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【連載版】俺の部屋に「ただいま」と言いながら入ってくるクズ男のはなし

1.

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 水曜日の夜、十時を過ぎた頃。昨夜と同じようにガチャリとドアの鍵が開く音が聞こえた。

「ただいまー」

 俺はコントローラーを操作する手を止めることもなく、テレビの画面から目をそらすこともなく、ベッドの上に座ったまま心の中で一つため息を吐く。

「おかえり、透」

 お前の家じゃないけどな、と心の中で悪態をつきながらゲームを続ける。そうしているうちに、透は勝手に風呂に入り、勝手に冷蔵後を開け、中にあった水のペットボトルを勝手に飲みながら勝手にベッドに上り、ヘッドボードを背もたれにしてスマホをいじり始めた。
 ベッドの上で飲むなって何回も言ってるのに、そんなの全然お構いなし。もう俺も最近は諦め気味だ。
 ベッドのヘッドボードに置かれた目覚まし時計を見ればそろそろ十一時半。明日も一限から授業がある。これが終わったら寝るか、と残り少なくなったプレイヤーを打ちに出る。あと三人。
 湖の向こうに見つけた一人を倒し、残り二人。もう一人は建物の中に隠れていた。残り一人。
 生き残りをかけたカウントダウンは着実に勝利に近づいていく。
 よし、いける。そう思った時、首筋に湿り気のある柔らかなものが押し付けられ、ゾクリと背にしびれが走った。
 同時に、一発の銃声と共にテレビ画面の中の俺が敢え無く膝を折る。

「あと一人だったんだけど」
「そうなんだ」

 不満をぶつけたって完全スルー。こいつはいつもそうだ。俺の話なんて聞いてない。
 いつの間にか俺の背後に移動してた透はTシャツの裾から侵入させた手で俺の乳首を摘まんでいる。柔らかくもなんともない男の胸なんて触って何が楽しいのか。
 少しずつ位置をずらしながら何度も首筋にキスを落とされ、しっかりと快感を得られるように躾けられてしまった乳首を両方いじられれば、あっという間に体温が上がっていく。後から抱え込まれているから、きっと透にもこの熱が伝わっているだろう。

「ひあっ」

 耳に標的を移した透の唇が耳たぶを食んだと思ったら、舌を中に挿しむもんだから変な声が出た。
 男の喘ぎ声なんて気持ち悪いだけだ。執拗に動き回る舌の艶めかしさと、耳奥に響く水音に荒くなる息を必死に抑える。
 そっちに集中しすぎて、相変わらず俺の平らな胸をまさぐっていた手が、すでに勃ち上がった下半身を狙っていることに気が付けなかった。

「んっ」

 長い指の背で短パン越しにするりと撫でられただけなのに、ビクンっと大げさに全身が跳ねた。
 恥ずかしさをごまかすように後ろを睨めば、透はニイッと唇の片端を上げた。そんな憎たらしい顔だって様になるんだから、イケメンってやつはずるい。
 背中越しにキスをしながら服を脱がされ、そのままベッドに押し倒される。覆いかぶさった透はどこか楽し気だ。
 また唇を重ね、求められるままに舌を絡め合う。それだけでこんなにも気持ちがいいなんて。
 付け根がだるくなるまで存分に絡め、舐め合えば、体の芯が解けていくように力が入らなくなる。ようやく離れたころにはもう、俺は息も絶え絶え、口の周りはよだれでべちょべちょ。
 そんな俺とは違って余裕気な透は、口端の涎をぺろりと舐め、俺の乳首に吸い付いた。
 どうやら透はこの小さな乳首がお気に入りらしい。赤ちゃんかよ、と呆れる。でも、こんなところをちゅうちゅと吸われて感じてしまう俺も大概だ。
 初めてされたころは、女の子じゃないんだからそんなところ感じない、なんて言ってたのに、今では立派な性感帯に育ってしまった。
 歯を立てられ、チクンと刺すような痛みに堪えきれず甘ったるい声を漏らせば、「俺が育てました」とばかりにどや顔の生産者はさらに勢いよく俺の乳首を吸う。あぁこれはきっと明日も乳首に絆創膏を貼る羽目になる。じゃないと服にこすれるだけでジンジンと疼くんだ。そんなことになれば授業に集中なんてできない。それに、Tシャツ越しに乳首が立っていることがわかってしまうなんてことも避けたい。
 でも、俺がそんな苦労をしていることなんて、今も楽しそうに俺の乳首を弄んでいるこいつは知りもしない。まぁきっと知ったとしても「ふーん」としか言わないだろうけど。

 ようやく乳首から口を離した透は俺の短パンと下着をいっぺんに剥ぎ取り、俺の股の間に陣取った。
 もうすっかりと勃ち上がっている俺の息子殿は、だらしなく先端からよだれをたらし、腹を汚している。
 透に両足を持ち上げられると、俺の尻孔からとろりとローションが漏れた。

「もしかしてまた準備済み?」
「あぁ」
「えーやらせてっていつも言ってるのにー」

 それが嫌だからしたくもない準備を毎度しているんだよ。
 こいつに任せたら俺がイこうが喚こうが、そんなのお構いなしに本人が満足するまで弄り倒される。
 さっきも言った通り明日は一限から授業がある。もう十二時を過ぎてるんだ。とっとと終わらせて寝たい。

「口でしてやるから拗ねんな」

 俺は起き上がってまだぶつくさ言っている透の股間に手を伸ばす。ズボンの上からでもわかるくらい立派な透の息子様は、少しズボンをずらしてやるだけで勢いよく飛びだしてきた。
 ”様”をつけるにふさわしい透のそれは俺とは色も形も全然違う。まぁ新品の俺の息子殿とは使用頻度も比べ物にならないから当然だ。
 グロテスクでしかないそれを口に含むなんて、昔の俺だったら絶対に無理だった。まぁ今だって透以外のやつは無理だが。
 俺は透の足の間にうずくまり、ずっしりと重みのある息子様にそっと手を添える。裏筋に舌を這わせて舐め上げ、途中のくびれをくるりと周り、先にある小さな孔からぷくりと沸き上がった透明な液体を舐めとると、もう覚えてしまったいつもの味が口に残った。
 そのままぱくりと口に含んでいくけど、当然全部を咥えるのは無理。半分ほど飲み込んだところで、残りは手で握る。
 舌でぐりぐりと刺激しながら口と手を上下に動かせば、熱のこもったため息が聞こえた。

「あーきもち。祐也も上手になったよねぇ」

 そりゃそうだろ、と思う。もう何年もやってるんだから。
 苦しいし、まずいし、いいことなんて何もない。でも、ここで確実に一回イかせておけば、この後の長さが格段に違ってくる。俺が無事明日を迎えるためには頑張るしかない。
 透に教え込まれたせいで無意味に培ってしまったスキルを存分に活かして、必死に口と手を動かしていく。頭上から漏れ聞こえる息遣いが切羽詰まってきたタイミングを見計らい、だるくて痛くなり始めた喉奥で息子様をぎゅっと締め上げれば、くぐもった声と共にドロリと生ぬるい液体が流れ込んだ。
 むせて吐き出しそうになるのを我慢しながら、ごくりと嚥下する。そのあと口を開けてべっと舌を出して見せてやれば、透は満足そうににっこりとほほ笑んだ。
 その笑顔の破壊力と言ったらない。苦しくて、まずくて、つらいだけのこの行為が、実はいいものだったのではないかと思わせるくらいの威力がある。
 透に差し出された水を一口飲むと、口内に残っていた青臭さとねばねば感は少しだけ流れていった。

 でも、一回達したくらいで透のわんぱくな息子様は大人しくなったりしない。ここからが本番だ。

「挿れろ」

 俺はぐるりと透に背を向け、四つん這いになり、透に向かって尻を突き上げる。

「せっかちだなぁ。俺はゆっくりしたいんだけど」

 不満気にしながらも透は俺の尻孔に案の定まだ硬いままの息子様を押し当てた。
 よかった、今日はすんなり挿れてくれそうだ。最悪な時はここからまた乳首ともども、俺の息子殿を弄りはじめ、挙句に尻孔を執拗に攻められる。
 そんなのいらない。してほしくない。ただの性欲処理に時間なんてかける必要ない。

 俺の尻孔をミチミチと広げながら侵入してきた透の息子様は、ゆっくりと浅い抜き差しを繰り返しながら奥まで進んでいく。
 この一番最初の中を拓かれる感じだけはちょっと慣れない。痛みはないが、異物感と圧迫感がすごい。それもこれも透の息子様が立派すぎるせいだ。
 奥まで到達した息子様の大きさに俺の尻孔がなじむまで待つこの時間は透にも俺にも結構な拷問だと思う。でも、何度もその形を覚えこまされた俺の孔は従順で、あっという間に透を歓迎し始める。
 これは気持ちよくしてくれるものだと、異物感は刺激に、圧迫感は期待に変わってしまう。
 俺の中がきゅうきゅうと透に媚を売り始めれば、透は待ち構えていたかのように一度ぎりぎりまで息子様を引き抜くと、俺の腰を掴んで一気に奥を突きあげた。
 容赦ない抽挿の始まりだ。
 そうなれば後はもう蹂躙されるだけ。
 できるだけ声を出さないように口を引き結ぶけど、中のイイところをこすられ、奥を捏ねられれば、どうしても吐息と共に声が漏れ出てしまう。情けない、気持ち悪い。

 ――きもちいい。

 揺さぶられるまま快楽にふけっていれば、背後からも荒げた息が聞こえてくる。

「あーやっぱり祐也が一番気持ちいい」

 そうつぶやいた透に、俺の心は一気に靄が張った。
 一番いい、って一般的には誉め言葉だろう。
 でも裏を返せば、二番とか、三番とかがいるってことで。
 過去のことならまだしも、透においては現在進行形でそれらがいる。
 今の二番は多分、大学で腕を組んで歩いていた、長い黒髪がきれいな女の子。
 その子もまさかこんな平凡な男の尻孔と比べられているとは思わないだろう。かわいそうに。
 優越感なんかじゃない。あるのはこのクズ男に引っかかった同士への同情心。
 俺も、その子もただの性欲処理係でしかないんだから。
 その子が引っかけられたのか、自ら引っかかりに行ったのかは知らないが、少なくとも俺はこのクズ男に引っかけられた。
 小学校からの友人にまさか性的な目を向けられるなんて思わないだろう。まだ幼気な俺に、キスは気持ちがいいことだと教え、乳首を性感帯に変え、尻をいじらないとイけないよう開発したのは間違いなく透だった。


 透と俺の接点は実家が隣同士だったこと。小学校低学年の時に透の家族が俺の家の隣に引っ越してきた。
 互いに一人っ子で両親が共働きだった俺たちは、大体どちらかの家でどちらかの両親が返ってくるまで二人でゲームをしていた。
 そうでもなければ、俺みたいな平々凡々を絵にかいたような地味男が、こんな顔よし、頭よしのハイスペ男と仲良くなるはずがない。
 そんな男が何を思ったのか、ある時突然俺にキスをしたのだ。ほんとに軽く、唇を合わせただけの冗談のようなキス。それだけでも中学生だった俺は十分に動揺した。
 そこからはもうなし崩し。
 重ねるだけのキスから、いつの間にやら舌を絡め合うようになり、体を撫でられるようになったと思っていたら、気が付けば全身を舐められていた。
 もちろんそんなことされたら、若さ溢れる俺の息子殿は反応してしまうわけで。初めて手に入れたおもちゃで遊ぶように、透は嬉々として俺の息子殿を弄り倒した。
 でも、さすがに咥えられたときはびっくりしたな。しかもめちゃくちゃ気持ちがよくてあっという間にイった。だから、「じゃあ今度は俺ね」なんて言われたら断れるわけがない。
 恐る恐るやってみたはいいものの、もちろん上手になんてできない。むしろ、透だって初めてやったって言ってたくせになんであんなにうまかったのか。これがもとから持ってるスペックの違いってやつなんだろう。
 そこからは透ご指導のもと今に至るんだけど、結果はご存じの通り。俺は努力の子なのだ。

 当然そこまでしたら、最後まで、って話になる。
 最初から俺は挿れられる方って決まってて、これまた嬉々として透は俺の尻孔の開発を始めた。
 ここでも透は生まれ持ったスペックを発揮する。スマホ先生の教えをあっという間にマスターし、指一本入らなかった俺の尻孔を、丁寧にほぐし、広げ、その手で立派な性器へと作り変えてしまった。
 初めて挿れた時のことは今も覚えてる。
 痛みはなかった。あったのは、指とは全然違う圧倒的な質量と熱に、押され、焼かれるような苦しさ。そして、微かだけど確実にそこにある甘い快感。
 回を重ねるごとに、大きくなる快感それに溺れずにはいられなかった。

 俺だっておかしいとは思ってたよ。だから、なんでこんなことするのかって聞いたことがある。でも、それに「してみたくなったから」って答えられたら、そっか、としか言えないじゃん。
 透にとってはきっと気になったからやってみただけのただのお遊び。そこに意味なんてない。
 そうして大学生になった今もこのお遊びは続いている。

 一応言っておくと俺は別にゲイじゃない。
 透以外の男とキスをするなんて想像しなくても吐きそうになる。だから、ゲイではない。
 そうすると、やっぱり恋愛対象は女の子なんだろうと思う。
 なんで、"だろうと思う"かっていうと、そもそも他人に特別な感情を抱いたことがないから。
 もちろん、女の子はかわいいと思うし、柔らかそうだなとは思う。でも、女の子を抱けるのか、って言われると正直自信がない。
 だって、性的なことに興味を持ち始める前から透に手を出され、それから毎日のように俺の身体を好き勝手にするもんだから、俺には"溜まる"タイミングがない。AVなんかも見たことないし、ぶっちゃけ、自慰すらしたことがないんだ。そんなんで女の子を抱くなんて多分無理だろう。
 きっと、俺は透がいないとイケない。そんな体にされてしまった。
 でも、透はその責任を取ってはくれない。
 昔から飛ぶ綿毛のようにふわふわと気ままに自由に生きる透を捕らえることができる人なんて誰もいない。
 今は毎日のように俺が一人暮らしをしているワンルームマンションにやっては来るけど、それもある日急に来なくなるかもしれない。
 だから俺はこの男に何も求めない。
 たとえ、心も体も、もうどうしようもないほどに囚われてしまっていたとしても。
 俺は、絶対に透を望まない。


「なんか考え事?」

 背後から聞こえた不機嫌そうな声にはっとする。余計なことを考えていて、気もそぞろになっていた。
 何の備えもないままに一際強く奥を穿たれ、俺は無様に膝から崩れ落ち、そのままぺしゃりとうつぶせになった俺の上に透が圧し掛かる。
 その重みにうめき声をあげた俺の耳元に透は囁いた。

「余裕そうだし、奥に挿れても大丈夫だよね」

 喉からひゅっと短い息を吸い込んだ音が鳴る。「だめだ」という言葉は急に腰を引かれた刺激に飲み込まれ、「やめろ」という言葉は一気に奥をこじ開けられた衝撃で悲鳴に変わった。
 外開きの扉を無理やり内側に押し開けた透の息子様は、ぐぽぐぽといびつな音を立てながらさらに奥へ奥へと入り込んでくる。
 シーツに押し付けられた俺の息子殿は奥を突きあげられるたびに悲鳴を上げ、透明な液体を吹き上げている。そうして体を震わせることしかできなくなった俺は、明日の一限を諦めた。

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