上 下
52 / 88

52話 同行者

しおりを挟む



ふと目が覚めると、外が薄らと明るくなり始めた頃だった。

僕・・・自分のベッドで寝てる。
クラウス様が運んでくれたのかな?

久しぶりにぐっすり眠れて、頭がスッキリした気がする。
だけど、ギルはもう居ないんだ・・・
ギルの寝ていたベッドの方を見ると、ギルのベッドに人が寝て居る。

ギル?!

僕は慌ててベッドを降りてギルのベッドに走った。
そして、近づいて足が止まる。
ギルな訳が無い・・・

ギルのグリーンの髪じゃない。
栗色の髪、クラウス様だ。

ずっと僕の心配をしてくれて、クラウス様もあまり眠れていなかったはずだ。
クラウス様に気を使わせてばかりで、負担をかけていた。
深い寝息を立てて眠るクラウス様に「ありがとう」と呟く。

クラウス様を起こさないように、僕はシャワーを浴びて着替えを済ませると、自分のベッドに座って明けゆく空をぼんやりと眺めていた。


「ん・・・クリス・・・起きていたのか? 」

クラウス様が目を覚まして僕を見る。

「はい、クラウス様、迷惑をかけて本当にごめんなさい。」

「いや、いいんだ、それより、ギルのベッドを借りてすまなかった。」

「起きた時、ギルがいるのかと思ってびっくりしちゃった。」

僕は起き上がりながら話すクラウス様に、にっこり笑いかける。

「期待をさせてすまなかった。クリスを一人にするのが心配で、ギルのベッドを借りてしまったんだけど・・・クリスのベッドに添い寝の方が良かったか? 」

お茶目に笑うクラウス様に、僕も吹き出して笑ってしまう。

「それはさすがにご遠慮します。」

「あんなにひっついて寝た仲なのに? 」

その言葉に、思わず顔が火照る。

「クラウス様! 変な言い方しないでよ! 」

僕の表情にクスクスと笑うクラウス様、僕は頬を膨らませてクラウス様を見る。

「そんな可愛い顔しなくても、クリスは十分可愛いよ。」

可笑しそうに笑いながら言うクラウス様は、どう見ても僕をからかっている。

「こんな顔が可愛いはずないでしょ! 」

余計に顔をふくれさせながら怒ると、クラウス様は立ち上がって僕のベッドまで歩いてくると、僕の頬に触れる。

「クリスはどんな顔をしていても可愛いよ。」

そして僕を愛おしそうに見つめる。
クラウス様はこんな歯の浮くクセリフが何で言えちゃうんだろう?
王子様だから? 英才教育? 
なんてことを思っていると、クラウス様は僕の頭を撫でる。
そして、僕の隣に腰かけて僕を見た。

「クリス、準備が出来次第、もう一度レティシア探しに出るだろう? 」

その言葉に、僕はクラウス様を見つめて頷いて肯定する。

「その前に、同行者を探さなければならない。それは、君が女性だとバレる可能性を増やすことになるんだけど、大丈夫か? 」

僕の答えは決まっている。
僕が女だってバレたって、ギルを探しに行けるのならそんな事どうでもいい。

「はい、大丈夫です。」

僕の答えを聞いて、クラウス様は一拍置くと、また話し出す。

「実は昨日、君が倒れた後、兄とリオには洞窟の存在と魔族の国につながっている可能性を話した。後、何故そんなところに行ったのか聞かれたので、クリスの姉を探していたと話してある。あの洞窟の存在は誰にでも話せるものじゃない。信頼出来るものでないと、パニックになるので、多くの者を同行させる訳にはいかない。」

そこまで言って、また僕を見つめる。

「今回は洞窟の先がどこにつながっているのかの調査が目的だ。多くの者にこの話ができない以上、同行者は私やクリスと同等の実力者でなければならない。」

その言葉に僕も納得して頷く。

「私も誰に頼むか悩んだ。リオに頼みたいけど、団長が離れるのに副団長リオまで隊を離れるわけにはいかない。」

クラウス様の言うことは最もだ。
王都を守るのが第一と第二騎士団の役目なのに、第二騎士団の指揮者が2人とも抜けるのはまずい。

「・・・・・・私は反対だが、兄上が同行すると言っているんだ。」

クラウス様が言いよどみながら僕を見る。

「え? カルロス様が? 」

いやいや、第二騎士団の指揮者が2人とも抜けるのもまずいけど、第一と第二の団長が2人とも抜けるのもまずいでしょ。
しかも、2人とも王子様だよ?
カルロス様が怖いとか以前に、ダメでしょ。

「兄上には断ったんだけど、なかなか聞いてくれなくてね、確かに、同行者として兄の実力は申し分無いんだけど、クリスを危険な目に合わせられないし、クリスが嫌だろう? 」

うん、嫌だ。
そう思っていると、ドアが鳴った。

僕が返事をして入室を促すと、リオさんがドアを開けて覗き込んで来た。

「おはよう、2人とも起きてる? カルロス様が来てるんだけど、良いかな? 」

リオさんの言葉にドキッとする。
そんな僕に気が付いたのか、クラウス様が僕を片手で抱き寄せてくれる。
クラウス様の胸に押し付けられた耳に、クラウス様の鼓動が聞こえて少し安心する。

「いいよ。」


クラウス様の返事を聞いて、カルロス様が入って来た。




しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

王子様と過ごした90日間。

秋野 林檎 
恋愛
男しか爵位を受け継げないために、侯爵令嬢のロザリーは、男と女の双子ということにして、一人二役をやってどうにか侯爵家を守っていた。18歳になり、騎士団に入隊しなければならなくなった時、憧れていた第二王子付きに任命されたが、だが第二王子は90日後・・隣国の王女と結婚する。 女として、密かに王子に恋をし…。男として、体を張って王子を守るロザリー。 そんなロザリーに王子は惹かれて行くが… 本篇、番外編(結婚までの7日間 Lucian & Rosalie)完結です。

世界を救いし聖女は、聖女を止め、普通の村娘になり、普通の生活をし、普通の恋愛をし、普通に生きていく事を望みます!

光子
恋愛
 私の名前は、リーシャ=ルド=マルリレーナ。  前職 聖女。  国を救った聖女として、王子様と結婚し、優雅なお城で暮らすはずでしたーーーが、 聖女としての役割を果たし終えた今、私は、私自身で生活を送る、普通の生活がしたいと、心より思いました!  だから私はーーー聖女から村娘に転職して、自分の事は自分で出来て、常に傍に付きっ切りでお世話をする人達のいない生活をして、普通に恋愛をして、好きな人と結婚するのを夢見る、普通の女の子に、今日からなります!!!  聖女として身の回りの事を一切せず生きてきた生活能力皆無のリーシャが、器用で優しい生活能力抜群の少年イマルに一途に恋しつつ、優しい村人達に囲まれ、成長していく物語ーー。  

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...