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68話 ジャスタの思惑 (レオンハルト)

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「エリシアの解読の能力はお前も気付いていたから、エリシアに図書館を解放したんだろ? 」

「・・・・・・バレてたか、本人は気づいてなさそうだったのに・・・」

そうだ、いつもの本を読むように古文書を読むエリシアの姿を見て、エリシアの能力には気が付いていた。本人がそれに気がついていないことも分かった上であえて言わないでいた。

「そうなんだよ、本人全く気がついてなかったけどな 」

そう言って思い出したようにククッと笑うジャスタ。

「もう、そんなに笑わないでくださいよ! 」

「悪い、つい思い出し笑いをしてしまった 」

ふくれるエリシアの頭に手を置いて可笑しそうに笑うジャスタに、少し疎外感を感じるけど、今はそんなことは言ってられない。

「何故そこまでエリシアの能力を求めた? 」

「俺の国は帝国になってからはまだ浅い歴史しかないが、帝国になる前のクシャナ王国は2000年続いた古い歴史を持つ。その当時からの記述が沢山残っているんだが、どれも古代文字で書かれた古いものがほとんどで、誰も読むことが出来なかったんだ。そこに書かれているのが重要な事だと分かっているのに、誰も読めなかったんだ 」

なるほど、だからエリシアが必要だったのか・・・だけど皇妃に出来なくとも、他にも自分のそばに置く方法はいくらでもあるのに、何故養女に? 

「それでも分からない、何故彼女を前皇帝の養女にしたんだ? 」

俺の質問に、ジャスタは僅かに笑みを浮かべて嘆息する。

「分からないか? 」

分からないかと聞かれても、分からないから聞いているんだ。

「・・・・・・だから聞いてる 」

「お前、そこまで硬い頭だったか? 」

「うるさい 」

ジャスタは俺をからかうためにここに来たのか? いや違うだろ、妹を俺に・・・・・・

「・・・え? 」

「やっと気が付いたか、遅いんだよ 」

ジャスタは大きなため息をついて俺を見たあと、エリシアへと視線を落とす。
その眼差しは愛しいものを愛でる眼差しだ。

「エリシアは俺の妹だ、お前に嫁にくれてやる 」

「何故ジャスタがそこまでするんだ? 」

ジャスタもエリシアを手放したくは無いはずだ。
すると、ジャスタはまた口角を上げてニヤリと笑って俺を見る。

「これで我が帝国とアイスバーグ王国は深い繋がりを持つことになる。それに、レオンハルトに恩を売るためだよ、これでお前は俺に頭が上がらない 」

「もう、お兄様、そんな意地悪な言い方しないで下さい 」

エリシアが間に入ってくれたけど、その前に分かった。ジャスタはわざと悪役になろうとしてる。
確かに考えはその通りなのだろう。だけどわざわざエリシアを養女にしなくても、ジャスタには実妹が居るはずだ。

「・・・・・・ジャスタ・・・じゃあ、俺の結婚相手は本当に・・・・・・? 」

エリシアの方を見ると、エリシアは俯いてしまって表情が読み取れない。

「ああ、俺の妹を嫁にやると言っただろ? 」

「だけど、古文書の解読はいいのか? それに、クシャナの建国からの歴史はエリシアの頭の中にある。そんな重要なことを知った彼女を国外に嫁にやるのは危険なんじゃないのか? 」

「大事な物はほとんど読み終わってる。エリシアは古文書も普通の本のように読み進めるからめちゃくちゃペースが早いし、レオンハルトも言ったように読んだものは全て記憶しているからいつでも引き出せる。確かに危険かもしれない 」

そこまで言って、ジャスタは一呼吸置いてから口角を上げて俺を見る。

「だけど、レオンハルトは俺に恩がある。エリシアの知識を悪用するような人間でない事もよく知ってる。それに、エリシアの事はレオンハルトが絶対に守るだろ? 緊急の用がある時は呼び出すけど、普段はたまに里帰りさせてくれたらいい 」

「そんな事でいいのか? 」

「エリシアが移動時間を短縮できる凄いものを開発してくれたからな 」

ジャスタが誇らしげにエリシアを見ると、エリシアは照れくさそうに顔を上げた。

「里帰りって・・・里と呼べるほどクシャナに居た訳じゃないですけどね、機関車開発がこんな事に役立つとは思いませんでした 」

「エリシアは正式に血の儀式を済ませて我が皇族の一員になったんだ。暮らした期間はどうあれお前は立派なクシャナの皇族だ、誇れ 」

「そう言って貰えるなら嬉しいです 」

エリシアを見ていればわかる。クシャナでの暮らしはとても素晴らしい物だったんだろう。どこの誰ともわからぬ者を受け入れてくれるクシャナに比べ、我が国はやはり閉鎖的だな・・・
それを正すのは俺がこれからやるべき事だな。

「エリシアはそれで良いのか? その・・・・・・俺を選んでくれたという事なのか? 」

ジャスタがさっき振られたと言っていた。それは期待をしていいという事なのか?
期待を込めてエリシアを見ると、少し照れくさそうに俺を見て微笑んだ。

「はい、これからよろしくお願いします 」



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