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23話 私の心臓持ちません

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「え? ちょっと、レオンハルト様? 」

慌てる私を自室に引っ張りこんでパタリと扉が閉まる。
レオンハルト様、また酔った勢いでおかしくなってる? どうしよう、レオンハルト様の腕の中から抜け出せない。

ジタバタともがいていると、ククッと笑う声が聞こえて、レオンハルト様を見上げると腕を弛めて開放された。
・・・ひょっとしてまたからかわれた?

「もう! なんなんですか? こんな所でまで演技して! 」

演技以外でそういう事は本当にやめて欲しい。いくら私でも心臓が持たないわ。

「ごめん、外で俺たちをつけてるやつが居たから演技を続けた 」

「え? 付けてた? 」

なにそれ、監視されてたの?

「まあ、いつもの事だ、気にするな 」

気にするなと言われれば気にしないけど、王子様って大変ね。

「じゃあ、戻ります。おやすみなさい 」

ちょっと酔って色気のあるレオンハルト様と一緒にいたら体に悪い。早く戻ろう。そう思ったのに、また手を掴まれる。

「今度はなんですか? 」

ちょっと怒り気味に振り返ると、レオンハルト様は私を見下ろす。

「今夜はここに泊まっていけ 」

「・・・え? 」

さっき頭を掻き分けたのか、乱れた黒髪の間から見えるサファイアブルーの瞳が熱を帯びたように煌めく。
その瞳に魅入られそうになった瞬間、レオンハルト様は掴んでいた手を引っ張って隣の寝室の前まで来てドアを開けた。
私の心臓が爆発寸前になった所で、レオンハルト様は私を部屋の中に押し込んでから掴んでいた手を離して背を向ける。

「恋人同士の設定だからな、今日はここで寝ろ。俺はあっちのソファーで寝る 」

着ていたジャケットを脱いで襟を弛めながら応接室へと戻るレオンハルト様。
何が起こったのか分からないで立ちすくむ私に、ドアを閉める間際、振り向いて笑いかける。

「一緒に寝て欲しかったらそっちに行くけど? 」

「なっ、そんなわけないでしょ! 」

叫ぶ私をクスクスと笑いながら、レオンハルト様はドアをゆっくりと閉める。

「おやすみ 」

パタンとドアが閉まった後で私もつぶやく。

「おやすみなさい 」


落ち着け、心臓の音静まれ! 私今どんな顔してる?
体全体に熱が上がったような感覚、きっと真っ赤だわ。からかわれてるだけなのに、レオンハルト様の言葉はいちいち私の心に突き刺さる。本当に心臓に悪いわ。自分がどれだけいい声と顔を持っているのか理解してるのかしら、いいえ、きっと理解していて私をからかって反応を見て遊んでいるんだわ!

それにしても、私が寝室を占領してしまっていいのかしら、殿下をソファーで寝かせるなんて、してはいけないわよね。
心が少し落ち着いたところで冷静に考える。
やっぱり変わった方がいいわね。

私は居間へのドアをノックして扉をそっと開けた。

「レオンハルト様 」

「ん? どうした? 」

またからかわれるかと思ったけれど、意外と普通な反応が帰ってくる。
レオンハルト様は既にソファーに体を投げ出してくつろいでいるけれど、長い足がどう見ても収まってない。
それだと疲れが取れないじゃない。

「私がソファーで寝ますから、レオンハルト様はベッドでお休み下さい 」

「俺はここでいい 」

気だるそうにこっちを見ないまま答える。

「でも、殿下をそのような場所で休ませるわけにはいきません 」

どう見ても私がベッドで殿下がソファーっておかしいでしょ!

「いいから、お前はちゃんと休め 」

「でも・・・私の方が身体が小さいのでソファーで十分です 」

「俺がここでいいって言ってんだからいいんだよ 」

レオンハルト様は少しイラッとした様子で私を見る。

「それとも、押し倒して欲しいのか? 」

な、何を言ってるのこの人は! 少し体を起こすレオンハルト様を見て、慌てて扉の影に隠れた。

「いえ! 結構です! 」

「なら素直にそっちで寝ろ 」

レオンハルト様はそう言うと、またソファーに体を深く沈めて向こうを向いてしまった。

「すみません、おやすみなさい 」

私はこれ以上言っても怒らせるだけだと思ったので、引き下がってベッドで眠ることにした。


ベッドに入ってからも隣にレオンハルト様がいるのだと思うとなかなか寝付けなかった。
旅の間ずっと同じ宿で寝てたのに、この落ち着きの無い気持ちは何?
レオンハルト様のいる部屋を隔てる扉に鍵がないから落ち着かないんだわ、きっと。
レオンハルト様はあんな感じだけど、道中もちゃんと紳士だったんだから大丈夫よ。
からかうだけで本当に私に興味がある感じでは無いもの。
第三王子の結婚式は明後日、明日もスケジュールが詰まってるから早く寝なくちゃ。




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