俺の友人は。

なつか

文字の大きさ
上 下
22 / 38

翔の場合 8.

しおりを挟む
ちょっとやりすぎだったかな?
その後明希から「半径一メートル以内に近寄るな!」と接近禁止令を出されてしまった。

バスケ部で出しているポテトフライのお店は校門から昇降口までまっすぐに伸びるレンガ造りの道の端っこ、校舎に一番近い場所に出店している。
これは行列を見込んでの位置取りらしい。現に今も他のお店に比べてかなり長い行列ができている。
「おっ、諏訪野きた! ようやく交代できる~。もう全然行列途切れなくてさ。やばいよ、これ」
「お疲れ。在庫は大丈夫そう?」
「ハーブソルトとか、カレーとかこの辺のフレーバーはちょっとやばそう。でもまぁ売り切れたらそこで終わりにするしかないっしょ。キリないわ」
「ほんとそれ。もう、これは絶対売上一位とれるって。フレーバー考えた人マジ神よ」
「その神がこちら」
どやっと俺の後ろにいた明希の肩を抱き、グイっと前に出す。
「おい、一メートル!」
まだ接近禁止令は解除されていなかったらしいが、今こそ俺の明希を自慢する絶好のチャンス。抱っこを嫌がる猫みたいに両手を俺に突っ張る明希をここぞとばかりに抱き寄せる。
「おっ噂の須藤くんな! ほんとありがとね」
「えっ、いや、俺は、何も……」
うわっ、人見知りを発動したせいで、つい今の今まで俺を引きはがそうとしていた手で俺の服を掴んじゃう明希、最高にかわいい。
なお、このやり取りの間も店番のバスケ部員たちはちゃんとテキパキと動いている。それでもやっぱり行列は途切れない。これは、なかなか大変そうだ。
「……翔、よかったら俺手伝おうか? まだクラスのほうの交代まで時間あるし」
「えっいいの?! 助かる!!!」
バスケ部員たちの勢いに圧倒されて一歩下がりつつも、明希は照れくさそうに「うん」とはにかんだ。
「……須藤くんいい人だ」
「ほんと、もっと怖い人かと……」
「はいはい、そろそろ交代しよ。自由時間なくなるよ」
咄嗟に明希を背に隠して前に出ると、そいつらは「そうだった!」と慌てて着ていたエプロンを俺に渡していなくなった。
ちょっとあからさますぎただろうか。ちらりと明希のほうをうかがいみてみたけど、特に気にした様子はなさそうで、ほっと胸をなでおろす。
だってさ、明希のかわいいところを知ってるのは俺だけでいいんだよ。


「あーー疲れた! でも楽しかったなー!!!」
こうして幕を閉じた文化祭。結果を見ると、飲食部門で売り上げ一位はバスケ部、二位は俺たちのクラスだった。頑張りが成果として出るのは嬉しいことだ。
「ほとんど翔のおかげだろ」
「そんなことないでしょ。むしろバスケ部は明希のおかげだし」
確かにクラスの売り上げには貢献したと思うけど、バスケ部は違う。俺がいなくてもずっと行列だったんだから。
「別にただのポテトだったとしても、一位取れてたと思うけど」
「またそういうこと言う」
明希はとことん自己評価が低い。自分がどれほどの影響を俺に、俺以外にも与えているかわかってない。そんな思いを隠さずむくれると、明希は困ったように笑った。

「……打ち上げ、ほんとに行かなくてよかったのか?」
売り上げ二位を祝して、クラスで打ち上げをやると誘われたけど、それを断って今、明希と帰宅しているわけで。帰る前にも散々聞かれたのに、まだ明希は気にしているみたいだ。
「うん、大丈夫。明希だって行かないじゃん」
「俺は、別にいなくてもいいだろ。でも翔は……」
立役者なのに、ってクラスのメンバーにも言われた。
でも、明希も、三星くんだって打ち上げには参加しない。普通に帰って、普通にご飯にするって。
クラスのみんなで打ち上げをするのもきっと楽しいと思う。でも、俺はこっちのほうがいいんだ。
「言ったでしょ? 俺は明希といるのが一番楽しいって」
照れ隠しも含めて、今日のご飯は何かなーなんて言いながら明希を置いて先を歩く。
「……俺も、翔といると楽しいよ」
追いついてきたと思った明希は、そのまま俺の横を通り過ぎて行った。言い逃げした後姿は耳が真っ赤になっている。今日の明希はかわいいの供給過多だ。俺はこらえきれず、明希に後ろから飛びついた。
「うわっ!!」
「あーき、今日のご飯なに??」
「今日はカレー」
「最高じゃん。早く帰ろ」
離れろって言われないことをいいことに頭をぐりぐりと押し付けると、「やめろ」とぺちりとはたかれた。もう接近禁止令は解除ってことでいいかな?
じゃれあっていたらあっという間に家についていた。

俺は明希の家に来るようになるまで、包丁を握ったことなんて学校の調理実習くらいだった。でも、明希と並んで料理するっていうのがなかなか楽しくて、教えもらいながらだいぶ上達したと思う。今日だってもちろんカレーを作るお手伝いをする。
まだ三星くんは帰ってきていない。いても彼は料理の手伝いはしないんだけどね。明希曰く、「孝太郎がいても手間が増えるだけ」らしい。
俺もそう思われないように頑張らないと。気合を入れて、手を洗っていると、冷蔵庫を覗いていた明希が小さくため息をこぼした。
「しまった、牛乳がない」
「買ってこようか?」
「いいよ、ちゃちゃっと行ってくるから。悪いけど野菜切っておいてくれる?」
「ん、わかった」
財布を掴んで出て行った明希を見送り、任されたニンジンを切りにかかる。
俺は完全に浮かれモードだった。
文化祭を明希と一緒に回れたのが楽しかったから。
まるで家族の一員のようにこうして当たり前のように夕飯の準備を任せてもらえるのが嬉しかったから。

だから、まさかこの時明希を一人で買い物に行かせたことを、後悔することになるなんて思いもしなかったんだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【BL】はるおみ先輩はトコトン押しに弱い!

三崎こはく
BL
 サラリーマンの赤根春臣(あかね はるおみ)は、決断力がなく人生流されがち。仕事はへっぽこ、飲み会では酔い潰れてばかり、 果ては29歳の誕生日に彼女にフラれてしまうというダメっぷり。  ある飲み会の夜。酔っ払った春臣はイケメンの後輩・白浜律希(しらはま りつき)と身体の関係を持ってしまう。  大変なことをしてしまったと焦る春臣。  しかしその夜以降、律希はやたらグイグイ来るように――?  イケメンワンコ後輩×押しに弱いダメリーマン★☆軽快オフィスラブ♪ ※別サイトにも投稿しています

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

処理中です...