俺の友人は。

なつか

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翔の場合 3.

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それ以来、何とか三星くんと話すきっかけはないかと探ってはいるけど、彼は教室にいるときはずっと本を読んでいる。
前は本を読んでいるときに話しかけて睨まれてしまったから、同じ轍を踏むことは避けたい。
とは言っても、昼休みは教室を出て行ってしまうし、帰りも速攻でいなくなる。なかなかタイミングをつかめないまま、明日からはもう夏休み。日和っているとしか言いようがない。
一応この間、意を決して期末テストの結果発表の後に話しかけてみたんだよ。でも、それも結局失敗に終わった。
「いつもすごいね」って、俺としては純粋に成績を褒めたつもりだったけど、後で明希に何がダメだったのか聞いてみたら、一位のお前が言うと取りようによっては嫌味に聞こえる、と言われてしまった。
その通り、三星くんにはまたきっつく睨まれましたとも。
どれだけ取り繕っていても、”本当の俺”は他人の気持ちを推し量れないポンコツなんだろう。小学生の時から全然成長できていない。
反省はするものの、じゃあどうするかといわれても、いくら気を付けても自分では無意識なんだからどうしようもない。ダメな時は明希に注意してもらって、経験値を稼ぐしかないかな。

トイレから教室に戻りつつ心の中でため息をついていると、教室の外で珍しく女子としゃべる明希の姿を見つけた。
「ただいまー明希。どうかしたの?」
「わっ、諏訪野くん…!」
明希の肩に手をまわし、明希の前にいた女子にニコッと笑いかける。彼女は突然登場した俺に驚いた後、ぽっと顔を赤らめて視線をさまよわせた。
「おかえり。なんか映画に出てくれないかって言われて」
「そう、文化祭に出す映画に出てほしいの! もう須藤くんしかいないってくらいぴったりの役柄で!」
人づきあいが苦手な大人しい女の子と、ヤンキー男子。クラスで浮いている二人の甘酸っぱい恋を題材にした青春映画。そんな映画の内容を興奮気味に語るその子と、明らかに困惑顔の明希。
あっ俺から見たら困惑顔だけど、多分他から見たら相当不機嫌に見えると思う。そんな明希に怯まない女の子は珍しいなと思ったけど、この子、確か一年生の時も明希と同じクラスだったはず。だから、明希が見た目に反して実は優しいことを知ってるんだろう。
なぜかすこしモヤッとした気持ちは彼女の次の言葉で吹き飛んだ。
「心優しいヤンキーなんて、この学校じゃ須藤くんにしかできないもん! だからお願いします!!」
「ブッ」
吹き出したら、明希に睨まれた。
「あー、悪いけど夏休みはほとんどバイトだし、家のこともあるから無理だ」
すげなく断る明希にその子は「そこを何とか!」なんて粘ってたけど、予鈴の音でそれも打ち切り。がっくりと肩を落としながら自分のクラスへと帰っていった。
俺はというと、『心優しいヤンキー』にまだツボっている。明希は素行は悪くないから決して”ヤンキー”じゃないけど、見た目だけで言えば間違いなくぴったりだし、”心優しい”のは間違いない。
「いつまで笑ってんだよ」
「ごめんごめん、雨の中捨て猫を拾う明希を想像したらあまりにぴったりで」
そんな心優しいヤンキー少年に女の子が惚れるなんて、あまりに使い古されたシチュエーション。今時ウケるのかな、と正直なところ思うけど、子猫を抱く明希はきっとかわいい。
「明希の出る映画、見たかったな」
「嫌だよ。演技なんてできないし。そういうことは翔みたいなイケメンがやればいい」
「俺だって無理だよ。部活あるし。それに、明希と遊べなくなるのも嫌だし」
せっかく明希と仲良くなれてから初めての夏休みなんだ。ただでさえ明希は夏休みのほとんどをバイトに費やすつもりらしいし、そうじゃない日も勉強しないととか言う。
俺だってほとんど部活だし、大会だってある。そこにさらに他に用事を作られたら、明希と一日も遊ぶことなく夏休みが終わりかねない。
「お前、そういうとこだぞ」
眉間に深い皴を寄せながらも赤く染まる顔をぷいっと横にそらせた明希に自然と顔が緩む。

三星くんのことは気になる。でも、焦る必要もない。どうせ夏休みに入ったら会えないんだし。それなら今は楽しいことだけ考えたほうがいいでしょ。

明希とは大会の後と、八月末にある地元の祭りに行く約束はできた。でも、俺としてはそれは最低限なわけで。
俺の友達も含めて海に行こうって誘ったら秒で断られたし、もっと会いたいって言ったら不可解な顔をされて流された。明希は本当に釣れない。
それなら一緒に宿題をやろうと、空いてる日に連絡して! って言ったけど、明希はスマホを持ってない。こっちから誘おうにも連絡先がお父さんの携帯ってハードルが高すぎる。
でも、絶対に誘ってやる。


なんて意気込んでいたのに、結局夏休み中もともと約束してた二日と、意を決して明希のお父さんに電話して誘った一回だけ。
それも図書館で一緒に宿題しただけで終わり。健全すぎる。
とはいっても、ゲーセンは明希が嫌がるし、カラオケは俺もあんまり好きじゃない。暑すぎるからぶらぶらと出かける気にもならないし、家に誘っても断られる。明希の家も無理だって。そんなんだったから、唯一ちゃんと”遊んだ”って言えるのは夏祭りの日だけ。それでも、偶然俺の友達に会ったら、あいつ帰ろうとするんだもん。慌てて引き留めたら、
「あっちの人たちといたほうが楽しいだろ?」
そんなふうにキョトンとした顔で言うから、さすがの俺も怒った。
「なんでだよ! 俺は明希と来たかったから、明希を誘ったんだよ」
「そんなに俺に気を使わなくてもいい」
「そういうことじゃない!」
いくら真剣に言っても、明希は困ったような顔をするだけで。
俺は愕然とした。

二年生になってから、明希と俺は学校ではいつも二人でいた。
ペアになるような授業ではいつも俺と明希はセットだったし、昼ご飯だって毎日二人で一緒に食べていた。いろんなことを話して、笑って、互いのことを知って、仲良くなれたと思っていた。
俺にとって明希が代わりのいない存在であるように、明希にとっての俺もそうなんだと思っていた。
でも、違った。
いくばくか他の人よりかは心を開いてくれているかもしれない。でも、ゆだねてはくれていない。
明希は、俺がそばからいなくなっても、「仕方がない」できっと終わらせてしまう。手を放してしまえる存在なんだ。


そして、それはその後、確信に変わる。

「……ない、ことも、ないんじゃ、ない…かな?」

明希との間に明確にひかれた線。こちらをうかがう瞳が、その線を超えてこないでくれと懇願しているようで。

でも、そんなの、ダメだ。

許せない。



許さない。
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