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【連載版】俺の部屋に「ただいま」と言いながら入ってくるクズ男のはなし
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「祐也、朝になっても帰ってこないんだもん。心配したよ~」
「は~な~せ~!!」
三輪の部屋に入るなり俺に飛び着いてきた透を一生懸命剥がそうとするが、無駄に力が強くて離れない。
それに、後ろから三輪の圧を感じる。透も気が付いたのか、俺を抱きしめたまま顔だけを三輪の方に向けた。
「祐也が一晩お世話になったみたいで、どうも。返してもらうね」
「あんたに礼を言われる筋合いはないし、坂口はあんたのものじゃない」
なぜ三輪までケンカ腰なのか! いや、そういえばさっき告白されたばかりでしたね。
俺は透と付き合っていないと言ったのに、突然乗り込んできた透にイラつくのは当然、なのか?
とりあえず、俺は拘束から逃れようと、透の背中をバンバン叩く。さすがに痛かったのか、不満げな顔をしながらも透は俺から少し離れた。腕はつかまれたままだけど。
三輪は見たことないくらいどす黒いオーラを出しているし、なぜか透は三輪を挑発するような態度だし、部屋の空気はものすごく悪い。
でも、俺は……。うぅぅ。受け入れたくないし、認めたくはないのだが。
透が迎えに来てくれたことを、俺は。間違いなく、喜んでいる。
だから、掴まれた腕を振りほどかないし、透の側から離れようと思わないのだ。
こんなふうに実感したくはなかったが。もうこれは『わからない』なんて言えない。
心の中でため息をつきながら、透の横顔を見上げる。上を向いた長いまつげに、大きな瞳。高い鼻梁の下にある形よく尖った唇。相変わらず顔がいい。
「前に言ったよね。祐也は俺のものだって」
「いつだよ……!」
イケメンの横顔に見惚れていた情緒は一瞬で吹き飛んでいってしまった。
透と三輪が接触してたなんて、俺知らないんだけど! しかもどうして、なんでそんな話題になった?!
「んーちょっと前かな。そうそう、祐也のマンションのポストに変な写真が入れられるようになった少し前」
「な、なんで写真のこと知って……?!」
透はにっこりと笑う。
俺は写真のことを透に話してないし、写真自体も封筒ごと棚の中にしまっておいた。確かに隠しておいたというほどではないからすぐに見つけられるとは思うが。
「祐也の様子がおかしかったからさ。ちょっと探してみた」
そう言って、透がポケットから取り出したのは確かにポストに入れられていた写真だ。それを透は三輪の足元に投げた。
「見覚えある?」
「……なんだよこれ」
足元に散らばった写真を拾った三輪は眉をひそめる。俺はもちろん三輪にもこの写真の話をしていない。明らかなストーカー行為だとわかる写真だ。突然見せられたらそういう反応になるだろう。っていうか、投げつけるとか態度悪すぎるだろうが。非難の目で透を見上げる。もちろん透が気にするそぶりはない。
「ねぇ祐也。一昨日、祐也のこと襲ったやつらのことなんだけど」
それも知ってるのかよ。驚いた顔をする俺の頭を透はなぜか優しい手つきで撫でてくる。まるで慰めるようなその手に、なにかがこみ上げてきそうになって、咄嗟に顔をそむけた。
「あいつらがなんで俺と祐也のこと、知ってたんだと思う?」
言われてハッとする。繰り返しになるが、俺はこれまで三輪以外に透が知り合いであることを話したことはない。三輪に話したのだって、たまたま駅で一緒にいるところに出くわしたから話しただけだし。
多分、透も同じ。俺とのことは誰にも話していないはず。あっでも、三輪には話してたんだっけ? なんでかはわかんないけど。
駅で一緒にいるとこを見たという可能性もあるな。でも、それだけで関係を疑うのはちょっと短絡的な気もする。
「……調べた、とか? だってこの写真だってあいつらが、」
透はゆっくりと首を振った。
「これと同じ写真が学内アドレスに送られてきたんだって。ご丁寧に、祐也の個人情報と、俺の恋人だっていうメッセージ付きで」
学内アドレスは大学に所属する人すべてに発行されているメールアドレスだ。学内でのやり取りは基本、このアドレスを利用する。アドレスは名前プラス学校のドメインだから、それを知っていれば誰からでもメールは送れるものなのだが。
俺を襲ったやつらはあの後すぐに警察に引き渡され、今は拘留中だと聞いている。だから、もうなにもないよなって、ちょっと安心してたのに。
写真はあいつらの仕業じゃないとなると、他にもまだ俺に悪感情を抱いている奴がいるわけで。またなにか起こる可能性があるってことだ。
さすがにキャパオーバー。力が抜け、ふらりと傾いた体を透が支えてくれた。慣れた体温に、少しだけ安心する。
「自作自演っていう可能性もあるだろ」
三輪の声に顔を上げる。相変わらず三輪は険しい顔をしていた。
確かに、あいつらがいい逃れようとして嘘をついている可能性もなくはない。でも、透は三輪の言葉にふんっと鼻で笑った。
「相手は捨てアドだったみたいだけど。まぁそれでも警察が調べたらわかるでしょ」
気づかわし気に俺の背を撫でていた手を離したと思ったら、透は唐突にダイニングの中へと歩いていった。
「ねぇ、この長いやつって望遠レンズだよね? これってさ、どのくらいまで遠く撮れるの?」
カメラが入っている棚の前にかがんだ透は三輪に顔を向けた。脈絡がなさ過ぎる。三輪もそう感じているのか、答えず、眉をしかめたままだ。
「たとえばさー」
三輪から答えがないのを気にした様子もなく、透は立ちあがり、ベランダの窓を開けた。相変わらずのマイペース。他人の機嫌とか、空気とか全然気にしない。あれな、読めないんじゃなくて、あえて読まないやつ。
でも、次に続いた言葉に、俺は透に心の中で文句を言っている場合ではなかったとようやく気が付いた。
「ここからよーく見える、祐也のマンションまで撮れちゃったりする?」
俺のマンションと三輪のマンションは一駅分離れている。車なら10分くらいの距離だろうか。
でも、三輪のマンションは少し高台にある。しかも5階建ての最上階。背の高い建物にさえぎられることもなく、視線の先にははっきりと俺のマンションが見えていた。
「と、突然なに言ってるんだよ、透」
三輪は何も言わない。でも、さすがにここまで言われたら俺だって透が何を言わんとしているか察した。でも、まさか。いや、違うだろ。だって、三輪がそんなことする理由がない。
「建物なら撮れるんじゃない? さすがにこんなふうには撮れないけどな」
三輪は険しい顔をほどき、困ったように笑いながら俺と透の写る写真を手に取ってこちらに向けた。
そうだ、そうだよ。写真には俺と透の顔がはっきりと写っている。それに、他の写真も俺たちの後から後を追うように撮られているから、ここから撮れるようなものじゃない。
なにを言ってるんだという思いを込めて透の方を見ると、こちらはこちらでくすくすとからかうように笑っていた。
「なんかの漫画で、やってない人は疑われると怒るけど、真犯人は笑うんだっていう話しあったけど、あれ、ほんとなんだね」
透の方がよっぽど悪役に見えるが。でも、透は三輪がこの写真を撮った犯人だと確信してるってことだ。
窓を閉めた透はまた俺の横まで戻ってきて、俺の腰に手を回した。なんでだよ、離れろ。俺の頭に顔を乗せるな。
「まさか、俺がこの写真を撮った犯人だって言いたいわけ?」
「違うの?」
「濡れ衣にもほどがある。坂口を奪われそうだから焦ってんの?」
「ははっ、お前ごときに祐也がなびくわけないでしょ。まぁ濡れ衣かどうかはさ、これ見てから言ってよ」
透はポケットからスマホを取り出すし、その画面をこちらに向けると動画の再生ボタンを押した。
映し出されたのは俺のマンションの入り口、ポストの前だ。ポストよりも入り口から奥にある非常階段から撮っているようだ。時間は夜だろうか。映っているマンションの外は暗い。
「ポストに写真が入れられるのは、いつも祐也が家にいない時っぽかったからさ。当たりをつけて張ってみたんだけど。そしたらいいものが撮れたんだよね~」
誰もいなかったポスト前に誰かが現れた。黒いキャップを目深にかぶり、黒いマスクをした人物。顔は見えないが、体格からして男だ。
「これが俺だっていうわけ?」
「まぁまぁ続き見てよ」
透のどこか楽しげな声と、不機嫌を隠さない三輪のギャップがえぐい。やっぱり透の方が悪役に見えるのは、胡散臭いしゃべり方のせいだろうか。
動画の中の男は周囲を気にしながら、俺の部屋番号が書かれたポストに封筒を入れた。写真が入っていた封筒と同じものだ。
男が去った後にすぐ、それを確かめるようにポストを開け、入れられたものを透が確かめている様子も映されている。それはやっぱり写真だった。抜かりがない。
まだ動画は終わらない。録画状態のまま透はマンションから出ていった男を追って外に出たようだった。画面が大きく揺れているから走っているんだろう。少しすると、「いた」という透の小さな声と共に、さっきの男が画面に収まった。その後ろを一定の距離を取ってついていく。
「もういいだろ、こんな茶番に付き合ってる暇ない」
声に焦りを乗せた三輪は、透が手に持つスマホを奪おうと前に出た。それを余裕そうに透は躱す。顔には笑みを浮かべたまま。
「ここからがハイライトだよ」
変わらず一定の距離を保ったまま映されている男は、俺がバイトをしているコンビニの横を通り過ぎ、やがて駅に着いた。俺のマンションの最寄り駅はそれほど大きな駅ではないが、同じ大学に通う学生が多く住んでいることもあって、それなりに利用客は多い。ちょうど電車が着いたタイミングだったのか、人ごみにまぎれた男とは動画の中で少し距離ができていた。だからこそなのか。そこから距離を詰めることなく、ズーム撮影に切り替わる。そして、改札をくぐった直後、男はキャップを取った。
そこに映っていたのは、まぎれもなく三輪だった。
「さぁ、どう言い訳する? 」
透は愉快そうに憎たらしい笑みを三輪に向ける。他者が見たらそのきれいな笑顔は、楽しそうに人を追い詰めるサイコパスのように写るかもしれない。
でもさ、俺はわかってしまうんだ。透とは伊達に長い付き合いじゃないんだから。
透は怒っている。
俺のために。
「は~な~せ~!!」
三輪の部屋に入るなり俺に飛び着いてきた透を一生懸命剥がそうとするが、無駄に力が強くて離れない。
それに、後ろから三輪の圧を感じる。透も気が付いたのか、俺を抱きしめたまま顔だけを三輪の方に向けた。
「祐也が一晩お世話になったみたいで、どうも。返してもらうね」
「あんたに礼を言われる筋合いはないし、坂口はあんたのものじゃない」
なぜ三輪までケンカ腰なのか! いや、そういえばさっき告白されたばかりでしたね。
俺は透と付き合っていないと言ったのに、突然乗り込んできた透にイラつくのは当然、なのか?
とりあえず、俺は拘束から逃れようと、透の背中をバンバン叩く。さすがに痛かったのか、不満げな顔をしながらも透は俺から少し離れた。腕はつかまれたままだけど。
三輪は見たことないくらいどす黒いオーラを出しているし、なぜか透は三輪を挑発するような態度だし、部屋の空気はものすごく悪い。
でも、俺は……。うぅぅ。受け入れたくないし、認めたくはないのだが。
透が迎えに来てくれたことを、俺は。間違いなく、喜んでいる。
だから、掴まれた腕を振りほどかないし、透の側から離れようと思わないのだ。
こんなふうに実感したくはなかったが。もうこれは『わからない』なんて言えない。
心の中でため息をつきながら、透の横顔を見上げる。上を向いた長いまつげに、大きな瞳。高い鼻梁の下にある形よく尖った唇。相変わらず顔がいい。
「前に言ったよね。祐也は俺のものだって」
「いつだよ……!」
イケメンの横顔に見惚れていた情緒は一瞬で吹き飛んでいってしまった。
透と三輪が接触してたなんて、俺知らないんだけど! しかもどうして、なんでそんな話題になった?!
「んーちょっと前かな。そうそう、祐也のマンションのポストに変な写真が入れられるようになった少し前」
「な、なんで写真のこと知って……?!」
透はにっこりと笑う。
俺は写真のことを透に話してないし、写真自体も封筒ごと棚の中にしまっておいた。確かに隠しておいたというほどではないからすぐに見つけられるとは思うが。
「祐也の様子がおかしかったからさ。ちょっと探してみた」
そう言って、透がポケットから取り出したのは確かにポストに入れられていた写真だ。それを透は三輪の足元に投げた。
「見覚えある?」
「……なんだよこれ」
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「ねぇ祐也。一昨日、祐也のこと襲ったやつらのことなんだけど」
それも知ってるのかよ。驚いた顔をする俺の頭を透はなぜか優しい手つきで撫でてくる。まるで慰めるようなその手に、なにかがこみ上げてきそうになって、咄嗟に顔をそむけた。
「あいつらがなんで俺と祐也のこと、知ってたんだと思う?」
言われてハッとする。繰り返しになるが、俺はこれまで三輪以外に透が知り合いであることを話したことはない。三輪に話したのだって、たまたま駅で一緒にいるところに出くわしたから話しただけだし。
多分、透も同じ。俺とのことは誰にも話していないはず。あっでも、三輪には話してたんだっけ? なんでかはわかんないけど。
駅で一緒にいるとこを見たという可能性もあるな。でも、それだけで関係を疑うのはちょっと短絡的な気もする。
「……調べた、とか? だってこの写真だってあいつらが、」
透はゆっくりと首を振った。
「これと同じ写真が学内アドレスに送られてきたんだって。ご丁寧に、祐也の個人情報と、俺の恋人だっていうメッセージ付きで」
学内アドレスは大学に所属する人すべてに発行されているメールアドレスだ。学内でのやり取りは基本、このアドレスを利用する。アドレスは名前プラス学校のドメインだから、それを知っていれば誰からでもメールは送れるものなのだが。
俺を襲ったやつらはあの後すぐに警察に引き渡され、今は拘留中だと聞いている。だから、もうなにもないよなって、ちょっと安心してたのに。
写真はあいつらの仕業じゃないとなると、他にもまだ俺に悪感情を抱いている奴がいるわけで。またなにか起こる可能性があるってことだ。
さすがにキャパオーバー。力が抜け、ふらりと傾いた体を透が支えてくれた。慣れた体温に、少しだけ安心する。
「自作自演っていう可能性もあるだろ」
三輪の声に顔を上げる。相変わらず三輪は険しい顔をしていた。
確かに、あいつらがいい逃れようとして嘘をついている可能性もなくはない。でも、透は三輪の言葉にふんっと鼻で笑った。
「相手は捨てアドだったみたいだけど。まぁそれでも警察が調べたらわかるでしょ」
気づかわし気に俺の背を撫でていた手を離したと思ったら、透は唐突にダイニングの中へと歩いていった。
「ねぇ、この長いやつって望遠レンズだよね? これってさ、どのくらいまで遠く撮れるの?」
カメラが入っている棚の前にかがんだ透は三輪に顔を向けた。脈絡がなさ過ぎる。三輪もそう感じているのか、答えず、眉をしかめたままだ。
「たとえばさー」
三輪から答えがないのを気にした様子もなく、透は立ちあがり、ベランダの窓を開けた。相変わらずのマイペース。他人の機嫌とか、空気とか全然気にしない。あれな、読めないんじゃなくて、あえて読まないやつ。
でも、次に続いた言葉に、俺は透に心の中で文句を言っている場合ではなかったとようやく気が付いた。
「ここからよーく見える、祐也のマンションまで撮れちゃったりする?」
俺のマンションと三輪のマンションは一駅分離れている。車なら10分くらいの距離だろうか。
でも、三輪のマンションは少し高台にある。しかも5階建ての最上階。背の高い建物にさえぎられることもなく、視線の先にははっきりと俺のマンションが見えていた。
「と、突然なに言ってるんだよ、透」
三輪は何も言わない。でも、さすがにここまで言われたら俺だって透が何を言わんとしているか察した。でも、まさか。いや、違うだろ。だって、三輪がそんなことする理由がない。
「建物なら撮れるんじゃない? さすがにこんなふうには撮れないけどな」
三輪は険しい顔をほどき、困ったように笑いながら俺と透の写る写真を手に取ってこちらに向けた。
そうだ、そうだよ。写真には俺と透の顔がはっきりと写っている。それに、他の写真も俺たちの後から後を追うように撮られているから、ここから撮れるようなものじゃない。
なにを言ってるんだという思いを込めて透の方を見ると、こちらはこちらでくすくすとからかうように笑っていた。
「なんかの漫画で、やってない人は疑われると怒るけど、真犯人は笑うんだっていう話しあったけど、あれ、ほんとなんだね」
透の方がよっぽど悪役に見えるが。でも、透は三輪がこの写真を撮った犯人だと確信してるってことだ。
窓を閉めた透はまた俺の横まで戻ってきて、俺の腰に手を回した。なんでだよ、離れろ。俺の頭に顔を乗せるな。
「まさか、俺がこの写真を撮った犯人だって言いたいわけ?」
「違うの?」
「濡れ衣にもほどがある。坂口を奪われそうだから焦ってんの?」
「ははっ、お前ごときに祐也がなびくわけないでしょ。まぁ濡れ衣かどうかはさ、これ見てから言ってよ」
透はポケットからスマホを取り出すし、その画面をこちらに向けると動画の再生ボタンを押した。
映し出されたのは俺のマンションの入り口、ポストの前だ。ポストよりも入り口から奥にある非常階段から撮っているようだ。時間は夜だろうか。映っているマンションの外は暗い。
「ポストに写真が入れられるのは、いつも祐也が家にいない時っぽかったからさ。当たりをつけて張ってみたんだけど。そしたらいいものが撮れたんだよね~」
誰もいなかったポスト前に誰かが現れた。黒いキャップを目深にかぶり、黒いマスクをした人物。顔は見えないが、体格からして男だ。
「これが俺だっていうわけ?」
「まぁまぁ続き見てよ」
透のどこか楽しげな声と、不機嫌を隠さない三輪のギャップがえぐい。やっぱり透の方が悪役に見えるのは、胡散臭いしゃべり方のせいだろうか。
動画の中の男は周囲を気にしながら、俺の部屋番号が書かれたポストに封筒を入れた。写真が入っていた封筒と同じものだ。
男が去った後にすぐ、それを確かめるようにポストを開け、入れられたものを透が確かめている様子も映されている。それはやっぱり写真だった。抜かりがない。
まだ動画は終わらない。録画状態のまま透はマンションから出ていった男を追って外に出たようだった。画面が大きく揺れているから走っているんだろう。少しすると、「いた」という透の小さな声と共に、さっきの男が画面に収まった。その後ろを一定の距離を取ってついていく。
「もういいだろ、こんな茶番に付き合ってる暇ない」
声に焦りを乗せた三輪は、透が手に持つスマホを奪おうと前に出た。それを余裕そうに透は躱す。顔には笑みを浮かべたまま。
「ここからがハイライトだよ」
変わらず一定の距離を保ったまま映されている男は、俺がバイトをしているコンビニの横を通り過ぎ、やがて駅に着いた。俺のマンションの最寄り駅はそれほど大きな駅ではないが、同じ大学に通う学生が多く住んでいることもあって、それなりに利用客は多い。ちょうど電車が着いたタイミングだったのか、人ごみにまぎれた男とは動画の中で少し距離ができていた。だからこそなのか。そこから距離を詰めることなく、ズーム撮影に切り替わる。そして、改札をくぐった直後、男はキャップを取った。
そこに映っていたのは、まぎれもなく三輪だった。
「さぁ、どう言い訳する? 」
透は愉快そうに憎たらしい笑みを三輪に向ける。他者が見たらそのきれいな笑顔は、楽しそうに人を追い詰めるサイコパスのように写るかもしれない。
でもさ、俺はわかってしまうんだ。透とは伊達に長い付き合いじゃないんだから。
透は怒っている。
俺のために。
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