
本来では王妃教育を受けなくてはならないのですが、強要されることはなく自由にのんびりと過ごしていました。
*****
*****
ある時からわたくしのもとに頻繁に届くようになった手紙がありますわ。差出人は不明で中身は毎回違うものだったので、誰かはわからなかったのですが、あるとき差出人が特定できたのです。その相手はカイル王子でしたわ。その内容はわたくしに対する愛の言葉ばかりでしたの。最初は気持ち悪くてすぐに捨てていましたが、何度も送られてくるうちに慣れてきたのか少しずつ興味を持つようになりましたの。そんなある日のことですわ。いつものように手紙が届くとその内容が少し変わっていましたの。そこにはこう書かれてありましたわ『君を愛してる』その一言だけなのですが何故か胸に響くものがありましたわ。それからというもの毎日のように届く手紙が楽しみで仕方ありませんでしたの。
そんな時、ついにカイル王子本人が会いにやってきましたの!彼はわたくしを見るなり抱きついてきたのですが不思議と嫌な気持ちにはなりませんでしたわ。むしろ安心感を感じましたの……そして、カイル様は耳元で囁いたのです『君を迎えに行く』と……その言葉を聞いた瞬間胸が高鳴りましたわ。
*****
*****
数年後、エレノアは幸せな日々を過ごしていた。カイル王子とは度々会っておりその度に愛の言葉を囁かれていた。今では完全に心を奪われているようで、カイル王子のことしか考えられなくなっていたのだ。そんなある日のことエレノアはイルグ派閥に呼び出されてこう告げられたのだった。
「あなたはもう用済みよ」
すると、そこにはカイル王子がいて彼は言った。
「君を迎えに行くぞ」と……その日からエレノアの生活は大きく変わった。国王派からイルグ派閥へ鞍替えさせられ、婚約者としての振る舞いも求められなくなった。
その代わり自由に過ごすことができるようになった彼女はカイル王子の妃として新しい生活を始めたのだった。
*****
*****
「エレノア様、大至急こちらに来てください。」
「……?どうかされたのでのだ。」
「フリート王子の妹であられるシルフィ皇女様がお呼びです。」
いきなりの言葉に戸惑っていると、イルグ派閥のアレンが説明を始めた。
「いや~実はね。君があまりにも調子に乗っているからさ……少し懲らしめてあげようかと思って」そう言いながら薄ら笑いを浮かべている彼に恐怖を感じつつも、私は言い返した。
「そんなことをすれば大変なことになりますわよ!?」しかし、彼は全く動じなかった。それどころか余裕のある笑みを浮かべて言ったのだ。
「いいや……むしろ好都合さ」彼はそう言って私をシルフィ皇女様のいる屋敷に連れて帰ろうとしたのだが、私は抵抗した。
「嫌よ!絶対に帰らない!」私が必死に抵抗すると彼はため息をついて言った。
「仕方がないな……おい」アレンがそう言うと私を連れ去ろうとした男が私を乱暴に引っ張ろうとするので必死で抵抗するが全く歯が立たなかった。
「離して!」そう言って暴れるが徒労に終わった。そのまま無理やり連れていかれることになってしまいましたの……。
*****
*****
イルグ派閥のアレンはエレノアを誘拐した後で国王派の重要人物と面会していた。
「どういうことですか!?」国王派の重要な人物である大臣はカイルに対して怒りを露わにしながら問いかけていた。
「彼女は我々イルグ派閥にとって非常に危険な存在なんだ。」そう淡々と答える彼に大臣は絶句していた。そしてしばらくしてから口を開いた。「もしこのまま彼女が居なくなれば我々はどうすれば良いのでしょうか……?」不安げな表情で問いかける彼に対してカイルは答えた。
「彼女なら大丈夫だろ」その言葉を聞いて一瞬安心したような表情を見せる彼だったが、直後に「シルフィ皇女様の元へ向かわれたそうです。」と言われたことで再び焦り始めたようだ。
そんな彼らの様子を陰から見守る者がいた。その人物の名はルーナといい、彼女を慕っている女性だった。そんなルーナは複雑な表情を浮かべながら2人の会話を聞いているようだったがやがてその場を離れていった。
その姿を見つめる視線があったことにルーナは全く気づいていなかった。
*****
*****
こうして連れ去られてしまった私はエレンに命令されて別の部屋で着替えさせられているところだった。服を脱ぎ下着姿になると目の前には大きな鏡があったので自分の姿を確認してみると、前の王国を追放された時に着ていた服であった。悔しさが込み上げてきて泣きそうになってしまった。
(もう戻れないのかもしれないわね……)そう思うと涙が出そうになったが堪えることにしたのだった。しばらくするとドアが開く音が聞こえてくると同時に聞き慣れた声が聞こえてきたので振り向くとそこにはカイル王子がいた。私の顔を見て微笑むと抱き寄せてきたのである。久しぶりに彼の温もりを感じて嬉しく思っていたのだが、彼が放った言葉で全てを奪われたような気がしたのだ。
「早く逃げるぞ……」その言葉に背筋が凍りついたような感覚を覚えた。ここが敵地であることを思い出したからだ。慌てて逃げようとするものの遅かったみたいで後ろから抱きしめられてしまうとその腕から逃れられなくなってしまった。そして耳元で囁くように言われた言葉にゾクッとする感覚を覚えると同時に身体中を駆け巡った電流のような衝撃によって力が抜けてしまいその場に座り込んでしまったのだった。
その様子を楽しそうに見つめる彼の顔を見ると顔が赤くなっていることに気づいたので急いで隠した。しかし手遅れだったようでニヤニヤと笑う彼にからかわれてしまったのだが、今はそれどころではなかった。このままでは追放された王国に連れ戻されてしまうことがわかっていたからである。そう考えていた時、扉の方からガチャっと音がしたのでそちらを向くとそこには見知った顔があった。それはイルグ派閥に所属するグレンという男だった。私には信じられない光景を目にしたような気分になったのだ。グレンはその扉を開けるやいなや険しい表情になりこちらに向かってきたのだ。それに気づくと本能的に危険を察知したのか体が動いていたのでその場から逃げ出したのだがすぐに追いつかれてしまっていた。そして首筋に剣を突きつけられてしまうことになった。動けなくなってしまい怯えていると彼はため息をつきながら言った。
「逃げられるとでも思ってるのか?」そう言われたので逃げようともしたがびくともしなかったために諦めざるを得ませんでしたの……。その時、カイル王子が助け船を出してくれたおかげで命拾いすることができたのですが同時に嫌な予感を覚えておりましたのよ?だって彼ときたら勝ち誇ったような顔をしていらっしゃったもの。きっと何か悪いことが起きるに違いないと思いまして警戒しておりましたわ。そうして身構えていたのですが特に何も起きず拍子抜けいたしましたの……でも次の瞬間には現実に引き戻されましたわ。
「シルフィ皇女様・・・」
彼女が目の前に立っていたのだ。
「なんてしぶといのかしら。エレノア、あなたのせいでわたくしの人生はめちゃくちゃにされた。絶対に許せないわ。」
「わたくしのせい??人生をめちゃくちゃにされているのは、わたくしのほうではなくて?」
「おだまりなさい。」
「国外追放できたと思ったら、カイル王子に気に入られるなんて誤算でしたわ。」
「私のお兄様との婚約を破棄されたと聞きましたわ。」
「いつもわたくしの計画を邪魔して、本当に許せないわ。」
「シルフィ皇女様...何をおっしゃっているのかしら...」
「もう、こうなったら軍事で決着をつけるしかないわ。」
宣戦布告をされてしまった。
そこに、一人の少女ルーナが現れた。
「シルフィ様申し訳ございません。すべて私のせいなんです...。恐れながら、申し上げます。どうか、どうか、もうエレノア様にあたるのはおやめください。」
「ルーナ...。しっかり説明してちょうだい。」
一度、私たちはこの場を後にすることにした。
その後、シルフィ皇女様から追撃は一度もありませんでした。
宣戦布告も取り消され
そして...私の生活はというものの、カイル王子に溺愛され気ままには過ごせませんでしたわ。
けれど、政略結婚としてしか見られていない、立場を気にして生活することには飽き飽きしていましたの。
そんなわたくしが初めて人に愛されるということを知り、わたくしも愛するということが実感できとても幸せに過ごすことができましたの。
正直、フリート王子には度胸のなさにがっかりしていましたから、婚約を破棄されたことについて何とも思っていなかったというのは内緒ですわ♡
たった今、わたくしの婚約者である王太子殿下の誕生日を祝うパーティ会場で国王様より直々に命令が下った。
その言葉を聞き、一冷ややかな視線、憐れみの視線、が私に降り注ぐ。
そんな中でシルフィはひそかに微笑んでいた。
「まさか君がそんなことをする悪人だったなんて。完全に騙されてしまった。」
これまで幼少の頃より婚約者としても親しくしてきたフリートはまるで信じてくれていない様子だ。
「なにを仰っているのか。わかりませんわ。」
わたくしは国家に反することなんて本当に何もしていないの。そう答えるしかなかった。
「潔く認めてしまったらどうかしら。証拠はあがってますの。フリートお兄様を誑かしその立場を利用するなんて悪女にも程がありますわ」
妹のシルフィが非難の顔を向けて言ってきた。一体彼女の狙いは何なのか...。
そう、わたくしのお兄様の婚約が決まったあの時から悪夢は始まっていたのです。
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妹の婚約は手っ取り早く国の軍備を増強できるので、王子が提案を断ることはしないだろう。
そう考えていたのだが、
「フリート=ヴァレンタイン王子が婚約破棄をすると言ったらどうする?」
「困るな」
やはりそうか。
俺にとってフリートはそんなに親しくない。
だが、イルグ派閥と通じていた事実が判明した以上、あまり信用はできないな。
最悪俺が敵国側だと思われる可能性もある。
それは避けたい。
なので俺は……。
「わかりました。フリート様の妹"シルフィ皇女様"との婚約を受けます」
「おお! さすがは英雄殿!」
国王様から感謝の言葉を受け取った後、俺は城を出た。
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城を出ると、俺を待っていたのはアルヴァンやゼフを含む二十人程度の兵士であった。
全員が鎧を着た兵士で、これから戦いに向かうかのような雰囲気を出している。
「……えっと、もしかして俺も参加する流れだったりする?」
嫌な予感をしながらも兵士たちに問いかけると、一人の少女が出てきた。
「もちろんですよ。エル様が主役なのですから!」
そう言った少女、いやフリート王子の妹であるシルフィはそう言ってニコリと笑う。
いや、無理があるでしょ……。
どう考えてもお飾りだよ、これ。……あれ? でも、待てよ……? ここで断れば俺の名声が上がるかもしれない。
それによく考えたら、俺には妹のエレノアが考えた作戦があるじゃないか。
「……よし、行こう」
そう自分に言い聞かせながら、俺は出発するのだった。
出発してから数時間が経った。
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俺たちの進軍先は国境の近いとある農村地帯であり、そこには数十人の盗賊団がいるという情報が入っているらしい。
村では農民が連れ去られたり、金銭を奪われたりする事件が多発しており、とても困っているようだ。
そして、今日俺たちはそのアジトに向かって攻め込む予定となっている。
それと同時に、シルフィ皇女の護衛だ。
なぜこんな時に、危ない場所に連れて行かなくてはならないのか。
何の目的があってこの農村地帯に用事があるか知らされていなかった。
「あ、あの。エル様……」
ふと声がするので振り返ってみると、シルフィ皇女がいた。
何か言いたいことでもあるのだろうか。そう思って、俺は話を聞くことにした。
「なんだ?」
すると、彼女は上目遣いをしながら言った。
「わたくしはこの農村の教会に用事がありまして……。どうか護衛をしてもらえないでしょうか……?」
なるほど、そういうことだったか。
おそらくシルフィ皇女もイルグ派閥と同じようなことを考えていたのだろう。つまり、敵の罠だという可能性も十分にあるというわけだ。
そんな危険な場所に連れていくわけにはいかないが、かといってここで放置して見殺しにするわけにもいかない。
(どうすればいいんだ……)
悩んだ末、俺が出した答えは……。
「いいよ。一緒にいこう」
こうして二人で向かうことになったのだった。
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数分後、俺たち四人は他の兵士たちと共に目的の村に向かっていた。
すると、シルフィは嬉しそうに言ってくる。
「ありがとうございます! やっぱりエル様はお優しい方ですね!」
そんな彼女を見て、俺は思った。
(こいつ……絶対俺に惚れてるだろ……)
そんな考えにたどり着きながらも、俺たちは歩いていくのだった。
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俺たちが目的地の村についた頃、村は荒れ果てていた。
どうやらもう既に盗賊団によって支配されているようだ。
村の人たちの姿を見るが、皆痩せこけているように見える。
「村長、他の者は無事なのか?」
俺は近くにいた村人に話しかけると、彼は答えた。
「ええ、皆さん無事に別の場所へ避難しています」
彼の話によると、盗賊団に奪われた食料は村の倉庫に保管されているらしい。
恐らくそこへ向かっている途中だったのだろう。
なら、今のうちに取り返せば奴らも撤退するはずだ。
しかしそうなると作戦を立てなくてはならないな……。
そんなことを考えていると、シルフィが話しかけてきた。
「エル様!あそこに敵がいます」
見ると、一人の青年が剣を構えて立っている姿が見えた。
恐らくあいつが盗賊団のリーダー格だろう。
俺は剣を構えると一瞬で間合いを詰めていった。そしてそのまま斬りかかる。しかし、相手もそれを読んでいたかのように躱した。
(さすがは実力者だ)
そんな感心をしている間も戦いは続く。互いに一進一退の攻防を繰り広げながらも状況は変わっていく。
「ぐはっ……!」
俺の斬撃が相手の腕を斬り裂き、血が吹き出す。どうやらダメージを負ったようだ。
相手が膝をついた隙に俺はとどめを刺そうとするが、シルフィから声をかけられたので一度そちらに意識を向けることにした。
(どうしたんだろう?)
疑問に思いつつも彼女の方へ駆け出すと、次の瞬間背後から殺気を感じたので振り返るとそこには剣を振りかざしている盗賊団のリーダーの姿があった。
まずいと思った時には既に遅く、俺は攻撃を食らってしまった。
幸いにも鎧のおかげで致命傷にはならなかったものの、かなり深い傷ができてしまった。
「大丈夫ですか!エル様!?」
シルフィが心配そうに声をかけてきたので、俺は答えることにした。
「ああ、平気だ」
本当はあまり大丈夫ではないのだが、ここで弱音を吐くわけにはいかないからな。そう思いつつも治療に専念することにした。
(よし、これで大丈夫だろう)
ある程度回復したところで立ち上がると、再び戦闘シーンに臨むのだった。
……数分後、ようやく決着がついたようだ。
盗賊団の男たちは全員倒され、残っているのはリーダー格の男だけだった。
「お前は何者なんだ……?」
そう聞くと、彼は答えた。
「俺はただの盗賊団のリーダーさ」
そう言う彼の目には戦意が宿っていないように感じられた。なので俺は話を聞くためもあり彼を生け捕りにして見逃すことにしたのだった。
すると、背後からシルフィに声をかけられたので振り返った瞬間、なぜか彼女にキスされた。突然のことで頭が追いつかなかった。
(どういうことだ……?)困惑しつつも彼女の顔を見ると、頬を赤らめ
ながらこちらを見ていた。
「エル様、わたくしはあなたのことをお慕い申しております」
……あ、あれ? この状況は一体何なんだ……? 頭が混乱してきたぞ。どういうことなんだ……!? シルフィが俺のことを好きだって!? なんでだよ!? いや待て落ち着け。まずは彼女に話を聞く必要があるな。とりあえずここは一旦冷静にならないとな……うん。
そんなことを考えていたら、シルフィは続けて言ってきた。
「エル様!どうかわたくしと正式に婚約してくださいませ!」
その告白を聞いた瞬間、俺の頭は真っ白になった。
いやいやいやいや!? なんでそうなるんだ!?おかしいだろ!?急にそんなこと言われても困るというかなんというか……
「皇女様、もったいないお言葉です。喜んでお受けいたします」
そう答えるしかなかったのだ。
*****
*****
実はシルフィはこの盗賊団のリーダーとつながっていたのだ。しかし、俺の登場によってシルフィの計画は破綻し、今に至るという。
すべての計画が失敗し、その失敗を隠蔽するためにエレノアに罪をかぶせたということだ。
ちなみに最初に村で俺に話しかけてきた男はイルグ派閥の人間で、俺を殺そうとしていたらしい。
「さあエル様!わたくしと結婚式を挙げましょう!」シルフィはそう言って俺の手を引っ張った。
(あれ?なんか流れがおかしくないか……?)そう思いつつも俺は彼女と一緒に村の教会へ向かったのだった……。
*****
*****
俺たちが村に着くとすぐに村人たちは笑顔で出迎えてくれた。みんな俺たちのことを心配していたらしく、中には涙を流している者もいた。
しかし、それ以上に驚くべきことが起きていた。なんと教会の中で大勢の村人が俺たちを待っていたのだ。
(どういうことだ……?)不思議に思って見ていると、村人たちは一斉に話し始めた。「この度は本当にありがとうございました!おかげで村のみんなも安心して暮らすことができます」そう言って頭を下げたので、慌てて顔を上げるように言った。すると今度は別の方向から声をかけられる。
一旦この場を収め、人気の少ない場所へ移ろうとしたとき、声をかけられた。
「エル!」
振り返るとそこには目立たないよう村人の格好をしたエレノアがいた。彼女は目に涙を浮かべていた。咄嵯に俺は声をかける。
「エレノア!無事だったんだな!」
俺がそう言うと、彼女は微笑みながら言った。
「ええ、なんとか助かったわ」そう答えたがどこかぎこちない様子だったので心配になって聞いてみることにした。
「どうかしたのか?」
すると彼女は少し言い淀んだ後、意を決したように口を開いた。
「実は私、婚約破棄されたの……」突然そんなことを言い出すものだから驚いてしまったが、とりあえず続きを聞くことにする。
「そうか……それでどうした?復讐でもするのか?」
俺がそう言うと、彼女は首を横に振って答えた。
「いえ、そんなことはしないわ」
彼女の言葉を聞いてホッとした反面、少し寂しくもあった。だが、仕方ないだろう。そんなことをしても意味がないからな……。そう思って彼女の返事を待っていると意外な言葉が返ってきた。
「王国から追放されたの」
思わず耳を疑ったが、どうやら聞き間違いではないらしい。
エレノアは俺に抱き着いてくると、上目遣いをしながら言ってきた。
「エル……シルフィには気を付けて」
そんなシリアスな雰囲気の中、俺は言った。
「いや……シルフィと正式に婚約することになったんだけど……」
そう言うとエレノアは目を丸くして驚いていた。彼女の計画を想像することができ察した。許せない...。絶対に他国で幸せになってやるんだから。
それからしばらくしてから落ち着きを取り戻すと、エレノアは申し訳なさそうに謝罪してきた。
「ごめんなさい、取り乱してしまって……」
そんなエレノアを安心させるように微笑みかけながら言う。
「いいんだよ。それよりこれからどうするんだ?」俺が問いかけると、彼女は答えた。
「そうね……とりあえず商人にでもなろうかしら」とのことだった。
話していると、段々とシルフィの声が近づいてきた。
「エル様?エル様ー?」
「もう行かなくては...お兄様お元気で」
「ああ、お前もな」
エレノアは寂しそうな表情を浮かべると、逃げるように立ち去っていった。
*****
*****
そうして、エレノアは村の外まで歩いていくのだった。しばらく歩いていると背後から声をかけられたので振り返った瞬間、目の前が真っ暗になり体の身動きができなくなった。誘拐される...!?そう思った時にはすでに遅かった。
******
******
目が覚めるとそこは見知らぬ部屋だった。
手足は縛られており身動きが取れない状況だ。そして目の前には一人の女性が立っているのが見えた。彼女は不敵な笑みを浮かべながらこちらを見つめている。この女性は一体誰なのか……そんなことを考えながら彼女を見つめていると突然声をかけられた。「おはよう!エレノアちゃん!」その声はとても可愛らしい声で一瞬ドキッとしたがすぐに冷静になることができた。目の前にいる女性はとても美しい容姿をしているがどこか狂気じみたものを感じる……そんな恐ろしさを感じつつも平静を装って返事をした。
「あなたは誰なの?ここはどこなのかしら?」彼女の名はイルグ派閥のリーダーの娘、ルーナだ。
「私の名前はルーナと申します。ここは私のお屋敷よ」
そう言いながらクスクス笑っている彼女に少し恐怖心を覚えつつも質問を続けた。
「なぜ私をここに連れてきたの?」エレノアの質問に彼女は答えた。「それはね……あなたのことが気に入ったからよ!」そう言ってさらに距離を詰めてくる彼女に対して私は言った。
すぐに理解できた。要するに人質として利用されるのだろう。だから抵抗せずに黙って従うことにしたのだ
「ふざけないで!私はあなたみたいな人とは関わりたくないわ!」そう言うと、彼女はキョトンとした表情を見せた後笑い出した。
「あははっ!あなた面白いわね!」そして続けて言った。「じゃあ私といまここで敵対するつもりかしら?」その言葉を聞いた瞬間、背筋が凍った気がした。この人は本気で言っているのだろう……そう思うと怖くなって逃げ出したくなったが体が動かない以上どうすることもできなかった。彼女は私を見つめてくると微笑んだ後でこう言った。
「ふふっ、冗談よ♪本当はねあなたに協力してもらおうと思ってるの」そう言うと彼女は一枚の紙を取り出し私に渡してきた。それを恐る恐る受け取るとそこにはこう書かれていた。
『貴女は我々イルグ派閥に利用される運命にある』
その瞬間、背筋がゾクッとした感覚に襲われた。この紙には何か不吉なものを感じる……そう思いつつも読み進めていった。そして最後の一文を見て驚愕した。
『協力しなければどうなるか分かるね?』
「待ってください。私はもう婚約破棄されている身ですので、利用価値はないように思えます。」
「へー。それはちょうど良かったわ。」
逆に利用価値が上がったというのか...。
*****
*****
今度は、客室へ連れて行かれた。イルグ派閥が有利になるよう新しい婚約者をあてがうつもりらしい。
婚約とか恋愛とかはもう懲り懲りですのに。
わたくしはただ、ようやく解放された身分でやっとわたくしらしく過したいと考えていましたのに。面倒なことになりましたわ。
*****
*****
部屋に入るとそこにはイルグ派閥を支持する第3王子のカイルがいた。
第3王子のカイル様は、血統ではないことから他の兄弟からは距離を置かれている。しかし、王族としての振る舞いを嫌がるのか庶民にも優しく接し、他の兄弟よりも軍事の才があり王国の繁栄に大きく貢献しているというのをうわさで聞いたことがある。
彼は私のことを値踏みするような目で見てくると声をかけてきた。
「君が噂のエレノアちゃんだね?」
そんな言い方で話しかけられて少し不快な気分になったが、表情には出さずに答えた。
「ええ、そうですが……」私が返事をすると彼はニヤッと笑って言った。
「私は第3王子のカイルだ」そう言って握手を求めてきたのでそれに応えることにした。すると彼は私を見つめてくるとこんなことを言ってきた。
「実は君に頼みがあるんだけど……聞いてくれるかい?」そう聞かれたので素直に答えることにした。
「内容にもよりますが……」そう言うと彼は嬉しそうな顔をしながら話し始めた。
*****
*****
エレノアは部屋の壁に追い詰められていた。そして目の前にはカイル王子がいる。
「お願いだよ……君が欲しいんだ」そんなことを言ってくる彼に嫌悪感を覚えつつ、質問した。
「なぜ私なのですか?他にも魅力的な女性はたくさんいるはずですが?」エレノアは反論するが、彼はそれを無視してさらに近づいてきた。壁際まで追い詰められ逃げ場がなくなったところで強引に唇を重ねてきた。
(嫌っ……!)そう思った瞬間、私は彼を突き飛ばした。
「やめて!」そういうと彼は驚いたように目を見開いていたが、すぐに優しい笑みを浮かべて言った。
「照れ隠しではなく、本当に嫌だったのか。婚約をするということで復讐したいと思っていないとは」と言って手を差し伸べてきたのでその手を払いのけた後、睨みつけた。すると彼は残念そうにため息をついた後で呟いた。
「仕方が無いな……」彼はそう言ってエレノアから距離を取った。
*****
*****
カイルはイルグ派閥に利用されたエレノアを誘拐して、さらに国王派の権力を抑えようとする陰謀を企んでいた。
「では、パーティなどの集まりだけは婚約者としての振る舞いを求めるが、それ以外は自由にして良い。城の離れに家を与えよう。そこで暮らすと良い。うわべだけの婚約者というのはどうだ。」
わたくしは耳を疑いました。
それなら、わたくしの身は安全なまま気ままに過ごす時間が増えるということ。
「うわべだけですか...?そういうことであれば...。」
「交渉成立だな。」
俺はそう言うと、エレノアの顎を持ち上げ顔を近づけるが拒否されたので諦めた。まあ仕方ないか……これからゆっくり落とすことにしよう。まずは彼女の信頼を勝ち取らないとな。
そしてその後、私の身柄はイルグ派閥に引き渡されることになったのだが、なぜか嫌なことを強要されることもなく幸せな暮らしを送っていたのだった……。
*****
*****
しかし、貴族の方たちへ婚約のお披露目パーティやご挨拶、お茶会などのハードなスケジュールが続きましたの。
本来では王妃教育を受けなくてはならないのですが、強要されることはなく自由にのんびりと過ごしていました。
*****
*****
ある時からわたくしのもとに頻繁に届くようになった手紙がありますわ。差出人は不明で中身は毎回違うものだったので、誰かはわからなかったのですが、あるとき差出人が特定できたのです。その相手はカイル王子でしたわ。その内容はわたくしに対する愛の言葉ばかりでしたの。最初は気持ち悪くてすぐに捨てていましたが、何度も送られてくるうちに慣れてきたのか少しずつ興味を持つようになりましたの。そんなある日のことですわ。いつものように手紙が届くとその内容が少し変わっていましたの。そこにはこう書かれてありましたわ『君を愛してる』その一言だけなのですが何故か胸に響くものがありましたわ。それからというもの毎日のように届く手紙が楽しみで仕方ありませんでしたの。
そんな時、ついにカイル王子本人が会いにやってきましたの!彼はわたくしを見るなり抱きついてきたのですが不思議と嫌な気持ちにはなりませんでしたわ。むしろ安心感を感じましたの……そして、カイル様は耳元で囁いたのです『君を迎えに行く』と……その言葉を聞いた瞬間胸が高鳴りましたわ。
*****
*****
数年後、エレノアは幸せな日々を過ごしていた。カイル王子とは度々会っておりその度に愛の言葉を囁かれていた。今では完全に心を奪われているようで、カイル王子のことしか考えられなくなっていたのだ。そんなある日のことエレノアはイルグ派閥に呼び出されてこう告げられたのだった。
「あなたはもう用済みよ」
すると、そこにはカイル王子がいて彼は言った。
「君を迎えに行くぞ」と……その日からエレノアの生活は大きく変わった。国王派からイルグ派閥へ鞍替えさせられ、婚約者としての振る舞いも求められなくなった。
その代わり自由に過ごすことができるようになった彼女はカイル王子の妃として新しい生活を始めたのだった。
*****
*****
「エレノア様、大至急こちらに来てください。」
「……?どうかされたのでのだ。」
「フリート王子の妹であられるシルフィ皇女様がお呼びです。」
いきなりの言葉に戸惑っていると、イルグ派閥のアレンが説明を始めた。
「いや~実はね。君があまりにも調子に乗っているからさ……少し懲らしめてあげようかと思って」そう言いながら薄ら笑いを浮かべている彼に恐怖を感じつつも、私は言い返した。
「そんなことをすれば大変なことになりますわよ!?」しかし、彼は全く動じなかった。それどころか余裕のある笑みを浮かべて言ったのだ。
「いいや……むしろ好都合さ」彼はそう言って私をシルフィ皇女様のいる屋敷に連れて帰ろうとしたのだが、私は抵抗した。
「嫌よ!絶対に帰らない!」私が必死に抵抗すると彼はため息をついて言った。
「仕方がないな……おい」アレンがそう言うと私を連れ去ろうとした男が私を乱暴に引っ張ろうとするので必死で抵抗するが全く歯が立たなかった。
「離して!」そう言って暴れるが徒労に終わった。そのまま無理やり連れていかれることになってしまいましたの……。
*****
*****
イルグ派閥のアレンはエレノアを誘拐した後で国王派の重要人物と面会していた。
「どういうことですか!?」国王派の重要な人物である大臣はカイルに対して怒りを露わにしながら問いかけていた。
「彼女は我々イルグ派閥にとって非常に危険な存在なんだ。」そう淡々と答える彼に大臣は絶句していた。そしてしばらくしてから口を開いた。「もしこのまま彼女が居なくなれば我々はどうすれば良いのでしょうか……?」不安げな表情で問いかける彼に対してカイルは答えた。
「彼女なら大丈夫だろ」その言葉を聞いて一瞬安心したような表情を見せる彼だったが、直後に「シルフィ皇女様の元へ向かわれたそうです。」と言われたことで再び焦り始めたようだ。
そんな彼らの様子を陰から見守る者がいた。その人物の名はルーナといい、彼女を慕っている女性だった。そんなルーナは複雑な表情を浮かべながら2人の会話を聞いているようだったがやがてその場を離れていった。
その姿を見つめる視線があったことにルーナは全く気づいていなかった。
*****
*****
こうして連れ去られてしまった私はエレンに命令されて別の部屋で着替えさせられているところだった。服を脱ぎ下着姿になると目の前には大きな鏡があったので自分の姿を確認してみると、前の王国を追放された時に着ていた服であった。悔しさが込み上げてきて泣きそうになってしまった。
(もう戻れないのかもしれないわね……)そう思うと涙が出そうになったが堪えることにしたのだった。しばらくするとドアが開く音が聞こえてくると同時に聞き慣れた声が聞こえてきたので振り向くとそこにはカイル王子がいた。私の顔を見て微笑むと抱き寄せてきたのである。久しぶりに彼の温もりを感じて嬉しく思っていたのだが、彼が放った言葉で全てを奪われたような気がしたのだ。
「早く逃げるぞ……」その言葉に背筋が凍りついたような感覚を覚えた。ここが敵地であることを思い出したからだ。慌てて逃げようとするものの遅かったみたいで後ろから抱きしめられてしまうとその腕から逃れられなくなってしまった。そして耳元で囁くように言われた言葉にゾクッとする感覚を覚えると同時に身体中を駆け巡った電流のような衝撃によって力が抜けてしまいその場に座り込んでしまったのだった。
その様子を楽しそうに見つめる彼の顔を見ると顔が赤くなっていることに気づいたので急いで隠した。しかし手遅れだったようでニヤニヤと笑う彼にからかわれてしまったのだが、今はそれどころではなかった。このままでは追放された王国に連れ戻されてしまうことがわかっていたからである。そう考えていた時、扉の方からガチャっと音がしたのでそちらを向くとそこには見知った顔があった。それはイルグ派閥に所属するグレンという男だった。私には信じられない光景を目にしたような気分になったのだ。グレンはその扉を開けるやいなや険しい表情になりこちらに向かってきたのだ。それに気づくと本能的に危険を察知したのか体が動いていたのでその場から逃げ出したのだがすぐに追いつかれてしまっていた。そして首筋に剣を突きつけられてしまうことになった。動けなくなってしまい怯えていると彼はため息をつきながら言った。
「逃げられるとでも思ってるのか?」そう言われたので逃げようともしたがびくともしなかったために諦めざるを得ませんでしたの……。その時、カイル王子が助け船を出してくれたおかげで命拾いすることができたのですが同時に嫌な予感を覚えておりましたのよ?だって彼ときたら勝ち誇ったような顔をしていらっしゃったもの。きっと何か悪いことが起きるに違いないと思いまして警戒しておりましたわ。そうして身構えていたのですが特に何も起きず拍子抜けいたしましたの……でも次の瞬間には現実に引き戻されましたわ。
「シルフィ皇女様・・・」
彼女が目の前に立っていたのだ。
「なんてしぶといのかしら。エレノア、あなたのせいでわたくしの人生はめちゃくちゃにされた。絶対に許せないわ。」
「わたくしのせい??人生をめちゃくちゃにされているのは、わたくしのほうではなくて?」
「おだまりなさい。」
「国外追放できたと思ったら、カイル王子に気に入られるなんて誤算でしたわ。」
「私のお兄様との婚約を破棄されたと聞きましたわ。」
「いつもわたくしの計画を邪魔して、本当に許せないわ。」
「シルフィ皇女様...何をおっしゃっているのかしら...」
「もう、こうなったら軍事で決着をつけるしかないわ。」
宣戦布告をされてしまった。
そこに、一人の少女ルーナが現れた。
「シルフィ様申し訳ございません。すべて私のせいなんです...。恐れながら、申し上げます。どうか、どうか、もうエレノア様にあたるのはおやめください。」
「ルーナ...。しっかり説明してちょうだい。」
一度、私たちはこの場を後にすることにした。
その後、シルフィ皇女様から追撃は一度もありませんでした。
宣戦布告も取り消され
そして...私の生活はというものの、カイル王子に溺愛され気ままには過ごせませんでしたわ。
けれど、政略結婚としてしか見られていない、立場を気にして生活することには飽き飽きしていましたの。
そんなわたくしが初めて人に愛されるということを知り、わたくしも愛するということが実感できとても幸せに過ごすことができましたの。
正直、フリート王子には度胸のなさにがっかりしていましたから、婚約を破棄されたことについて何とも思っていなかったというのは内緒ですわ♡
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