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26話 乱れる心

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「あの、通していただけますか? 」

突然道を塞がれてしまったので、通してもらえるようお願いする。

「うお! めちゃくちゃ美人じゃん! 」
「ラッキー、お嬢さん、ちょっと俺たちと来てよ 」

「は? いえ、急いでいますので 」

何この人達、ナンパ? 鉱山の人達なのか、身体が大きくて少し怖い。

「そんなこと言わずにさ、ちょっと付いてきてよ 」

一人がそう言って私の腕を掴む。

「ちょっ、離してください 」

嫌だ、怖い!

そう思った瞬間、私を掴んでいた男の腕が離れる。

「痛っ、なんだてめぇ! 」

見ると、男は誰かに腕をひねり揚げられていた。

「お前らこそ何してるんだ? 」

私の腕を掴んだ男の腕を捻りあげて私の前に立ちはだかったのはヨシュア様だった。

「ヨシュア様! 」

めちゃくちゃ不安だった所に現れたヨシュア様の姿に安心したけれど、相手は強そうな三人、大丈夫かしら。

「なんだ? お前にゃ関係ないだろ! 」

「ある、俺はこのお方の護衛だ。このお方を守る義務がある 」

え? 護衛? ヨシュア様が? なんの事を言ってるのかしら?

「ちっ、大人しく渡しやがれ! 」

そう言うと男達は一斉にヨシュア様に向かってくる。

「きゃっ! 」

私はヨシュア様の後ろで怖くて目を閉じてしまった。
ヨシュア様一人では負けてしまうわ、私はどうすればいい? 今のうちに逃げる? ヨシュア様を置いて逃げるなんて有り得ない! 一瞬でそんな事を考えて目を開けると、目の前で男が投げ飛ばされていた。続けて2人目のお腹に蹴りを入れて吹き飛ばしたあと、最後の一人のパンチを避けてその腕を取るとまた投げ飛ばす。

「え? 」

ヨシュア様、めちゃくちゃ強い。
その後ももう一度掛かってくる三人を相手に渡り合っている。

「なんだ、こんな強いボディーガードが居るなんて聞いてねえぞ! 」

しばらくボコボコにされた後、そう言うと三人は悔しそうに逃げていく。

「ちょっと待て! 聞いてないってどういう事だ! 」

ヨシュア様は追いかけようとして、私が居ることを思い出して足を止めた。
そして、私の方を振り向いた時には笑顔を浮かべていた。

「エリシア様、大丈夫ですか? 」

「ヨシュア様、ありがとうございます。ヨシュア様こそ、お怪我はございませんか? 」

ヨシュア様が来てくれたお陰で私は無事だった。もし来てくれなかったら私は何処かに連れていかれてたかもしれない。

「俺は大丈夫です。エリシア様は優しいですね 」

そう言ってまたにっこり笑うヨシュア様。
その笑顔に心からほっと安心する。

「ヨシュア様が来てくれましたので助かりました。どうしてこちらに? 」

なぜこんな所にいたのか分からないけれど、本当に助かった。

「レオンハルト様よりエリシア様にお付してお守りするよう申し付けられていましたので、失礼ですが陰ながらお付させて頂いておりました 」

「え? レオンハルト様が? 」

「はい 」

そうなんだ、知らなかった。

「ずっと付いていてくださったのですか? 知らなくて申し訳ございません 」

ヨシュア様がずっと私の近くにいてくださったなんて、気が付かなかった。

「ディアルド王国に入ってからは少し離れた所からお守りさせていただいていました。レオンハルト様から私がお守りしていることは話すなと言われていましたので、知らなくて当然です 」

「何故ですか? 」

「戻りながらお話しましょう 」

そう言われて、みんなの所から離れてから随分時間が経っている事を思い出した。

「ええ、ごめんなさい、そうね 」

歩きながらヨシュア様の横に並んで話す。

「俺がお守りしているのをエリシア様が知ったら気を使われるだろうから言うなとレオンハルト様が仰っていましたので、お話していませんでした。これからも陰ながらお守りさせて頂きますのでご安心ください 」

レオンハルト様がそんな事をしていたなんて、結構私に気を使ってくれてる?
ちょっと見直したかもしれない。

馬車の前まで戻ると、レオンハルト様が入口で待っていた。

「遅かったじゃないか、何かあったのかい? 」

「申し訳ございません。少し道に迷ってしまいまして 」

ここは他の方々の目もある。私が襲われたなんて言うべきじゃないわね、そう思って笑顔で謝った。

「それなら良かった、エリシアの帰りが遅いので心配したよ 」

レオンハルト様はそう言って、ふわりと私を抱きしめた。

「レオンハルト様、本当に申し訳ございません 」

私はもう一度謝ってレオンハルト様から離れると、待っていただいていた他の方々に頭を下げた。

「お待たせしてしまい申し訳ございませんでした 」

「いや、いいんだよ、では出発しようか 」

シュナイダー国王様の言葉で、馬車は次の目的地に向けて出発する。

私は席に着いてから、自分の乱れた心と戦っていた。

さっき、レオンハルト様に抱きしめられた瞬間、泣きそうになった。あれは何? 
ほっとしたから? レオンハルト様に? レオンハルト様は油断出来ない人だと思っているのに、ほっとしたのは何故? 





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