きみの隣まで、あと何歩。

なつか

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十歩目.大好きだ。【本編最終話 ※R-18】

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 それからしばらく、柊哉は俺が泣き止むまで抱きしめていてくれて、少し落ち着いてきたのを見計らうように、話しを始めた。

「そういえば、結局なんで最近態度が変だったんですか?」
「あーえっと……」
 正直、恥ずかしい話だし、かっこ悪いから、ごまかしたい限りだけど、こんな風に直球で聞かれたら、答えざるを得ない。
 言いよどんでいると、柊哉は俺から少し体を離し、不安そうな顔で俺を覗き込んだ。

「言いにくい話ですか?」
「違う違う。えっと……柊哉が全然告白してくれないから……」
 そういうと、柊哉は圧倒的に不思議そうな顔をしている。
 俺も何言ってるんだって思います。

「だから……柊哉、俺のこと絶対に好きなのに、全然言ってくれないから、もどかしくなって……。だからもう俺から言えばいいのかなって……」
 もし勘違いだったら、ものすごい自意識過剰なやばいやつだなって自分でも思う。
 でも、柊哉の俺への気持ちは駄々洩れだったし、何よりさっきちゃんと両想いになったし、引かれたりしない…多分。

「でも、いざ言おうと思うとなんか緊張しちゃって……。感じ悪かったよな、ごめん」
 恥ずかしさをごまかすように、柊哉の胸にくっついて顔を隠し、背中に手をまわす。
 柊哉はまた、優しく髪を撫でてくれた。
 俺の方が年上なのに、なんで柊哉はこんなにいつも落ち着きがあるんだろうか。

「それは俺が悪いやつですね……すみません」
「いいよ。結局、柊哉から言ってくれたし」
 お互いに謝りあって、何ともむず痒い。
 これで話は終わったかな? と思ったけどまだだった。

「こんなことなら、やっぱり昨日、踏み込んでおけばよかった」
 昨日、相原との話が終わったあと、教室のドアが少しだけ開いていたことを思い出した。
「あっ、やっぱり昨日見てたんだな?! なんで先に帰ったんだよ!」
 俺はムッとした顔をしたのに、なぜか柊哉は俺の髪を撫でてクスッと笑った。
「なんで笑ってるんだよ」
「すいません、あまりにも瀬良さんがかわいいから」
 俺は怒ってるのに、かわいいなんて!
 俺は爆発したようにカッと顔が赤くなるのがわかった。
 でも変わらず柊哉はそんな俺をニコニコしてみている。
 そうか、いつも柊哉が俺の頭を撫でるときは、『かわいい』って思われていたのか。

「昨日は、ちょうど自信なくしてたところだったし、その…たまたま相原さんにキスされてるところを見ちゃって……」
「え゛っ……」
「それで、踏み込んでいいのかどうか迷って、結局逃げました。ごめんなさい」
 
 思わず、血の気が引いた。
 一番見られたくなかった最悪な場面を見られていたなんて……タイミングが悪すぎるだろ……。
「あ、あれは、あっちが無理やり……」
「わかってます。でも、念のため聞きますけど……相原さんとは何もないんですよね?」
「ない! 全然ない! 昨日、告白されたけど……断ったから!」
 必死で否定すると余計に怪しく聞こえてしまうのはなんでだろうか。

「結局、相原さんとはなんでケンカしてたんですか?」
「えー今それ聞く?」
「モヤモヤするので聞きたいです」
 こんな話を柊哉にするのはイヤだけど、少しの誤解も与えたくない。
 しぶしぶではあるけど、俺は腹をくくった。

「前にも一回、告白されたことがあるんだ。あいつとは家が隣だったからうちの事情とかも知っててさ、家に居づらくなってからはあいつの家にゲームやりに行くようになって……。毎日のように入り浸ってた。家に行くともう、本当に至れり尽くせりだったんだよ。俺には、浩平は家族に近い存在だったから、つい甘えちゃってたんだよね。だから、告白されたとき、なんか裏切られたって気持ちになって……」

 相原としては“好きな相手に向けた愛情”だったみたいだけど、俺には“家族から受けた愛情”だった。
 それは俺たちにとって、もうどうしようもない“溝”だった。
 むしろ、家族のように思っていた相手だったからこそ、わかってもらえなかったことが悲しかったんだと思う。

「それで拒否して、距離置いて……最近になってようやく自分勝手だったなって反省した。でも、昨日ちゃんと話して、終わりにしてきたから。納得した?」
「はい、話してくれてありがとうございます」
 以前にも柊哉には相原とのケンカの原因を聞かれたことがある。
 でも、その時は『話したくない』と言って話さなかった。
 その時は、こんな話をして柊哉に嫌われたくないって気持ちが強かったけど、今は受け止めてくれるって思える。
 前よりもグッと近い関係になれたことが、嬉しい。
 
 でも、キスされているところを見られたのはやっぱり嫌だな。
 あの感触を今でも思い出して、気持ちが落ち込んでくる。
 うつむき加減でいると、柊哉の指が唇に触れた。
 驚いて柊哉を見つめていると、その手はそのまま頬に動いていき、そっと唇が重なった。

「もうほかの人にさせたらだめですよ」
「……はい……」
「なんで敬語なんですか」
 柊哉が笑っているから、きっと俺の顔はまた真っ赤になっているんだろう。
 俺は、この年下の恋人に勝てる日は来るんだろうか。
 もう一度柊哉の手が俺の髪に伸びて来て、優しい手つきと、その視線に、とろけてしまいそうになる。
 もう、負けでいいから、ひたすらに甘えたい。

「もう一回、してもいいですか」
 俺が小さく頷くと、柊哉は髪を撫でていた左手はそのままにして、右手で俺の腰をグイッと引き寄せ、もう一度キスをした。
 重ねるだけの優しいキスのままでいると、急にうなじを撫でられ、思わずピクリと体が震える。
 その衝撃で少しだけ唇が離れると、今度はぺろりと唇を舐められ、少しだけ開いたところに舌が入り込んできた。

「ん……ふっ……」
 絡まりあう舌は、思わず声が漏れるほど気持ちがいい。
 柊哉の舌に、意識までからめとられていくかのように、頭がボーっとして何も考えられなくなってくる。
 気が付いたら俺はソファに倒されていた。
 
 唇を離し、俺を見つめる欲のこもる柊哉の視線と、荒い息づかいが、ゾクッと俺の欲を高ぶらせる。
「止めないと、食べちゃいますよ」
 少しの恐怖と、食べられてしまいたいという情動で震える俺の体は、“この人が欲しい”って叫んでいるようだった。

 口の中にある舌はまるで生き物のように俺の中を余すところなく舐め上げると、首筋に標的を移したようで、ザラリとした感触が首筋を這う。
ふいに服に覆われていたはずの素肌に手が触れ、驚いた俺の体は今までで一番大きく跳ねた。

「しゅ、しゅうや、ちょっとまって……んっ」
 息が上がり、思った以上にたどたどしい口調になっているし、体には全然力が入らない。
 それまで覆いかぶさっていた柊哉の体が少し離れると、部屋は明るいし、一気に現実感が出て来て、恥ずかしくて柊哉の目が見られない。
 
 でも、どうやらそれを柊哉は『ストップをかけられた』と思ったようで、体を起こして俺から離れて行ってしまった。
「すいません、ちょっとやりすぎました」
 俺から離れ、ソファに座り直した柊哉は俺の方を見ずにそういった。
 息が上がって、少し赤らんだ柊哉の横顔にまた俺の欲が膨らんでいく。
 俺は柊哉の服の裾を引っ張った。

「ちがう……ベッド連れてって、って言おうとしただけ」
「えっ……いいんですか? 俺、これ以上すると止めらんないですよ」
「大丈夫……俺もしたいから」
 柊哉は俺にもう一度キスをしてから、軽々と俺を抱き上げて寝室へと運ぶ。
 今まで何度か同じように寝室へと運んでもらったけど、寝たふりをしていたから、くっついたり、動いたりできなかった。
 でも今日は柊哉の首に腕を回して、ぎゅってしがみつく。
 それだけでも、嬉しくて泣いてしまいそうだ。
 俺、こんなに泣き虫だったかな……。

 いつものように丁寧にベッドに降ろされ、またキスをする。
 何度も何度も噛みつくように激しく舌を絡めながら、柊哉の手は俺のTシャツをたくし上げ、胸の突起に指が触れる。
 くすぐったいような、背筋がゾクッとするような感覚に、体がピクリと震えた。
 
 柊哉はそのまま胸に唇を寄せ、今度は先を転がすように舐め、吸い上げる。
 そのたびに俺の体はピクピクと反応してしまい、声が漏れる。
 こんなところ、感じるなんて自分でも知らなかった。
 
 されるがままに体を預けていると、いつの間にか下着ごとズボンが下げられ、さらけ出された真ん中で固くなっているそれを柊哉は握って、しごき始めた。
 こんなにスムーズに脱がすなんて、慣れてるんじゃ…、って疑いたくなってくる。
 でも、握る手とその先から出るぬめりを帯びた滴りがこすれ合ういやらしい音と、迫りくる快感が頭を埋めていき、頭が真っ白になる。

「んっ……しゅう…や…もう、イっ!」
 あっさりとイってしまい、肩で息をしてぐったりとしていると、ぬめりを帯びたままの指が後ろに触れた。
「瀬良さん、少しだけここも触っていいですか?」

 柊哉のことを意識するようになってから、“そういうこと”を調べると、『いきなりは挿れられない』ってわかった。男同士はなかなか大変みたいだ。
 体格とか、雰囲気とか、いろいろ考えると、どう考えても俺が“挿れられる方”だって思うし…それに、ちょっと興味もあった。
 だから少しずつ慣らしていって、今日だって実はちゃんと準備をしてある。
 無駄にならなくてよかったなってのが正直な感想でもある。

「ん、大丈夫。多分…入ると思う……」
「えっ? あっ……」
 引かれたらどうしよう、とは思っていたけど、なぜか柊哉はどんどん悲しい顔になっていく。
 これは引いてるんじゃなくて、絶対あらぬ方向の想像をしている……。
 ムッとして、俺は両手でバチンと柊哉の顔を挟んだ。

「何その顔……絶対ろくでもないないこと考えただろ。言っとくけど、柊哉とこういうことしたいと思って準備しただけだから!」
「あ、そういう……えっと、ありがとうございます。すごい、嬉しい……」
 ひどい奴だ。俺の努力を疑うなんて。
 もちろん本気で怒ってるわけじゃない。でも、そのまま許すのも癪に障るから、ちょっとだけ意地悪をして、さっきのしょんぼり顔からすぐにご機嫌になって、キスをしようとする柊哉をプイッと避けてやった。

「せ、瀬良さん、怒っちゃいました……?」
「怒った」
「ご、ごめんなさい! だって、そんなことしてくれてるなんて思いもしなくて……」
「やだ、もうしない」
「せ、瀬良さん~っ」
 いつも落ち着いた雰囲気の柊哉が、こんなにも焦っているのは初めて見た。
 俺に縋りついてくる様子がかわいらしくて、つい顔が緩んでしまいそうになるけど、我慢だ。
 俺だって、たまには主導権を握りたい。

「どうしたら許してくれますか?」
 そろそろ許してあげようか。どうしようか。
 なんて、考えていたら俺は完全に“勝ち”のタイミングを見誤った。

「瀬良さん、キスしたい。お願い、許して」
 そう、耳元で囁くから、思わず体がピクリ反応してしまう。
 柊哉の形の良い唇はそのまま耳に触れ、差し込まれた舌が耳の中を這う音が頭に響く。
「んっ、しゅうやっ!」
「ねぇ、どうしたらいい? 触りたいよ……火月さん」

 耳元で唐突に名前を呼ばれて体中が震え、思わずばっと耳を塞ぐ。
 そんな俺を柊哉はいつもの優しい目に欲を込めて見つめながら、耳を塞いでいる俺の手をつかみ、その指先にキスをした。

「大好きです、火月さん」

 ちょっと生意気で、冷静そうに見えるのに、実はすぐに感情が顔に出るところも、俺にはいつも優しい目も、手も、全部、大好きなんだ。
 きみのその優しさにどれだけ救われたかわからない。
 かっこよくて、かわいい、俺のかけがえのない人。

「……柊哉のそういうとこ、ほんとずるい。でも、俺も好きだよ」



 きしむベッドの音と、荒い息づかいが響く部屋で、柊哉はシーツにすがる俺の手をとり、自分の首に回す。
「やっぱり痛いですか? 大丈夫ですか?」
「いっ痛くはないけど……っ、違和感がすごい…んっ」
 慣らしたおかげで痛くはないけど、気持ちがいいばかりとは言えない。正直きつい。
 でも、柊哉が俺の中で感じている顔が、もう想像以上で、もっと見たいし、もっと気持ちよくさせたい。
 そう思ってはいても、どうしても苦しい顔になってしまう。そのせいで柊哉は腰を引いて、俺の中から出ようとした。
 嫌だ……このままでいて! 俺は柊哉の腰を両足ではさみ、拘束する。

「だいじょぶだからっ…! 抜かないで!」
「でも……」
「俺、今すごい幸せなんだ。柊哉とつながれて、柊哉が俺の中で気持ちよくなってて……だから大丈夫。最後まで、して」

 ずっとただ流れていくだけだったこの日常を、柊哉は俺の隣で優しく、温かく照らしてくれた。
 この胸いっぱいにあふれる感情をどう表現したらいいのだろう。
 きっと、“愛しい”ってこういうことなんだ。
 きみも同じ気持ちなら、こんなにも嬉しいことはない。
 
 柊哉は少し泣きそうな顔をしながらも額にキスをして、俺の足をもちあげた。
「本当に辛かったら、蹴り飛ばしてください」
「ははっ、わかった」
 柊哉はゆっくりと俺の中に腰を落としていく。
 はじめはゆっくりとした動きから、徐々に早まっていく律動に合わせて、声が漏れる。
 苦しいけど、きついけど、気持ちい。

「ぅんっあっ……あっ、しゅうやぁ」
「好きです、好き。本当に好きなんだ、火月さんっ」
 柊哉に名前を呼ばれるたびに、体が快感を拾って、震える。
 食い荒らされるように唇を塞がれ、舌を吸い上げられるたびに頭の中がチカチカする。
 舌の絡まり合う音と、体が打ち付けられる音が頭の中に響いて、もう溶けてしまいそうだ。

「しゅうや、しゅうやっ、あっっんっ! あぁっ!」
「火月さん…くっ……もうっ」
 俺の中で果てた柊哉は、肩で息をしながら俺をぎゅーっと抱きしめるから、俺も背中に力なのはいらない手をまわして、精一杯ぎゅっと抱きしめた。

 幸せだ。
 
 体を起こした柊哉が額にキスをされると、俺のまだ火照ったままの体がピクリと反応してしまって恥ずかしい。
 真っ直ぐに俺を見つめる柊哉の瞳の中には俺がいた。

「柊哉、大好きだよ!」
 思わず口から出た言葉に、柊哉の目が揺れたように見えた。
「俺も、大好きです」

 唇へのキスは誓いのキスだ。
 これから、ケンカしたり、つらいことがあったり、一緒にいる道は平たんではないかもしれない。
 でも、ずっと隣にいたい。きっと二人並んで歩いていけば、大丈夫。
 
 大好きなきみとなら、どこまでもいける。そう思うんだ。
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