上 下
17 / 71

17話 騎士のヨシュア様

しおりを挟む



ええ? 
今なんて言った?

「俺にもチャンスはあるって事ですよね? 」

突然の事に驚いていると、もう一度確認のように爽やかな笑顔で聞かれる。

「あ、えっと・・・申し訳ございません、私は騎士様のことを何も知りません  」

私は出来るだけ目立たないように生きてきたので、あまりこういった経験がない。こういう時、なんて答えればいいのか分からない。

「申し遅れました。私はヨシュア・ミゲルです。道中何かあれば是非頼ってくださいね 」

爽やかな笑顔で自己紹介をするヨシュア様。
・・・・・・え? ヨシュア? 騎士の? 
しまった! 面倒事の種に自分から近づいてしまった!

「ヨシュア様ですね、よろしくお願いいたします。では、私はこれで失礼致します 」

「危ないからお送りしますよ 」

納屋から出ながらヨシュア様が申し出てくれるけど、私は出来ればこれ以上関わりたくない。しかも何故か私に興味を持たれた様子。

「いえ、すぐですから大丈夫ですわ。お仕事のお邪魔をしてすみませんでした 」

私は会釈をすると、そそくさとその場を後にしようとしたけれど、気が付くとヨシュア様が隣に並んで歩いていた。

「レディを夜一人で歩かせる訳には行きません。送らせてください 」

さすがに騎士様、動きが素早い。なんて感心してる場合じゃない。
ヨシュア様はゲームの中で私に好意を持ってくれていた人。でも、「私、悪役令嬢にはなりません!」の中ではクリスティーナ様に強力して私を陥れる人なのよ!
人好きのする素敵な笑顔に騙されちゃいそうだけど、この人は敵に回してはいけない人だわ。

「申し訳ございません、ではお願いします 」

怒らせないように素直に従ったけれど、これって仲良くなるべき? でも、好意を寄せられても私には全然その気が無いんだけど、どうしたらいいかしら・・・

「エリシア様はジルフレア殿の妹ぎみなんですね 」

「ええ、そうです。兄をご存じですか? 」

まぁ、お兄様はレオンハルト様ともつるんでるし、有名人っぽいので知っててもおかしくないわよね。

「はい、彼の知識の多さにはいつも驚かされることばかりで、レオンハルト様の心もしっかり掴んでいらっしゃるようですし、近い将来国を背負って経つ一人になられる事は間違いないでしょう 」

身内の事をそこまで褒めてくれるのは嬉しい半面、なんだか恥ずかしい。

「そんなに兄の事を褒めていただけるなんて恐縮ですわ、ありがとうございます 」

照れつつもにっこり笑って返すと、ヨシュア様もにっこり笑う。

「貴方はジルフレア殿によく似ていらっしゃる 」

「まぁ、そうですか? 私も兄の事は大好きなのでそう言って頂けると嬉しいです 」

確かに、私と兄はよく似ていると言われる。
けれど私には兄の様な艶やかさも華やかさもない。目立たないように生きてきたので特に華やかになろうとも思わないけど、兄の事をよく思っていただけているのは純粋に嬉しい。

「エリシア様のそばに居るのがジルフレア殿やレオンハルト様だと、私は見劣りしてしまいますね 」

苦笑いで私を見るヨシュア様は、確かに兄と比べるとそうなのかもしれないけれど、十分モテそうな顔をしている。

「そんな事ないですわ、ヨシュア様も素敵です 」

「そう? エリシア様に言っていただけると嬉しいな 」

私の言葉に満面の笑みで答えてくれるヨシュア様はなんだか可愛らしいと思ってしまう。
確か設定ではヨシュア様は21歳のはず。
大人の男性に可愛らしいなんて言ったらショックを受けるかもしれないから黙っておこう。

たわい無い話をしているとあっという間に部屋の前まで来てしまった。

「わざわざ送って頂いてありがとうございました 」

「これくらい何時でもご一緒致します。ゆっくりお休みください 」

「ありがとうございます。おやすみなさい 」

ヨシュア様を見送って部屋に入ると、ほっと一息つく。
ヨシュア様の対応はこれでよかったのかしら・・・まあ、出会ってしまったのだから今更どうしようもないし、前向きに行こう。
本は明日になればレオンハルト様が持ってるか確認すればいいか、また同じ馬車の中で一日過ごすわけだしね。
私は着替えを済ませるとベッドに入った。
だけどしばらく寝付けなくて、布団の中でゴロゴロしているうちにまどろみの中へ落ちて行った。

眠っていた時間がほんの数分だったのか、数時間だったのかわかないけれど、不意に廊下を歩く足音に気が付いて意識が戻る。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

完結 愛人と名乗る女がいる

音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、夫の恋人を名乗る女がやってきて……

【完結】気づいたら異世界に転生。読んでいた小説の脇役令嬢に。原作通りの人生は歩まないと決めたら隣国の王子様に愛されました

hikari
恋愛
気がついたら自分は異世界に転生していた事に気づく。 そこは以前読んだことのある異世界小説の中だった……。転生をしたのは『山紫水明の中庭』の脇役令嬢のアレクサンドラ。アレクサンドラはしつこくつきまとってくる迷惑平民男、チャールズに根負けして結婚してしまう。 「そんな人生は嫌だ!」という事で、宿命を変えてしまう。アレクサンドラには物語上でも片思いしていた相手がいた。 王太子の浮気で婚約破棄。ここまでは原作通り。 ところが、アレクサンドラは本来の物語に無い登場人物から言い寄られる。しかも、その人物の正体は実は隣国の王子だった……。 チャールズと仕向けようとした、王太子を奪ったディアドラとヒロインとヒロインの恋人の3人が最後に仲違い。 きわめつけは王太子がギャンブルをやっている事が発覚し王太子は国外追放にあう。 ※ざまぁの回には★印があります。

【完】チェンジリングなヒロインゲーム ~よくある悪役令嬢に転生したお話~

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
私は気がついてしまった……。ここがとある乙女ゲームの世界に似ていて、私がヒロインとライバル的な立場の侯爵令嬢だったことに。その上、ヒロインと取り違えられていたことが判明し、最終的には侯爵家を放逐されて元の家に戻される。但し、ヒロインの家は商業ギルドの元締めで新興であるけど大富豪なので、とりあえず私としては目指せ、放逐エンド! ……貴族より成金うはうはエンドだもんね。 (他サイトにも掲載しております。表示素材は忠藤いずる:三日月アルペジオ様より)  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

【完結】異世界で婚約者生活!冷徹王子の婚約者に入れ替わり人生をお願いされました

樹結理(きゆり)
恋愛
ある時目覚めたら真っ白な空間にお姫様みたいな少女と二人きりだった。彼女は冷徹王子と呼ばれる第一王子の婚約者。ずっと我慢してたけど私は婚約したくない!違う人生を歩みたい!どうか、私と人生交換して!と懇願されてしまった。 私の人生も大したことないけど良いの?今の生活に未練がある訳でもないけど、でもなぁ、と渋っていたら泣いて頼まれて断るに断れない。仕方ないなぁ、少しだけね、と人生交換することに! 見知らぬ国で魔術とか魔獣とか、これって異世界!?早まった!? お嬢様と入れ替わり婚約者生活!こうなったら好きなことやってやろうじゃないの! あちこち好きなことやってると、何故か周りのイケメンたちに絡まれる!さらには普段見向きもしなかった冷徹王子まで!? 果たしてバレずに婚約者として過ごせるのか!?元の世界に戻るのはいつ!? 異世界婚約者生活が始まります! ※2024.10 改稿中。 ◎こちらの作品は小説家になろう・カクヨムでも投稿しています

転生したら断罪イベが終わっていたので、楽しい奴隷ライフを目指します!

架月はるか
恋愛
久我真奈美は、現代日本に生きる平々凡々な事務員だった。 だったはずなのに、目を覚ましたら大好きだった乙女ゲーム『君とラストダンスを』の、悪役令嬢であるマルガリータになっていた。 その上、そのタイミングは既にゲーム内の断罪イベントまで終わった後の、まさに奴隷としてオークションにかけられる直前。 マルガリータの中に、真奈美の記憶が突然戻ってきた感覚。「もしかして、死んでしまった?」「これってまさか転生?」と考える暇もなく、真奈美ことマルガリータは奴隷として黒仮面の男に買われてしまう。 混乱の中、奴隷紋を刻印され黒仮面の男の屋敷へと連れて行かれるマルガリータ。 これからは、最底辺の奴隷として働かされる日々が待っている。そう覚悟していたのに、何故か屋敷の使用人達の態度は好意的だ。 事情がよくわからないまま、知らない屋敷で生活することになったマルガリータ。 ゲームの時間軸は終わってしまっているから、真奈美の記憶はあまり役に立ちそうにない。転生タイミング、酷くない? でもせっかく大好きな世界に転生したのなら、奴隷ライフ楽しんでやろうじゃないの! 断罪イベント後の悪役令嬢が、幸せになるまでの物語。 奴隷として扱われるシーンはほとんどありません。 最後までお付き合い下さると嬉しいです。 お気に入り・感想等頂けましたら、励みになります。 よろしくお願い致します。

処理中です...