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7. どうしよう
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案の定、目を覚ました旭は記憶があいまいでほとんど覚えていなかったうえに、「忘れて欲しい」と言い出した。
もちろんそれは無理だと突っぱねたが、結局は何も教えてくれない。
わかったのは、旭はなにか“役目”を負い、そのせいで体が発情したような状態になると言うこと。
それから、発情状態になると理性が利かなくなり、言動が直情的になる。そして、それを収めるには男とセックスをするしかないと言うこと。
こんな現実離れしたことがあり得るのかとは思うが、それでも目の前で起こってしまっている。もしかして、旭の実家の神社に祀られている神様なんかも出てきたりして、なんて考えてしまったが、そうなったらもう完全にファンタジーの世界だ。
とはいえ、今の状況は巴が目的を果たすためには好都合なことが多い。
そのためなら、神様でも悪魔でも利用してやる。
今朝も旭は発情状態になったが、昨夜よりも旭の意識がはっきりしていたように見えた。事後意識を失うこともなかったし、今、目の前でうつむきがちにパンを口に運ぶいつもの旭は、明らかに気まずそうな顔をしている。
恋人でも何でもない“ただの幼馴染”とあれだけ濃厚なセックスをしまくったのだから、まぁ当然だろう。
「旭、お代わりいる?」
「……いらない」
「食欲ない? やっぱり体しんどい?」
さっきまでのことには触れてほしくないのだろうということはわかっているが、ふてくされたように話す旭がかわいらしくて、ついいじわるをしたくなってしまう。案の定、旭はボンっと爆発したかのように顔を赤くした。
「だ、大丈夫だし」
「そっか、ならよかった。僕はこれから仕事があるけど、遅くはならないから。帰ってきたらちゃんと話をしようね」
「えっいや、俺は自分のアパートに帰るから……」
どうやら旭はまだ観念していないらしく、この件から巴を除外しようとしているようだ。思わず巴は大きくため息を吐いた。
「あのさ、旭はこの前『夏休みの間は実家に帰る』って言ってたよね。それなのに、こっちにいるし、なぜか知らない男と遊ぼうとしてるし、明らかに様子もおかしい。そんな状態で帰すと思う?」
旭はぐっと息を呑み、また下を向いてしまった。
なぜ、昨日男と一緒にいるところに突然現れたのか、なんて問い詰められたらどうしようと一瞬思ったが、そこまではまだ頭が回っていないらしい。
「旭が僕を巻き込みたくないと思ってくれてるのはわかるよ。でも、僕は巻き込んでほしいんだ。お願いだから一人で悩まないで」
そう言って、机の上で強く握られていた旭の拳にそっと手を重ねたが、旭はうつむいたまま何も言わない。そのまま時間だけが過ぎ、そろそろ家を出なければいけない時間になってしまった。
「僕はそろそろ出るから、今日はここにいて。ね?」
「……わかった」
旭は渋々と承知したが、もちろん勝手に出て行かないように準備はすでに万端にしてある。
スマホは外部と連絡を取る可能性があるから目につくところに置いておいたが、旭の着てきた服や靴はもちろん、財布や鍵が入っていたカバンも隠してある。
さすがの旭も今日一日くらいはきっと大人しくしていると思うが、あの様子では素直に“役目”について話すとは思えない。
旭はとても頑固なのだ。一度決めたことはそう簡単に覆さないし、覆せない。
だからできる限りの情報収集をして、対策を練る必要がある。そのために、まずは一番簡単で確実なところから攻めることにした。
部屋を出た巴はスマホを取り出し、通話ボタンをタップする。何回かのコール音の後、電話から聞こえたのは、聞き覚えのある女性の声。話をするのは久々だ。
「お久しぶりです、巴です」
<あら、巴くん! 久しぶりね! 電話くれるなんて珍しい、どうしたの?>
「旭のことで少し話が合って……」
<えっ、旭がどうかしたの?>
その声の主は旭の母親。この口ぶりでは、やはり“役目”のことは知らないのだろう。であれば母親には用はない。話を聞きだす本命は旭の父親なのだ。
「いえ、夏休み中に一度一緒に帰省しようと思ってるんですが、その件でおじさんに話があって。今いますか?」
<そうなの?! 嬉しいわ! 旭も巴くんも全然帰ってきてくれないんだもの。あっお父さんだったわね、今社務所にいるからそっちに回すわ。ちょっと待ってね>
旭の母親の声に変わって、電話からは保留音が流れ始めた。その昔ながらの電子音が奏でる誰もが知っている名曲は、何もない村のように薄っぺらく聞こえる。飛び出ることも、へこむことも許されない、ただみんな均等に薄っぺらい世界に踏みつけられた自分もきっと同じような厚みしかないのだろう、なんて物思いにふけっていると、電話口に旭の父親が出た。
<もしもし、巴か?>
「あっおじさん、お久しぶりです。急にすみません」
<いや、いいが……何かあったか……?>
先ほどの旭の母親とは違い、完全に“何かある”ような物言いに、巴は予想が当たったことを確信した。
旭を実家に呼び出すために電話をしてきたのは父親だった。ということは、この件について父親もかかわっているはずだと巴は考えていた。
旭の父親は悪い人ではない。静かな人で、巴としては近寄りがたい印象だったが、自分の子である旭のことは愛しているし、心配もする。
そこをついてうまく話を聞きだしていくこと、それがこの電話におけるミッションだ。
「役目のこと、旭から聞きました」
<そうか、ではやはり巴が“タネヌシ”になったのだな?>
“タネヌシ”という言葉は初耳だが、おそらく“セックスの相手”というところだろう。昨日、巴が無意識のうちに感じた自分の“役目”というのはきっとこれのことだ。漢字にしたら“種主”と言ったところだろうか。であれば、この問いに対する答えは『Yes』。
「はい」
<そうか、よかった。巴なら問題ないな。役目はまだしばらく続く。その間、旭のこと頼んだよ>
「はい、もちろんです。でも、本当に僕でよかったのでしょうか」
<何を言う。本来であれば“種主”は村の男が担うものだ。巴ほどの適任はいないよ>
「そうですが、ならよかった。ただ、旭は結構辛そうで……」
<……そうだろうな。あの子の性格的に受け入れがたいだろう。だが、これも笹目家の男として生まれた宿命なのだ。他のものが変わることはできない。“ミタマ”を孵すまでの辛抱だ。すまないが支えてやってくれ>
「……はい。じゃあ僕これから仕事なので。また何かあったら連絡します」
<あぁ>
電話を切った後、巴はふっと息を吐き、空を仰いだ。
『ミタマをかえす』という言葉だけは意味が分からなったが、大体の情報は得られた。とは言え、ほとんど予想通りだったが。
やはり詳細は旭から聞くしかないだろう。
巴は気を取り直して前を向いた。
「おっ巴じゃん。久しぶり」
「あぁ」
巴がそっけない返事をした相手は、守谷 英司。高校の同級生であり、今は旭と同じ大学に通っている。カメラマンを志しているらしく、たまにこうして撮影の現場で会うことがあるが、英司は巴の友人ではなく、旭の友人だ。
英司は180センチを超える長身から来るモデル顔負けのスタイルの良さと、整った顔立ちに裏表のないさっぱりした性格が加わり、男女問わずとてもモテる。だが、倫理観がゆるく、特定の恋人がいたところは見たことがない。
もちろん巴としてはそんな危険人物を旭の側にはおいておきたくないと高校時代に“排除”を試みたが、『好みじゃない』と一蹴された。そんなことを言われたのは後にも先にも英司だけだ。
結局排除には失敗し、大学でも何かと旭とつるんでいる。
正直気に喰わないから巴は英司への敵意を隠さずにいるし、はっきり言って嫌いだ。
旭に近づく人間はみんな嫌いだが、英司は付き合いも長く、旭があからさまに気を許していることもあって、特に嫌いだ。
もし旭が今回のことで英司を頼っていたら、きっと次の日のニュースに英司と巴の名前が出ただろう。そんなことを考えていたら、カメラマンから顔が険しいなどと言われてしまった。
その後は気を取り直して無事撮影を終え、すぐに帰ろうとしていたら、また英司が話しかけてきた。
「なぁ今日も旭と会うだろ? 課題で聞きたいことがあるのに昨日から電話にも出ないし、メッセージも返ってこないんだよ。会ったら返事しろって言っておいてくれね?」
「言うと思う?」
「ははっ、思わない。ほんと、お前は相変わらず“旭だけ”なんだな」
何が面白いのか、ケラケラと笑う英司をギロッと睨み、その場を後にした。
急いで家に戻り、玄関から「ただいま」と声をかけるが、返事がない。さっき電車の中で旭の位置情報を確認すると巴の部屋を示したが、まさかスマホを置いて出て行ったのかと慌ててリビングへとつながる扉を開くが、そこにはいない。でも、奥にある寝室のから物音が聞こえた。ほっと胸を撫で下ろし、寝室の扉を開くと、旭はTシャツ一枚でベッドの上で苦しそうに息を荒げていた。
また“発情状態”になっているのだろう。それを自分で慰めようとしたのかベッド上には丸まったティッシュがいくつも転がっている。
だが、それには効果がなかったことを示すように、Tシャツの裾からはみ出した旭のものは上を向いまま先を濡らし、吐き出す息に合わせて肩が震えていた。
「旭、ただいま。大丈夫?」
ベッドに腰を掛け、旭の髪に手を伸ばすと、ようやく巴に気が付いた旭は、顔をゆがませ目じりに溜まっていた涙をこぼした。
「ともえ、ともえ……助けて……」
その声に一気に背からゾクゾクと興奮がせり上がってくる。
「うん、一人にしてごめんね。すぐに助けてあげるからね」
着ていたTシャツ脱ぎ、旭に跨る。そのまま唇を重ね、絡めた舌はやけどをしてしまいそうなほど熱い。お互いの唾液がまじりあう音を激しく響かせながら、旭の股の間へと指を這わすと、太ももまで滴り落ちるほどぐっしょりと濡れている。その滴りをなぞるようにグッと後孔に指を入れ込むと、そこはもう柔らかくほぐれていた。
「旭、ここ自分で触ってた? 気持ちよくなれた?」
涙を流しながら小さく首を横に振る旭があまりにもいじらしくて、自然と上を向く口角が震えた。
「そっか、じゃあ僕がいっぱい気持ちよくしてあげるね」
すぐに二本目の指を入れ、奥をかき回すとぐちゅぐちゅとナカからそこを濡らす蜜がまたあふれ出してくる。
反対の手で、服の上からでも立ち上がっていることがわかる旭の胸の先をぎゅっとつまむと、旭は声を漏らし、腰を跳ねさせた。
「ここも気持ちい?」
「わ、わかんない、あっあっ、ギュってしたらダメぇ」
一度手を離して旭が着ていたTシャツを脱がせ、今度は胸の突起を口に含み一気に吸い上げた。ならすと乳首だけでイケるようになると聞いたことがあるけど本当かな、なんて思いながらもう片方も指ではじき、ぎゅっとつまむ。それを繰り返すと旭はひとりでに腰を動かしていた。
「旭、腰動いちゃってるよ。気持ちいいんだね。ここだけでイケるかなぁ」
「あっ、イケな、いっ。あっ吸っちゃイヤ、あっあっ」
口ではイヤがりながらも腰を揺らす様子がかわいらしくて、硬さを増す突起をしつこく舐り、一際強く吸い上げると、ピンと跳ねた旭のものの先端から勢いよく白濁した液が飛び出した。
「上手にイケたね。いい子にはご褒美上げないと。コレ、欲しい?」
跨った体を起こし、下着の中から取り出したものを旭に見せつけるように持ち上げると、旭は達したばかりでまだぼんやりとした瞳でそれ見つめながら、ゴクリとつばを呑み込んだ。
「ほし、い……」
「うん、じゃあ舐めて、濡らしてくれる?」
「ん、わかった」
のろのろと体を起こした旭は巴のものを根元から両手で包み込み、伸ばした舌で中心から先端へとゆっくりと舐めた。そのまま先端を口に含み、吸いながら小さく舌を這わせている。お世辞にもうまいとは言えないが、一生懸命に巴のものを咥える姿を見ているだけで堪らない気持ちになる。
「旭、おいで」
胡坐の上に旭を跨らせ、ゆっくりとナカへと挿入していく。昨夜はまだ窮屈だった旭のナカは、たった一日で巴をぴったりと包み込めるほど柔らかくなっていた。
「んんっ、すごい、おくまで、きちゃう」
まだすべて入りきる前に腰を止めた旭を抱え込んで一気に奥まで突きあげると、旭は悲鳴に似た声を上げ、背を反らしてガクガクと全身を震わせた。
「イっちゃった? ふふっかわいい」
まだ痙攣が止まらずにいる旭をベッドへと倒し、足を広げてまたグッとナカへと入り込む。
「ひっうぅ、まって、ともえ、いまぁっだめぇ」
「もっとってことかな?」
旭の細い腰を掴んで何度も容赦なく奥を突きあげる。昨夜のように今日は体の制御権を奪われるような感覚はない。それでも、腰が止まらないのは興奮のせいなのか、“種主”とかいう役目のせいなのか。そんなこと考える間もなく体は絶頂に近づき、巴の“種”を求めてギュウっと吸いついてくる旭のナカに吐精した。昨日から何度もシているのに、全然枯れる気がしないことに自分でもちょっと驚く。
しばらくの間余韻に浸って何度もキスを交わしていたが、巴が体を起こし、旭のナカから出ると、ぼんやりとしていた旭の瞳から熱が消え、一瞬にして陰った。きっと正気に戻ったのだろう。
――またやっちゃったとか思ってそう。
「旭、お風呂入れてくるから休んでてね」
横を向き、ぎゅっと体を丸めた旭の髪を撫で、髪にキスをして部屋を出た。
役目はまだしばらく続くと旭の父親が言っていた。
その間に完璧に捕えて見せる。
どうしようか、と考えるだけで無意識のうちに口の端が上を向いた。
もちろんそれは無理だと突っぱねたが、結局は何も教えてくれない。
わかったのは、旭はなにか“役目”を負い、そのせいで体が発情したような状態になると言うこと。
それから、発情状態になると理性が利かなくなり、言動が直情的になる。そして、それを収めるには男とセックスをするしかないと言うこと。
こんな現実離れしたことがあり得るのかとは思うが、それでも目の前で起こってしまっている。もしかして、旭の実家の神社に祀られている神様なんかも出てきたりして、なんて考えてしまったが、そうなったらもう完全にファンタジーの世界だ。
とはいえ、今の状況は巴が目的を果たすためには好都合なことが多い。
そのためなら、神様でも悪魔でも利用してやる。
今朝も旭は発情状態になったが、昨夜よりも旭の意識がはっきりしていたように見えた。事後意識を失うこともなかったし、今、目の前でうつむきがちにパンを口に運ぶいつもの旭は、明らかに気まずそうな顔をしている。
恋人でも何でもない“ただの幼馴染”とあれだけ濃厚なセックスをしまくったのだから、まぁ当然だろう。
「旭、お代わりいる?」
「……いらない」
「食欲ない? やっぱり体しんどい?」
さっきまでのことには触れてほしくないのだろうということはわかっているが、ふてくされたように話す旭がかわいらしくて、ついいじわるをしたくなってしまう。案の定、旭はボンっと爆発したかのように顔を赤くした。
「だ、大丈夫だし」
「そっか、ならよかった。僕はこれから仕事があるけど、遅くはならないから。帰ってきたらちゃんと話をしようね」
「えっいや、俺は自分のアパートに帰るから……」
どうやら旭はまだ観念していないらしく、この件から巴を除外しようとしているようだ。思わず巴は大きくため息を吐いた。
「あのさ、旭はこの前『夏休みの間は実家に帰る』って言ってたよね。それなのに、こっちにいるし、なぜか知らない男と遊ぼうとしてるし、明らかに様子もおかしい。そんな状態で帰すと思う?」
旭はぐっと息を呑み、また下を向いてしまった。
なぜ、昨日男と一緒にいるところに突然現れたのか、なんて問い詰められたらどうしようと一瞬思ったが、そこまではまだ頭が回っていないらしい。
「旭が僕を巻き込みたくないと思ってくれてるのはわかるよ。でも、僕は巻き込んでほしいんだ。お願いだから一人で悩まないで」
そう言って、机の上で強く握られていた旭の拳にそっと手を重ねたが、旭はうつむいたまま何も言わない。そのまま時間だけが過ぎ、そろそろ家を出なければいけない時間になってしまった。
「僕はそろそろ出るから、今日はここにいて。ね?」
「……わかった」
旭は渋々と承知したが、もちろん勝手に出て行かないように準備はすでに万端にしてある。
スマホは外部と連絡を取る可能性があるから目につくところに置いておいたが、旭の着てきた服や靴はもちろん、財布や鍵が入っていたカバンも隠してある。
さすがの旭も今日一日くらいはきっと大人しくしていると思うが、あの様子では素直に“役目”について話すとは思えない。
旭はとても頑固なのだ。一度決めたことはそう簡単に覆さないし、覆せない。
だからできる限りの情報収集をして、対策を練る必要がある。そのために、まずは一番簡単で確実なところから攻めることにした。
部屋を出た巴はスマホを取り出し、通話ボタンをタップする。何回かのコール音の後、電話から聞こえたのは、聞き覚えのある女性の声。話をするのは久々だ。
「お久しぶりです、巴です」
<あら、巴くん! 久しぶりね! 電話くれるなんて珍しい、どうしたの?>
「旭のことで少し話が合って……」
<えっ、旭がどうかしたの?>
その声の主は旭の母親。この口ぶりでは、やはり“役目”のことは知らないのだろう。であれば母親には用はない。話を聞きだす本命は旭の父親なのだ。
「いえ、夏休み中に一度一緒に帰省しようと思ってるんですが、その件でおじさんに話があって。今いますか?」
<そうなの?! 嬉しいわ! 旭も巴くんも全然帰ってきてくれないんだもの。あっお父さんだったわね、今社務所にいるからそっちに回すわ。ちょっと待ってね>
旭の母親の声に変わって、電話からは保留音が流れ始めた。その昔ながらの電子音が奏でる誰もが知っている名曲は、何もない村のように薄っぺらく聞こえる。飛び出ることも、へこむことも許されない、ただみんな均等に薄っぺらい世界に踏みつけられた自分もきっと同じような厚みしかないのだろう、なんて物思いにふけっていると、電話口に旭の父親が出た。
<もしもし、巴か?>
「あっおじさん、お久しぶりです。急にすみません」
<いや、いいが……何かあったか……?>
先ほどの旭の母親とは違い、完全に“何かある”ような物言いに、巴は予想が当たったことを確信した。
旭を実家に呼び出すために電話をしてきたのは父親だった。ということは、この件について父親もかかわっているはずだと巴は考えていた。
旭の父親は悪い人ではない。静かな人で、巴としては近寄りがたい印象だったが、自分の子である旭のことは愛しているし、心配もする。
そこをついてうまく話を聞きだしていくこと、それがこの電話におけるミッションだ。
「役目のこと、旭から聞きました」
<そうか、ではやはり巴が“タネヌシ”になったのだな?>
“タネヌシ”という言葉は初耳だが、おそらく“セックスの相手”というところだろう。昨日、巴が無意識のうちに感じた自分の“役目”というのはきっとこれのことだ。漢字にしたら“種主”と言ったところだろうか。であれば、この問いに対する答えは『Yes』。
「はい」
<そうか、よかった。巴なら問題ないな。役目はまだしばらく続く。その間、旭のこと頼んだよ>
「はい、もちろんです。でも、本当に僕でよかったのでしょうか」
<何を言う。本来であれば“種主”は村の男が担うものだ。巴ほどの適任はいないよ>
「そうですが、ならよかった。ただ、旭は結構辛そうで……」
<……そうだろうな。あの子の性格的に受け入れがたいだろう。だが、これも笹目家の男として生まれた宿命なのだ。他のものが変わることはできない。“ミタマ”を孵すまでの辛抱だ。すまないが支えてやってくれ>
「……はい。じゃあ僕これから仕事なので。また何かあったら連絡します」
<あぁ>
電話を切った後、巴はふっと息を吐き、空を仰いだ。
『ミタマをかえす』という言葉だけは意味が分からなったが、大体の情報は得られた。とは言え、ほとんど予想通りだったが。
やはり詳細は旭から聞くしかないだろう。
巴は気を取り直して前を向いた。
「おっ巴じゃん。久しぶり」
「あぁ」
巴がそっけない返事をした相手は、守谷 英司。高校の同級生であり、今は旭と同じ大学に通っている。カメラマンを志しているらしく、たまにこうして撮影の現場で会うことがあるが、英司は巴の友人ではなく、旭の友人だ。
英司は180センチを超える長身から来るモデル顔負けのスタイルの良さと、整った顔立ちに裏表のないさっぱりした性格が加わり、男女問わずとてもモテる。だが、倫理観がゆるく、特定の恋人がいたところは見たことがない。
もちろん巴としてはそんな危険人物を旭の側にはおいておきたくないと高校時代に“排除”を試みたが、『好みじゃない』と一蹴された。そんなことを言われたのは後にも先にも英司だけだ。
結局排除には失敗し、大学でも何かと旭とつるんでいる。
正直気に喰わないから巴は英司への敵意を隠さずにいるし、はっきり言って嫌いだ。
旭に近づく人間はみんな嫌いだが、英司は付き合いも長く、旭があからさまに気を許していることもあって、特に嫌いだ。
もし旭が今回のことで英司を頼っていたら、きっと次の日のニュースに英司と巴の名前が出ただろう。そんなことを考えていたら、カメラマンから顔が険しいなどと言われてしまった。
その後は気を取り直して無事撮影を終え、すぐに帰ろうとしていたら、また英司が話しかけてきた。
「なぁ今日も旭と会うだろ? 課題で聞きたいことがあるのに昨日から電話にも出ないし、メッセージも返ってこないんだよ。会ったら返事しろって言っておいてくれね?」
「言うと思う?」
「ははっ、思わない。ほんと、お前は相変わらず“旭だけ”なんだな」
何が面白いのか、ケラケラと笑う英司をギロッと睨み、その場を後にした。
急いで家に戻り、玄関から「ただいま」と声をかけるが、返事がない。さっき電車の中で旭の位置情報を確認すると巴の部屋を示したが、まさかスマホを置いて出て行ったのかと慌ててリビングへとつながる扉を開くが、そこにはいない。でも、奥にある寝室のから物音が聞こえた。ほっと胸を撫で下ろし、寝室の扉を開くと、旭はTシャツ一枚でベッドの上で苦しそうに息を荒げていた。
また“発情状態”になっているのだろう。それを自分で慰めようとしたのかベッド上には丸まったティッシュがいくつも転がっている。
だが、それには効果がなかったことを示すように、Tシャツの裾からはみ出した旭のものは上を向いまま先を濡らし、吐き出す息に合わせて肩が震えていた。
「旭、ただいま。大丈夫?」
ベッドに腰を掛け、旭の髪に手を伸ばすと、ようやく巴に気が付いた旭は、顔をゆがませ目じりに溜まっていた涙をこぼした。
「ともえ、ともえ……助けて……」
その声に一気に背からゾクゾクと興奮がせり上がってくる。
「うん、一人にしてごめんね。すぐに助けてあげるからね」
着ていたTシャツ脱ぎ、旭に跨る。そのまま唇を重ね、絡めた舌はやけどをしてしまいそうなほど熱い。お互いの唾液がまじりあう音を激しく響かせながら、旭の股の間へと指を這わすと、太ももまで滴り落ちるほどぐっしょりと濡れている。その滴りをなぞるようにグッと後孔に指を入れ込むと、そこはもう柔らかくほぐれていた。
「旭、ここ自分で触ってた? 気持ちよくなれた?」
涙を流しながら小さく首を横に振る旭があまりにもいじらしくて、自然と上を向く口角が震えた。
「そっか、じゃあ僕がいっぱい気持ちよくしてあげるね」
すぐに二本目の指を入れ、奥をかき回すとぐちゅぐちゅとナカからそこを濡らす蜜がまたあふれ出してくる。
反対の手で、服の上からでも立ち上がっていることがわかる旭の胸の先をぎゅっとつまむと、旭は声を漏らし、腰を跳ねさせた。
「ここも気持ちい?」
「わ、わかんない、あっあっ、ギュってしたらダメぇ」
一度手を離して旭が着ていたTシャツを脱がせ、今度は胸の突起を口に含み一気に吸い上げた。ならすと乳首だけでイケるようになると聞いたことがあるけど本当かな、なんて思いながらもう片方も指ではじき、ぎゅっとつまむ。それを繰り返すと旭はひとりでに腰を動かしていた。
「旭、腰動いちゃってるよ。気持ちいいんだね。ここだけでイケるかなぁ」
「あっ、イケな、いっ。あっ吸っちゃイヤ、あっあっ」
口ではイヤがりながらも腰を揺らす様子がかわいらしくて、硬さを増す突起をしつこく舐り、一際強く吸い上げると、ピンと跳ねた旭のものの先端から勢いよく白濁した液が飛び出した。
「上手にイケたね。いい子にはご褒美上げないと。コレ、欲しい?」
跨った体を起こし、下着の中から取り出したものを旭に見せつけるように持ち上げると、旭は達したばかりでまだぼんやりとした瞳でそれ見つめながら、ゴクリとつばを呑み込んだ。
「ほし、い……」
「うん、じゃあ舐めて、濡らしてくれる?」
「ん、わかった」
のろのろと体を起こした旭は巴のものを根元から両手で包み込み、伸ばした舌で中心から先端へとゆっくりと舐めた。そのまま先端を口に含み、吸いながら小さく舌を這わせている。お世辞にもうまいとは言えないが、一生懸命に巴のものを咥える姿を見ているだけで堪らない気持ちになる。
「旭、おいで」
胡坐の上に旭を跨らせ、ゆっくりとナカへと挿入していく。昨夜はまだ窮屈だった旭のナカは、たった一日で巴をぴったりと包み込めるほど柔らかくなっていた。
「んんっ、すごい、おくまで、きちゃう」
まだすべて入りきる前に腰を止めた旭を抱え込んで一気に奥まで突きあげると、旭は悲鳴に似た声を上げ、背を反らしてガクガクと全身を震わせた。
「イっちゃった? ふふっかわいい」
まだ痙攣が止まらずにいる旭をベッドへと倒し、足を広げてまたグッとナカへと入り込む。
「ひっうぅ、まって、ともえ、いまぁっだめぇ」
「もっとってことかな?」
旭の細い腰を掴んで何度も容赦なく奥を突きあげる。昨夜のように今日は体の制御権を奪われるような感覚はない。それでも、腰が止まらないのは興奮のせいなのか、“種主”とかいう役目のせいなのか。そんなこと考える間もなく体は絶頂に近づき、巴の“種”を求めてギュウっと吸いついてくる旭のナカに吐精した。昨日から何度もシているのに、全然枯れる気がしないことに自分でもちょっと驚く。
しばらくの間余韻に浸って何度もキスを交わしていたが、巴が体を起こし、旭のナカから出ると、ぼんやりとしていた旭の瞳から熱が消え、一瞬にして陰った。きっと正気に戻ったのだろう。
――またやっちゃったとか思ってそう。
「旭、お風呂入れてくるから休んでてね」
横を向き、ぎゅっと体を丸めた旭の髪を撫で、髪にキスをして部屋を出た。
役目はまだしばらく続くと旭の父親が言っていた。
その間に完璧に捕えて見せる。
どうしようか、と考えるだけで無意識のうちに口の端が上を向いた。
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しかもメンバーからめちゃくちゃ構われるんだけど、
俺ら全員αだよな?!
「大好きだよ♡」
「お前のコーディネートは、俺が一生してやるよ。」
「ずっと俺が守ってあげるよ。リーダーだもん。」
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(※以下の内容は本編に関係あったりなかったり)
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ドラマCD化もされた今話題のBL漫画!
『トップアイドル目指してます!』
主人公の成宮麟太郎(β)が所属するグループ"SCREAM(スクリーム)"。
そんな俺らの(社長が勝手に決めた)ライバルは、"2人組"のトップアイドルユニット"Opera(オペラ)"。
持ち前のポジティブで乗り切る麟太郎の前に、そんなトップアイドルの1人がレギュラーを務める番組に出させてもらい……?
「面白いね。本当にトップアイドルになれると思ってるの?」
憧れのトップアイドルからの厳しい言葉と現実……
だけどたまに優しくて?
「そんなに危なっかしくて…怪我でもしたらどうする。全く、ほっとけないな…」
先輩、その笑顔を俺に見せていいんですか?!
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『続!トップアイドル目指してます!』
憧れの人との仲が深まり、最近仕事も増えてきた!
言葉にはしてないけど、俺たち恋人ってことなのかな?
なんて幸せ真っ只中!暗雲が立ち込める?!
「何で何で何で???何でお前らは笑ってられるの?あいつのこと忘れて?過去の話にして終わりってか?ふざけんじゃねぇぞ!!!こんなβなんかとつるんでるから!!」
誰?!え?先輩のグループの元メンバー?
いやいやいや変わり過ぎでしょ!!
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亀更新中、頑張ります。
隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する
知世
BL
大輝は悩んでいた。
完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。
自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは?
自分は聖の邪魔なのでは?
ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。
幼なじみ離れをしよう、と。
一方で、聖もまた、悩んでいた。
彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。
自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。
心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。
大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。
だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。
それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。
小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました)
受けと攻め、交互に視点が変わります。
受けは現在、攻めは過去から現在の話です。
拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
宜しくお願い致します。
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