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50話 クラウス様の優しさ
しおりを挟む僕とクラウス様は、5日間ギルと3人で進んできた道を戻った。
日中は一刻も早く戻ることだけを考えて歩く、時々遭遇する魔物を倒すのも、ギルの事を考えなくて済むからいい。
だけど、夜になるとどうしても辛くなる。
2人しか居ないので、どちらかが見張りをしなければならない。
「クリス、辛いならこっちへおいで。」
寝なければと思えば思うほど、眠れない僕に気がついて、クラウス様が声をかけてくれる。
「クラウス様・・・大丈夫です。もう少ししたら変わりますね。」
そういう僕に、クラウス様は近づいて来て隣に座ると、僕を片手で抱き寄せる。
「辛い時は頼って欲しいな。」
クラウス様の優しい言葉に、また涙があふれる。
僕、こんなに泣き虫だっけ?
だけど、つい3日前にギルが背中から抱きしめてくれた感触がまだ残っていて辛い。
今思うと、あの瞬間、とても幸せだった。
暗闇に1人になるのが怖い・・・
「クラウス様、ごめんなさい・・・」
「何故謝る? 」
「僕は、寂しさを紛らわせるのに、クラウス様の優しさを利用してる。」
「それでクリスの気持ちが少しでも休まるなら、いくらでも利用してくれて構わないよ。」
そう言って抱き寄せた手を僕の頭に移して、僕の頭を撫でてくれる。
「それに・・・利用してるのはクリスだけじゃない。」
え? クラウス様の言葉の意味が分からない。
「どういう事? 」
僕がクラウス様を見ると、間近にクラウス様のグリーンの瞳があって、僕を見て微笑む。
「私はクリスの寂しさにつけこもうとしてる悪いヤツだから、気にしなくていい。むしろ利用しなさい。」
クラウス様の言葉に、思わず笑ってしまう。
クラウス様は全然つけ込んでなんかいない。
ずっと、そっと僕に寄り添ってくれているだけだ。
きっとクラウス様は僕の気を紛らわせるためにそう言ってくれたんだ。
「やっと少し笑ってくれた。」
そう言って微笑むクラウス様の笑顔に、優しさに、少しだけ心が解れる。
クラウス様、ありがとう・・・
それからは森を抜けるまで、夜はクラウス様が僕を抱きしめるように肩を抱いて眠ったり、僕がクラウス様の腕の中で寝たりして、僕が寂しさを感じないよう、ずっと寄り添っていてくれた。
行く時は5日掛かった道中を、帰りは帰ることだけをめざして4日で無事戻ってくることが出来た。
森を後にする僕は振り返って遥か彼方を見る。
「ギル・・・クリス・・・必ず助けに行くからね。」
そう呟くと、僕は馬に股がってクラウス様と王都に向かって馬を走らせた。
寮までたどり着いて、馬を降りると、リオさんが僕達の帰りを聞いて駆け付けてきた。
「お帰り、無事帰ってきたか・・・って、ギルは? 」
ギルの姿がないのに気がついて問いかけるリオさん。
馬を繋ぎながら、その言葉に心臓が止まりそうになる。
「よう、長い間居ないと思ったら、2人で旅に出てたのか? 」
そこへカルロス様も何処から聞きつけたのか入って来た。
カルロス様の事は気にしないように無視して、僕は馬を繋ぎ終えて、水をやる。
そしてリオさんの方に向き直ると、出来るだけ明るく微笑んだ。
「ギルは僕を庇って・・・」
ちゃんと言おうとしたのに、そこまで言って言葉が詰まる。
「クリス、無理に言わなくていい。」
そう言って、クラウス様は僕の肩を抱きよせる。
「・・・クラウス様・・・」
僕の目に、また涙が滲む。
僕とクラウス様のその様子に、リオさんとカルロス様は察したのか、驚愕した表情になる。
「僕のせいで・・・ごめんなさい・・・」
みんなに謝りたかった。
ギルを失って悲しむのは僕だけじゃない。
みんな、ギルが好きだった。
僕は頭を下げて謝罪の言葉を口にして、そのまま意識を失ってしまった。
「「クリス?!」」
突然倒れるクリスをクラウスが受け止め、2人が何が起こったのかわからず叫ぶ。
「「どうしたんだ?? 」」
「ずっとちゃんと眠れていなかったんだ。眠らせてやってくれ。」
クラウスはそう言うと、クリスを大事そうに抱いて、部屋まで運んで行った。
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