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1話 え? 始まりはいりません。
しおりを挟む出会ってしまった・・・
私の名前はエリシア・ドロウシス、子爵家の娘に生まれ、何不自由なく育ちました。
・・・と言うのは嘘です。
この世界は不便すぎます! まずスマホが無い! テレビがない! 大好きなマンガや恋愛小説がない! こんな世界で何をして生きろというのか・・・
そう、私はどうやら転生者なのです。
それも、私の読んでいた小説「私、悪役令嬢にはなりません!」って言う物語りの中なのです。
あ、私の位置付けですか? モブならどれほど良かったか・・・どうやら私は悪役令嬢を虐める自分こそが主人公だと思っている可哀想な子なのです。
小説の内容は、小説の中にヒロインが悪役令嬢に虐められて、結果悪役令嬢は王子様のお怒りを買って、婚約破棄されてしまうというゲームがあって、悪役令嬢はそのお話の自分こそが悪役令嬢だと気が付き、悪役令嬢にならないよう努力して、見事王子様と結ばれる物語。
そう、物語りの中のゲームでは私がモテまくり、それをやっ噛むのが悪役令嬢であるクリスティーナ様、でも、ここは悪役令嬢になる自分を知っているクリスティーナ様の世界。
断罪されることを知っているクリスティーナ様は私を虐めるなんてことはしないので、私はただの脇役に過ぎない。それどころか、下手すれば私が断罪される立場。なので大人しく生きていればよかった。念の為、危険な事には関わりたくなかったので、ゲーム内で王子様その他の私に言い寄ってくる人達とは関わらないように生きてきた。
そう、16歳の誕生日の今日まで、なのに、なんで出会ってしまうの・・・
「ごめんね、大丈夫? 」
柔らかな、耳をくすぐる綺麗な声で話しかけて来たのは我が国の第二王子のレオンハルト・ルデ・アイスバーグ様。
彼はつやつやと揺らめく黒髪に、深く青いサファイアのようにキラキラと輝く瞳で、私を見つめる。
物語りの通り、いえ、物語りでイメージしていた以上のイケメンです。
目立ちたくはないけど、目の保養になるので、遠くから何度か眺めていたことはあったけれど、まさか接触してしまうなんて、てか、なぜ貴方がここに居るんですか?
ここは私の家です。
ホントにささやかな、私の誕生日パーティーのはずだったのですが、何故か王子様が現れたのよ! 焦った私は王子様の目に触れないよう、そっと遠回りして後ろに回って、今王子様が背にしている扉からホールを出ようとしたのに、そこでなぜ突然振り向くのですか?
びっくりして思わず扉にぶつかっちゃったじゃない!
「いえ、私が勝手にぶつかっただけですので、お気遣いなく 」
私は下を向いたまま今ぶつけた鼻を抑えて答える。令嬢としては恥ずかしい事この上ない状況なのだけど・・・
手で顔を隠してたら顔見られなくて済むわね!
「いや、どう見ても私にびっくりしたように見えたけど、驚かせちゃってごめんね、顔大丈夫? 」
ああ、私この声好きだわ、声に惚れちゃう。しかも自分が直接関わって怪我をさせたわけじゃないのに、優しい言葉、さすが人間できてる! ってダメダメ、惚れちゃ泥沼が見えてる。
「はい、お気遣いありがとうございます。大丈夫ですわ 」
両手で鼻を覆いつつ顔を隠したまま、レオンハルト様を見ないようにお礼を言う。
このまま早く部屋から出てレオンハルト様から離れたい。そう思いつつ、どうやって出ようか考えていると、レオンハルト様の隣でククッと笑いを堪える声がする。
「エリシア、ホントに大丈夫か? 今日はエリシアを驚かせてやろうと思ってレオンハルト様に来ていただいたんだけど、とんだ顔合わせになってしまったね 」
そう言って苦笑いで私を見るのは私の3つ上の兄、ジルフレア兄様だ。
お兄様・・・この最悪なサプライズはお前の仕業か・・・!
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