陛下の溺愛するお嫁様

さらさ

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⑰暗闇(クロード)

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「そこで何をしている?」

「こんな所まで申し訳ございません。どうしても陛下にお会いしたくて・・・私はサバス国王の娘、マティアです。私もこのまま帰るわけには行かないのです。どうか傍に置いてください。」

マティアと名乗った女性は言い終わると、自身に纏ったシーツをハラりと取る。

俺はすぐに後ろを向き、ドアへと向かいながら吐き捨てる。

「お前を置くつもりは無い!早く服を着て出ていけ!」

そう言い終わると外に出てドアをバタンと閉める。

「陛下、どうなさいました?」

外で待てと言われて待っていたライルが尋ねる。

「中に裸の女が居る。俺の部屋に女を入れたのは誰だ!入れた奴を俺の身辺警護から外せ!」

「畏まりました!」

「それと、侍女を連れてきて早くあの女を俺の部屋から連れ出せ!二度と俺の前に姿を見せさせるな!だが、くれぐれも今男は入るなよ!あの女に俺と勘違いされても困る!」

俺の怒りを周りの衛兵はビクビクしながら聞いていたが、そのうちの一人が侍女を呼ぶため駈けて行った。
ムカつく、サバス国王の娘だと?あんなハレンチな奴が?勝手にズケズケと人の寝室まで入り込みやがって、恥じらいの欠けらも無い。俺の一番嫌いなタイプだ。

「陛下、このまま女を追い出すのを待たれますか?」

ライルが問いかけてくる。
俺は落ち着く為、フーーーっと深く息を吐き出す。
あんな女が居たと思うと、部屋には戻りたくない。
・・・どうしよう。俺の頭の中にはレイラ嬢の笑顔しかない。・・・離宮の応接室のソファーでも借りるか。

「離宮へ向かう。」

俺の言葉に、ライルも従いついてくる。



「ミカ!こんな夜更けにどうしたの?」

離宮に着くと、レイラ嬢が慌てて迎えてくれた。
もう休んでいたのだろう。部屋着にガウンを羽織った姿だ。

「ちょっと行くところが無くて・・・」

俺は頼りなく笑顔を向けると、ソファーに腰を下ろした。

「何かあったの?」

レイラ嬢が俺の横に座りながら心配そうに顔を覗き込んでくる。
しまった、心配させるようなことを言ってしまった。

「ちょっと疲れてるだけだよ。」

俺は取り繕って笑って見せた。

「昨日も今日も、こちらに来る暇がないほど忙しかったんでしょ?無理しすぎよ。」

「国の建て直しに手間が掛かっていてね、国民の安全な生活の為にも早くやらなければいけなくて。」

「早くお父様を呼ぶことは出来ないの?」

レイラ嬢の父上は今はイルザンド王国に居るが、レイラ嬢との婚姻後、ルシリア帝国に来てもらうことになっている。
確かに、グレイシス侯爵が来てくれたら俺も少し楽になるだろう。
だけど、レイラ嬢はイルザンド王国から嫁いで来たという設定にしたい。親であるグレイシス侯爵が国内に来ては意味が無い。

「そうだね、俺もグレイシス侯爵には早く来て欲しいな。」

グレイシス侯爵を懐かしく思いながらレイラ嬢を見ると、レイラ嬢は何故かとても不安そうな表情をしていた。

「レイラ嬢、どうした?」
 
俺の問いかけに、しばらく黙って俺を見つめていたが、意を決した様に口を開く。

「・・・今、ミカの所に結婚相手の方がいらっしゃっているの?」

その言葉に、俺の心臓が大きく跳ねる。

「結婚相手?どういう事だ?」

「昨日、離宮の門のところで衛兵の方と揉めているご令嬢方がいたの。聞くと、陛下の結婚相手としてやって来たので、わたくしに挨拶をしに来たと仰ったわ。」

あいつら!こんな所まで入り込んだのか!いったいここの警備はどうなっている!

「それでレイラ嬢はどうしたんだ?」

「シド様が追い返してくださったのだけど、ご挨拶するべきだったわよね・・・」

不安そうな、戸惑いを隠した笑顔に俺はレイラ嬢を抱き寄せる。 

俺はレイラ嬢にこんな顔をさせない為に頑張っていたのに・・・結局不安にさせてしまった。

「俺が結婚したいのは、愛しているのはレイラ嬢ただ一人だ。」

レイラ嬢は俺の言葉に、首を横に振って答える。

「シド様に聞いたわ。わたくし何も知らなくてごめんなさい。ミカは七人の奥様を貰わないといけないんでしょ?」

「それは断っている。俺はレイラ嬢一人しか妻にしない。」

「うん、それもシド様が教えてくれたわ。そのためにミカが頑張ってくれてるって、ミカは無理しなくていいのよ?わたくしは大丈夫だから。」

その言葉はレイラ嬢の強がりだと俺には分かる。
7年間ずっと傍でレイラ嬢の事を見ていた俺を舐めないで欲しい。

「レイラ嬢に心配させない為に隠していたけど、こんな事なら隠さずちゃんと話しておけば良かった。不安な思いをさせてすまない。」

本当に、余計な心配と不安を与えてしまった。
この二日間俺が来ない事をどういう風に受け止めていたのか・・・不安だっただろうに。

俺はレイラ嬢をぎゅっと抱きしめた。
レイラ嬢も俺の背中に手を回して抱きしめてくれる。
その温かさに、ほっとした瞬間、目の前が真っ暗になって、俺は意識を失った。






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