俺の部屋に「ただいま」と言いながら入ってくるクズ男のはなし

なつか

文字の大きさ
上 下
7 / 17
【連載版】俺の部屋に「ただいま」と言いながら入ってくるクズ男のはなし

7.

しおりを挟む
「お前、今日のなに」

 透が家に帰ってきたのは俺が帰宅してから10分ほど後。授業は透の方が早く終わったはずなのに、このタイムラグは何だ。
 手を洗って冷蔵庫から水を取り出していた透は、「きょとん」と音がしそうな顔で首を傾げている。
 繰り返しになるが、これまで透が俺に学校で話しかけてきたことは、小中高大と全てにおいて一度もない。すれ違っても、たとえ目の前にいたとしても、これまで一度たりとも透は俺に話しかけてきたことはなかった。まぁ俺もしかりなんだが。
 だから、俺としては不自然極まりない行動なのだが、透の中では取り立てて意味のないことだったのだろう。

「俺の噂、聞いた?」

 だからつい、聞いてしまったのだが。口から出したあとに、余計なことを言ったなと、舌を打つ。どうせ、人の噂に興味なんてないんだから聞くだけ無駄。透にとって俺はその程度の存在だ。そう思ったのに。

「うん。バカみたいだよね、祐也が風俗とかパパ活なんて」

 それはあれか。俺みたいに地味なやつが、風俗やらパパ活で稼げるわけないって言いたいのか? その通りだろうよ。その通りなんだけど、人にそう言われるのはなんでかむかつくな。やっぱり聞くんじゃなかった。

 写真の話もしなくて正解だ。絶対に馬鹿にされて終わりだろ。
 例の写真の入った封筒は今日もポストに入っていた。消印がないから今日もまたわざわざご丁寧に直接投函しに来たのだろう。
 中身は、透が学校で女の子と腕を組んで歩いている写真とか、お店から女性と出てくる写真とか。あとは、教室で男に迫られているやつもあったな。こういうのが三日おきくらいに入っていて、今日で5回目だ。
 目的はさっぱりだが、初回以降は俺の写真がないところを見ると、やっぱり俺のことが気に入らない透のストーカーっていう線が強いんじゃないかな。
 俺がバイトにいる最中にポストに入れてるっぽいから、俺の行動も筒抜けだろう。エスカレートする前に何とかしないととは思うが、実際問題打つ手がない。警察にもっていったところで、この程度ではきっと相手にしてもらえない。
 もうしばらくは様子見かな。
 ため息をついていたら、もうすぐ風呂が沸くという音声が聞こえてきた。
 透が帰ってきてから手を洗うついでに準備したんだろう。このくそ暑いのに、なんでわざわざ湯船に入らないといけないんだとは思うが、やっぱり湯船に入った日の方が寝つきがいいんだよなぁ。

「祐也、お風呂入るよ~」
「あとで行くから先入ってて」

 俺の大学進学が決まった後、父親が海外転勤になって、あれよあれよといううちに母親もついて行くことになって。入学直前に契約したこのマンションの決め手は、風呂トイレが別だったことだ。部屋は狭くていい。収納もそれほどいらない。でも、風呂とトイレは別じゃないとだめだ。正確に言うと、トイレが個室でなければならないのだ。じゃないと、『準備』と称して風呂で透にひどい目にあわされる可能性が高い。
 初めて『準備』をされたとき、まだ初心だった俺は自宅の風呂で宇宙を見た。壮大な宇宙においては俺の尊厳なんて塵芥にも満たないからな。つまりはそう思わないと死にそうになるほどのひどい目にあったのだ。
 一緒に風呂に入らなければいいじゃん、と思うかもしれないが、それも無理だ。何度か抵抗したことはあるが、そのあと余計にひどい目に合う。目隠し拘束プレイはマジで趣味じゃないんだよ。あと、おもちゃな。あれはほんと最悪。だってやってるほうは疲れないんだぜ? ひたすらこっちが泣かされるだけ。過ぎた快感は苦痛でしかないなんてこと知りたくなかった。
 だから、風呂に入る前にある程度トイレで先に自分で準備してしまうのが最適解であると俺は学んだ。透もさすがにこの程度なら黙認してくれるしな。

 もう今となっては手慣れた準備を済ませて風呂場に向かうと、透はすでに湯船に沈んでいた。暢気なもんだよ。
 俺は立ったまま頭を洗い、ちゃちゃっと体も洗おうとしたら、そこで捕まった。

「洗ってあげる」
「いらん」

 一応抵抗はしてみるものの、もうお察しの通り。俺に拒否権はない。
 透は俺が持っていた泡だったボディタオルを後ろから奪うと、ものすごーくソフトタッチで背中を洗い始めた。

「もっと強くしてほしいんだが?」
「だめだよ、お肌が傷ついちゃう」

 俺の肌なんてどうでもいいだろうと思うが、まぁ触る方からしてみれば、ガサガサしているよりは、すべすべの方がいいのかもしれない。
 だからなのか、風呂場の横にある洗面所には透が買ってきた保湿クリームがあり、それを毎日塗るよう言いつけられている。塗り忘れるとやっぱり手触りが悪くなるから、効果があるんだろう。俺はそのクリームをばーっと全身に塗るだけだが、透はもっと顔は顔用、体は体って感じでちゃんと使い分けている。もともと透は天然物のイケメンではあるが、こういうところもぬかりない。美は一日にしてならずとはこういうことだ。

 優しく洗われるのはまぁいい。でも、絶対それだけじゃ終わらないんだよなぁ。
 背中を洗っていたボディタオルはいつの間にか前に回り、ゆっくりと円を描くように胸を撫でている。しかも指先は的確に乳首ををかすめていく。そのたびにピクリと体が跳ねてしまう。ぎろりと後ろを睨んでも、相変わらずのイケメンスマイルを返されるだけ。
 ボディタオルを持つ右手が乳首を集中攻撃している間に、左手は胸元から、脇腹を辿り、今は太ももで泡を広げている。
 触り方がもう完全に痴漢のそれ ――本当にされたことはないけれども――。太ももの表面から鼠径部のギリギリを通り、太ももの裏側へ、いやらしいとしか言いようがない撫で方をしていく。それを何往復も繰り返されたら俺の息子殿がどうなるか。言うまでもない。

「勃っちゃったね、洗ってただけなのに」

 耳元でくすくすと笑い声が聞こえてくるが、いつの間にか俺の背中には透の胸が密着していて、尻には固くて熱いものががっつりと押し付けられている。完全におまいう案件。尻の間に息子様をこすりつけるのやめろ。
 だって、俺の尻孔はもう準備済みなわけで。日ごろから透にならされているせいで慎ましさなんてものもない。ご立派な透の息子様も簡単に呑み込んでしまう。

「挿れるよ」

 上半身を抱きしめるように固定されても後ろから貫かれる衝撃には耐えきれない。咄嗟に両手を壁につけられる広さでよかったなって? こんな使い方を想定して風呂場の広さ決めてないだろうよ。
 風呂場の何がだめって、狭い密閉空間のせいで声が響くことだ。おまけに、マンションの通路側に面しているから、下手したら外に声が漏れる。単身者向けマンションに防音なんて期待しちゃいけない。現に、外の通路を歩く人の足音が聞こえてくる。
 声を出さないように唇を噛んで耐えるけど、容赦ない突き上げにくぐもった声がどうしても漏れてしまう。ベッドの上ならまだ枕とかで抑えられるのに。やっぱり、風呂でヤるのはだめだ。

「っん、とお、る、ベッドに、」
「うん、あとでそっちでもしようね」

 そういうことじゃないんだよ‼ って突っ込める余裕は今の俺にはない。
 俺の尻に透の体がぶつかる音が響くくらい激しく突かれているうえに、「噛んじゃだめ」なんて言われて、口の中に指を突っ込まれているもんだから、声も抑えられない。最悪だ。ご近所からクレームが来たらどうしてくれる。
 それでも、体は与えられる快感に正直で。透の息子様が中のしこりを擦るたびに全身に電流が迸って、触ってもいないのに俺の息子殿はだらしなくよだれをたらしている。
 たまらなく気持ちよくて、ほんとに嫌になる。これはもうさっさとイって終わらせるのが一番だ。

「もぅ、イクっ、いっ?!」

 俺が驚いた声を上げたのは、出る、というタイミングで透が俺の息子殿を握ったからだ。そのせいで、吐き出すことのできなかった快感が体の内側でスパークして、目の前に星が飛んでいる。

「うぁ、なん、で」
「まだダメ。一緒に、ね」

 ふざけんな。ぶん殴ってやりたいのに、急所を握られたまま奥をぐりぐりと押されたら、抵抗なんてできない。全身が痙攣しながら己の危機を知らせてくる。それでも透が容赦なんてしてくれるはずもなく。好き勝手に腰を振りたくられ、俺はもう喘ぐだけ。その声が外に響いていないことを祈る余裕もない。

「あー、イク」

 一際奥に突き立てられると同時に俺の息子殿も解放された。勢いよく吹き出した精液が壁を汚している。爆発的な快感に俺の意識は一瞬飛んでいたかもしれない。膝ががくりと落ちかけたところを透に抱き留められた。

「祐也の中、ほんときもちい」

 うっとりとした声が耳に流しこまれ、怯えるようにゾクゾクと背が粟立つ。
 何が怖いってさ。俺を背後から抱えたまま出したものを塗り広げるように俺の中をゆっくりと掻き回している透の息子様がまだ固いままなんだよ。膝に力が入らなくて立ってるのもしんどいのに、このまま二回戦はマジで勘弁してくれ。

「とりあえず、抜け」
「えぇ~まだしたい」
「俺まだ風呂に浸かってない」
「じゃーお風呂の中でしよっか」
「……せめてベッドにしてくれ」

 できればもうこれで終わりにしたい。でも、そうやって抵抗すると100%またここでヤられる。だから妥協案でのベッドだったんだけれども。
 結局俺は湯船に浸かることのないまま、バスタオルにくるまれてベッドに担いで運ばれた。その後、ベッドで三回もされるわけだが、それならば風呂でもう一回しておいた方がまだましだっただろうか。
 誰か、正解を教えてくれ。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川パナ
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

重すぎる愛には重すぎる愛で返すのが道理でしょ?

チョコレートが食べたい
BL
常日頃から愛が重すぎる同居人兼恋人の深見千歳。そんな彼を普段は鬱陶しいと感じている主人公綾瀬叶の創作BLです。 初投稿でどきどきなのですが、良ければ楽しんでくださると嬉しいです。反響次第ですが、作者の好きを詰め込んだキャラクターなのでシリーズものにするか検討します。出来れば深見視点も出してみたいです。 ※pixivの方が先行投稿です

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

処理中です...