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次の事件ですわ

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聖女様、そして護衛の皆さま、この度は本当にありがとうございました」
「いえ、私は何もしてませんから」
「そうですわね。あなたが頑張ったんですもの」
「そ、そんな……」
「ふふっ、謙遜しなくても良いんですよ?」
「い、いえ、その……あ、あの、お、お名前を聞いてもよろしいですか?」
「私ですか?私はセレスティナ・レインと言います」
「セレスティナ様ですね。あの、私の事はルナと呼んでください!」
「はい、分かりました。ルナさん、またお会いしましょうね」
「はい!必ず、必ず会いに行きます!」
そうして私達は別れ、学園に戻ったのだった。
それから数日後、ルナが王都にやって来たと報告を受けた。
「ルナさんが学園に!?」
「はい、セレスティナ様が学園に戻られたと聞いて、どうしても会いたいと申されたそうでして……」
「なるほど、それでいつ頃到着予定なんですか?」
「それが、もうすでに門の前にいるそうです」
「えっ!?じゃあ早く迎えに行かなくちゃ!!」
「あっ、お嬢様!!お待ち下さい!!」
私は急いで門へと向かった。するとそこには以前とは見違えるほど綺麗なドレスを着たルナの姿があった。
「ル、ルナさん!?ど、どうしたんですかその格好は!?」
「えへへ、実はあれから頑張って勉強したんです。だから今じゃ貴族の令嬢として恥ずかしくないくらいにはなったと思います」
「凄いですね……本当に立派になって……」
「はい、これも全てセレスティナ様のお陰です!ありがとうございます!」
「いえ、私は何もしてないですから。それより、これからどうするんですか?もし良かったらうちに来ませんか?」
「え、良いんですか!?」
「もちろんですよ。せっかく会えたんですから、もっとゆっくりお話をしたいですし」
「嬉しいです!それじゃあお言葉に甘えてお邪魔させて頂きますね!」
こうして私はルナさんを屋敷に招く事にしたのだった。
*****
その後、屋敷でお父様達にも紹介したのだが、その時なぜかお父様達が妙にニヤニヤしていたのが少し気になったが、まぁ気のせいだろうと思い特に気にはとめなかった。
それからしばらくして、私とルナさんは毎日のように遊ぶようになっていた。
そんなある日の事、突然ルナさんに大事な話があると言われ、二人きりで話す事になった。
「それで、話って何ですか?」
「はい、それは……えっと、そのぉ……」
何やら言いづらそうにしているルナさんを見て、なんとなく察した私は助け舟を出す事にした。
「もしかして、好きな人が出来たとかですか?」
「ふぇっ!?な、何で分かったんですか!?」
「ふふっ、何となくそう思っただけです」
「うぅ~、やっぱりセレスティナ様に隠し事は出来ないですね……」
そう言って苦笑するルナさんだったが、その顔はとても幸せそうだった。
「それで、誰なんですか?私の知ってる人ですか?」
「えっと、多分知らないと思うんですけど、私が好きになった人はこの国の第一王子であるアレス殿下なんです……」
それを聞いて、私は思わず固まってしまった。
(えっ!?ちょっと待って!?それってつまり、ルナさんの好きな相手がこの国の王子様って事だよね!?)

まさかの展開に頭が追いつかなくなるが、それでもなんとか平静を装って返事をする事に成功した。
「そ、そうですか……でも、どうしてそれを私に教えてくれたんですか?」
「だって、セレスティナ様は私にとって一番大切な人ですから、ちゃんと伝えておきたかったんです」
「ルナさん……」
「それに、これからはライバル同士になるわけですし、早めに言っておかないとと思いまして……」
「えっ、ライバルってどういう事ですか?」
「あれ、知らなかったんですか?セレスティナ様もアレス殿下の事を慕っているとお聞きしましたけど……」
そう言われて、初めて知った事実に驚愕すると同時に顔が真っ赤になったのが分かった。
「ふぇぇええええっ!?わ、私があのアレス様をす、好きぃいいいっ!?」
「ちょっ、落ち着いてくださいセレスティナ様!!」
あまりの衝撃的な発言にパニックに陥っていると、慌てた様子のルナさんに肩を揺さぶられたおかげで何とか落ち着きを取り戻す事が出来た。
「はぁ……はぁ……ご、ごめんなさい。取り乱してしまって……」
「いえ、大丈夫ですよ。それよりも、大丈夫ですか?顔色が悪いようですけど……」
心配そうに見つめてくる彼女に、私は精一杯の笑顔を作って答えた。
「だ、大丈夫です……ちょっと驚いただけなので……」
「……嘘ですよね?本当は辛いんですよね?」
「っ……!」
図星を突かれて黙り込んでしまう私に、彼女は優しく微笑みながら言葉を続けた。
「分かりますよ、それくらい。セレスティナ様がどれだけ苦しんでるのかくらいはね」
その言葉に、とうとう耐えきれなくなった私は涙を流しながら全てを打ち明けた。
「うぐっ……ひっぐ……私……最初はただ憧れていただけだったんですぅうう……なのに、いつの間にか好きになっててぇえええ……でも、こんな気持ち知られたら嫌われちゃうと思ってぇええ……」
泣きながら胸の内を吐露する私を、彼女は何も言わずに抱きしめてくれた。その温もりに包まれた事で安心感を覚え、徐々に落ち着きを取り戻していった。
数分後、ようやく泣き止んだ私は改めて謝罪をした。
「すいません……みっともない所を見せてしまって……」
「いえ、気にしないでください。むしろ頼ってもらえて嬉しかったですから」
そう言って微笑む彼女を見ていると、なんだか心が安らいできた気がした。
「ありがとうございます……少し気持ちが楽になりました」
「ふふっ、どういたしまして♪それで、これからどうしますか?」
「どうしましょう……?」
「うーん、とりあえずアピールしてみたりしたらどうですか?」
「あぴーるですか?」
いまいち理解していない私に、ルナさんは丁寧に説明してくれた。
「はい、例えばですけど、デートに誘ってみるとかどうでしょうか?」
それを聞いた瞬間、私の顔が一瞬で真っ赤に染まった。
「デ、デートだなんてそんなぁ……私には無理ですよぉおお……」
そんな私の様子を見てか、ルナさんがクスクスと笑った。
そして不意に顔を近づけてきたかと思うと耳元で囁いた。
「大丈夫、きっと上手くいきますから♪」
その言葉を最後に、私達は解散したのだった。
(うぅ~、どうしよう……このままじゃ本当にまずいかもぉおおお……!!)

自室に戻った後も悶々と悩んでいたのだが、結局答えは出ないままその日は眠りについたのだった。
~翌日~ 翌朝、いつものように朝食を食べ終えた私は学園に向かう準備をしていたのだが、そこでふと昨日の会話を思い出してしまった。
(そういえば、ルナさんと話してた時は何も考えずにいられたんだけどなぁ……)
そんな事を考えているうちに段々と恥ずかしくなってきたため、慌てて首を振って雑念を振り払った後、足早に部屋を出たのだった。
*****
教室に着くと、既にほとんどの生徒が集まっていたようで皆楽しそうに話をしていたのだが、その中に一人だけ机に突っ伏している人物を見つけたので気になって近づいてみたところ、なんとそれはルナさんだった。
心配になって声をかけてみると、どうやら寝不足のようで眠そうな目をしながら顔を上げた彼女と目が合ってしまった。すると途端に彼女の顔が赤く染まり始めたのを見て不審に思っていると、突然彼女がとんでもない事を言い出したのだ。
「あの、セレスティナ様……昨日はありがとうございました!それと、これからもよろしくお願いしますね!」
突然の告白じみた言葉に動揺しつつも何とか取り繕おうとしたのだが、その前に他の生徒達が集まってきてしまい完全にタイミングを逃してしまった。
そのため仕方なく諦める事にしたのだが、その後もずっと彼女の事が頭から離れずにいたのだった。
*****
授業中も上の空だったため何度も注意されてしまったが、その度に謝りつつもなんとか乗り切ることが出来た。しかしその間も頭の中はルナさんでいっぱいになっており、正直授業の内容など全く頭に入ってこなかった。
(うぅ~、やっぱりおかしいよねこれ!?絶対変だって思われるに決まってるもん!!あぁもうどうしたらいいのぉおおお!?)
心の中で絶叫していると、突然後ろから声をかけられた。振り返るとそこにはクラスメイトの少女が座っていた。
名前は確かニーニャさんだったか?
「ねぇ、ちょっといいかしら?」
いきなり話しかけられて戸惑っていると、彼女は続けてこう言った。
「あなた、最近ルナ様と仲良いみたいだけど一体何をしているのかしら?」
その言葉にドキッとしたが、どうにか平静を装って答える事にした。
「えっと、友達として仲良くさせてもらってるだけですよ?それ以外には特に何もありませんけど……」
そう言うと何故か訝しげな視線を向けられてしまったのだが、すぐに表情を戻すと言った。
「そう、ならいいけど……あまり調子に乗らない方がいいわよ?でないと痛い目を見ることになるからね」
それだけ言うとさっさと立ち去ってしまった為、何が言いたかったのかはよく分からなかったがとにかく助かった事に安堵していた。だがそれと同時に不安にも襲われていた。
(それにしてもさっきの言葉どういう意味なんだろう……?……はぁ……憂鬱だなぁ……)
ため息をつきながらも再び前を向くと、ちょうど次のページをめくるよう教師に言われたところだったので大人しく従うことにしたのだった。
(はぁ……今日も疲れたぁ~……早く帰って寝たいなぁ~)
そう思いながら歩いていると、突然背後から誰かに抱きつかれたような感覚に襲われた。驚いて振り向くとそこには見知った顔があった。

それは紛れもなくルナさんだったのだが、何故ここに居るのだろうかと思っているうちに今度は正面から抱きしめられるような形になってしまった。しかもその際に豊満な胸が押し付けられる形で密着してしまい身動きが取れなくなってしまった上に顔も近くなってしまったせいで余計に意識してしまう事になった。
(あわわわっ!近いぃいっ!!いい匂いするぅうう!!)
もはやパニック状態になっていると、さらに追い打ちをかけるように耳元で囁かれた。
「ふふっ♪セレスティナ様ったら可愛い反応してくれますね」
その瞬間背筋がゾクッとする感覚に襲われて身震いしてしまったが、そんな事などお構いなしといった様子で彼女は続けた。
「実はですね?昨日からずっと考えていたんですよ……」
何を言われるのかと身構えていると、予想外の言葉が飛び出してきた。
「やっぱり諦めきれないなって思いました!」
それを聞いて一瞬思考が停止した後、ようやく言葉の意味を理解した時にはすでに手遅れになっていた。
「正々堂々と勝負ですわ!」
突然告げられた告白に頭が追いつかず呆然としていると、彼女は続けてこう言った。
「返事はいつでも構いませんので、じっくり考えてくださいね?それでは失礼します!」と言って彼女は立ち去ってしまったのだが、取り残された私はしばらくの間その場から動けずにいたのだった。
*****
その日の夜、私はベッドの上でゴロゴロしていた。
(あぁ~……どうしよう……全然眠れそうにないよぉおお……)
ルナさんから告白された事を思い出す度に顔が熱くなり鼓動が激しくなるという無限ループに陥っていたため、寝るどころではなくなってしまったのだ。
(うぅ~……やっぱり返事しないといけないよね……?でも、なんて言えばいいんだろ……?)

頭の中で様々な考えが浮かんでは消えていく中、ふとある考えが頭をよぎった。
(そういえばルナさんって、殿下の事が好きだったんだよね……?それなのになんで私なんかを好きになったんだろう?)
そんな疑問が浮かんだ瞬間、考えるよりも先に口が動いていた。
「よしっ!決めた!」
そう言うとベッドから飛び起きて身支度を整え始めた。そしてそのまま部屋を出て玄関に向かうと、そこに立っていた使用人の人に話しかけた。
「すいません、ちょっと出かけてきます!」
それだけ告げると返事を待たずに走り出したのだった。
(うぅ~、やっぱり緊張するなぁ~……でも頑張らないと!)
覚悟を決めて扉を開くとそこには既にルナさんの姿があった。彼女は私を見ると笑顔で出迎えてくれた。
「お待ちしておりましたわ!さぁ、参りましょうか!」
そう言うと私の手を取り歩き出したのだが、あまりにも自然な動作だったので抵抗する間もなく連れて行かれてしまった。
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