俺の友人は。

なつか

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明希の場合 4.

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両親が離婚したのは、俺が小学校二年生の時だった。
母の両親がやっていた工場に婿入りした父親は後を継ぐべくまじめに働いていたが、折の不況で経営状態はかなり悪かったらしい。
そんなさなかに母がホストに貢いで借金をしていたことが発覚した。
実家の工場が窮地に立たされているのに、どうしてそんなことをと問い詰めたら、母は父が相手をしてくれなくて寂しかったとこぼしたらしい。父は工場を何とか立ち直らせようと必死で金策に走り回っていたのに。
確かにそのせいで家にはほとんど帰らなかったが、俺を一人家に残してホストクラブに通う理由にはならない。その時の俺は、母も父と同じように働いているのだと思っていた。
それを聞いた父親は、それまで張りつめていた糸が切れてしまったのだろう。母の借金も相まって、工場はあっという間に倒産。そして、高齢であった母の両親に変わり、父は負債を負った。
その後、父は知り合いの工場に再就職できたが、母は自分の借金は自分で返すからと自ら水商売に沈んだ。
でも、結局はそれも入れ込んだホストの指示で。次第に家に帰ることすらなくなっていった。そんなふうだったから離婚もあっさり成立したのだろう。
父は離婚して引っ越すとき俺に苦労を掛けて申し訳ないと泣いた。でも、俺としては引き取ってくれただけで十分だ。
みんなが持ってるスマホやゲームなんかは手に入れられなくても、飢えることも凍えることもなく暮らせている。きっと母親に引き取られていたら、もっと悲惨な人生だっただろうことは簡単に想像できるからね。

そんなこんなで今住んでいるボロアパートに俺たちが引っ越してきたすぐあと、孝太郎も父親と共に引っ越してきた。詳しく聞いたことはないが、孝太郎のところも母親が原因で離婚したらしい。離婚届だけおいて、浮気相手といなくなっちゃったんだって。
孝太郎の父親、優一朗さんは、見た目は孝太郎とよく似ているが、雰囲気が全く違う。図太さが全面に出ている孝太郎と違って、儚げで愁いを帯びた美しい人だ。
持病があって外に働き出るのが難しく、自宅で翻訳の仕事をしていると聞いているが、残念ながらそんなに稼げるほどではないらしい。
それに加えて持病の治療にお金がかかることもあって、最初は支えるから! と意気込んで結婚を押し切った孝太郎の母親も、現実と理想の乖離にいつしか心が離れてしまったという。いなくなる直前の母親は怒鳴ってばかりだったと、嘲るように、それでもどこか寂しそうに孝太郎は言っていた。

こうして出会った俺たちは同じ父子家庭ということもあって、俺の父親が忙しい時には孝太郎の家で世話になったり、料理が苦手な孝太郎の父親の代わりに、俺や俺の父親がご飯を作ったり。『家族』とはちょっと違うけど、持ちつ持たれつ、互いに協力し合って暮らしてきた。
俺と孝太郎も、普通の友達よりは気を使わないけど、親友ってほど気が合うわけでもないし、兄弟ってほどの絆もない。でも、そこにいて当たり前で、ケンカしても自然と元に戻れるような。そんな関係になっていった。
じゃあ父親たちは、というと、俺たち子どもとは違い、互いの窮地を支え合い、寄り添いあった大人たちの間に芽生えるもの言ったら一つしかない。

あれは俺と孝太郎が中学二年生になった頃。テスト週間でたまたま早く帰宅する日だった。
ボロアパートの二階の一番奥の部屋の鍵をいつも通り開け、部屋の中に入っていくと、奥の和室で俺の父親と優一朗さんが絡み合っていた。
その肌色の光景に、俺は驚きすぎて荷物を落とすことしかできなかった。その音で俺にようやく気が付いた父親たちは二人で慌てながら叫んでいるし、叫び声を聴いた孝太郎もこっちの部屋に来てしまうしでその場はもうカオス。
そんな状況に俺は逆に冷静になった。
「とりあえず向こうの部屋にいるから、落ち着いたら来て」
それだけ言って、呆然自失としていた孝太郎を引きずって隣の部屋に移動した。
「お茶飲む?」
その場を離れたら孝太郎も落ち着いたようで、その頃には毎日一緒に夕食を囲むようになっていたダイニングテーブルの定位置に座り、俺の出したお茶を静かに飲んだ。
それでも気まずくないわけがない。まさか父親同士が、なんて考えもしなかったんだから。
その時はお互い無言で、孝太郎が何を考えていたのかは知らない。でも、”想い”は一緒だったと思っている。だって、それが今の状況につながっているんだから。

その後、少ししてから(ちゃんと服を着て)やってきた父親たちとダイニングテーブルを囲んで四人で座り、話を聞いた。
「少し前に、僕が俊希としきさんに告白して付き合い始めたんだ」
「えっ、」
優一朗さんの言葉に思わず俺は目を丸めた。
俺の父親が優一朗さんに惚れるのはなんとなく理解できる。優一朗さんは男から見てもきれいな人だし、儚げな雰囲気が守ってあげたくなるような人だから。
でも、俺の父親は俺と同じように人相が悪いし、ぱっと見は結構怖そうに見える。
どこに惚れる要素があったのだろうか、と首をかしげると優一朗さんは頬を染めながら視線を下げた。
「確かに見た目はちょっと怖そうだけど、実はすごく優しくて、表情がころころ変わるのがかわいいなって」
その言葉を聞いた俺の父親が優しく、甘い目で優一朗さんを見つめているのを見てしまったら、俺たち子どもからいえることなんて何もない。
だから、不安そうに俺たちの反応を窺う父親たちに、ため息交じりとは言え否定の言葉なんて出てくるはずがなかった。
「別に反対したりしねぇよ。な、孝太郎」
「まぁねぇ」
なんせこの二人はもう恋愛なんてコリゴリだと思っても仕方がないようなことを経験した。

それでも二人の間に芽生えた恋。それは少し時間のたった今ではきっと愛になり、確かに二人を繋いでいる。
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