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47話 僕の覚悟
しおりを挟む「クリス! 良かった、どこに行ったのかと心配したぞ! ギルは? 」
洞窟に戻ると、クラウス様が僕を見て安心したように話しかけてくる。
僕は入口で立ち止まると、俯いたまま立ちすくむ。
「・・・クリス、ずぶ濡れじゃないか、あっちで着替えてきなさい。」
クラウス様は僕の様子がおかしいのを察して優しく背中を押して促す。
僕は何も言わず岩の影で濡れた服を脱いで着替えをした。
「髪もよく拭いておかないと風邪を引くよ。」
着替えてクラウス様の元へ戻ると髪を拭いてくれる。
僕は俯いたままされるがままにしていた。
「・・・で、ギルは? ギルと何かあったのか? 」
僕を覗き込むように伺うクラウス様、「ギル」と言う言葉に反応して顔が赤くなる。
「クラウス様・・・ごめんなさい・・・ギル・・・置いてきちゃった・・・」
俯いたまま話す僕を、クラウス様はそっと抱きしめてくれる。
クラウス様の温もりに、雨に冷やされた体が温もりを取り戻す。
その温もりに、次第に涙が溢れる。
「・・・何があったの? 」
僕はフルフルと首を横に振る。
こんな事、クラウス様に話せない。
「・・・ギルに告白された? 」
クラウス様の言葉に、上を向いてクラウス様を見上げる。
「どうして? 知ってたの? 」
僕の質問に、クラウス様はにっこり微笑む。
クラウス様はギルが僕のことを好きなの知ってたんだ・・・
「・・・ギルに好きだって言われて、キスされて・・・僕どうしていいか分からなくて・・・逃げてきちゃった・・・」
ぽつりぽつりと話す僕の言葉を、クラウス様は黙って聞いていた。
「それで? ギルが怖くなった? 」
怖い? ギルは怖くない。
「キスされて嫌じゃなかった? 」
僕は首を横に振る。
嫌とか思わなかった。
あの時、ギルの優しさを独り占め出来る子が羨ましくなった。
思わず口に出した言葉に、涙が零れたのを気の所為だと思い込もうとしていた。
それが、ギルは僕を好きだって言ってくれて、僕は嬉しかったんだ。
だけど、ギルが好きなのは男の僕だって思ったらどうしていいか分からなくなった。
ギルは僕が女だって知らない。
僕が女だって知ったら嫌われるんじゃないかって怖くなった。
だから逃げてしまった。
「・・・クリスに逃げられて、ギルはきっと失恋したと思ってるよ。」
何も言わなくても僕の気持ちを察したのか、クラウス様が切なそうに僕を見る。
「僕・・・」
僕はどうしたらいいんだろう?
「ギルは僕のこと男だって思ってる。僕はギルに嫌われたくない・・・」
「じゃあ、一生男としてギルと付き合うのか? そんなこと出来ないだろう? クリストファーを見つけることが出来た時、クリスはレティシアに戻らなければならない。ギルを好きならいつか話さなければならないよ。」
クラウス様に言われて、「そうだ」と思う。
男装は僕が始めたことだ。
それにクラウス様もギルも巻き込んだのは僕だ。
クラウス様は知ってるけど、ギルには僕の口から話さなきゃ、クリスを見つけることが出来た時、ギルを混乱させてしまう。
だけど、今すぐに話す勇気が出せない。
いっぱい泣いて、僕の気持ちが落ち着いた頃、ギルが戻ってきた。
「勝手な行動をしてすみません。」
クラウス様に謝るギルは全身ずぶ濡れで、長い間雨の中に居たのだと分かった。
その姿に胸が痛くなる。
「無事帰ってきたならいい。早く着替えなさい。」
そう言ってタオルをギルに掛けてやるクラウス様。
ギルに何か言ったみたいだったけど、僕には聞こえなかった。
「クリス、さっきはごめん、虫のいい話だけど、あれは忘れてくれ。」
着替え終わると、ギルは僕の所に来て頭を下げた。
「謝らないで、僕はギルが僕を好きだって言ってくれて嬉しかったよ? 」
そう言って笑った僕の顔は、泣いて腫れたひどい顔だったと思う。
その顔を見てギルが笑う。
「ひどい顔だな・・・」
「あ、僕のこと今ブサイクだって思った? 」
「そんなこと思ってねーよ。」
そう言いながら笑うギルを、「もう!」と睨む。
ぎこちないけど笑い合えるこの関係を、今は壊したくなかった。
ギルもそれは同じだと感じた。
ごめんね・・・ギル。
今すぐ僕が女だと言ってしまうには勇気がないけど、この旅の間に、必ず伝えるからね。
僕が女だと言うことと、僕の気持ちを。
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