神様の言うとおりに

なつか

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6. 間違ってた

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 想像もしていなかった出来事に巴は身構えることもできず、そのまま後ろに倒れ込み、図らずも旭に押し倒されたような体勢になる。呆然と見上げた旭は熱が浮かぶぼんやりとした瞳で巴を見つめていた。
 もう一度唇重ねられた唇から入り込んできた旭の舌先は巴の口内をまさぐると、探し当てた舌の中心を前から後ろへゆっくりと舌先でなぞっていく。そのまま舌先で届くギリギリ奥まで這わせると、次は上あごへとその先を向けた。ザラザラとした感触がゆっくりと動くたびに背筋にゾクゾクと快感が走る。ようやく唇を離した旭は、口の端を上げながらふうっと熱を持った息を吐き、再び巴を見下ろした。
「……どうしたの? 変な薬でも飲まされた?」
 店で注意深く見ていたが、店員も一緒にいた男も怪しいそぶりはなかったし、旭が飲んだ酒はそう強いものではなかった。それなのに旭の白い肌は赤く火照り、その熱を吐き出すように浅い息が何度もこぼれている。明らかにいつもの旭とは違う。
「……俺は役目を果たさないといけない」
「役目? 何それ? えっ! ちょ、ちょっと、待って……っ!」
 旭は巴の言葉を待たず、先ほどのキスに反応して少し兆しを持った巴の下半身をするりと撫でると、ベルトを外し、チャックを下ろした。
 下着の上から膨らんだ場所を旭にきゅっと食まれ、こらえきれず淡い声が漏れる。
 巴の知っている旭は、突然“こういうこと”するような性格では絶対にない。目の前にいる旭は、そのかたちは同じでも、それこそ何かに乗っ取られているのではないかと思うほどに全く別人のように見える。
 もちろん巴だっていつかは旭と“こういうこと”をする関係になりたいとは思っていた。でも、それは『旭とずっと一緒にいる』という“目的”のための一つの“手段”でしかない。
 それがまさか、旭の方からこんなふうに仕掛けてくるとは微塵も考えたことがなかった。想定外の状況に動揺でうまく頭が回らない。その間にも旭は巴の下着に手を掛け、さらに大きさを増した膨らみを外に出そうとしている。巴は慌てて体を起こし、旭を押し倒した。
「旭、本当にどうしちゃったの?!」
 まだぼんやりとしたままの旭は、じぃっと巴を見つめると、突然その大きな瞳からハラハラと涙をこぼし始めた。
「腹の中が熱くて苦しい。助けて」
「苦しいの?! どうしたらいいのかな……あっ病院に……」
 巴が旭から離れようとしたその時、巴の首の後ろへ伸びてきた旭の腕にそのままグッと引き寄せられた。間一髪のところで手を突き、旭の上に倒れ込むことは防いだが、旭はそんなことを気にする様子もなく、巴の耳元へと唇を寄せた。
「巴、俺を抱いて」
「はっ?! な、何言って……そんな、ダメだよ、具合悪いんでしょ?!」
「違う、もう限界なんだ。このままじゃ収まらない」
 旭の言わんとすることがわからず、混乱と動揺で続く言葉が出てこない。
 もし旭が“シラフ”であれば願ってもないことだが、今の旭は明らかに様子がおかしい。落ち着いて状況の把握を、と思ったが、続いた旭の言葉がその思考をあっさりと奪い取った。
「巴がダメならほかの人に頼まないといけない。ねぇ、助けてよ、巴」
 ぼんやりとした瞳に涙を湛えたまま、訴えかけるように旭は両手で巴の頬を包んだ。浅く息を吐きながら、苦し気に顔をゆがめる旭に、いつもの数倍の速さで脈打っていた心臓がすうっと静まっていくのを感じた。

 ――旭が助けを求めてるのに、躊躇ためらう理由なんてある……?

 しかも、ここで拒絶すれば他の男のところへ行ってしまうのだ。
 旭が他の男のところに行くなど、絶対に許せない。許さない。
 そう思ってさっき無理やり捕まえてきたのに、なんで今になって躊躇する必要があるのか。
「ごめん旭、僕が間違ってた。僕が助けてあげる。全て神様あさひの言うとおりに……」
 頬に触れる旭の手を取り、そっと唇をつけると、旭は満足げにほほ笑んだ。
 その可憐な微笑みは、心の片隅に残っていた巴の躊躇いを全て奪いつくすには十分すぎるほど美しかった。


 抱き上げてベッドに運び、着ている服を一枚ずつ脱がしていく。
 今日旭が着ているこの服だって巴が買い与えたものだ。それを他の男が脱がすなんてことにならなくて本当によかった。
 少し汗ばんだ旭の肌は、しっとりと巴の指に吸い付き、甘い香りを漂わせている。指を這わせるたびに、旭は体を震わせ、熱に濡れた声を漏らした。
 幼馴染みなのだから、旭の体はもちろん何度も見たことがあるし、触れたいと思ったこともある。でも、ここまでの情欲を抱いたことはなかった。
 それは旭が“そういうこと”に疎く、色気のようなものが一切なかったせいでもあるし、かみさまを穢すように思えて、巴自身がなんとなく躊躇っていたせいでもある。
 それなのに、今目の前にいる旭は息を呑むほど煽情的で、触れたところ全てに反応し、瞳を潤ませ、巴を欲して喘いでいる。
 こんな旭は初めて見る。でも、どんなふうになったとしても、旭が巴の神様であることは変わりない。旭が求めるその全てに従うだけだ。

 下着を脱がせると、旭の下腹部で立ち上がったものからあふれ出す先走りが伝い、後ろまでドロドロに濡れている。
 おそらく“初めて”であろう旭に負担が少ないよう丁寧に進めていかなければいけない。
 そう思っていたのに、手を伸ばした旭の後孔は柔らかく膨らみ、とろけるように潤んでいた。

 ――まさか、初めてじゃない……?

 旭には今まで男でも女でも恋人がいたことはない。だから当然経験はないと思っていたが、違ったのだろうかと、動揺でまた心臓がうるさく脈打ち始める。
 でも、恐る恐る押し開いた旭のナカは指一本でも窮屈さを感じるほどに狭く、巴は思わずほっと息をついた。
 でも、それと同時にどうしようもない違和感が覚えた。
 入れる前に自身の唾液で指を濡らしはしたが、そんなこと必要なかったのではないかと思うほど、指を動かすたびに旭のナカからぬめりを帯びた液体があふれ出てくる。
 これまで巴が関係を持った男たちはもちろん、巴自身だってこんな風にはならない。
 どうして、と疑問は浮かぶのだが、目の前でなまめかしく体を震わせる旭にどうしても正常な思考が奪われてしまう。
 旭のナカを開く指を増やす頃には、旭からあふれ出る液体で巴の手はぐっしょりと濡れていた。ぬめりを帯びたその液体は、指を動かすたびにくちゅくちゅといやらしい音を立て、巴を昂らせる。下着に収まらないほど大きく膨らんだ巴のそれは、痛みを感じるほど激しい脈動を打っていた。
「とも、え……んっはぁっ、もう、いい、」
「もう少しだけ、ね。痛くしたくないから」
 十分に濡れてはいるが、まだ窮屈さが残る。無理をしてケガをさせるわけにはいかないと思っているのに、旭はまた大きな瞳から涙をこぼしながら巴の下半身に足をグッと押し付けた。
「これが欲しい。ねぇ、これ挿れて。全部俺の言うとおりにしてくれるんじゃないの?」
 縋りつく旭の肌の熱さとその濡れた声に煽られ、めまいがする。欲望に奪われた思考は正常な判断などもうできなくなっていた。

 ――そうだ、旭の言うとおりにしないと……。

 まるで操られているかのように下着から取り出したものをぐっと旭の後孔にあてがうと、そこはまるで待ち構えていたように巴にキュウと吸い付いた。
「ともえ、はやく、はやく……っ!」
「うん、挿れるよ」
 旭に向けてゆっくりと腰を落とし、ナカへと入っていくが、やはりまだ狭い。欲望のまま突き上げたい気持ちを必死にこらえながら、一度腰を引き、少しずつ奥を暴くように、ゆっくりと律動を繰り返すと、何度目かの動作で旭のナカに巴の全てが収まった。
「全部入ったよ。大丈夫? 痛くない?」
「ひあっ、んっ、だいじょ、ぶ。ともえ、もっと、もっとして」
 もともと窮屈な旭のナカは快楽をより欲するように巴を締め付けてくる。求められるままナカをこすり、奥を突くと、旭は悲鳴にも似た声で巴の名前を何度も呼んだ。
 興奮しきった頭に響く旭の声に混じって、これまでに抱いたことのない欲望の声が聞こえる。

<このまま出したい、孕ませたい>
 ――何言ってるんだ、ダメだよ。
<いや、それでいい。それが僕の役目だ>
 ――役目? ……あぁそうか。そうなんだ。

「旭、ナカに出すよ」
「んっ、だして。おくに、いっぱい」
 巴はそのまま旭をきつく抱きしめ、堪えきれない熱を吐き出した。

 長い射精を終え、少しだけ旭から体を離すが、まだ残る熱は一向に覚める気配がない。
 同時に絶頂を迎えてビクビクと体を震わせる旭を抱え起こし、ナカに吐きだしたものをさらに押し込むように再び奥を突く。そのまま旭の体を揺さぶると、ぐちゅぐちゅと泡立つ音が繋がる場所からあふれた。
「あっ、あっ、きもちぃ、またイッちゃう……っ」
 快楽が漏れ出す口を噛みつくように塞いで舌を絡めながら、律動に合わせて跳ねる旭の前をしごくと、旭はあっという間に二度目の絶頂を迎えた。
 まだ達している最中の旭を再びベッドに倒してうつ伏せにし、今度は後ろから入り込む。
「あっいまイッてっ…‥んあぁっ」
 力の抜けた旭の体のさらに奥へと入り込むと、そこは精を搾り取ろうとするように巴の先端に吸い付いてくる。体を支配する欲望に従うままに律動を繰り返し、巴も再び達した。


 休むことなく何度も何度も旭と体を重ね続け、白んだ空が窓に映り始めた頃、旭は意識を失った。
 精魂尽き果てるとはこういうことか、なんて思いながら、互いの体液でドロドロになった旭の体を拭い、自身はシャワーを浴びに向かった。
 シャワーから流れ落ちる水に頭の中も洗い流されるように思考がクリアになり、さっきまでまるで何かに操られているかのように、全く言うことを聞かなかった体の制御権をようやく取り戻せたような気がする。
 クリアになった思考で今夜の出来事を思い返してみるが、明らかに旭も様子がおかしかった。巴を執拗に求める姿はまるで別人のようで、自らをまるでコントロールできていないように見えた。
 おそらく、こうなることを見越して巴を遠ざけ、相手をしてくれる男を捜していたのだろう。
 旭のことだからきっと『巴を巻き込みたくない』などと考えた末での行動なのだとは思うが、巴からしてみれば最悪の選択だ。手遅れになる前に捕まえることができて良かったと改めて思う。
 でも、それはあくまで巴の意見であり、今の状況は旭が望んでいたことではないことは明白だ。そうなると、旭は今夜のことはなかったことにしようとするのではないか。
 どうしようか、などと考えながら寝室に戻り、ベッドの上で寝息を立てる旭の髪を撫でると、するりと旭はその手にすり寄り、目を閉じたまま柔らかく微笑んだ。
 先ほどまでの様子が嘘だったかのようなそのかわいらしい寝顔を見て、なぜか心が冷えていく。

 ――あぁダメだな。やっぱり。

 巴は旭の上に跨り、見下ろしたその白い首筋に唇を這わせ、強く吸い上げると、そこには小さな赤い痣が浮かんだ。同じように胸や二の腕、太ももなど体中に巴のしるしを刻んでいく。
 旭のナカもきれいにしておこうと思っていたが、そのままにしておくことにした。目を覚ました旭がそれに気が付いたとき、どういう反応をするか、想像するだけでまた体が昂っていく。

 ――なかったことになんて絶対にさせない。

 まだ夢の中にいる旭に唇を重ね、包み込むようにぎゅっと抱き寄せた。

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