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8話 釣られてしまいました

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「え?」

お兄様は今なんと仰ったの?

「王立図書館の閲覧禁止区域の許可書なんだけど、要らない? エリシア見たがってたよね 」

「お兄様・・・なんて卑怯な・・・もちろん喉から手が出るほど欲しいですわ。でも、それを受け取る条件はもちろんパーティーへの出席なのよね? 」

封書を恨めしそうに見つめる私を、お兄様は獲物を捉えたとでも言いたげな得意気な表情で見下ろす。

「もちろん 」

くっ・・・王立図書館には何度も足を運んでいるけれど、国の成り立ち以前の話や重要な書籍なんかが納められている閲覧禁止区間に一般人が立ち入ることは出来ない。
出来るのは王族と、王族から許可を得た者のみが許される。
読書しか娯楽のないこの世界で、本は私の宝。一般人には一生読む事が許されないそれを見ることが出来る機会なんて、この先まず訪れることは無いだろう。

自分の運命と本への欲求、どちらを優先すべきかなんて簡単な答え、分かりきってる。だけどあの区間に入れる・・・

「・・・わかりました。今回だけお受けします 」

ああ、私は馬鹿だわ、欲求に勝てない。

「良かった、そう言ってくれて嬉しいよ、当日はエスコートさせてね 」

お兄様がいつものニコニコ笑顔に戻って微笑む。最初からこうなることを読んでいたようで、なんだかその笑顔が憎らしいわね・・・

「では、下さいませ 」

私は封書を受け取ろうと両手をお兄様に差し出しす。

「ダメだよ、これはパーティーが終わるまで渡さないように言われてるんだから 」

くっ・・・あの王子、抜かりないわね・・・先に閲覧して、当日は仮病でも使えばいいかとちょっと思っていたのに・・・

「行くと決まれば衣装を用意しなくてはね、新しいのを仕立てよう、明日仕立て屋を呼ぶからエリシアも一緒に見立ててもらおうね 」

恨めしそうに封書を見つめる私を他所に、お兄様はとても楽しそうに会話を続ける。
本当なら、素敵なお兄様のエスコートでパーティーに行けるなんて、喜びたいところなんだけど、素直に喜べないのよね・・・いつ何処でクリスティーナ様がお兄様と関わるか分からないと思うと、気が抜けない。
まぁ、でも家の中では関係ないか、

「お兄様、ドレスを作るなら私はあまり派手で無いものがいいわ 」

気を取り直してお兄様の腕に腕をからませながら甘えた声で話しかける。

「エリシアは美人だから派手なドレスでも似合うと思うけど、目立ちたくないんだろ? 」

「ええ、そうですわ 」

当然と言わんばかりの澄ました表情に、お兄様はくすくすと笑う。

「分かったよ、私もエリシアに合わせた大人しめの衣装にしよう 」

「お兄様は何を着ていても目立ちますけどね 」

澄ました私のツッコミに、お兄様は苦笑いで答えるのだった。



王立図書館に行ける事だけを楽しみに、まだかまだかと指折り数え、やっとパーティー当日になった。

「エリシアは何を着ていても美しいね 」

「お兄様の前では霞んでしまいますわ 」

着飾った私を褒めてくれるのは嬉しいけど、私はお兄様の引き立て役で十分。それ以上は目立ちたく無いのよ。

「それにしても、レオンハルト様はお兄様に私の欲しがっているものまで聞いて何故私を参加させたがったのかしら・・・」

会場へ向かう馬車の中で、独り言のようにつぶやく。

「私は何も教えてないよ? 」

私の独り言に、お兄様は答える。

「え? お兄様が私が閲覧禁止区域に行きたがってるのを教えたんじゃないの? 」

「教えてないけど? 」

どういう事? じゃあ、何故私が欲しがってる物がわかったの?
何故か分からないけど、わざわざ餌で釣ってまで私を呼びたかったのだろうか? 何故? とりあえず嫌な予感しかしないわね・・・

今日の会場はお城の中にあるホール。お城が近付いて来ると何だか胃のあたりが痛くなる。
やっぱり、来るって言わなきゃ良かったかしら・・・
今更後悔しても仕方ないんだけど、とりあえず、物語の登場人物には極力関わらず、壁際族になるのよ! 

硬い決意をするエリシアを正面の席から暖かい目で見守るジルフレアだったーーー



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