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いざ撮影
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「兄ちゃん、カッコいい!」
「あらヤダ素敵! 祥くんとは違うタイプのイケメンねぇ!」
俺はワイシャツの上から軽い上着を着せられた挙句二人にそう褒められる。個人的にもそれなりに似合ってると思う。このディレクター、話し方はオネエだが腕は確からしい。
「さて二人とも! いつも買い物する時みたいに自然体でお願い! じゃあ撮影開始よ!」
ディレクターがそう言うと、カメラが俺達に向けられる。同時に外野からの目線も集まって来る。
「兄ちゃん! いつも通りに買い物していこ!」
「まぁ、ディレクターの指示だしな。」
「クレープ食べたり雑貨見て回ったりしよ!」
「はいはい。」
祥に手を引かれ、俺は苦笑いする。カメラのフラッシュがこちらに向けられる。祥の笑顔がフラッシュと合わさって、凄く、綺麗だった。
第17話 いざ撮影
俺は祥の先導でクレープ屋に着く。カメラやスタッフさんも着いてくる。大行列の先頭を往くのは好きじゃないが、仕方がない。祥との約束もあるし。
「イチゴクレープ下さい!」
「俺はバナナチョコでお願いします。」
「は、はい! 少々お待ちください!」
クレープ屋の店員も、数台あるカメラが向けられ驚いているみたいだ。顔がほんのり赤い。暫くすると、クレープがやって来る。
「お待たせしました! イチゴクレープとバナナチョコクレープです!」
「ありがと!」
「どうも。お代はいくらですか?」
俺が値段を聞くと、ディレクターが後ろから声を掛けてくる。
「お代はこっちが出すから気にしないで! それより早くクレープ食べて、良い絵頂戴!」
「すみません、ありがとうございます。」
「ありがとうございます! ディレクターさん!」
お言葉に甘え支払いを任せる。二人でクレープを齧る。クリームとバナナのこってりとした甘さが広がるが、チョコのほろ苦さが中和して旨い。
「久しぶりに食べたけど、なかなか旨いな。」
「イチゴも美味しいよ! ほら、兄ちゃん味見!」
祥が自分のクレープを差し出す。俺は髪をかき上げ差し出されたクレープに齧りつく。イチゴの酸味が甘さと絡み、これまた旨い。
「旨いな。イチゴが良い仕事してる。」
「でしょ? 兄ちゃんのクレープも味見させて?」
祥が口を開けて俺にねだる。俺は自分のクレープを祥の口へ運ぶ。祥はクレープに齧りつき口をもぐもぐさせている。
「うん! 美味しい!」
「あ、祥。口の周りにクリームついてる。」
「何処? 兄ちゃんとって!」
「ほら、こっち向け。」
俺は祥の口の下に付いたクリームを指で拭い、そのまま舐めとる。すると、ディレクターから声がかかる。
「二人とも! すっごく良い絵取れてるわよ! まるで付き合ってるみたいよ!」
「そ、そんな事、ないもん……!」
「これくらい、普通では?」
祥の顔が赤くなる。俺の顔も少し熱くなる。
「あらあら、照れちゃって可愛いわぁ! さて、クレープ食べ終わったら次行きましょ!」
ディレクターの言葉に動揺しながらクレープを無心で食べ終える。祥と小声で会話する。
「……バレてないよな?」
「……誰にも言ってはいないけれど。」
ディレクターのニマニマ顔に若干怯えつつ、二人で雑貨屋を目指す。
______
雑貨屋は女性のグループやカップルが多い。その中に俺達も入る。
「いらっしゃいませ! どうぞごゆっくり!」
店員の声をBGMに、俺達は食器を見る。
「この食器、お洒落だな。刺身とかカプレーゼとかに良さそうだ。」
「いいね! 兄ちゃんのカプレーゼ、俺好きだよ! 今度作って?」
「分かったよ。」
祥の『お願い』には、どうにも弱い。それに『料理が好き』と言われて、素直に嬉しかったのもある。
「兄ちゃん、この鍋掴み可愛い!」
「パペット人形みたいだな。ちゃんとした鍋掴み家にないから、欲しい所だな。」
「じゃあ買おうよ兄ちゃん!」
「給料出たらな。」
「はーい!」
食器を見ていくと、マグカップのコーナーにたどり着いた。アルファベット一文字が描かれているシンプルなものだ。何気なく眺めていると、祥がそのマグカップのうち2つを持って来る。『K』と『S』が描かれているものだ。
「兄ちゃん! 俺これ欲しい!」
「給料出たらな。」
「でもお揃いのマグカップ、家に無いじゃん! 欲しいよ!」
「でもな、金に余裕無いんだ。1週間待てば給料入るから、な?」
「えー!?」
祥が久しぶりに駄々をこねる。叶えてやりたいが、本当に手持ちがないのだ。悩んでいると、ディレクターが何かを差し出してきた。
「これで買いなさいな!」
差し出されたのは。1万円が入った財布。俺はディレクターに財布を返す。
「こんなの、受け取れません。」
「いいから、今日の日給の1つだと思って。代わりにマグカップとか買う場面を撮らせてね?」
「さっすがディレクター! 男前!」
「私の心は乙女よ! 男じゃないわよ!」
「……本当にオネエだった。」
一先ず財布を受け取る。これから支払われる日給から差し引かれても良い様に、最低限欲しい物だけ買うことにする。
「祥、予算の5千円までなら買ってもいいぞ。」
「じゃあこのお揃いマグカップと、さっきの鍋掴みと、お皿と……。」
「マグカップ2つと鍋掴みだけで良くないか?」
「兄ちゃんのカプレーゼにさっきのお皿は必要だよ!」
「……はぁ。」
「やったぁ! 兄ちゃんありがと!」
結局、俺は予算をオーバーして皿を追加で買った。祥は本当に俺に頼み事するのが上手い。
______
撮影が終わり、日給と使った衣服、それと買わせてもらった雑貨を手に俺達は帰る事となった。帰りは祥のマネージャーさんが運転する車で帰る。何故かディレクターもついて来た。
「ねぇ、啓くん。貴方本格的にモデルやらないかしら?」
「今回だけ、と言いましたが……。」
「そこを何とか! 今回の祥くん、他の雑誌以上に良い顔してたのよ! それもこれも啓くん相手だからだと思うの!」
「そうだよ兄ちゃん!」
祥も何故か会話に入って来る。
「俺、相手が兄ちゃんだから緊張しなかったもん! それに、毎回兄ちゃんと写真撮れたら楽しいよ!」
「でも俺、バイトあるしなぁ……。」
「でもこっちの方が稼げるわよ? 学業優先でいいから、お願い!」
そう言われ、無理矢理ディレクターに名刺を渡された。
「私は斎。『ケルビン』を始めとしたファッション誌のディレクターを数多くやってるわ。出来高制だけれどもしっかりお給料は支払うし、希望があれば、最初の内は祥くんとの撮影をメインにさせて貰うわよ? 連絡、待ってるわ。」
こうして俺は奇妙なディレクターと繋がりが出来てしまった。
「あらヤダ素敵! 祥くんとは違うタイプのイケメンねぇ!」
俺はワイシャツの上から軽い上着を着せられた挙句二人にそう褒められる。個人的にもそれなりに似合ってると思う。このディレクター、話し方はオネエだが腕は確からしい。
「さて二人とも! いつも買い物する時みたいに自然体でお願い! じゃあ撮影開始よ!」
ディレクターがそう言うと、カメラが俺達に向けられる。同時に外野からの目線も集まって来る。
「兄ちゃん! いつも通りに買い物していこ!」
「まぁ、ディレクターの指示だしな。」
「クレープ食べたり雑貨見て回ったりしよ!」
「はいはい。」
祥に手を引かれ、俺は苦笑いする。カメラのフラッシュがこちらに向けられる。祥の笑顔がフラッシュと合わさって、凄く、綺麗だった。
第17話 いざ撮影
俺は祥の先導でクレープ屋に着く。カメラやスタッフさんも着いてくる。大行列の先頭を往くのは好きじゃないが、仕方がない。祥との約束もあるし。
「イチゴクレープ下さい!」
「俺はバナナチョコでお願いします。」
「は、はい! 少々お待ちください!」
クレープ屋の店員も、数台あるカメラが向けられ驚いているみたいだ。顔がほんのり赤い。暫くすると、クレープがやって来る。
「お待たせしました! イチゴクレープとバナナチョコクレープです!」
「ありがと!」
「どうも。お代はいくらですか?」
俺が値段を聞くと、ディレクターが後ろから声を掛けてくる。
「お代はこっちが出すから気にしないで! それより早くクレープ食べて、良い絵頂戴!」
「すみません、ありがとうございます。」
「ありがとうございます! ディレクターさん!」
お言葉に甘え支払いを任せる。二人でクレープを齧る。クリームとバナナのこってりとした甘さが広がるが、チョコのほろ苦さが中和して旨い。
「久しぶりに食べたけど、なかなか旨いな。」
「イチゴも美味しいよ! ほら、兄ちゃん味見!」
祥が自分のクレープを差し出す。俺は髪をかき上げ差し出されたクレープに齧りつく。イチゴの酸味が甘さと絡み、これまた旨い。
「旨いな。イチゴが良い仕事してる。」
「でしょ? 兄ちゃんのクレープも味見させて?」
祥が口を開けて俺にねだる。俺は自分のクレープを祥の口へ運ぶ。祥はクレープに齧りつき口をもぐもぐさせている。
「うん! 美味しい!」
「あ、祥。口の周りにクリームついてる。」
「何処? 兄ちゃんとって!」
「ほら、こっち向け。」
俺は祥の口の下に付いたクリームを指で拭い、そのまま舐めとる。すると、ディレクターから声がかかる。
「二人とも! すっごく良い絵取れてるわよ! まるで付き合ってるみたいよ!」
「そ、そんな事、ないもん……!」
「これくらい、普通では?」
祥の顔が赤くなる。俺の顔も少し熱くなる。
「あらあら、照れちゃって可愛いわぁ! さて、クレープ食べ終わったら次行きましょ!」
ディレクターの言葉に動揺しながらクレープを無心で食べ終える。祥と小声で会話する。
「……バレてないよな?」
「……誰にも言ってはいないけれど。」
ディレクターのニマニマ顔に若干怯えつつ、二人で雑貨屋を目指す。
______
雑貨屋は女性のグループやカップルが多い。その中に俺達も入る。
「いらっしゃいませ! どうぞごゆっくり!」
店員の声をBGMに、俺達は食器を見る。
「この食器、お洒落だな。刺身とかカプレーゼとかに良さそうだ。」
「いいね! 兄ちゃんのカプレーゼ、俺好きだよ! 今度作って?」
「分かったよ。」
祥の『お願い』には、どうにも弱い。それに『料理が好き』と言われて、素直に嬉しかったのもある。
「兄ちゃん、この鍋掴み可愛い!」
「パペット人形みたいだな。ちゃんとした鍋掴み家にないから、欲しい所だな。」
「じゃあ買おうよ兄ちゃん!」
「給料出たらな。」
「はーい!」
食器を見ていくと、マグカップのコーナーにたどり着いた。アルファベット一文字が描かれているシンプルなものだ。何気なく眺めていると、祥がそのマグカップのうち2つを持って来る。『K』と『S』が描かれているものだ。
「兄ちゃん! 俺これ欲しい!」
「給料出たらな。」
「でもお揃いのマグカップ、家に無いじゃん! 欲しいよ!」
「でもな、金に余裕無いんだ。1週間待てば給料入るから、な?」
「えー!?」
祥が久しぶりに駄々をこねる。叶えてやりたいが、本当に手持ちがないのだ。悩んでいると、ディレクターが何かを差し出してきた。
「これで買いなさいな!」
差し出されたのは。1万円が入った財布。俺はディレクターに財布を返す。
「こんなの、受け取れません。」
「いいから、今日の日給の1つだと思って。代わりにマグカップとか買う場面を撮らせてね?」
「さっすがディレクター! 男前!」
「私の心は乙女よ! 男じゃないわよ!」
「……本当にオネエだった。」
一先ず財布を受け取る。これから支払われる日給から差し引かれても良い様に、最低限欲しい物だけ買うことにする。
「祥、予算の5千円までなら買ってもいいぞ。」
「じゃあこのお揃いマグカップと、さっきの鍋掴みと、お皿と……。」
「マグカップ2つと鍋掴みだけで良くないか?」
「兄ちゃんのカプレーゼにさっきのお皿は必要だよ!」
「……はぁ。」
「やったぁ! 兄ちゃんありがと!」
結局、俺は予算をオーバーして皿を追加で買った。祥は本当に俺に頼み事するのが上手い。
______
撮影が終わり、日給と使った衣服、それと買わせてもらった雑貨を手に俺達は帰る事となった。帰りは祥のマネージャーさんが運転する車で帰る。何故かディレクターもついて来た。
「ねぇ、啓くん。貴方本格的にモデルやらないかしら?」
「今回だけ、と言いましたが……。」
「そこを何とか! 今回の祥くん、他の雑誌以上に良い顔してたのよ! それもこれも啓くん相手だからだと思うの!」
「そうだよ兄ちゃん!」
祥も何故か会話に入って来る。
「俺、相手が兄ちゃんだから緊張しなかったもん! それに、毎回兄ちゃんと写真撮れたら楽しいよ!」
「でも俺、バイトあるしなぁ……。」
「でもこっちの方が稼げるわよ? 学業優先でいいから、お願い!」
そう言われ、無理矢理ディレクターに名刺を渡された。
「私は斎。『ケルビン』を始めとしたファッション誌のディレクターを数多くやってるわ。出来高制だけれどもしっかりお給料は支払うし、希望があれば、最初の内は祥くんとの撮影をメインにさせて貰うわよ? 連絡、待ってるわ。」
こうして俺は奇妙なディレクターと繋がりが出来てしまった。
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