俺の部屋に「ただいま」と言いながら入ってくるクズ男のはなし

なつか

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【連載版】俺の部屋に「ただいま」と言いながら入ってくるクズ男のはなし

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 <注意>
 主人公がモブに襲われかける(未遂です)場面がありますます。
 苦手な方はご自衛いただきたく、よろしくお願いいたしますm(__)m

***********************************

 翌日は一限から講義があった。俺は鈍く痛む腰をさすりながらふらふらと大学へ向かい、たまたま駅で遭遇した三輪に一日介護されながら過ごしたわけだが。今日は構内で透に絡まれなかっただけ良かったと思うべきか。
 そんなことを考えながらの帰り道だった。

「あ、あの、坂口くん」

 突然声をかけてきたのは、同じ学科のやつ。話したことはこれまで一度もない。眼鏡をかけた大人しそうなやつだ。属性で言えばこいつも俺も同じ”地味キャラ”だと思うんだが、なぜにこんなにもビビっているんだろうか。これも噂のせい? それなら仕方ないかと、おどおどしているそいつに俺はとりあえず返事をする。

「なに?」
「み、三輪くんが、用事があるから図書館の自習スペースに来てほしいって」
「三輪が?」

 今日は四限までの俺と違って、三輪はもう一限あるからとさっき別れたところだ。スマホを見てみたが、特に連絡はない。なぜわざわざ初対面のやつを使って伝言を? と、その時感じた違和感を俺は大事にするべきだった。

「じゃ、じゃあ、俺はちゃんと伝えたから」

 足早に去っていったそいつを見送り、俺は首をかしげながらも駅へ向かっていた足を返して図書館に向かった。スマホの充電切れたんかな、とか暢気に思っていた俺は将来詐欺に引っかからないように、心底気を付けた方がいい。
 ドアを開けた途端、それに気が付いても遅いんだよ。

「ようこそ、淫乱ビッチくん」

 部屋には男が二人と、女の子が一人いた。目の前にいるガタイのいい男に見覚えはないが、他の二人は知った顔だ。学内で透と一緒にいたのを見たことがある。特に黒髪ロングの女の子は、少し前に透とよく一緒にいた子だ。
 どっと体中から汗が噴き出る。
 部屋を間違えたんだという希望を胸にドアを閉めようとしたが、一歩遅かった。俺はにやにやと軽薄な笑みを浮かべるガタイのいい男に腕を引かれ、あっという間に部屋の中に引きこまれていた。
 鍵が閉まるガチャリという音がして、小窓をふさぐためにホワイトボードがドアの前に置かれる。それだけで禄でもないことが起きる予感しかしない。
 まぁ、しょっぱなのセリフからもう既に悪役感満載だけどな。

「ガチでクッソ地味男じゃん、ほんとにこんなのとヤってんの?」

 口悪いな、黒髪女子。かわいい顔が台無しだぞ。でもこの一言でピンときた。なるほど、透との噂を確かめるのが目的か。
 ガタイのいい男は相変わらずにやにやとしているが、黒髪女子は俺に答えろと言わんばかりに睨みつけてくるし、もう一人の細身のキレイ系な男もむすっとした顔をしている。

「もしかして、透とのこと、ですか?」

 多分同い年だと思うんだけど。つい敬語になっちゃう俺は小心者だよ。あとはあれだよ、心の距離ね。あなたたちと親しくするつもりはありません、という。まぁ向こうにもないだろうけど。

「他になにがあるわけ? つーか、呼び捨てで呼んでんなよ、モブのくせに」

 いちいち威嚇してんのやめて。ほんと怖い。名前くらい呼んでもいいじゃん。
 でもまぁ、いくら怖いからといって、正直に答えるわけないし。

「透は実家が隣同士だっただけで、噂のような関係じゃありません」
「そんなことはわかってんだよ!」

 急に激高した黒髪女子に投げつけられたのは、数枚の写真だった。
 俺の家から透が出てくるところに、並んで歩く姿。うちのポストに入っていた写真と同じだ。

「私は家に入れてもらうどころか、こんなふうに笑いかけられたこともないのに!」

 いや、これ俺の家だし。って言える雰囲気ではない。間違いなく論点はそこじゃない。
 確かに、俺の横を歩く透は微笑んでいるが、この胡散臭そうな微笑みくらい誰にでもするだろうよ。

「私はだめなのに、こんなのになら勃つなんて……絶対信じないから!!」

 どういうことですか。
 黒髪女子は、一般的に見てかわいい子だと思う。スタイルも良くて胸もそこそこでかい。そんな女の子に、勃起しない男とかいるの? いや、俺もどうかわかんないけど。つまり、あいつは女の子がダメってこと? 

「僕だって信じらんない。僕よりこんなのがいいなんて」

 そういえばこのキレイ系男子。ポストに入れられていた写真の中にいたやつだ。空き教室で透に伸し掛かり、明らかに迫っています、といった雰囲気だった。写真はそこまでしかなかったから、その後どうなったかわからなかったけど、この様子だと断られたんだろう。
 えっこいつもダメなの? 俺、昨日めちゃくちゃにやられたんだけど。
 その瞬間、胸にぽやんと灯った感情に気が付いて、慌てて首を振って吹き飛ばす。これは持っちゃダメなやつだ。
 だって、勘違いしてはいけない。”俺が”特別なわけじゃない。こいつらが”たまたま”ダメだっただけだ。

「ほんとウザイ。せっかく身の程わからせて上げようと思って噂広めたのに全然平気な顔してるし、頭おかしいんじゃない?」

 おうおう、あの噂流したのこいつらかよ。なるほど、悪評を広めて俺が自主的に透から離れるようにしたかったってわけね。
 自分らがしたことをまるで悪いことだと思っていないような態度にため息しか出ない。もしかして、写真もこいつらの仕業か?
 でも、それを咎めたところで反省するような人間にはとても見えない。頭がおかしいのはどっちだよ。
 そういう相手には何を言っても無駄。今俺のやるべきは、さっさとこの場から逃れることだ。

「俺と透はあんたたちが勘ぐるような関係じゃない。あえて言うなら地元が同じただの同級生、です」

 だから、そういうことで。部屋を出ようと後ろを向いた俺の体は、いつの間にかガタイのいい男にホールドされていた。やっぱりそう簡単には帰してもらえないっぽい……?

「お前の言うことが嘘じゃないかは体に聞いてみようか?」

 お断りします!
 とか言う前にあっという間に床に転がされた俺。貧弱すぎる。そんな俺がこのガタイのいい男に勝てる見込みなんて微塵もない。
 体に聞いてみるってつまり、そういうことですよね。伸し掛かる男の重みに、全身から拒否を示すように悪寒が走る。透ならまだしも、他の野郎とか絶対、無理!!

 何とか身をよじって体の下から這い出ようともがく。虫みたい、うける、とか笑ってんじゃないよ、黒髪女子とキレイ系男子!
 胸元には昨日、めちゃくちゃにされた時につけられたキスマークや歯形やらがまだ色濃く残っている。そんなの見られたら一発アウトだ。
 そう思ってなんとかうつぶせになったんだけど、これがとんでもない悪手だった。

「ご協力どうも」

 した覚えはないんだが?!
 でも、そうですね、後ろからの方がやりやすいって知ってるよ、俺も。しかも足に乗られて身動きもとれない。楽ちんだよな、と思って履いてたウエストゴムのチノパンは脱がすのも楽ちん。あっという間に尻は丸出しだ。それでも俺は相変わらず虫のようにじたばたと動くことしかできない。

「へぇ」

 俺の尻を割り開いた男が楽し気に声を上げた。なんだよ、その反応!

「やっぱり嘘つきじゃん」

 黒髪女子とキレイ系男子は俺の右横側にある椅子に座ったまま、その場動かない。俺に伸し掛かる男に話の続きを促すように視線を向けている。まさか尻にも跡が残ってたのか。いや、現実はもっと残酷だった。

「こんなエッロい縦割れアナルしといて、男の経験ないとは言わないよなぁ?」

 なんですかそれ。ねぇマジで。
 えっ俺の尻孔縦に割れてんの? いや、縦に割れるってどういうこと??
 そこに衝撃を受けている場合ではないことはわかってるが、自分の尻孔なんて確認したことないし、どうなってるかなんて考えたこともなかった。
 でもこの男の言うことから察するに、縦に割れている=男の経験があるってこと?!
 そんな人体の神秘、知りたくなかった。

「しかもこれ、ヤったばっかだろ? 昨日? 随分お楽しみだったみたいだなぁ」

 そんなことまで尻の孔を見ただけでわかるこの男はなんなんだよ。昭和のセクハラおやじか。発言がキモいんだよ、クソが。

「俺の尻はもともとそうなんだよ!」

 苦し紛れにもほどがあると自分でも思うが、このままではまずいことくらいはわかる。上半身を起こして俺の尻を掴んでいる男の腕を掴んでみるが、びくともしない。
 それどころか、男は余裕そうに笑ってすらいる。

「そりゃあ随分ステキな尻だな」

 お褒めに預かり光栄だよ!このくそバカ力!!
 まだ諦めるな。多分、男の経験があることはもう言い逃れできない。でも、それがつまり透と関係とイコールにはならないはずだ。

「もし、そうだとしても、透は関係ない」
「チッ」

 舌打ちが聞こえたのは俺の右側。立ちあがった黒髪女子は何やらかばんを探り、取り出したものを雨のように俺の頭に降らした。
 また写真だ。
 俺が家から出るところ、学校から帰るところ、家に帰るところ。そして、透が俺の部屋に入るところ。
 そこに写る俺たちの服装には覚えがあった。だって、昨日着ていたものなんだから。
 体から血の気が引いていく。

「こっちは昨日あんたが会ってたのは透くんだけだってわかってんだよ、バーカ」

 ほんっとに口が悪いなこの黒髪女子。だから透に相手されなかったんじゃね? なんて悪態が口からは出ずとも、顔にはばっちり出ていたらしい。

「いっ?! うあぁ!」

 怒り心頭といった黒髪女子はためらいなく俺の手を思いっきりヒールで踏みつけやがった。穴が開いたんじゃないかっていうほどの痛みに体が震える。

「嘘つきにはお仕置きが必要だな?」
「……好きにやって。私は帰る」
「僕は参加しよっかな~」

 絶体絶命。大ピンチ。俺は必死にもがくが、今までは見ていただけだったキレイ系男子が参戦してきて、上半身に乗っかられてしまった。つぶされた蛙のような声を出した俺に「キモ」っていうくらいなら降りてくれよ。

 どうして。どうして、俺がこんな目に合わないといけないのだろうか。
 悔しくて視界がぼやけてくる。踏まれた手はズキズキと痛いし、脱げかけだったチノパンは下着と一緒にあっさりと全部脱がされてしまった。
 二人掛かりで押さえられ、抵抗もままならない。もうだめだ。

 俺が諦めかけたその時だった。

 ――コンコンコン。

 ドアのノック音だ。ちょうど部屋を出ていこうとしてドアノブに手をかけていた黒髪女子が手を止める。

「すいませーん」

 その耳慣れた声を聞いて、俺は咄嗟に大声を上げた。
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