俺の友人は。

なつか

文字の大きさ
上 下
13 / 38

明希の場合 8.

しおりを挟む
「明希、入ってもいい?」

しばらく放心したままでいた俺にしびれを切らしたのか、再びノックとともに聞こえてきた声。
俺ははっとして、ドアを開く。
そこにいたのは、今日もイケメンの俺の友人。
俺と同じようにインフルエンザで寝込んでいたはずだけど、その輝きは微塵も薄れていない。そのご尊顔をぼうっと見上げていた俺にとどめを刺すように、翔は神々しいほどまばゆい微笑みをこぼした。
「元気そうでよかった」
いや、お前のせいでまた熱が上がりそうだよ。

気を取り直して。どうぞと招き入れると、翔はこれまた嬉しそうに俺の部屋を見渡している。
おかしい、なぜ翔はこんなにも上機嫌なのか。

休む前、最後に学校で会った時、俺たちは明らかに気まずい空気だった。それも、確実に俺に非がある形で、だ。
翔の考えていることを測り損ねているうちに、気が付けば翔は俺のベッドに座っていた。
俺の狭い部屋には、勉強机とベッドが無理やりおさめられていて、床には座るスペースもない。だから、ベッドに座るのはまぁいいのだけれど。
なぜだか、イケメンが自分のベッドに座っているというシチュエーションにもぞもぞとする。女子でもあるまいし、気にすることなんて何もないはずなのに直視できない。
ただただベッドに座って本をパラパラとめくっているだけの姿がなんと絵になることか。
ん? 本?
「うわぁぁぁぁ!!!!」
「えっなに、びっくりした」
慌てて翔の手から取り上げたのは、孝太郎が暇つぶしにと押し付けていった例のアレ。
「違う! 俺のじゃないから!!」
キョトンとする翔は、ちらりとまたベッドの上に視線を移す。そこには積まれたソレ。
俺はその時、今までにないくらい早く動いたと思う。
さっとソレらを回収し、勉強机の引き出しの中に放り込んだ。

「あー、えっと、翔はもう具合はいいのか?」
「えっ、あぁうん。今日から登校してる。明希に移したの、確実に俺だよな。ごめん」
「いや、しょうがないよ、こういうのは」
当たり障りのない会話。その後すぐ沈黙。
でも、本来はこの空気感が正しい。その重たい雰囲気に俺は逆にほっとした。
そして、背を伸ばす。
「謝らないといけないのは、俺のほうだ」
すべて正直に話す。もともとそう決めていた。友人を失う覚悟をしてた。
それでも震える手を俯いたままぎゅっと握りしめる。
「察してると思うけど、孝太郎……三星と俺はここで一緒に住んでる」
「うん」
「俺の親のことは知ってると思うけど、孝た…三星のとこも父子家庭で、」
「三星くんのこと、孝太郎って呼んでんだ」
「あっ、うん、そう」
「三星くんは、明希のこと『明希ちゃん』って言ってたね」
かけられた声はなぜか楽し気で。顔を上げれば、まぶしいくらいに優しいまなざしが俺を見つめていた。
それは、あまりに今の俺の心境と不釣り合いで。
許されるんじゃないか。そんな浅ましい思いがよぎって、見つめ返すことなんてできない。
「黙ってて、ごめん」
俯いたまま震える声。なんて臆病で、なんて情けない。
「明希」
それなのに、そんな優しい声をかけないでくれ。

沈黙が落ちた部屋にギシリと俺の安いベッドがきしむ音がして、立ち上がった翔の気配が俯く俺に近づく。
ふわりと翔がいつもつけているシトラス系の香水の香りがいつもより鮮明に感じると思ったら、俺は翔に抱きしめられていた。
「しょ、翔?!」
俺よりも高い背、無駄のない、たくましい体。いつも見ていたのに、その温度は初めて知る。
途端にバクバクと脈打ち始めた心臓の音が翔にも聞こえてしまいそうで。俺が身じろぐと、背に回された腕にさらに力がこもった。
「明希」
耳元に直接流し込まれた低音にビクンと体が跳ねる。本当に、リアルに、腰が砕ける……!
「俺ね、隠し事もだけど、明希がごまかそうとしたの、結構ショックだったよ」
そう、だよね。でもね、この状態だと混乱しすぎて頭がシリアスモードに入れない。
「わ、わかった。ちゃんと話すし、とりあえず離れてくれ」
「だめ」
なぜだ。汗だくの男を抱きしめるなんて、そっちだって気持ち悪いだろうよ。
それなのに、なんで背中を撫でる?!
翔の大きな手が俺の背で動くたびに、ぞわぞわと汗が噴き出して止まらない。
「傷ついたなぁ」
いつもは張りのある低音ボイスに悲しみがこもる。
すでに混乱を極めていた俺は、あろうことか行き場をなくしていた腕で、咄嗟に翔を抱きしめ返した。
「ごめん! もう絶対に隠し事はしないし、嘘もつかない!!」
「ん。約束ね」
翔の腕から力が抜け、ようやく解放されたとほっと息をついたのも束の間。
はちみつのようにとびっきり甘くとろけるようなまなざしと、するりと頬をなでていった長い指の冷たさに、俺は膝から崩れ落ちた。
そんな俺を見て翔は笑う。

「あっ、さっきの本、もう一回見せて」

もう、きっと立ち上がれない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【BL】はるおみ先輩はトコトン押しに弱い!

三崎こはく
BL
 サラリーマンの赤根春臣(あかね はるおみ)は、決断力がなく人生流されがち。仕事はへっぽこ、飲み会では酔い潰れてばかり、 果ては29歳の誕生日に彼女にフラれてしまうというダメっぷり。  ある飲み会の夜。酔っ払った春臣はイケメンの後輩・白浜律希(しらはま りつき)と身体の関係を持ってしまう。  大変なことをしてしまったと焦る春臣。  しかしその夜以降、律希はやたらグイグイ来るように――?  イケメンワンコ後輩×押しに弱いダメリーマン★☆軽快オフィスラブ♪ ※別サイトにも投稿しています

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

処理中です...