48 / 71
48話 王宮
しおりを挟む夜中の出来事だったので、王宮に着いた頃には辺りがうっすらと明るくなり始めた頃だった。
「疲れただろう、とりあえずゆっくり休め 」
私はレオンハルト様が住まう区画にある客間に通された。
「はい、ありがとうございます 」
「エリシア、私は一度戻るけど、また来るからね、ゆっくりさせてもらうといい 」
「お兄様も大丈夫なの?」
「うん、私は大丈夫だよ、じゃあまたね 」
明るく手を振ってお兄様は帰って行った。
私が不安にならないよう、一緒に来てくれたのね、ありがとう。
「また昼過ぎに様子を見に来るから、それまでゆっくりしてろ 」
レオンハルト様もそう言うと去って行った。
私も案内された部屋で少し休むことにした。
いくらレオンハルト様の部屋とは離れているとはいえ、この状況はクリスティーナ様が羨むわね・・・
これからの事はどうなるのかしら、結局レオンハルト様に振り回されてばかりだわ、全然私の意思で動けてないのよね・・・
そんなことを色々と考えながらベッドに横になっていると、いつの間にか眠りに落ちていた。
目が覚めるとすっかり日が昇りきって暖かな日差しが窓辺を照らしていた。
疲れていたのか、夢を見ることも無くぐっすり眠れたので体の疲れもなくスッキリしている。
「そうか、ここはお城の中なのよね 」
私は自分に言い聞かせるように言葉にして言ってみる。
ほんの半年ほど前までは絶対に関わりたくなかった場所に居るなんて、どうしてしまったんだろう。と自分で自問自答してしまう。
レオンハルト様はお昼すぎに来ると言っていたけど、もうそろそろかしら、そういえば、急に来る事になったので何も持ってきてない。着替えもないから寝巻きのままだ、レオンハルト様に貸してもらったコート以外何も着るものがないので外に出る事も出来ないわ、時間潰しに本も読みたいのに・・・
そんな事を思いながらしばらく待っていると、ドアが鳴ったので返事をする。
「はい、どうぞ 」
私の返事を待ってレオンハルト様が姿を現す。
「エリシア、少しは休めたか? 」
「はい、お陰様ですっかり疲れが取れました 」
にっこり笑って答えると、レオンハルト様はククッと笑いをこらえる。
「何ですか? 」
「いや、誘拐された後なのに逞しいなと思って、俺としては元気なエリシアで居てくれるのは助かる 」
んー、なんか今私はとても図太い人間だと言われた気がする。
まぁ、気にしないけどね。
「お陰様で逞しくなりました、それよりも、なにか着るものを兄に持ってきてもらえれば助かるのですけど 」
「ああ、その事なら・・・ 」
レオンハルト様がそう言って扉の方を振り返ると、何人かの人が大きな箱を持って現れた。
「これは? 」
「何着かは私が予め作らせておいた物だけど、間に合わない物は君の実家から取り寄せさせてもらったよ 」
「え? 予め作ってた? 」
どういう事?
「ん、またエリシア嬢にプレゼントしたくて作らせてたんだ、役に立って良かったよ 」
荷物を運んできたたくさんの使用人が居るので、レオンハルト様は猫かぶりモードです。
なんか今サラッと変なことを言っていたけど、聞かなかったことにしよう。
「それと、もう一つ大事なものを預かってきたよ 」
レオンハルト様はそう言ってドアの方を見る。大事なもの? 私は入口を見た瞬間、嬉しさのあまり叫んでいた。
「エミリー!」
レオンハルト様の言葉で部屋に姿を見せたのは私の侍女のエミリーだった。
「良かった、一人で心細かったの 」
「着替えが済んだら出てきてくれ、しばらくここに居ることになるから、エリシアが行動できる範囲を案内する 」
レオンハルト様はそう言うと部屋を出てしまった。
レオンハルト様は凄いわね、何でもお見通しで先回りして行動してくれる。
自分の事しか考えない上流階級の坊ちゃんとは全然違う。
それを言うと、夜の居酒屋で情報を探っていること自体、普通じゃないんだけど、今回は本当にレオンハルト様の事を見直してしまった。
私がここに連れてこられてからこれだけの事を用意するなんて・・・レオンハルト様は夜私を助けに来てくれてから寝ていないのじゃないかしら。
「お嬢様、早く準備をしませんと、殿下がお待ちですよ 」
「ああ、そうね、エミリー、来てくれてありがとう 」
「いいえ、まさか私がこんな所に来ることが出来るなんて夢にも思っていませんでしたけど、殿下のお心遣いのおかげです。レオンハルト殿下は本当にお心のお優しい方ですね 」
「そ、そうね 」
嬉しそうに話すエミリーに、私は微妙な返事しか出来なかった。
レオンハルト様が優しい? 鬼畜の間違いでは? でも確かに、からかいはするけど、決して嫌がることはしない。時折はめられるけど・・・意外と優しいのかもしれない。
あれ? 本当に優しいの?
0
お気に入りに追加
1,425
あなたにおすすめの小説
お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!
奏音 美都
恋愛
まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。
「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」
国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?
国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。
「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」
え……私、貴方の妹になるんですけど?
どこから突っ込んでいいのか分かんない。
婚約破棄されたのたが、兄上がチートでツラい。
藤宮
恋愛
「ローズ。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのようなことをするものを国母と迎え入れるわけにはいかぬ。よってここにアロー皇国皇子イヴァン・カイ・アローとローザリア公爵家ローズ・ロレーヌ・ローザリアの婚約を破棄する。そして、私、アロー皇国第二皇子イヴァン・カイ・アローは真に王妃に相応しき、このカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を宣言する」
婚約破棄モノ実験中。名前は使い回しで←
うっかり2年ほど放置していた事実に、今驚愕。
少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。
ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。
なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。
妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。
しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。
この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。
*小説家になろう様からの転載です。
婚約者に見殺しにされた愚かな傀儡令嬢、時を逆行する
蓮恭
恋愛
父親が自分を呼ぶ声が聞こえたその刹那、熱いものが全身を巡ったような、そんな感覚に陥った令嬢レティシアは、短く唸って冷たい石造りの床へと平伏した。
視界は徐々に赤く染まり、せっかく身を挺して庇った侯爵も、次の瞬間にはリュシアンによって屠られるのを見た。
「リュシ……アン……さ、ま」
せめて愛するリュシアンへと手を伸ばそうとするが、無情にも嘲笑を浮かべた女騎士イリナによって叩き落とされる。
「安心して死になさい。愚かな傀儡令嬢レティシア。これから殿下の事は私がお支えするから心配いらなくてよ」
お願い、最後に一目だけ、リュシアンの表情が見たいとレティシアは願った。
けれどそれは自分を見下ろすイリナによって阻まれる。しかし自分がこうなってもリュシアンが駆け寄ってくる気配すらない事から、本当に嫌われていたのだと実感し、痛みと悲しみで次々に涙を零した。
両親から「愚かであれ、傀儡として役立て」と育てられた侯爵令嬢レティシアは、徐々に最愛の婚約者、皇太子リュシアンの愛を失っていく。
民の信頼を失いつつある帝国の改革のため立ち上がった皇太子は、女騎士イリナと共に謀反を起こした。
その時レティシアはイリナによって刺殺される。
悲しみに包まれたレティシアは何らかの力によって時を越え、まだリュシアンと仲が良かった幼い頃に逆行し、やり直しの機会を与えられる。
二度目の人生では傀儡令嬢であったレティシアがどのように生きていくのか?
婚約者リュシアンとの仲は?
二度目の人生で出会う人物達との交流でレティシアが得たものとは……?
※逆行、回帰、婚約破棄、悪役令嬢、やり直し、愛人、暴力的な描写、死産、シリアス、の要素があります。
ヒーローについて……読者様からの感想を見ていただくと分かる通り、完璧なヒーローをお求めの方にはかなりヤキモキさせてしまうと思います。
どこか人間味があって、空回りしたり、過ちも犯す、そんなヒーローを支えていく不憫で健気なヒロインを応援していただければ、作者としては嬉しい限りです。
必ずヒロインにとってハッピーエンドになるよう書き切る予定ですので、宜しければどうか最後までお付き合いくださいませ。
【完結】転生したらモブ顔の癖にと隠語で罵られていたので婚約破棄します。
佐倉えび
恋愛
義妹と婚約者の浮気現場を見てしまい、そのショックから前世を思い出したニコル。
そのおかげで婚約者がやたらと口にする『モブ顔』という言葉の意味を理解した。
平凡な、どこにでもいる、印象に残らない、その他大勢の顔で、フェリクス様のお目汚しとなったこと、心よりお詫び申し上げますわ――
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
悪役令嬢に仕立てあげられて婚約破棄の上に処刑までされて破滅しましたが、時間を巻き戻してやり直し、逆転します。
しろいるか
恋愛
王子との許婚で、幸せを約束されていたセシル。だが、没落した貴族の娘で、侍女として引き取ったシェリーの魔の手により悪役令嬢にさせられ、婚約破棄された上に処刑までされてしまう。悲しみと悔しさの中、セシルは自分自身の行いによって救ってきた魂の結晶、天使によって助け出され、時間を巻き戻してもらう。
次々に襲い掛かるシェリーの策略を切り抜け、セシルは自分の幸せを掴んでいく。そして憎しみに囚われたシェリーは……。
破滅させられた不幸な少女のやり直し短編ストーリー。人を呪わば穴二つ。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる