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35話 見透かす瞳
しおりを挟むジャスタ皇子の金色の瞳に柔らかに見つめられて、思わずドキッとする。
この瞳は何だか全てを見通されているような、そんな錯覚を起こさせる。
「はい、喜んで 」
ジャスタ皇子と踊る事なんて、この機会を逃したら無いだろうし、せっかくお誘い頂いたのだから一度くらい踊っておいてもいいわよね、そんなことを思いながらジャスタ皇子の手を取った。
ジャスタ皇子は見かけによらず繊細な踊りをする人だった。
見た目も性格も豪快そうなのに、意外だわ。
私の動きに合わせてくれてとても踊りやすい。
「エリシアは本当にレオンハルトを好きなのか? 」
踊りながらジャスタ皇子が問いかける。
「な、何故ですか? 」
突然の質問に思わずたじろいでしまう。
「なんかよく分からないなと思ったから聞いてみた 」
「何がですか? 」
「んー・・・・・・ナイショ 」
ジャスタ皇子が質問をしたのに、私が問い返すと、少し考えてから、おちゃめに笑いながらナイショだと言う。意味がわからない。
王子様って皆こんなに自由なのかしら、もう、振り回されるのはレオンハルト様で慣れたけどね。
「そうですか、でも、私はレオンハルト様が好きですよ 」
とりあえずそういう設定なので好きだと言っておかないとね。
「そっか、じゃあ、俺が入る隙間はないのか? 」
ジャスタ皇子は見透かすように私を見つめながら問いかける。
私には本当にレオンハルト様が好きで好きで仕方がないと言うような気持ちは無いので、そんな目で見られると、つい目を逸らしてしまう。
「ふっ・・・俺にもエリシアの心の中に入る隙間はありそうだな 」
「な、ありませんよ! 」
ジャスタ皇子に私の心を見透かされている。そんな気がしてつい焦ってしまう。
「くくっ、エリシアは面白いな、ますます気に入った 」
そう言って腰に添えていた手に力を入れてぐっと引き寄せられた。
身体が密着して恥ずかしい。
「ジ、ジャスタ殿下? 」
「ジャスタでいい、曲が変わった。ゆっくり、恋人のように踊ろう、俺の事をもっと知ってくれ 」
ジャスタ皇子に耳元で囁くように言われて動揺しない人なんていない。
私の耳が熱を持つのがわかる。
って言うか、二曲目? 二曲続けて踊るのはまずいわ!
「あ、あの、曲が変わったので他の方と踊られては如何ですか? 」
「俺は今日一日エリシアと踊ると決めた 」
決めたって、何自信満々に言ってるの、私はそんな事決めてません!
「私はレオンハルト様が居ますので続けて二度は踊れませんわ 」
「そんな些細な事、気にするな 」
「私は気にしますよ!」
婚約者のいる身で続けて二度踊るのは婚約者を愛していないと捉えられる。
どうしよう・・・レオンハルト様はどうしてるかしら。そう思って辺りを見回したけど、見当たらない。あれ? どこへ行ったのかしら、何処かで誰かと踊ってるのかしら? 後で知ったら絶対怒るわよね、早く離れないと、と思ってもガッチリ押さえられているのでジャスタ皇子の腕から抜け出せない。
せめてもの抵抗に足を止めてジャスタ皇子を見上げる。
「ん? 止まって抱き合ってたいのか? それもいいな 」
「違います! 」
ますます強く抱きしめようとするジャスタ皇子、何故人の言うことを聞いてくれないのか、王子という生き物は。
「なぁ、本当にレオンハルトなんか辞めて俺の所に来ないか? 」
不意に、ジャスタ皇子が真剣な表情で私を見つめる。
なんの気まぐれなのか、何を気にいられたのか、ジャスタ皇子は今、私に興味を持ってくれている。だけど、私はレオンハルト様の婚約者。(という設定)
「そのような冗談、女性に言わないでください 」
本当に、心が掻き乱されるから辞めて欲しい。
「俺はお前に不安な顔はさせないぞ 」
そう言われてちょっとびっくりする。
え? 私そんな表情してたのかしら。不安な顔? 私は何を不安になっていたというの?
「いい加減、エリシアを解放して貰えませんか? 」
突然、私の後ろから声がして、レオンハルト様の声だとわかる。
このままジャスタ皇子のそばに居ると、本当の事を話してしまいそうで怖くなっていた所に聞こえた声にほっと安心する。
レオンハルト様だ、何処に行ってたの?
「レオンハルト、俺はエリシアが気に入った。俺が貰ってもいいか? 」
突然現れたレオンハルト様に、ジャスタ皇子は堂々と宣言する。
「ダメに決まってるだろ、いい加減エリシアから離れろ 」
低い声で、私のすぐ後ろから声が聞こえる。
え? 私は今ジャスタ皇子に抱きしめられてるけど、真後ろにレオンハルト様が居るの?
イケメンに挟まれてる??
って言うか、状況を想像して嬉しく・・・じゃなくて、パニックになってたけど、今レオンハルト様素の声だったわよ? 猫は? どうしたの? 忘れてきたの?
「あはは、とうとう素を出したな、俺はそのレオンハルトの方が好きだぞ、今日はレオンハルトの素が見れたから離してやるよ、エリシア、また会おうな! 」
そう言うと、ジャスタ皇子は満足そうに私から離れていった。
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